【完結】神様、ちょっと黙ってて! 〜神様に愛されすぎた最強賢者は毎晩寝不足〜

水都 ミナト

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最終話 チルとレオン 2

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「どうした? 来客中だぞ」
「し、失礼いたします! 急ぎ、お伝えすることが……!」

 転がるように部屋の中に入ってきたのは一人の衛兵だった。慌てて居住まいを正して敬礼をする彼は、息をあげながら一息に報告した。

「慈善事業の一環で建設していたダムで大規模な土砂崩れが……! かなりの人数が作業に当たっていたので被害は甚大です! 崩れた土砂に生き埋めになった者も多数いるとのことです!」
「なんだって⁉︎」

 報告を受けた僕たちは、ガタン、と椅子を鳴らして立ち上がった。

 エリックは僕に視線を向けて、深く頭を下げた。

「ギルドへの仲介を割愛してお願いします。どうかお力を貸してください」
「ああ、もちろんだよ。直接話を聞いてしまったからには動かないわけにはいかないしね。レオン、一緒に行こう」
「ん!」

 事故現場はレオンには見るに耐えないものだろう。

 けれど、女神の加護を受けたレオンの力はきっと人々の救いとなる。

 僕は衛兵に事故現場の場所を聞くと、窓から飛び出してレオンを抱えながら大空を滑空した。





「――これはひどいな」

 あっという間に現地に到着した僕は、上空から全容を確認して絶句した。山の斜面が一面ずるりと滑り落ちている。

 人々が懸命に土砂を掬っているが、二次災害に繋がりかねないからすぐに避難させないと。

「レオン、大丈夫か?」
「ん……怖い、けど、レオンも頑張る」

 レオンの瞳には強い決意の色が滲んでいる。

 よし、ここはレオンを信じてみよう。

 僕は地上に降り立つと、現場を指揮しているらしい男を捕まえた。

「ねえ、状況は? 怪我人はどこ?」
「こ、これは大賢者様! 状況は芳しくありません。山間で作業していた者は五十名はおります。そのほとんどが土砂に飲まれて……幸い軽い怪我だけで済んだ者や、土砂から自力で抜け出した者はあちらのテントに集めています」
「そう、分かった。まだ山が崩れる恐れがあるから、捜索はやめて下がっていてくれる? レオン、怪我人は君に任せる」
「えっ」

 僕の言葉に、レオンは驚いたように目を見開いた。

「大丈夫。レオンにならできる。他でもない僕が保証するんだ、レオンも自分を信じて?」
「チル……ん、レオン、がんばる」

 レオンの頭を撫でると、決意のこもった眼差しが返ってきた。

「怪我人、レオンが治療する」
「頼んだよ。すぐに戻る」

 案内役の兵が来たのでレオンを預け、僕は再び上空へと飛び上がった。

 まずは山がこれ以上崩れないようにしないとね。

 僅かに地面がずり落ちる気配を感じたので、山自体の時を止めておこう。

「『時間停止』」

 風に揺れる木の枝、ひらひら舞い落ちる木の葉までピタリと動きを止める。

 よし、これでまた山が崩れることはない。
 次は生存者の救出だな。

「『探索』」

 手を翳して生命反応を探る。
 うん、きっちり五十人分の反応が確認できた。みんなどうにか無事のようだ。

 やはり生き埋めになっている人が多そうだ。
 対象五十人に座標を合わせ、風魔法を応用して空気の球で包み込む。

「よっと」

 そのまま腕を振り上げて、空気の球ごと生存者を持ち上げて土砂から救い出した。

「おおおっ」
「なんだこれは⁉︎」
「助かった、のか?」

 あちこちから驚嘆の声が聞こえる。少なからず怪我人もいるようなので、空気の球を介して治癒魔法を発動する。

 空気の球がキラキラと淡い光を纏う。

 僕はそのままみんなを救援テントへと運んだ。

「ただいま。生き埋めになったみんなを助け出してきたよ。治癒魔法も施しているから、もう大丈夫」

 感謝の言葉を一身に受けながら、僕はレオンを探す。

 テントの中にはまだ怪我人が多く、あちこちで低い呻き声が聞こえてくる。

「おっ」

 テントの隅に見つけたレオンは、目を閉じて祈るように手を組んでいる。魔力を集中しているようだ。

「『空間治癒魔法』」

 スウッと目を開けたレオンが呪文を呟くと、テントの中に淡く暖かな光が満ちた。

「……ふう」
「……レオン。すごいね。まさか空間治癒魔法まで習得しちゃうなんて」

 女神の加護の力もすごいけど、日々レオンが懸命に腕を磨いていた成果が見られた気がする。
 それに、レオンが心からここにいる人たちを助けたいと思ったからこその効力だな。

「おお……これは」
「素晴らしい」
「なんと」

 至る所で自分の腕や足の傷がなくなったことへの驚きの声があがっている。レオンが褒められていることがとても嬉しくて、僕は胸がむずむずするのを感じていた。

 そんな中、バタバタッと慌てた様子で駆け寄ってきた一人の男性がいた。

「い、今のは君が……?」
「? うん、レオン」

 レオンに掴みかかりそうな勢いで前のめりに問うた男は、土で汚れているが、法衣を身に纏っているので聖職者であろう。溢れそうなほど目を見開いて、感無量といった様子でレオンの手を取った。

「す、素晴らしい! 君の力は、我が神殿でこそ輝く力だ……!」
「!」

 男の言葉にハッとしたのは僕の方だった。
 当のレオンはポカンと口を開けて何が何だか分からないようだ。


 そうだ。

 レオンは一時的に僕の元に身を寄せているだけで、もしレオンを必要とする人が現れたり、レオン自身が行きたい場所ができたら、僕は笑顔で見送らなければならない。

 今や女神の加護を得て、治癒魔法については世界でも類をみない力を有しているレオン。

 彼女がずっと僕のそばで暮らすことが、果たして彼女のためになるのだろうか。


 山の再生や強化、土砂の除去の手伝いをしながら、僕はずっとそのことが頭から離れなかった。
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