【完結】パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される

水都 ミナト

文字の大きさ
82 / 109
第二部 パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される

78. リリスの思惑

しおりを挟む
「エレイン、アナタはアホですか?」
「ひっ、ひどくない…?」

 翌日、70階層に遊びに来ていたリリスは、エレインとホムラの近況を聞き、深い溜息をついていた。

(鈍い鈍いとは思っていましたが、流石に鈍感すぎるのでは?)

 ホムラから猛烈なアプローチを受けながらもそれを異性に対する好意であると自覚していないエレイン。その上、話を聞く限り確実にエレインもホムラに好意を寄せている。

「エレイン、この際はっきりと聞きます。アナタはホムラ様のことが好きなのですよね?」
「うぐっ…」

 リリスがじとりとした目つきで問い詰めるように聞くと、エレインはしばし言い淀みながらも最後にはポッと頬を染めて小さく頷いた。

 現在ホムラはアグニと共にボスの間で交戦中だ。今のうちに色々と聞き出しておきたいリリスである。口をつけていた土産の紅茶が入ったカップをカチャンとテーブルに置き、ずいっとエレインに詰め寄る。

「それで、告白はしないのですか?」
「ここここ告白ぅ!?そんな!めっそうもない!!」

 告白と聞きエレインは顔を真っ赤にしながら、首がちぎれるのではないかというほど激しく左右に振った。

「どうしてです?してみないと結果は分からないでしょう?それにホムラ様はエレインを『大切』だと言ったのでしょう?」
「う、ん…でもホムラさんの『大切』は、私がホムラさんを好きで大切に想う気持ちとは種類が違うんだよ。それに、今の関係を壊したくない」

 エレインは少し肩を落として両方の人差し指をツンツンと突いている。その様子に、リリスは再度溜息をつきつつ、少々複雑な気持ちを抱いていた。

(そうでした…エレインは元々とっても自己評価が低いんでした)

 そう、エレインはリリスと同じパーティにいた頃、恐ろしいほどに自己肯定感が低かった。それは元パーティメンバーであるリリスにも一因があるのだが、ダンジョンに居場所を見つけた今でも、自分が意中の相手に好意を寄せられることはないと考えているようだ。

(ですが…それだけではないように見えますね)

 エレインが今の関係に甘んじているのには何か原因があると踏んでいるリリスは、顎に手を当ててしばし思案する。
 ホムラは宣言通りエレインに積極的にアプローチをしている。アグニもズレているところはあるが、2人のよき理解者である。たまに顔を出すドリューンも、ホムラに好意的なものの、それは憧憬に近いのではないかとリリスは考えていた。
 エレインを囲む人たちのことを順々に考えていたリリスは、そこでピンとあることに気が付いた。

(あぁ!そうです、この環境にエレインは無意識のうちに甘んじているのですね)

 つまり、エレインには恋敵がいないのだ。
 気に留めるべき相手がいないので、安心して今の関係に落ち着くことができている。もし他にホムラに好意を寄せる女性がいたならば、エレインだって焦る気持ちを抱くはずだ。

(うふふ、ここは私が一肌脱ぐとしましょう。早速ホムラ様に協力を仰がなければ)

 未だにモジモジと恥ずかしそうにしているエレインを置いて、リリスはニヤリと黒い笑みを浮かべた。
 そしてタイミングのいいことに、ちょうどホムラがボスの間から戻って来たので、リリスは急いでホムラの元へと駆け寄った。

「ホムラ様!!少々よろしいでしょうか!!」
「な、なんだよ…」

 リリスの勢いに圧倒されて、ホムラは少したじろいだ。一緒に戻って来たアグニも何事かと怪訝な顔をしたが、おやつを求めて台所へと消えていった。

「ホムラ様、エレインのことがお好きなのですよね?」
「はぁっ!?」

 小さな声でズバリと聞かれてホムラは素っ頓狂な声を上げた。ホムラの答えを待たず、リリスは制止するようにびしりと胸の高さで片手を上げた。

「大丈夫です。聞かずとも分かっておりますので。それで、その後エレインとは如何ですか?」
「あー…知っての通りアイツはぽけっとしてっからなァ…ま、今の状況を楽しみつつ地道に努力中ってところだ」

 ホムラは気まずそうに目を逸らして頭を掻いている。そんなホムラにリリスは先ほど思いついた企てを口にした。

「…エレインが嫉妬するところを見たくはありませんか?」
「はぁ?アイツが嫉妬…?」

 突拍子もない提案に、ホムラは眉根を顰めたが、リリスの発言に興味を示したようだ。リリスはニヤリと笑みを浮かべると、声量を小さくしてホムラに詳細を語った。

「エレインはホムラ様が他の女性と親しくする姿を見たことがないはずです。ですから、今から私がホムラ様に言い寄ります。エレイン以外の女性に触られるのは嫌でしょうが、少し我慢して協力してください」
「あァ?そんなんでアイツが嫉妬なんかするか?」

 ホムラは少し面倒臭そうな顔をしているが、否定もしないので、リリスは承諾を得たと判断した。
 リリスはチラリとソファに座ったままのエレインに視線を投げた。エレインは身を寄せて内緒話をするリリスとホムラが気になって仕方がない様子で、不安そうに眉根を下げながらこちらを見ていた。

「うふふ、それはやってみてのお楽しみです。では、失礼して」

 リリスは途端にとろんとした目つきをしてホムラの腕に絡みつき、ねっとりとした猫撫で声を出した。

「ホムラ様ぁ~お疲れ様ですぅ。あちらで少し休みましょう?」

 急に雰囲気の変わったリリスに、ホムラもギョッとして「女って怖ぇな…」と小さく呟いた。そしてリリスに腕を引かれるままにエレインが腰掛けるソファへと近づいていく。

「私、最初はホムラ様のこと怖いって思ってましたけど…本当はと~っても優しくってかっこよくって素敵な男性だって、ようやく気付いたんです」
「お、おう…」

 ホムラは頬をひくつかせながらもリリスの演技に乗ってくれている。ソファの側まで行くと、エレインはその様子にあんぐりと口を開けて目を瞬いていた。

「挑戦者と戦ってお疲れでしょう?どうぞ座ってください」
「お、おう…」

 エレインの対面に腰掛けるように促すと、ぎこちない動きながらもホムラが腰掛けたので、リリスもピッタリと寄り添いながらその隣に腰を下ろした。

「おや?どうしたんですか?今日は随分と仲良しなんですね」

 そのタイミングで茶菓子と紅茶を持って現れたアグニが、ホムラとリリスの様子を見て物珍しそうに言った。

「えっと…リリス?」

 エレインは戸惑いすぎて目を泳がせながら、説明を求めるようにリリスの名を呼んだ。その声音には不安の色が滲んでいる。リリスは口元に笑みを浮かべながらエレインに顔を向ける。

「なんですか?エレインの話を聞いていたら、私もホムラ様の魅力に遅ればせながら気付いたのですよ。ねぇ、ホムラ様。私じゃダメですか?アナタの隣にいたいのです」
「お、おう…?」

 リリスは甘ったるい声を出しながら、エレインに見せつけるようにホムラにもたれ掛かる。ホムラは腰が引けているが、リリスに付き合ってくれている。

「ホムラ様ったら罪なお人ですね」

 アグニは茶菓子を頬張りながら呑気な声をあげる。肝心のエレインはというと、俯いて拳をぎゅっと握り締めていた。

(もう一押しかしら?)

 リリスは少し思案して、ホムラを見上げて瞳を潤ませた。

「ねぇ、エレインではなく、私がここで暮らしてはいけませんか?ホムラ様のお側に置いて欲しいのです」
「っ!…それは」

 先ほどまでは間の抜けた返事ながら、リリスの言葉に頷いてくれていたホムラ。だがエレインの代わりにここに置いて欲しいという訴えに、表情を強ばらせ、何かを口にしようとした時、

「…………だめ」

 俯いていたエレインが、身を乗り出してホムラの服の裾を掴んだ。

 顔を上げたエレインは、溢れんばかりに目に涙を溜めつつ、唇を引き結んで涙を零すまいと堪えていた。

「…やだ。リリスでも、ホムラさんの隣を譲るのだけは…できない」

 そして震える声でそう言った。真っ赤な顔で瞳を潤ませ懸命に訴えるエレインに、思わずリリスの方がキュンキュンしてしまった。

(ちょっと意地悪をしすぎてしまいましたね…って、あらら?)

 ここらが潮時かとスッとホムラの腕に絡めていた手を解き、見上げると、ホムラは拳で口元を隠してそっぽを向いていた。その耳は真っ赤に染まっていて、少し肩を震わせて何かに懸命に耐えているように見えた。

(ですよねぇ~~~そりゃぁ可愛くて仕方ないでしょうねぇ)

 リリスの思惑通り、明らかな嫉妬を示したエレイン。そのことが嬉しくて仕方がないのだろう。リリスは自ら仕組んだことながら口元がニヤけてしまった。

「ふふふ、ごめんなさい。実はちょっと意地悪をしようとホムラ様に強力してもらって一芝居していたんです」
「え…?」
「だから、安心してください。エレインの居場所を奪うようなことは決してしませんよ」

 リリスは席を立ち、エレインの隣に腰掛け直した。そして未だにウルウルと瞳を揺らしているエレインの背中に手を添えた。

「…悪かったな。治癒師の企みに乗っちまってよ」
「ホムラさん…」

 未だに耳が赤いホムラも、申し訳なさそうにエレインに謝った。そして、少し瞳を揺らして言葉を続けた。

「…俺が側に置きてぇのは、エレイン、お前だけだ」
「っ!…えへへ」

 ホムラの言葉に、エレインは驚いて瞳を見開き、嬉しそうに頬を緩ませた。リリスは、2人の間に漂う甘ったるい雰囲気に当てられて熱くなった頬を両手で覆った。

(はぁ…私も新しい恋がしたくなってきました)

 そんな中、アグニだけはモサモサと相変わらず茶菓子を食べては紅茶を口に含んで満足そうに目を細めていた。


◇◇◇

 帰り際、リリスはふと思い立ってエレインに耳打ちをした。

「伝えれる時に伝えておかないと、後から後悔することになっても知りませんからね」
「うぅ…そんなこと言わないでよ」

 エレインは困ったように首を傾けたが、今日のことで何か思うところがあるのだろう。少し思案げな顔をしていた。

「うふふ、ではまた遊びに来ますね」
「うん、待ってるね」

 エレインに別れを告げると、リリスは地上へ帰還する魔法陣に乗った。光の粒子に包まれ、瞬きのうちに景色は見慣れた街の光景へと変わった。

「はあ…全く見ていられませんね。次遊びに行くまでに少しは進展していればいいのですが…」

 リリスは、今日はやけ酒だと酒場へと足を向けた。近道をしようと裏道を通った時、ふと視界に魔法使い特有の三角帽が目に入った。

「…ルナ?」

 もしやと思い、慌てて後を追うが、角を曲がったところで見失ってしまった。リリスは一通り周囲を探したが、それらしき人物はすっかり姿を消してしまったらしい。背格好はルナと同じ程であったが、魔法使いはこのウィルダリアの街には数え切れないほどいる。

「気のせい、でしょうか」

 リリスは見失った人物のことが気になりつつも、探すのを諦めて当初の目的地であった酒場へと向かった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

処理中です...