【完結】パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される

水都 ミナト

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第二部 パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される

90. 接触

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「…やっと収まるところに収まったのね」
「そうみたいですね」
「経緯を事細かく説明してもらいますからね!!!」

 翌日、エレインとホムラの対面に座るのは、ドリューン、アグニ、そしてリリスである。
 まだ三人にホムラと心が通じ合ったことは話してはいない。にも関わらず三人がによによ口角を上げているのは、ホムラが自らの身体に密着させるようにエレインの肩を抱き、エレインも顔を真っ赤にしつつも抵抗せずに身を委ねているからだ。

「説明もクソもあるか。見たままだ、以上」

 ホムラは涼しい顔で三人の好奇心に満ちた視線を受け流す。

「納得できるわけないでしょう!どれだけ私たちが焦ったいお二人の様子を見てヤキモキしていたか…!あぁ、エレイン!本当に良かったですね…!」
「リリス…!えへへ、ありがとう。えと、恥ずかしいから詳しくは二人の時に話すね」
「別に話さなくてもいいだろうが」
「いいえ!駄目です!しっかり一から百まで説明してもらうんですから!」

 フンスフンスと興奮気味にリリスの鼻息は荒い。エレインは苦笑しつつも、リリスが祝福してくれるのが素直に嬉しい。ホムラは話さなくてもいいと言うが、リリスには話を聞いてほしいエレインである。

「それにしても…ホムラ様は石橋を叩いて叩いて安全を確認してから渡るタイプだったのですねぇ」
「うるせぇな。一緒に暮らしてんだぞ、下手なことして気まずくなったらどうすんだよ。エレインには他に身を寄せる場所がねぇんだ。慎重にもなるだろが」
「ふふふ、そういうことにしといてあげますよ」
「そんなこと言って…以前、地道に頑張ってるっておっしゃってましたよねぇ」
「てめぇら…面白がってるだろ」
「「「はい」」」

 ドリューンやアグニ、リリスから揶揄われながらも、ホムラの表情は穏やかであった。

「とにかく、エレインを泣かせるようなことをしたら…いくらホムラ様とはいえ許しませんからね!」
「わーってるよ。死ぬほど大事にすっから安心しろ」
「きゃー!」

 ホムラの反撃にリリスが頬を染めて顔を覆うが、流れ弾を喰らったエレインの顔も朱に染まり、心の中で同じように叫んで悶えていた。

(ホムラさん、吹っ切れたように素直なんだけど…!心臓がもたない…)

 結局その後も散々揶揄われ、エレインの顔から湯気が出始めた頃、ささやかな午後のティータイムはお開きとなった。



◇◇◇

 リリスは地上へ帰還し、ドリューンも帰って行った。アグニは夕飯の下拵えのため台所へと消えて行った。

「ホムラさん、ちょっとだけウォンのところに遊びに行ってきてもいいですか?」
「あ?なんだよ。やっと二人になれたってのに」
「うぐぅ…その…ウォンにも色々と相談していたので、報告をと言いますか…」

 ようやく二人きりになった途端、エレインを抱き抱えて自らの膝に乗せていたホムラはエレインの申し出に少し不満げだ。

「…夕飯までには戻って来いよ」
「はい!」

 ぎゅううっと力強く抱きしめた後、渋々エレインを解放し、エレインがいそいそと転移のための魔石を取り出すのを眺めるホムラ。

「えっと…では、行ってきます」
「ちょっと待て」

 エレインが転移しようとするが、ホムラが静止して立ち上がった。そのままエレインの前までやってきて、エレインの顔をジッと見つめる。顔にまつ毛でも付いているのかとエレインは見当はずれに頬を触っている。
 その様子にホムラがぶっと吹き出すと、身体を屈めてエレインの唇に自らのそれを重ね合わせた。

 身体を離したホムラは、エレインの顔を見て再度吹き出した。

「ぶはっ、真っ赤じゃねぇか」
「な、ななっ、そりゃっ!真っ赤にもなるでしょぉ!」
「お前、そんなに俺のことが好きか?」
「んなぁぁっ!?うっ…ぐぬぬ…す、好きに決まってるじゃないですか!ばかっ!もう知りません!転移!75階層!」

 茹蛸のように顔を赤くしたエレインは、涙目になりながら悪態をつき、転移して行ってしまった。残されたホムラは緩む口元を押さえながら呟いた。

「ちっと意地悪しすぎたか?…まぁ、あいつが可愛すぎるのが悪い」

 そして鼻歌を歌いながら、身体を動かすべくボスの間へと向かった。



◇◇◇

「もうっ、ホムラさんのバカバカバカ」
「なんだ、また喧嘩したのか?」

 無事に75階層の大樹の前に転移したエレインが熱い頬をぎゅむぎゅむ押さえていると、木の枝に腰掛けていたウォンが呆れたように声をかけてきた。そのまま音も立てずに枝から飛び降りてエレインの前に着地する。

「喧嘩ってわけじゃないんだけど…その、一応両想いになりましてですね…」

 エレインは気まずそうに指をつつきながら、かいつまんで経緯を説明した。

「そうか、ようやくあの男も素直になったのだな」
「えっ!?ウォン、ホムラさんの気持ち知ってたの!?」

 ウォンのまさかの反応に、エレインは驚きを隠せない。

「知っていたも何も、俺を男だと勘違いしていた時は殺気にも近い敵意を隠さずに向けてきていたからな。あいつは相当嫉妬深いぞ」
「えぇぇ!?」

 全く気づかなかった。だけどホムラが嫉妬してくれたことが少し嬉しくて頰が緩む。

「その様子だと体調も問題なく回復したようだな」
「うん!お陰様で元気いっぱいだよ!その節はどうもお世話になりました」
「ふ、気にするな、感謝するのはこちらもだ」
「え?」

 エレインの命を救ってくれたのはウォンだ。逆にウォンから感謝されることをした覚えはない。
 首を傾げるエレインの頭を、気にするなとばかりにウォンがポンと撫でた。

「あ、そういえば。聞きたかったんだけど、ウォンが吸い取ってくれたハイエルフの魂ってどうなったの?」
「ああ、あれは…」

 エレインの問いに、ウォンは素直に答えるべきか躊躇い、言い淀んだ。99階層に住まうハイエルフがエレインに敵意を持っていないことは分かったが、それを伝えるべきか否か。
 一瞬考え込んだウォンは、あえて伝えることではないと結論づけた。

「……しかと供養したから安心しろ」
「本当?良かった~」

 ウォンの答えに、エレインはホッとしたように嘆息した。
 自分の身体を乗っ取り、ホムラ達を傷つけた原因であるにも関わらず、そのハイエルフの心配をしていたエレインは随分とお人好しだとウォンは苦笑した。それがエレインの長所でもあるが、同時に危ういところでもある。

「お前は本当に…、っ!?」
「?ウォン、どうした…の…」

 和やかな空気の中、エレインに顔を向けたウォンが瞬時に懐から短刀を取り出して身構えた。その行動にエレインが疑問を投げかけるが、その言葉を言い終えることなく、エレインは意識を手放し、その場に崩れ落ちた。

「…エレインに何をした」
「安心しろ。害を加えるつもりはない」

 エレインの背後には、いつの間にか99階層に住まうはずのハイエルフの姿があった。

 一切の気配なく接近されていたことにウォンは驚きを隠せなかった。
 そしてハイエルフ言葉通り、エレインは気持ちよさそうにスゥスゥと寝息を立てている。何かの術で眠らされたのだろう。

 ウォンはチラリとエレインに視線を投げ、どうすべきか思案する。

 警戒心を露わにするウォンを気にする素振りも見せず、ハイエルフの男はエレインのそばに腰を落とし、額に手を翳した。
 手のひらからは暖かな黄金の光が溢れ、魔法陣を描き出した。そしてその魔法陣がエレインの額に転写されていく。

 ハイエルフの男の魔力に害意や殺気は感じられないため、ウォンは静かに短刀を下ろし、経緯いきさつを見守った。

 やがて黄金に光る魔法陣はエレインの身体の中に収束していった。
 ハイエルフの男が立ち上がったタイミングで、ウォンはその行動の意図を問うた。

「…何をした」
「…同胞の魂に触れたことで、この者の奥底に眠る我らの血が不安定になっていたからな。ダンジョンに適応できるように少し細工をした」
「細工…だと?」

 相変わらず、脳に凛と響く声音でハイエルフの男は言葉を続ける。

「この者の魔力と我らの力は交わらずにそれぞれ共存していた。だからこそ我らの血の力が強まった時に制御できずに暴走する恐れがある。地上ではともかく、ダンジョンの中であればその力は非常に強力だ。元の魔力とハイエルフの力を融和させることで我らの力を行使できるようにした。我らの力を使いこなせるかどうかは、この者の力量と努力次第だがな」
「……なぜ、そこまでする?」

 他者との関わりを避けるハイエルフが、同胞の血を引くという理由だけでここまでエレインを気にかけるだろうか。ウォンが知るハイエルフの行動としては信じられないものである。

「……地上におりた同胞の魂は無事に供養した。彼の魂に触れた際、この者の魂が、彼の境遇を憂い、寄り添い、包み込んでくれていたのだと知った。無意識だったのだようが、自らの身体を占拠しようとする者の魂を、この者は救おうとしていたのだ。本人も気づいていないやもしれんが、私はその礼をしたまでだ」

 それに、とハイエルフは言葉を続ける。

「良からぬものが我らがダンジョンに干渉してきているのだろう?同胞の魂を奪い、傷つけた者…その者と戦うためには力はあるに越したことはない。せいぜい修行に励むが良い」

 そう言い残すと、ハイエルフの男はエレインを一瞥し、いつの間にか周囲を包み込んでいた濃霧の中に消えていった。
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