精霊に愛されし侯爵令嬢が、王太子殿下と婚約解消に至るまで〜私の婚約者には想い人がいた〜

水都 ミナト

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第七話 安らぐ場所

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「シルフィード様、いよいよ明日です」
「そうか」

 私は十五歳になった。明日はレイモンド殿下とアイシャ様が王立学園を卒業する日。お二人は十八歳になっていた。

 長年の努力の甲斐もあり、アイシャ様はマナの扱いが随分とお上手になった。マナの扱いにしか取り柄がないとされる私より、アイシャ様の方がレイモンド殿下に相応しいという声もあちこちで聞こえるようになっていた。


 明日の卒業パーティで、私は最後の仕事をする。アイシャ様に飲み物をかけ、レイモンド殿下を怒らせて婚約破棄を突きつけられるという筋立てだ。

 なぜそこまでする必要があるかというと、この国では一度結んだ婚約を簡単に解消することができないから。余程の理由がない限り、精霊王に誓いを立てた婚約関係を解消できないのだ。

 今日まで私は我儘で身勝手な婚約者を演じ続けてきた。周囲の評判もガタ落ちだ。最後の決定打があれば、無事にレイモンド殿下とアイシャ様は邪魔者の私を排除して結ばれる。



「シルフィード様。ありがとうございました」
「何がだ」
「シルフィード様との時間が私を支えてくれたのです。ここが私の憩いの場所でした」
「ならよかった」

 シルフィード様は言葉が少ない。だけどそれが逆に心地よかった。

「シルフィード様、少し手を握ってもよろしいですか?」
「ん?どうかしたか?」
「いえ、最後までしっかりと立ち続けるために、勇気を分けてほしいのです」
「…好きなだけ握るといい」
「ありがとうございます」

 私は大樹を背に腰を下ろすシルフィード様の隣に移動した。そして、恐る恐るその大きくて美しい手を握った。温かな熱が繋いだ手を介して私の心をも温めてくれる。


 そよそよと優しい風が頬を撫でる。風に揺れて大樹の葉が擦れて耳当たりの良い音がする。視線の端では蝶や小鳥に扮した精霊達が戯れており何とも微笑ましい。


 穏やかで心地よい時間だった。
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