【完結】パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される

水都 ミナト

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第二部 パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される

82. 悲しき覚醒

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「おい、エレイン!起きろ!」

 ルナが投げつけたガラス玉から漏れ出した黒い靄に飲み込まれたエレイン。
 その後、靄はエレインの身体に染み込むようにして吸収されてしまった。意識を失い崩れ落ちたエレインを受け止めたホムラは、エレインの頬を叩いて意識を覚醒させようとしていた。

「エレイン!起きるのです!エレイン!」

 物陰から固唾を飲んで見守っていたアグニも駆け寄り、必死でエレインに呼びかける。エレインは悪夢にうなされるようにキツく眉間に皺を寄せ、額に汗を滲ませて苦しそうに呻いている。

「ど、どうしましょう…!」
「落ち着け、とりあえずお前はドリューンを呼んでこい。樹人族ドライアドの里に居るだろう」
「わ、わかりました!」

 ホムラの指示により、アグニはつっかえて転びそうになりながらも転移用の魔法陣へと飛び乗った。

「う…うぁあ…!」
「エレイン!」

 依然として苦しそうにエレインは身を捩っている。ホムラの表情にも焦りの色が滲む。

(なんだ…?まさか、呪いか?まずいな。光魔法を使えるエレイン自身が呪いにかかったのなら…解呪はかなり厄介だぞ)

 地上でホムラが受けた短剣の呪詛は、エレインが光魔法によって浄化してくれた。だが、そのエレインが呪いに倒れたのならば、どのようにして呪いを解けばいいのか。
 ホムラが考えを巡らせている間にも、徐々にエレインの表情が悲痛なものへと変わっていく。悪夢を見ているのだろうか、じわりとエレインの目には涙が滲み、ぽたりぽたりと頬を伝ってこぼれ落ちていく。ホムラは強くエレインを抱きしめ、その名を呼びかけることしかできなかった。

「ホムラ様!」
「連れてきましたよ!」

 間も無く、アグニがドリューンを連れて戻って来た。二人の顔を見たホムラは少しホッとした表情になった。

 ドリューンは道中でアグニから概要を聞いていたようで、神妙な顔つきでエレインに触れる。

「まぁっ、ひどい熱…身体に入り込む黒い靄なんて聞いたことがないわ…」
「お前でも分からねぇのか…くそっ」

 ホムラは己の無力さを呪った。我を失いエレインやアグニを襲ったあの日、改めてエレインを護ると誓いを立てた。それがこのざまだ。情けない。

「う、あ、あぁぁぁ!!」
「エレインっ!?なっ…!?」

 突如、ホムラの腕の中で悶え苦しんでいたエレインが、激しく仰け反り苦しそうな叫び声を上げた。そして、カッと金色の光を全身から放った。
 あまりの眩さにホムラたち三人は手で両目を覆った。次第に光は収束し、真っ白になった視界も元に戻った頃、三人の瞳に映ったのは虚な目をして立つエレインの姿であった。

「エレインちゃん…その姿は…!」
「…ハイエルフ?」

 鋭く尖った耳、金色の光を放つ瞳、溢れる魔力にたなびく少し伸びた髪。エレインのその姿は、地上でアレクと一線交えた時に見せたハイエルフの力に覚醒した姿であった。だが、どこか様子がおかしい。エレインの瞳には光が宿っておらず、何かをぶつぶつと呟いている。

「憎い…憎い、憎い憎い…!この世の全てが憎い!全て、全て破壊してやる…!」
「っ!?」

 エレインの声に被せて発せられたのは、明らかに男性の声であった。エレインの声と混ざり合い、反響するようにボスの間に響く。濁った声でエレインが叫ぶと同時に、溢れ出た膨大な魔力が渦となり、ボスの間に吹き荒れた。

「ぐ…なんつー魔力量だ…」
「エレインちゃん…どうなっているの?」
「エレイン!正気に戻るのです!」

 魔力により吹き荒ぶ風は次第にエレインを中心に収束していった。そしてエレインは魔力が身体に馴染むのを確認するように両手を握ったり開いたりして感触を確かめている。

「ふふ…ふはは!壊す…壊す壊す!ダンジョンもろとも壊し尽くす!」
「おい、エレイン!」
「…」

 不気味に高笑いするエレインの名をホムラが叫ぶ。鋭く尖った耳がピクリと反応し、エレインはゆっくりと視線をホムラに向けた。

「ふふふ、いいだろう。まずはお前からだ」
「なっ!?」

 エレインはそう言うと、瞬きの間にホムラとの距離を詰めて迷うことなくホムラの首めがけて鋭い手刀を撃ち込んだ。ホムラは間一髪でその手を弾くと後方に大きく飛び退き距離を取った。

「ほう…少しは楽しめそうだ」
「膨大な魔力で、身体能力が向上しているのね…ホムラ様、気をつけて!きっと、エレインちゃんの中に!」
「チィッ…言われなくともそんなことは見れば分かる!だが…」

 エレインが身体をに乗っ取られている。だが、その身体も、深くに眠る意識も、エレインのものには違いがない。

「お前を傷つけずにどうやって戦えってんだよ!!」
「あははははは!!そんな甘いことを言っていては死ぬぞ?相手に隙を見せてはならぬのだ。信用すれば裏切られる。であれば最初から誰も信じなければいい!自分だけを信じ、生きていけばいい!それ以外は不要だ!世は偽善で満ちている!こんな世界、壊れてしまえばいい!」

 あはははは!と口角を吊り上げて笑いながら、エレインは手刀や蹴りをホムラに繰り出す。ホムラは灼刀を鞘に納めた状態で取り出し、エレインの攻撃を紙一重でかわし続けている。

(くっ…なんつー重い攻撃なんだ…下手に反撃するとエレインを傷つけちまう…どうしろってんだよ!)

 ホムラはキツく歯を食いしばりながら頭をフル回転させる。だが、妙案は浮かばなかった。

 殺気の篭った手刀を繰り出し続けていたエレインは、ホムラの動きに感心したように目を細めた。そして攻撃の手を止めて素早くホムラとの距離を取ると、目を閉じて両手を掲げた。エレインを中心に風が渦を巻き始め、キィィンと耳をつん裂くような高い音を鳴らしながら、凄まじい魔力がエレインの両手に収束されていく。

「おいおい…そりゃちょっと規格外ってもんだろ」

 肌を刺すような魔力に充てられ、ホムラの背にたらりと冷や汗が伝った。ホムラの極大魔法と同等か、それ以上の魔法であることは一見して容易に予想ができた。

「ホムラ様!」

 エレインと交戦している間、下がって見守っていたアグニとドリューンがホムラに駆け寄った。

「あんな魔法が撃ち込まれたら、この階層に大穴が開いてしまいますよ!!むしろそれだけで済めばいいのですが…」
「分かってらァ!今何か策がねぇか考えてんだ!!」
「魔力…そう、ハイエルフの力の源は、その高い魔力量…じゃあ、それを奪うか封じることができれば…」
「っ!何か手があるのか!?」

 ドリューンがボソリと呟いた言葉に、ホムラが食い付いた。その間にもエレインの両手には巨大な光の玉が生み出されていく。残された時間は限られている。

「やってみないと分からないわ。でも、やる価値はあるかもしれない!」

 ドリューンは覚悟を決めたように頷いた。が、すぐに不安げな表情に戻ってしまう。

「でも、そのためにはエレインちゃんに触れて攻撃を当てなければならないわ…今のエレインちゃんに隙はない…どうすれば…」
「ボ、ボクが囮になるのでその間に…!」
「馬鹿野郎!危険すぎる!」
「ですが!!」

 ここで揉めている時間はない。ホムラは真剣な眼差しのアグニに気圧され、腹を括った。

「…よし、俺とアグニでエレインに攻撃を仕掛ける。だが、注意を逸らすことが目的だ。エレインを傷つけないように気をつけろ」
「言われなくとも!」
「よし、いくぞ」

 三人は覚悟を決めた眼差しで、エレインを見据える。その手の内にある光の玉は膨張をやめ、既に顔の大きさまでに高密度に凝縮されていた。
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