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第8話 獣人と魚人の隔たり③
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ドレス店は獣王国の商業地区にあるというので、メイン通りを二人並んで目的地へと向かう。
「お前、魚人の姫なのによくこの国に来ることが許されたな。家族想いで有名なトリスタン王が愛娘をそう簡単に手放すとは思えないが」
「許しを請う前に飛び出して参りましたので…もしかしたら父も母も心配しているかもしれませんね。落ち着いたら魚たちに言伝を頼むとします」
「…そうしてやるといい」
ラルフは無鉄砲な娘を持つ海底の国の王に同情した。
一方のマリアンヌは道を行き交う獣人たちを目で追いながら、だらしなく涎を垂らしている。ラルフのため息は止まりそうもない。
そうこうしている間にドレス店に着いた。
「少しここで待て。突然来たからな、話を通してくる」
「ありがとうございます」
「絶対にここを離れるなよ。決して目に入った獣人の後を追うな、分かったな?」
「大丈夫ですわ!……たぶん」
「おい、大丈夫なんだろうな!?」
「おほほ、ご安心ください。流石の私も子供ではありませんから」
若干の不安を残しつつ、ラルフは店内に入っていった。
一人残されたマリアンヌは、店を背にして通りを眺める。
(うふふ、まだ実感が湧かないわ…獣王国にいるなんて。はぁ…この国の獣人さん全員とお友達になれるかしら?)
マリアンヌの頬はどうしてもだらしなく緩んでしまう。
知り合いもいない異国の地でラルフに保護されたのは幸運だった。マリアンヌはそんな幸せを噛み締めつつ、ニコニコ笑顔で通りを見渡す。
その時、マリアンヌの頭上に影が差した。見上げると、いかにも悪人面な獣人三人組が見下すようにマリアンヌの前に立っていた。三人ともニヤニヤといやらしく口角が上がっている。
みんなマダラ模様の尖った耳を有しており、着衣もだらし無く乱れている。そんなちょっと悪ぶった感じがまたマリアンヌには魅力的に映った。
「おうおうおう、何でこの国に魚人がいるんだァ?」
「へっ、何だか磯臭せぇと思ったら」
「魚人は海に帰りな!」
「あらあら、ご機嫌よう!話しかけてくださりありがとうございます。とっても嬉しいですわ!」
恐らくとても無礼なことを言われているのだろうが、マリアンヌは初めて獣王国の民に声をかけられた喜びに打ちひしがれていた。目をキラキラ輝かせて食い気味にお礼の気持ちを伝える。
獣人三人組はマリアンヌが縮み上がり怯えることを期待していたのか、予想外の反応に虚を突かれた顔をしている。それもまた可愛く見えるマリアンヌ以下略。
「な、なんだぁコイツ」
「海底深くで暮らしてたから常識ってもんを知らねえんだな」
「カカッ!お頭が弱ぇんだな」
「「「ギャハハハ!!」」」
先程から随分と失礼な言いようだが、マリアンヌは会話の中身よりも目の前でゆらゆら揺れる尻尾を目で追うのに夢中だ。
(可愛い尻尾…!!こんなに強面なのにお耳と尻尾が愛らしすぎて絶妙にアンバランスなところがまた素敵!)
「お、おい…なんで涎垂らしてんだ?」
「ヤベェよアニキ。コイツきっとヤベェ奴だ」
いよいよマリアンヌの表情が危ないものになってきた頃、獣人三人組は身の危険を感じ本能的に身震いをした。
「おい何をしている」
獣人三人組が身を寄せ合ったと同時に、店主と話をつけて戻ってきたラルフが鋭く目を細めながらマリアンヌの前に立った。
先ほども話題にあがったが、獣人の中には魚人にいい印象を持っていない者もいる。店内から外の様子を見たラルフはギョッとした。マリアンヌが因縁を付けられていると慌てて店を飛び出したものの、肝心のマリアンヌは恍惚とした表情で、片や獣人三人組は言いようのない恐怖に不安げな様子。ラルフは状況の理解に苦しんだ。
「げっ、で、殿下…!」
獣人三人組はラルフの顔を見ると、サッと顔色を青くした。その様子から何か後ろめたいことをしていたのは事実らしい。チラリとマリアンヌを見るが、目立った外傷はない。獣王国で魚人の姫が事件に巻き込まれるなど、国家間の問題になりかねない。ラルフはマリアンヌの無事が確認できて内心ホッと安堵の息を吐いた。
「とにかく、この女は俺の客だ。無礼を働くと言うならば容赦はしない。お前たち、牢に入る覚悟はできているのだろうな」
「ま、まずい、逃げるぞ!」
「あっ、おい、待て!足で俺に敵うと思っているのか!」
ラルフが凄むと、獣人三人組は文字通り尻尾を巻いて逃げ出した。反射的に後を追おうと足を踏み込んだラルフの腕を掴んだのは、マリアンヌだった。
「お前、魚人の姫なのによくこの国に来ることが許されたな。家族想いで有名なトリスタン王が愛娘をそう簡単に手放すとは思えないが」
「許しを請う前に飛び出して参りましたので…もしかしたら父も母も心配しているかもしれませんね。落ち着いたら魚たちに言伝を頼むとします」
「…そうしてやるといい」
ラルフは無鉄砲な娘を持つ海底の国の王に同情した。
一方のマリアンヌは道を行き交う獣人たちを目で追いながら、だらしなく涎を垂らしている。ラルフのため息は止まりそうもない。
そうこうしている間にドレス店に着いた。
「少しここで待て。突然来たからな、話を通してくる」
「ありがとうございます」
「絶対にここを離れるなよ。決して目に入った獣人の後を追うな、分かったな?」
「大丈夫ですわ!……たぶん」
「おい、大丈夫なんだろうな!?」
「おほほ、ご安心ください。流石の私も子供ではありませんから」
若干の不安を残しつつ、ラルフは店内に入っていった。
一人残されたマリアンヌは、店を背にして通りを眺める。
(うふふ、まだ実感が湧かないわ…獣王国にいるなんて。はぁ…この国の獣人さん全員とお友達になれるかしら?)
マリアンヌの頬はどうしてもだらしなく緩んでしまう。
知り合いもいない異国の地でラルフに保護されたのは幸運だった。マリアンヌはそんな幸せを噛み締めつつ、ニコニコ笑顔で通りを見渡す。
その時、マリアンヌの頭上に影が差した。見上げると、いかにも悪人面な獣人三人組が見下すようにマリアンヌの前に立っていた。三人ともニヤニヤといやらしく口角が上がっている。
みんなマダラ模様の尖った耳を有しており、着衣もだらし無く乱れている。そんなちょっと悪ぶった感じがまたマリアンヌには魅力的に映った。
「おうおうおう、何でこの国に魚人がいるんだァ?」
「へっ、何だか磯臭せぇと思ったら」
「魚人は海に帰りな!」
「あらあら、ご機嫌よう!話しかけてくださりありがとうございます。とっても嬉しいですわ!」
恐らくとても無礼なことを言われているのだろうが、マリアンヌは初めて獣王国の民に声をかけられた喜びに打ちひしがれていた。目をキラキラ輝かせて食い気味にお礼の気持ちを伝える。
獣人三人組はマリアンヌが縮み上がり怯えることを期待していたのか、予想外の反応に虚を突かれた顔をしている。それもまた可愛く見えるマリアンヌ以下略。
「な、なんだぁコイツ」
「海底深くで暮らしてたから常識ってもんを知らねえんだな」
「カカッ!お頭が弱ぇんだな」
「「「ギャハハハ!!」」」
先程から随分と失礼な言いようだが、マリアンヌは会話の中身よりも目の前でゆらゆら揺れる尻尾を目で追うのに夢中だ。
(可愛い尻尾…!!こんなに強面なのにお耳と尻尾が愛らしすぎて絶妙にアンバランスなところがまた素敵!)
「お、おい…なんで涎垂らしてんだ?」
「ヤベェよアニキ。コイツきっとヤベェ奴だ」
いよいよマリアンヌの表情が危ないものになってきた頃、獣人三人組は身の危険を感じ本能的に身震いをした。
「おい何をしている」
獣人三人組が身を寄せ合ったと同時に、店主と話をつけて戻ってきたラルフが鋭く目を細めながらマリアンヌの前に立った。
先ほども話題にあがったが、獣人の中には魚人にいい印象を持っていない者もいる。店内から外の様子を見たラルフはギョッとした。マリアンヌが因縁を付けられていると慌てて店を飛び出したものの、肝心のマリアンヌは恍惚とした表情で、片や獣人三人組は言いようのない恐怖に不安げな様子。ラルフは状況の理解に苦しんだ。
「げっ、で、殿下…!」
獣人三人組はラルフの顔を見ると、サッと顔色を青くした。その様子から何か後ろめたいことをしていたのは事実らしい。チラリとマリアンヌを見るが、目立った外傷はない。獣王国で魚人の姫が事件に巻き込まれるなど、国家間の問題になりかねない。ラルフはマリアンヌの無事が確認できて内心ホッと安堵の息を吐いた。
「とにかく、この女は俺の客だ。無礼を働くと言うならば容赦はしない。お前たち、牢に入る覚悟はできているのだろうな」
「ま、まずい、逃げるぞ!」
「あっ、おい、待て!足で俺に敵うと思っているのか!」
ラルフが凄むと、獣人三人組は文字通り尻尾を巻いて逃げ出した。反射的に後を追おうと足を踏み込んだラルフの腕を掴んだのは、マリアンヌだった。
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