【完結】もふもふ好きの前向き人魚姫は獣人王子をもふもふしたいっ!

水都 ミナト

文字の大きさ
12 / 43

第12話 麗しのお姫様③

しおりを挟む
「ここだよー!」

 シェリルに連れられて訪れたその場所は、中庭のさらに奥に位置していた。プールは扇型に形作られており、中心から弧に向かって深くなっているようだ。プールサイドにはヤシの木が等間隔で植えられ、南国風の装いで、想像以上の広さだった。

「広いわね…!」
「うん!夏の暑い日は使用人のみんなも自由に水浴びしていいんだよー」
「まあ!素敵ね!是非私もご一緒したいわ…でゅふふ」
「マリンちゃん、涎出てるよ」
「あら、失礼」

 プールで水浴びをする獣人を想像し、途端に顔がゆるゆるになってしまったマリアンヌ。シェリルに指摘されて慌てて涎をハンカチで拭う。
 マリアンヌが落ち着くまで待ちきれない様子のシェリルは、既にそわそわしている。キラキラと期待に満ちた目で見つめられ、マリアンヌは途端にとろけそうになるが、幼子の可愛い夢を叶えるために気を引き締める。

「では、よく見ていてくださいね」
「うんっ!」

 マリアンヌは水深のある弧のサイドへと移動する。そして対岸にいるシェリルに向かって大きく手を振ると、タンッと軽やかに飛んで美しいフォームで水中へと飛び込んだ。

 水はマリアンヌを優しく受け入れ、ほとんど水飛沫は上がらなかった。マリアンヌの脚とワンピースは瞬く間に鰭と鱗に変化し、軽く力を入れるとぐんっとスピードが上がる。

 二日泳いでいないだけなのに水を纏う感覚が随分と久しぶりに感じる。

(やっぱりたまにはこうして鰭を伸ばすのも大事かしら)

 なんてプールの端から端まで泳ぎながら、マリアンヌは思案する。
 プールの水深は五メートルほどはありそうだ。底まで潜ったマリアンヌは、尾鰭を思いっきり振ってその推進力で勢いよく水面から飛び出した。

「わあ……」

 空中に飛び上がったマリアンヌの鰭は太陽の光を反射してキラキラと虹色に光っている。艶やかなマリンブルーの髪が風に揺れる姿は神秘的で、飛び跳ねた水滴もまた日光を反射して、まるで宝石のようだ。

 絵画のような美しさに、シェリルは息を呑んだ。無意識のうちに両手を胸の前で祈るように組んでいる。

(絵本よりもずっとずっと綺麗…)

 まるで時が止まったように、シェリルはマリアンヌの姿に見惚れた。

 ザブンッと再びマリアンヌが水中に潜った音でハッと我に返ると、シェリルは興奮冷めやらずに頬を上気させながら腕をぶんぶん振った。

「すごいすごいすごいー!マリンちゃん綺麗…!っ、げほっ、げほっ」
「シェリル?どうしたの、大丈夫!?」

 ザバっと水面から顔を出したマリアンヌは、シェリルの様子がおかしいことにすぐに気がついた。急いで側まで泳いで行き、上半身を乗り上げてシェリルの様子を確認する。

「だい、じょうぶ、げほっ…いつものこと、だから…っ」

 明らかに大丈夫ではない。胸を押さえて苦しそうに顔を歪ませている。
 誰か助けを呼びに行くべきか。そう判断したマリアンヌがプールサイドに上ろうとした時、少し離れた中庭の方から見知った声がした。

「シェリル!こんなところにいたのか、探したぞ。お前また薬の時間だというのに…シェリル?シェリル!」
「王子殿下!」

 慌てた様子で駆け寄ってきたのは、ラルフであった。ラルフの位置からプールサイドまでは少し距離があったが、流石は獣人と言うべきか、飛ぶような速さであっという間に側まで走ってきた。

「お、お兄さま…げほっ、ごめ、なさい…」
「いいから喋るな。すぐに医務官のところへ行くぞ」
「はぁ、はぁ…大丈夫、です。少し落ち着いたから…ふぅ」

 シェリルの言う通り、真っ白になっていた顔色は随分と落ち着いた様子である。だが、大事をとって医者に診てもらうべきだろう。

 それよりも、シェリルの兄というのはラルフのことだったのか。ということは、シェリルは獣人の姫ということになる。
 驚きを隠せないマリアンヌであるが、まずはラルフに詫びねばなるまい。
 ざぶんと腕の力でプールサイドに上がり、淵に腰掛けて頭を下げる。

「殿下、申し訳ございません。シェリル、いえ、シェリル姫は私と遊んでくださっておりましたの。あまり強く叱らないであげてください」
「お前、…っ!?」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

【完結】 「運命の番」探し中の狼皇帝がなぜか、男装中の私をそばに置きたがります

廻り
恋愛
羊獣人の伯爵令嬢リーゼル18歳には、双子の兄がいた。 二人が成人を迎えた誕生日の翌日、その兄が突如、行方不明に。 リーゼルはやむを得ず兄のふりをして、皇宮の官吏となる。 叙任式をきっかけに、リーゼルは皇帝陛下の目にとまり、彼の侍従となるが。 皇帝ディートリヒは、リーゼルに対する重大な悩みを抱えているようで。

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!

エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」 華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。 縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。 そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。 よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!! 「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。 ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、 「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」 と何やら焦っていて。 ……まあ細かいことはいいでしょう。 なにせ、その腕、その太もも、その背中。 最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!! 女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。 誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート! ※他サイトに投稿したものを、改稿しています。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

婚約破棄された没落寸前の公爵令嬢ですが、なぜか隣国の最強皇帝陛下に溺愛されて、辺境領地で幸せなスローライフを始めることになりました

六角
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、王立アカデミーの卒業パーティーで、長年の婚約者であった王太子から突然の婚約破棄を突きつけられる。 「アリアンナ! 貴様との婚約は、今この時をもって破棄させてもらう!」 彼の腕には、可憐な男爵令嬢が寄り添っていた。 アリアンナにありもしない罪を着せ、嘲笑う元婚約者と取り巻きたち。 時を同じくして、実家の公爵家にも謀反の嫌疑がかけられ、栄華を誇った家は没落寸前の危機に陥ってしまう。 すべてを失い、絶望の淵に立たされたアリアンナ。 そんな彼女の前に、一人の男が静かに歩み寄る。 その人物は、戦場では『鬼神』、政務では『氷帝』と国内外に恐れられる、隣国の若き最強皇帝――ゼオンハルト・フォン・アドラーだった。 誰もがアリアンナの終わりを確信し、固唾をのんで見守る中、絶対君主であるはずの皇帝が、おもむろに彼女の前に跪いた。 「――ようやくお会いできました、私の愛しい人。どうか、この私と結婚していただけませんか?」 「…………え?」 予想外すぎる言葉に、アリアンナは思考が停止する。 なぜ、落ちぶれた私を? そもそも、お会いしたこともないはずでは……? 戸惑うアリアンナを意にも介さず、皇帝陛下の猛烈な求愛が始まる。 冷酷非情な仮面の下に隠された素顔は、アリアンナにだけは蜂蜜のように甘く、とろけるような眼差しを向けてくる独占欲の塊だった。 彼から与えられたのは、豊かな自然に囲まれた美しい辺境の領地。 美味しいものを食べ、可愛いもふもふに癒やされ、温かい領民たちと心を通わせる――。 そんな穏やかな日々の中で、アリアンナは凍てついていた心を少しずつ溶かしていく。 しかし、彼がひた隠す〝重大な秘密〟と、時折見せる切なげな表情の理由とは……? これは、どん底から這い上がる令嬢が、最強皇帝の重すぎるほどの愛に包まれながら、自分だけの居場所を見つけ、幸せなスローライフを築き上げていく、逆転シンデレラストーリー。

処理中です...