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花暦(男0:女2)???
花暦――麝香連理草《スイートピー》
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綾乃:
拝復
九條千里さま
麗らかな春の日差しが、心をほどく今日この頃、いかがお過ごしでいらっしゃいますか。
今年も庭で白詰草が花を咲かせています。風に揺れるその可憐さに、あなたの面影を重ねてしまいます。千里はこの時期になるとよく中庭の草花の様子を見ておりましたね。その横顔を今も時折、思い出します。
白詰草の絵を描きましたので、同封させていただきます。またいつかのように一緒に絵を描きたいですね。
先日、所用で立ち寄った本屋で、昔一緒に読んだ『月のお姫様』を見つけました。装丁は少し変わっていたけれど、表紙を見ただけで懐かしい気持ちになって、しばらくその場を離れられませんでした。あの頃のことを思い出して、ふふっとひとり笑ってしまったの。
今までお手紙にしたためてくださったご様子を拝読し、とても嬉しく存じました。ご主人様との穏やかな暮らし、丁寧に選ばれた言葉の端々に、深い愛情と安らぎが滲んでいて——まるで物語のようでした。
そのようなご様子に心を打たれ、私もようやく、結婚というものに心を向けてみようかと思うようになりました。
実を言うと、わたくしはこれまで見合いのたびに、わざと失礼をして、ことを荒立てずにご破談にしてまいりました。
それが、最も静かに、自分の心に正直に生きる術であると、どこかで思っていたのです。
けれど、あなたのように、日常に寄り添い、共に笑える人と巡り合えるならば――そう思うようになったのです。
おかげさまで、先日いただいたご縁がまとまり、来月には嫁ぎ先へ引っ越すこととなりました。新しい土地での暮らしに少々の不安もございますが、それ以上に胸の高鳴りを感じております。
つきましては、しばらくの間は所用が重なり、お返事を差し上げるまでに時間をいただくことになるかと存じます。どうぞご無礼をお許しくださいませ。生活が落ち着きました折には、改めて筆を取らせていただきますので、少しばかりお待ちいただけますと幸いです。
季節の変わり目、どうかご自愛くださいませ。
再びお便りを交わせる日を楽しみにしております。
かしこ
綾乃
「お母様、文を出してまいります」
気を付けてと見送られ、最寄りの郵便局へ向かう。
全身で春風を堪能しながら、川辺の道を進む。今年も白詰草の季節が来た。可憐で、それでいて純朴。まるであなたのよう。
千里、あなたと初めてあってから、もう6年の月日が経ちましたよ。
※※※
千里
(ノックの音)
「失礼します」
綾乃:
「はい。どうぞ」
千里:
部屋の中から柔らかな声が聞こえる。良かった、とりあえず怖い人ではなさそうだ。
木製のドアは思ったよりも重く、トランクを持ったまま開けるのは、想像よりも大変で、それを気づいてくださったのか、中からドアが開いた。
「あ、えっと…、お、お初にお目にかかります。有馬千里と申します。古賀綾乃様でよろしかったでしょうか」
綾乃:
「ええ、よろしくお願いしますね、千里さん」
千里:
柔らかな声の主の髪は後ろで結ばれていて、正面から見る私にはその長さを計り知ることはできなかったが、結び目から流れる黒髪の豊かさが印象的だった。彼女の背筋は真っ直ぐに伸び、上品でしとやかな雰囲気が漂っていた。
「どうか、千里とお呼びください」
「あ、あの、これ、手土産です。お口に合えばいいのですけれど」
綾乃:
「わかりました。では、千里と。それと…、これは…?」
千里:
「フィナンシェです」
金のラインが入った青色の缶を開けると、甘い香りが部屋に広がった。
綾乃:
「まぁ、洋菓子なのね。…いい香り。落ち着いたら、2人でいただきましょう」
千里:
「え…?わたしも良いのですか?」
綾乃:
「勿論よ」
「あなたが持ってきてくださらなければ、わたくしもいただけなかったのですから、一緒に食べましょう?」
千里:
「あ…、ありがとうございます。お…、お姉様」
綾乃:
「…お姉様…?」
千里:
「あ…、申し訳ございません。会って早々にお姉様だなんて、不躾でした」
綾乃:
「ああ、いえ、違うのよ」
千里:
「…?」
綾乃:
「わたくしも、つい2週間前までこの部屋にお姉様と住んでいて、なのに今日からはわたくしがお姉様なんだと、今になって気づかされたのよ」
「勿論、お姉様で構わないわ。どうぞそんなに固くならないで」
千里:
「…はい!」
綾乃:
「さ、こちら側の家具をお使いになって」
千里:
「ありがとうございます」
綾乃:
「わからないことがあったら、何でも質問してね。落ち着いたら寮母さんにご挨拶に行って、その後お菓子をいただきましょう。その…ふぃ…、ふぃ……、あら、なんと言ったかしら…」
千里:
「ふふ、フィナンシェですわ、お姉様」
綾乃:
「そう!フィナンシェ」
※※※
綾乃:
「こっちが談話室よ」
「やっぱり洋菓子にはお紅茶ですね」
千里:
そう言うとお姉様は手際よく準備を始めた。まずはお湯を沸かし、お盆の上にティーポットとカップ、ソーサー、お皿、ナイフとフォークを乗せて、棚から紅茶葉の缶を取り出した。
薬缶の中の湯が静かに湧き始める頃には、全ての準備が終わっていた。
「でも…よろしいのですか?」
綾乃:
「勝手に火を使って、かしら?」
千里:
「はい」
綾乃:
「本当は駄目よ」
「決まりでは、火を使うのは寮母さんに同伴してもらう必要があるわ」
「見つかったらきっと怒られるわね」
千里:
「えっ…」
綾乃:
「でも、今日だけは大丈夫なの」
千里:
「…どうしてですか?」
綾乃:
「皆がひっきりなしに寮母さんにご挨拶に行っているから、寮母さんはさっきのお部屋から出られないのよ」
千里:
「…なるほど!そうだったんですね」
綾乃:
「ええ」
「きっとあなたがお姉様になった時に、妹に同じことをすると思うわ」
千里:
「はい、きっと」
綾乃:
程なくして、薬缶の底の方からコトコトと囁くような音が聞こえ、口から白い息を吹き始めたところで、火を止める。
千里:
お姉様がティーポットにお湯を注いでいく。紅茶葉の蓋を開けると、西洋の香りが2人を包み込む。茶葉を匙で計り入れ、蓋を閉めて砂時計を反す。
綾乃:
「すこし、お話ししましょうか」
「千里はどうしてここへ?」
千里:
「わたしは…、所謂嫁入り支度です」
綾乃:
「嫁入り支度?」
「有馬の家が?」
千里:
「…はい。今にして思いますと、幼いころから好きなことだけをさせてもらっておりまして…。恥ずかしながら礼儀作法や、裁縫みたいなことが、ほとんど身についていないのです」
綾乃:
「あら…、そうは思わなかったけれど」
千里:
「ありがとうございます。でも、本当のことなのです」
「先日大叔父様の御葬式に参列しました時も、他の人が当たり前にできることが全くわからず…。その時は、まだ子どもだからと許していただきましたけど、このままでは将来、有馬の名に恥をかかせてしまうなぁと思いまして」
綾乃:
「では、自らこちらにいらしたの?」
千里:
「はい」
綾乃:
「それは…、立派な考えですわ。きっとご両親もお喜びだったでしょう」
千里:
「あ、ありがとうございます」
「あの、お姉様はどのような理由で?」
綾乃:
「…そうね…。わたくしも同じかしら」
「うちの場合は…、そう、そこまで自由が出来るようなお家ではございませんの。きっと、わたくしがここに来ているのも、相当無理をされているはず」
「…だからこそ、こちらで学び、良い御縁をいただいて、両親に少しでも報いたいと思っているの…」
千里:
「…そう、でございましたか」
開いていた窓から風が吹き込み、カーテンが優しく揺れて、それに合わせて春の光も揺れた。
お姉様は、砂時計の落ちきったのを確認し、さ、時間ね。と紅茶葉を取り出した。
綾乃:
「千里、お砂糖はいくつ?」
千里:
「ひとつ…、…やっぱりふたつ」
綾乃:
「ふふ…、ではわたくしもふたつ」
「さ、誰かが来る前に部屋に帰りましょう」
千里:
部屋に戻って、部屋の一番奥の大きな窓の下の、小さなテーブルにお盆を置いて、2人で勉強机から椅子を持ち寄った。
綾乃:
「さ、いただきましょう」
「ええっと…、だめね、どうしても名前を覚えられないわ…」
千里:
「フィナンシェですわ、お姉様」
綾乃:
「そう、フィナンシェ」
「初めて食べますわ」
千里:
「わたしもです」
綾乃:
改めて開けた缶から、お皿の上にひとつずつフィナンシェを並べ、ティーカップに紅茶を注ぐ。カップから昇る湯気とともに、甘美な西洋の香りが部屋を満たした。
千里:
お皿の上のフィナンシェに右手を伸ばそうとしたとき、お姉様が優しく「だめよ」と話す。
見ると、お姉様はフォークとナイフで切り分けて、一体いつの間に準備したのか、懐紙を添えて口元を隠しながら召し上がる。
それから白く細い指でカップを軽く持ち、反対の手でソーサーを添え、一口含んだあとに、懐紙で軽く口を押さえた。
その流れるような一連の動きはまるで―――…
綾乃:
「洋菓子はこのようにして食べるのよ」
千里:
「……」
綾乃:
「…どうかして?」
千里:
「あっ…、ごめんなさい」
「なんだかお姉様が美しく、一枚の写真みたいで…」
綾乃:
「まぁ、お上手ね」
千里:
「そんな、世辞じゃないです」
綾乃:
「ふふ、今はすこしお姉さんに見えているだけよ」
「これからここで生活して、たくさんの所作を身に着けていけば、2年後、きっとあなたも妹に同じことを言われるわ」
千里:
「わたしにできるでしょうか…」
綾乃:
「きっとできるわ」
「私も2年前、同じことを考えていたもの」
千里:
「…、頑張ります」
綾乃:
「さぁ、冷めないうちにいただきましょう」
「このフィナンシェというのも、本当に美味しいわ」
千里:
「はい」
お姉様の真似をして、左手でカップを持ち上げ、右手でソーサーを添える。少ししてから鏡写しのように左右が入れ替わっていることに気付いて、慌てて机に戻した。
お姉様は気づいていたようで、優しく微笑んでくださった。
開いた窓から風が優しく入り込んで、本当に一枚の作品のよう…。
この日に飲んだ紅茶は今までで一番美味しくて、人生の最も幸福な時間のひとつになった。
「あの、ひとつお願いがあるのですが」
綾乃:
「…何かしら?」
千里:
「少しの間、動かないでいただきたいのです」
綾乃:
「…ええっと?」
千里の意図が分からず、とりあえずそのまま動きを止めてみせた。
千里はトランクを開けに席を立ち、少ししてから小さな革製のケースを持って帰ってきた。
「それは?」
千里:
「写真機でございます」
綾乃:
「まぁ…、千里の物なのね。…もしかして先ほど言っていた好きなこと、とは」
千里:
「はい、写真にございます」
「お姉様のこと、写し撮らせていただきたいのです」
綾乃:
「わたくしなんかより、もっと良いものがあるでしょうに」
千里:
「お顔をお身体の正面をお向けになって、カップを口元に当てられたところでお止まりいただけますか」
綾乃:
「こう、かしら」
千里:
「はい、素敵です」
「では、少し動きを止めていてください」
「さん…にぃ…いち」
「……ありがとうございます」
綾乃:
「それはどのようにしたら見られるの?」
千里:
「すぐには見られません。どこか写真屋にいって、写真に仕立ててもらいませんと。できあがりましたらすぐにお見せしますね」
綾乃:
「ええ、楽しみだわ」
※※※
千里:
拝復
お父様、お母様
温かな春に目覚めを感じ、まだ見慣れぬ天井に、毎朝実家での幸せな時間を思い出します。この度は御心のこもったお手紙、ありがとうございます。
こちらは入学礼拝に合わせて、学園の中庭の桜が綺麗に咲きました。人目を忍んで写真に写しましたので、どこかで写真屋に仕立てていただき、手紙と一緒に送りたいと思います。
寮での生活も1週間が経ちました。土曜の夕食の後に寮母さんに名前を呼ばれ、手紙があることを知らされて、少々驚きました。お父様、お母様からお手紙が届くとは夢にも存ぜず、お姉様にはまだ手紙で様子を知らせていなかったのかと、少しお叱りを頂きました。
心配をかけてしまってごめんなさい。こちらは安泰に過ごしています。寮での生活にも慣れ、学友も幾人かできました。それに、何と言ってもお姉様がそれはそれは素晴らしいお人なのです。
入寮の日に、お母様が持たせてくださったフィナンシェを2人でいただきました。その時の仕草や作法が、本当に美しく、まるで活動写真の一幕のようにございました。
わたくしがなりたい女性の姿をまさにお姉様が体現されておいでで、近くでお姉様のお姿を見られることが、今は何より幸せです。きっとわたくしもお姉様の様な素敵な女性になりたいと思います。
まずは、お姉様の一人称を真似してみています。まだ少し気恥ずかしいですが、きっといつか自然に申せるようになるのではと思います。
春先、まだ気温が安定しておりませんので、どうかお体ご自愛くださいませ。
敬具
千里
綾乃:
「外出…ですか?」
千里:
「はい」
綾乃:
「文を出すだけであれば、寮母さんにお渡しすれば…」
千里:
「はい、手紙もなんですが、学園の周りをみて周りたいと思いまして」
「よろしければお姉様について来ていただけないかと」
綾乃:
「…そう…ですか」
「わかったわ。次の土曜日で構わないかしら」
千里:
「よろしいのですか!?」
綾乃:
「ええ、でも案内はできませんよ?」
「わたくしもそう何度も外出に出ているわけではありませんので」
千里:
「…そうなのですか?」
綾乃:
「この2年、数えるほどしか寮を出ていないの」
千里:
「何か理由がお有りなのですか?」
綾乃:
「いえ、基本的には学園の中で事足りますし、本当に必要なものは送っていただきます」
「用事がない限りは出ない性分なだけですわ」
千里:
「…もし、ご迷惑だったら断ってくださいね」
綾乃:
「丁度櫛の調子が良くなかったの。いい機会ですし、商店街の小間物屋にも寄っていただけるかしら」
千里:
「勿論です!」
綾乃:
「では、明日の放課後、寮母さんに外出願を頂きに行きましょう」
千里:
「はい」
綾乃:
「もう消しますよ。千里。おやすみなさいませ」
千里:
「はい。おやすみなさいませ、お姉様」
※※※
千里:
「(すすり泣く声)」
綾乃:
「千里?泣いているの?」
就寝の挨拶を済ませてから、半時ほどが経った頃、部屋の向こう側から千里のすすり泣く声が聞こえる。
千里:
「あっ…、申し訳ありません、起こしてしまいましたよね…」
綾乃:
「いいえ、いいのよそんなこと」
「それより、どうかして?」
千里:
「…はい…。昨夜お父様お母様から来た手紙を読んで、今日お返事を書きました。そうしたら家や家族のこと思い出して、夜になって急にさみしく感じてしまったのです」
綾乃:
「あら、…そうよね」
「千里は、きっとこんなにご家族と離れることは初めてよね」
千里:
「……はい」
綾乃:
「こっちへいらっしゃい」
「今夜は一緒に寝ましょうか」
千里:
「いえ…、そんな…」
綾乃:
「では、わたくしがそちらに行くわ」
千里:
「お姉様…」
窓から差し込む満月の明かりに照らされた、お姉様のその慈愛に満ちた顔、純白のナイトドレス、腰まで伸びたつややかな髪。まるで月のお姫様がそのまま現れたように美しく、私はぼうっと昔読んだ御伽噺を思い出していた。
綾乃:
「わたくしたちは姉妹なのよ」
「あなたがさみしいとわたくしも悲しいの」
千里:
「…ありがとう…ございます」
綾乃:
「おいで、抱き締めてあげる」
「あなたはここで、本当に頑張っているわ」
千里:
「お姉様…。なんだか心が温かくなってきたように感じます」
綾乃:
「それはよかったわ」
「さぁ、今日はもう寝ましょう」
千里:
「はい」
綾乃:
「あなたがさみしくなったら、また一緒に寝てあげるわね」
千里:
「…毎日さみしいと言ってしまうかもしれません」
綾乃:
「まぁ、甘えん坊ね」
千里:
「…申し訳ありません」
綾乃:
「ふふ。2人には少し狭いわね」
千里:
「はい、でもとても暖かいです」
※※※
綾乃:
「では、寮母様、行ってまいります」
千里:
「行ってまいります」
玄関にお見送りに来てくださった寮母さんが、お姉様だけを呼び止めた。
綾乃:
「…ええ、わかっております」
千里:
二人はいくつかの言葉を交わしていた。二人ともわたくしには聞かせないようにしていたけれど、きっと門限守ることや、節度ある行動を、年長者として監督せよ、というようなことを言われていたのだろう。
綾乃:
「さて、では参りましょう」
「まずはどちらへ?」
千里:
「あ、そうですね。まずは郵便局に手紙を出しに参りたいと思います」
「その後お姉様の櫛を買いに小間物屋と、あと写真屋にも寄りたいです」
綾乃:
「わかりました」
千里:
「ただ、その前に…、あとフィルムが1枚残っておりまして、どこかで写真を写したいのです」
綾乃:
「あら」
「何か写真に写すようなものがあったかしら…」
千里:
歩き始めたお姉様が、口元に手を当てて考え始めた。私としてはこのお姿を写したいくらいだった。
私のためにお姉様が考えてくださる。そのことだけで本当にうれしくなってしまい、顔がにやにやと緩み、お姉様が気づかれる前に顔を引き締めた。
綾乃:
「とりあえず、郵便局の方へ歩きましょうか」
千里:
「はい」
郵便局で、両親への手紙を出し、これからの分の切手をまとめて買った。その後、少し歩いて小間物屋に入った。
私はお姉様に付いていき、お姉様は真剣な表情で櫛を選ぶ。
綾乃:
「これにします。おいくらですか?」
千里:
お姉様が選んだのは白木の地肌が綺麗に磨かれた、彩色も装飾もない、半月型の両面櫛だった。
小間物屋の女将とやりとりを交わして、銅貨を数枚卓上でやりとりし、櫛の収められた箱を懐にしまう。その何ともない仕草でさえも、品を感じさせる簡素さだった。
「…お姉様の持ち物は、慎ましく、お上品ですね」
綾乃:
「あら、ありがとう」
「千里の物は、可憐で華やかな物が多いわね」
千里:
「はい、牡丹色が好きなので、お父様にわがままを言ってしまいました」
綾乃:
「よく似合っているわ」
千里:
「ありがとうございます」
「でも、お姉様と会ってから、少し幼すぎたかと反省しております」
綾乃:
「あら、どうして?牡丹は流行りの色よ。幼いとは思わないけれど」
千里:
「いえ、色ではなくて、わたくしの身に付けるものの趣味のことです」
「お姉様の持ち物はどれも飾りたてず、素材の良さがじんわりと伝わってまいります」
「華美に着飾るよりずっと上品で、心が惹かれるのです」
綾乃:
「まぁ…。でも、あまりこういう事を申し上げたくはないのですが、家の格によってやはり持ち物にも相応の物が求められます」
「有馬の様な名家の御息女が、わたくしのように飾り気のないものばかりを持っているのも、少しおかしく映ってしまうと思うのだけれど」
千里:
「それは……、そうなのかもしれませんが…」
「ですが今のわたくしは一人の学生で、有馬の家の者とは傍目にはわからないのです。であれば、お姉様と同じ様に、着飾らない美しさを身に着けても良いのではないでしょうか」
綾乃:
「たしかに、…そういう見方もできるかもしれませんね」
千里:
「なので…、その…、お姉様と同じ櫛を、買わせていただいてもよろしいでしょうか」
綾乃:
「千里、それはだめよ。あなたは櫛を持っているじゃない」
「次の櫛を買うのは、今の櫛がだめになってからよ」
「道具にも、作ってくださった方にも、それは失礼というものよ」
千里:
「…その通りですね。申し訳ありません」
綾乃:
「ですが…、大切に使い切ったあとであれば、その時の千里が一番心惹かれるものを使うのがよいと思います」
千里:
「…はい!」
丁度風が吹き抜けて、どこからか花の匂いを運ぶ。お姉様ならばこの花の名前も定められることができるのだろうか。
私はその匂いと、お姉様への新たな憧れを、そっと胸へとしまい込んだ。
※※※
千里:
「お姉様、あんなところにカフェーがありますよ。少し寄っていきませんか?」
綾乃:
「そうですね、少し喉も渇きましたし、お邪魔しましょうか」
ドアを開けると、付けられた鈴がカラカラとなり、続いてエプロンをつけた、女給が恭しく頭を下げた。
店内には外国の曲が静かに流れ、まるで別の世界に来たのかと思うほどだ。
「わたくしは紅茶に檸檬を添えていただけますか?」
千里:
「では、わたくしはミルクティーを」
「お菓子は何がおすすめでございましょうか?」
女給は持っていた絵を見せながら、紅茶にはショート・ケーキが、カステラはあっさりとした甘さで食べやすく、甘すぎるものが苦手な人にもおすすめだと話した。
綾乃:
「…では、わたくしはカステラを」
千里:
「ではわたくしも同じものを」
綾乃:
「…少し意外でしたわ。千里はショート・ケーキを選ぶと思いましたのに」
千里:
女給がその場を離れてから、お姉様は口を開いた。
「いえ、あの…、甘すぎるものは少し苦手でして…」
綾乃:
「あら、そうでしたの?」
「ふふ、お砂糖はふたつなのにね」
千里:
「お姉様…!」
ほどなくして女給がカップふたつとティーポット、ミルクと檸檬、カステラふたつを持ってきた。
お姉様は女給に感謝を伝え、こちらを向き直った。
「お姉様、先ほど買った櫛を出していただいてもよろしいでしょうか」
綾乃:
「櫛を?」
千里:
お姉様が懐から櫛の箱を取り出してカップの隣に置く。
机の上に並べられた今日の痕跡を、私は写真機で切り取った。
綾乃:
「最後の1枚、こんなものでよかったの?」
千里:
「はい、とても良いものが写せました。わたくしにとっては赤富士の景色よりも
、今日のひとつひとつの方が、美しく輝いて見えるのです」
綾乃:
「ならいいのだけれど」
「ではいただきましょう」
千里:
「はい」
そう言うとお姉様は飴色の紅茶に檸檬を浮かべる。併せて私も角砂糖とミルクを溶かした。
紅茶を口にすると、柔らかなぬくもりが身体に染み入ってくるのを感じた。
綾乃:
「こうして外で飲む紅茶も、たまには良いですね」
千里:
「はい。…ですが、お姉様が入れてくれた紅茶の方が、より美味しく感じます」
綾乃:
「あら…」
「それはきっと、お砂糖がふたつだったからね」
千里:
「もう…。そんなことはありません…」
綾乃:
「ふふ」
※※※
綾乃:
カフェーで一時ほどお互いの事を語らい、商店街をぶらりと歩いてみれば、写真屋は書店のすぐ向かいだった。
千里に、写真のことはわからないので、書店で待っているとを伝え、一人見て回る。
店内を歩いていると、紺色の背表紙が目に留まった――
欧羅巴花暦。
棚から抜き出し頁を捲る。その本には冬から始まり、季節ごとの花の絵と、花言葉が添えられていた。
雪を抱く雪起こし。透き通るような白の花弁が白銀の光を含んで、背景の群青に浮かんでいる。花言葉は慰め、追憶。
頁を捲ると今度はふたつの花が見開きで描かれている。
淡紅の牡丹一華――幸福な愛、素晴らしい友情。白妙映える待雪草――希望。
ただの紙であるはずなのに、その輪郭ははっきりと浮き出し、その花弁は確かに春の気配を纏っていた。
次の頁を捲ったところで、千里の声が聞こえた。
千里:
「お姉様」
綾乃:
「あら、早かったのね。もう写真になったのですか?」
千里:
「いえ、むしろ他のお客様もおり、早くても明後日になるとのことでしたので、事情を伝え、学園に郵送していただくように手配をいたしました」
「それより…、何をご覧に?」
綾乃:
「花の絵よ。ひとつずつ花言葉が記されているの」
千里:
お姉様が見せてくださった見開きには、白詰草と、麝香豌豆が左右にそれぞれ一輪ずつ描かれていた。
それぞれの花言葉は、私を思って、幸運。それと門出、優しい思い出。
「絵がお好きなのですか?」
綾乃:
「…ええ。見て楽しむだけですけれど」
千里:
「どうしてですか?」
綾乃:
「え?」
千里:
「どうしてご自身ではお描きにならないのですか?」
綾乃:
「…どうしてって……、絵は花嫁稽古に必要ありませんもの」
千里:
「……」
「描きたいとは思わないのですか?」
綾乃:
「道具も、…習う時間も宛もございません」
「それに、道具一式を揃えようとすると、結構なお金でしょう?」
千里:
「では、わたくしのをお使いください」
「実家に筆も絵の具も、硝子皿も、一揃いございます」
「荷物になるからとほとんどは置いてきましたが、4年も家を開けては、その間に筆は傷み、絵の具も乾いてしまいます。無駄にしてしまうより、お姉様に使っていただきたいのです」
綾乃:
「だめよ。わたくしのように絵のいろはも知らない者が、他所のお道具を使うなんて」
千里:
「有馬で絵を描くのはわたくしだけでございます」
「今ある道具を使い切らねば、道具に失礼だと先ほど教えていただきました」
「それに、わたくしはお姉様の目に映る世界を知りたいのです」
綾乃:
「千里の気持ちは嬉しいのだけれど…」
「…少し、考えさせて」
千里:
「あっ…!申し訳ありません、また自分の申したいことだけを申してしまいました」
綾乃:
「いえ、そのあなたの真っ直ぐなところ、とても好ましく思っています」
千里:
「ありがとう…ございます」
※※※
千里:
拝復
古賀綾乃さま
先日、主人の所用で出向いた道すがら、足元に白詰草がちらほらと顔を出しており、思わず足を止めました。そう言えば、もう春も深くなったのだと、懐かしい季節の訪れを感じた次第でございます。
ちょうどその折、お姉様から頂いた白詰草の絵が届きました。封を切った途端、あの頃二人で過ごした中庭の匂いまでがふわりと蘇ったようで、胸の奥が温かくなりました。白と緑の取り合わせの中に、そっと差し込まれた柔らかな陽の色が、お姉様らしい優しさを映しているようでございます。机に立てかけて眺めるたび、あの静かな午後と、お姉様の微笑みが共に甦り、心が和らぎます。
このたびのご婚約、心よりお慶び申し上げます。お姉様が新しい暮らしへと歩み出されると知り、胸の奥で静かな喜びが波のように広がりました。ですが、その波間にぽっかりと空いた小さな空白も、また感じずにはおれません。時間が逆戻りし、再び学園でお姉様と共に過ごしていたあの穏やかな日々に戻れたらと、何度も願ってしまうのです。
殊に、お姉様が退寮される前夜、同じ寝具に寄り添い、知らぬ間に眠りに落ちたあのぬくもりは今も色鮮やかに心に残っております。あれほど安らかで満たされた時間は、それ以降、なかなか訪れることがありません。もしも戻れるのなら、もう一度あの夜のぬくもりを感じたいと、胸が締め付けられる想いでございます。
新しいお家のしきたりや暮らし方を覚えるのは、初めはきっと大変なことでしょう。ですが、お姉様の優しさと芯の強さがあれば、必ずやその場を柔らかく包み、和やかな空気を紡いでいかれると信じております。
私事で恐縮ですが、月のものが止まり、どうやら三度目の命を授かっているようでございます。まだはっきりとはわかりませんが、もしそうであれば、次こそは男児であってほしいと主人や家族と話しております。
二人の娘たちは元気に日々を過ごしておりますが、その分だけ心身ともに慌ただしく、写真機や筆を手にする暇もなかなかなくなりました。
どうかお姉様はお変わりなく、ご自分らしい日々をお送りくださいませ。落ち着かれましたら、新しい暮らしのご様子をぜひお聞かせください。どんな些細なことでも、わたくしには嬉しい便りとなることでしょう。
季節の変わり目です。どうぞご自愛なさってくださいませ。遠くより、変わらぬ愛とともに、お姉様の幸せをいつもお祈り申し上げております。
かしこ
九條千里
拝復
九條千里さま
麗らかな春の日差しが、心をほどく今日この頃、いかがお過ごしでいらっしゃいますか。
今年も庭で白詰草が花を咲かせています。風に揺れるその可憐さに、あなたの面影を重ねてしまいます。千里はこの時期になるとよく中庭の草花の様子を見ておりましたね。その横顔を今も時折、思い出します。
白詰草の絵を描きましたので、同封させていただきます。またいつかのように一緒に絵を描きたいですね。
先日、所用で立ち寄った本屋で、昔一緒に読んだ『月のお姫様』を見つけました。装丁は少し変わっていたけれど、表紙を見ただけで懐かしい気持ちになって、しばらくその場を離れられませんでした。あの頃のことを思い出して、ふふっとひとり笑ってしまったの。
今までお手紙にしたためてくださったご様子を拝読し、とても嬉しく存じました。ご主人様との穏やかな暮らし、丁寧に選ばれた言葉の端々に、深い愛情と安らぎが滲んでいて——まるで物語のようでした。
そのようなご様子に心を打たれ、私もようやく、結婚というものに心を向けてみようかと思うようになりました。
実を言うと、わたくしはこれまで見合いのたびに、わざと失礼をして、ことを荒立てずにご破談にしてまいりました。
それが、最も静かに、自分の心に正直に生きる術であると、どこかで思っていたのです。
けれど、あなたのように、日常に寄り添い、共に笑える人と巡り合えるならば――そう思うようになったのです。
おかげさまで、先日いただいたご縁がまとまり、来月には嫁ぎ先へ引っ越すこととなりました。新しい土地での暮らしに少々の不安もございますが、それ以上に胸の高鳴りを感じております。
つきましては、しばらくの間は所用が重なり、お返事を差し上げるまでに時間をいただくことになるかと存じます。どうぞご無礼をお許しくださいませ。生活が落ち着きました折には、改めて筆を取らせていただきますので、少しばかりお待ちいただけますと幸いです。
季節の変わり目、どうかご自愛くださいませ。
再びお便りを交わせる日を楽しみにしております。
かしこ
綾乃
「お母様、文を出してまいります」
気を付けてと見送られ、最寄りの郵便局へ向かう。
全身で春風を堪能しながら、川辺の道を進む。今年も白詰草の季節が来た。可憐で、それでいて純朴。まるであなたのよう。
千里、あなたと初めてあってから、もう6年の月日が経ちましたよ。
※※※
千里
(ノックの音)
「失礼します」
綾乃:
「はい。どうぞ」
千里:
部屋の中から柔らかな声が聞こえる。良かった、とりあえず怖い人ではなさそうだ。
木製のドアは思ったよりも重く、トランクを持ったまま開けるのは、想像よりも大変で、それを気づいてくださったのか、中からドアが開いた。
「あ、えっと…、お、お初にお目にかかります。有馬千里と申します。古賀綾乃様でよろしかったでしょうか」
綾乃:
「ええ、よろしくお願いしますね、千里さん」
千里:
柔らかな声の主の髪は後ろで結ばれていて、正面から見る私にはその長さを計り知ることはできなかったが、結び目から流れる黒髪の豊かさが印象的だった。彼女の背筋は真っ直ぐに伸び、上品でしとやかな雰囲気が漂っていた。
「どうか、千里とお呼びください」
「あ、あの、これ、手土産です。お口に合えばいいのですけれど」
綾乃:
「わかりました。では、千里と。それと…、これは…?」
千里:
「フィナンシェです」
金のラインが入った青色の缶を開けると、甘い香りが部屋に広がった。
綾乃:
「まぁ、洋菓子なのね。…いい香り。落ち着いたら、2人でいただきましょう」
千里:
「え…?わたしも良いのですか?」
綾乃:
「勿論よ」
「あなたが持ってきてくださらなければ、わたくしもいただけなかったのですから、一緒に食べましょう?」
千里:
「あ…、ありがとうございます。お…、お姉様」
綾乃:
「…お姉様…?」
千里:
「あ…、申し訳ございません。会って早々にお姉様だなんて、不躾でした」
綾乃:
「ああ、いえ、違うのよ」
千里:
「…?」
綾乃:
「わたくしも、つい2週間前までこの部屋にお姉様と住んでいて、なのに今日からはわたくしがお姉様なんだと、今になって気づかされたのよ」
「勿論、お姉様で構わないわ。どうぞそんなに固くならないで」
千里:
「…はい!」
綾乃:
「さ、こちら側の家具をお使いになって」
千里:
「ありがとうございます」
綾乃:
「わからないことがあったら、何でも質問してね。落ち着いたら寮母さんにご挨拶に行って、その後お菓子をいただきましょう。その…ふぃ…、ふぃ……、あら、なんと言ったかしら…」
千里:
「ふふ、フィナンシェですわ、お姉様」
綾乃:
「そう!フィナンシェ」
※※※
綾乃:
「こっちが談話室よ」
「やっぱり洋菓子にはお紅茶ですね」
千里:
そう言うとお姉様は手際よく準備を始めた。まずはお湯を沸かし、お盆の上にティーポットとカップ、ソーサー、お皿、ナイフとフォークを乗せて、棚から紅茶葉の缶を取り出した。
薬缶の中の湯が静かに湧き始める頃には、全ての準備が終わっていた。
「でも…よろしいのですか?」
綾乃:
「勝手に火を使って、かしら?」
千里:
「はい」
綾乃:
「本当は駄目よ」
「決まりでは、火を使うのは寮母さんに同伴してもらう必要があるわ」
「見つかったらきっと怒られるわね」
千里:
「えっ…」
綾乃:
「でも、今日だけは大丈夫なの」
千里:
「…どうしてですか?」
綾乃:
「皆がひっきりなしに寮母さんにご挨拶に行っているから、寮母さんはさっきのお部屋から出られないのよ」
千里:
「…なるほど!そうだったんですね」
綾乃:
「ええ」
「きっとあなたがお姉様になった時に、妹に同じことをすると思うわ」
千里:
「はい、きっと」
綾乃:
程なくして、薬缶の底の方からコトコトと囁くような音が聞こえ、口から白い息を吹き始めたところで、火を止める。
千里:
お姉様がティーポットにお湯を注いでいく。紅茶葉の蓋を開けると、西洋の香りが2人を包み込む。茶葉を匙で計り入れ、蓋を閉めて砂時計を反す。
綾乃:
「すこし、お話ししましょうか」
「千里はどうしてここへ?」
千里:
「わたしは…、所謂嫁入り支度です」
綾乃:
「嫁入り支度?」
「有馬の家が?」
千里:
「…はい。今にして思いますと、幼いころから好きなことだけをさせてもらっておりまして…。恥ずかしながら礼儀作法や、裁縫みたいなことが、ほとんど身についていないのです」
綾乃:
「あら…、そうは思わなかったけれど」
千里:
「ありがとうございます。でも、本当のことなのです」
「先日大叔父様の御葬式に参列しました時も、他の人が当たり前にできることが全くわからず…。その時は、まだ子どもだからと許していただきましたけど、このままでは将来、有馬の名に恥をかかせてしまうなぁと思いまして」
綾乃:
「では、自らこちらにいらしたの?」
千里:
「はい」
綾乃:
「それは…、立派な考えですわ。きっとご両親もお喜びだったでしょう」
千里:
「あ、ありがとうございます」
「あの、お姉様はどのような理由で?」
綾乃:
「…そうね…。わたくしも同じかしら」
「うちの場合は…、そう、そこまで自由が出来るようなお家ではございませんの。きっと、わたくしがここに来ているのも、相当無理をされているはず」
「…だからこそ、こちらで学び、良い御縁をいただいて、両親に少しでも報いたいと思っているの…」
千里:
「…そう、でございましたか」
開いていた窓から風が吹き込み、カーテンが優しく揺れて、それに合わせて春の光も揺れた。
お姉様は、砂時計の落ちきったのを確認し、さ、時間ね。と紅茶葉を取り出した。
綾乃:
「千里、お砂糖はいくつ?」
千里:
「ひとつ…、…やっぱりふたつ」
綾乃:
「ふふ…、ではわたくしもふたつ」
「さ、誰かが来る前に部屋に帰りましょう」
千里:
部屋に戻って、部屋の一番奥の大きな窓の下の、小さなテーブルにお盆を置いて、2人で勉強机から椅子を持ち寄った。
綾乃:
「さ、いただきましょう」
「ええっと…、だめね、どうしても名前を覚えられないわ…」
千里:
「フィナンシェですわ、お姉様」
綾乃:
「そう、フィナンシェ」
「初めて食べますわ」
千里:
「わたしもです」
綾乃:
改めて開けた缶から、お皿の上にひとつずつフィナンシェを並べ、ティーカップに紅茶を注ぐ。カップから昇る湯気とともに、甘美な西洋の香りが部屋を満たした。
千里:
お皿の上のフィナンシェに右手を伸ばそうとしたとき、お姉様が優しく「だめよ」と話す。
見ると、お姉様はフォークとナイフで切り分けて、一体いつの間に準備したのか、懐紙を添えて口元を隠しながら召し上がる。
それから白く細い指でカップを軽く持ち、反対の手でソーサーを添え、一口含んだあとに、懐紙で軽く口を押さえた。
その流れるような一連の動きはまるで―――…
綾乃:
「洋菓子はこのようにして食べるのよ」
千里:
「……」
綾乃:
「…どうかして?」
千里:
「あっ…、ごめんなさい」
「なんだかお姉様が美しく、一枚の写真みたいで…」
綾乃:
「まぁ、お上手ね」
千里:
「そんな、世辞じゃないです」
綾乃:
「ふふ、今はすこしお姉さんに見えているだけよ」
「これからここで生活して、たくさんの所作を身に着けていけば、2年後、きっとあなたも妹に同じことを言われるわ」
千里:
「わたしにできるでしょうか…」
綾乃:
「きっとできるわ」
「私も2年前、同じことを考えていたもの」
千里:
「…、頑張ります」
綾乃:
「さぁ、冷めないうちにいただきましょう」
「このフィナンシェというのも、本当に美味しいわ」
千里:
「はい」
お姉様の真似をして、左手でカップを持ち上げ、右手でソーサーを添える。少ししてから鏡写しのように左右が入れ替わっていることに気付いて、慌てて机に戻した。
お姉様は気づいていたようで、優しく微笑んでくださった。
開いた窓から風が優しく入り込んで、本当に一枚の作品のよう…。
この日に飲んだ紅茶は今までで一番美味しくて、人生の最も幸福な時間のひとつになった。
「あの、ひとつお願いがあるのですが」
綾乃:
「…何かしら?」
千里:
「少しの間、動かないでいただきたいのです」
綾乃:
「…ええっと?」
千里の意図が分からず、とりあえずそのまま動きを止めてみせた。
千里はトランクを開けに席を立ち、少ししてから小さな革製のケースを持って帰ってきた。
「それは?」
千里:
「写真機でございます」
綾乃:
「まぁ…、千里の物なのね。…もしかして先ほど言っていた好きなこと、とは」
千里:
「はい、写真にございます」
「お姉様のこと、写し撮らせていただきたいのです」
綾乃:
「わたくしなんかより、もっと良いものがあるでしょうに」
千里:
「お顔をお身体の正面をお向けになって、カップを口元に当てられたところでお止まりいただけますか」
綾乃:
「こう、かしら」
千里:
「はい、素敵です」
「では、少し動きを止めていてください」
「さん…にぃ…いち」
「……ありがとうございます」
綾乃:
「それはどのようにしたら見られるの?」
千里:
「すぐには見られません。どこか写真屋にいって、写真に仕立ててもらいませんと。できあがりましたらすぐにお見せしますね」
綾乃:
「ええ、楽しみだわ」
※※※
千里:
拝復
お父様、お母様
温かな春に目覚めを感じ、まだ見慣れぬ天井に、毎朝実家での幸せな時間を思い出します。この度は御心のこもったお手紙、ありがとうございます。
こちらは入学礼拝に合わせて、学園の中庭の桜が綺麗に咲きました。人目を忍んで写真に写しましたので、どこかで写真屋に仕立てていただき、手紙と一緒に送りたいと思います。
寮での生活も1週間が経ちました。土曜の夕食の後に寮母さんに名前を呼ばれ、手紙があることを知らされて、少々驚きました。お父様、お母様からお手紙が届くとは夢にも存ぜず、お姉様にはまだ手紙で様子を知らせていなかったのかと、少しお叱りを頂きました。
心配をかけてしまってごめんなさい。こちらは安泰に過ごしています。寮での生活にも慣れ、学友も幾人かできました。それに、何と言ってもお姉様がそれはそれは素晴らしいお人なのです。
入寮の日に、お母様が持たせてくださったフィナンシェを2人でいただきました。その時の仕草や作法が、本当に美しく、まるで活動写真の一幕のようにございました。
わたくしがなりたい女性の姿をまさにお姉様が体現されておいでで、近くでお姉様のお姿を見られることが、今は何より幸せです。きっとわたくしもお姉様の様な素敵な女性になりたいと思います。
まずは、お姉様の一人称を真似してみています。まだ少し気恥ずかしいですが、きっといつか自然に申せるようになるのではと思います。
春先、まだ気温が安定しておりませんので、どうかお体ご自愛くださいませ。
敬具
千里
綾乃:
「外出…ですか?」
千里:
「はい」
綾乃:
「文を出すだけであれば、寮母さんにお渡しすれば…」
千里:
「はい、手紙もなんですが、学園の周りをみて周りたいと思いまして」
「よろしければお姉様について来ていただけないかと」
綾乃:
「…そう…ですか」
「わかったわ。次の土曜日で構わないかしら」
千里:
「よろしいのですか!?」
綾乃:
「ええ、でも案内はできませんよ?」
「わたくしもそう何度も外出に出ているわけではありませんので」
千里:
「…そうなのですか?」
綾乃:
「この2年、数えるほどしか寮を出ていないの」
千里:
「何か理由がお有りなのですか?」
綾乃:
「いえ、基本的には学園の中で事足りますし、本当に必要なものは送っていただきます」
「用事がない限りは出ない性分なだけですわ」
千里:
「…もし、ご迷惑だったら断ってくださいね」
綾乃:
「丁度櫛の調子が良くなかったの。いい機会ですし、商店街の小間物屋にも寄っていただけるかしら」
千里:
「勿論です!」
綾乃:
「では、明日の放課後、寮母さんに外出願を頂きに行きましょう」
千里:
「はい」
綾乃:
「もう消しますよ。千里。おやすみなさいませ」
千里:
「はい。おやすみなさいませ、お姉様」
※※※
千里:
「(すすり泣く声)」
綾乃:
「千里?泣いているの?」
就寝の挨拶を済ませてから、半時ほどが経った頃、部屋の向こう側から千里のすすり泣く声が聞こえる。
千里:
「あっ…、申し訳ありません、起こしてしまいましたよね…」
綾乃:
「いいえ、いいのよそんなこと」
「それより、どうかして?」
千里:
「…はい…。昨夜お父様お母様から来た手紙を読んで、今日お返事を書きました。そうしたら家や家族のこと思い出して、夜になって急にさみしく感じてしまったのです」
綾乃:
「あら、…そうよね」
「千里は、きっとこんなにご家族と離れることは初めてよね」
千里:
「……はい」
綾乃:
「こっちへいらっしゃい」
「今夜は一緒に寝ましょうか」
千里:
「いえ…、そんな…」
綾乃:
「では、わたくしがそちらに行くわ」
千里:
「お姉様…」
窓から差し込む満月の明かりに照らされた、お姉様のその慈愛に満ちた顔、純白のナイトドレス、腰まで伸びたつややかな髪。まるで月のお姫様がそのまま現れたように美しく、私はぼうっと昔読んだ御伽噺を思い出していた。
綾乃:
「わたくしたちは姉妹なのよ」
「あなたがさみしいとわたくしも悲しいの」
千里:
「…ありがとう…ございます」
綾乃:
「おいで、抱き締めてあげる」
「あなたはここで、本当に頑張っているわ」
千里:
「お姉様…。なんだか心が温かくなってきたように感じます」
綾乃:
「それはよかったわ」
「さぁ、今日はもう寝ましょう」
千里:
「はい」
綾乃:
「あなたがさみしくなったら、また一緒に寝てあげるわね」
千里:
「…毎日さみしいと言ってしまうかもしれません」
綾乃:
「まぁ、甘えん坊ね」
千里:
「…申し訳ありません」
綾乃:
「ふふ。2人には少し狭いわね」
千里:
「はい、でもとても暖かいです」
※※※
綾乃:
「では、寮母様、行ってまいります」
千里:
「行ってまいります」
玄関にお見送りに来てくださった寮母さんが、お姉様だけを呼び止めた。
綾乃:
「…ええ、わかっております」
千里:
二人はいくつかの言葉を交わしていた。二人ともわたくしには聞かせないようにしていたけれど、きっと門限守ることや、節度ある行動を、年長者として監督せよ、というようなことを言われていたのだろう。
綾乃:
「さて、では参りましょう」
「まずはどちらへ?」
千里:
「あ、そうですね。まずは郵便局に手紙を出しに参りたいと思います」
「その後お姉様の櫛を買いに小間物屋と、あと写真屋にも寄りたいです」
綾乃:
「わかりました」
千里:
「ただ、その前に…、あとフィルムが1枚残っておりまして、どこかで写真を写したいのです」
綾乃:
「あら」
「何か写真に写すようなものがあったかしら…」
千里:
歩き始めたお姉様が、口元に手を当てて考え始めた。私としてはこのお姿を写したいくらいだった。
私のためにお姉様が考えてくださる。そのことだけで本当にうれしくなってしまい、顔がにやにやと緩み、お姉様が気づかれる前に顔を引き締めた。
綾乃:
「とりあえず、郵便局の方へ歩きましょうか」
千里:
「はい」
郵便局で、両親への手紙を出し、これからの分の切手をまとめて買った。その後、少し歩いて小間物屋に入った。
私はお姉様に付いていき、お姉様は真剣な表情で櫛を選ぶ。
綾乃:
「これにします。おいくらですか?」
千里:
お姉様が選んだのは白木の地肌が綺麗に磨かれた、彩色も装飾もない、半月型の両面櫛だった。
小間物屋の女将とやりとりを交わして、銅貨を数枚卓上でやりとりし、櫛の収められた箱を懐にしまう。その何ともない仕草でさえも、品を感じさせる簡素さだった。
「…お姉様の持ち物は、慎ましく、お上品ですね」
綾乃:
「あら、ありがとう」
「千里の物は、可憐で華やかな物が多いわね」
千里:
「はい、牡丹色が好きなので、お父様にわがままを言ってしまいました」
綾乃:
「よく似合っているわ」
千里:
「ありがとうございます」
「でも、お姉様と会ってから、少し幼すぎたかと反省しております」
綾乃:
「あら、どうして?牡丹は流行りの色よ。幼いとは思わないけれど」
千里:
「いえ、色ではなくて、わたくしの身に付けるものの趣味のことです」
「お姉様の持ち物はどれも飾りたてず、素材の良さがじんわりと伝わってまいります」
「華美に着飾るよりずっと上品で、心が惹かれるのです」
綾乃:
「まぁ…。でも、あまりこういう事を申し上げたくはないのですが、家の格によってやはり持ち物にも相応の物が求められます」
「有馬の様な名家の御息女が、わたくしのように飾り気のないものばかりを持っているのも、少しおかしく映ってしまうと思うのだけれど」
千里:
「それは……、そうなのかもしれませんが…」
「ですが今のわたくしは一人の学生で、有馬の家の者とは傍目にはわからないのです。であれば、お姉様と同じ様に、着飾らない美しさを身に着けても良いのではないでしょうか」
綾乃:
「たしかに、…そういう見方もできるかもしれませんね」
千里:
「なので…、その…、お姉様と同じ櫛を、買わせていただいてもよろしいでしょうか」
綾乃:
「千里、それはだめよ。あなたは櫛を持っているじゃない」
「次の櫛を買うのは、今の櫛がだめになってからよ」
「道具にも、作ってくださった方にも、それは失礼というものよ」
千里:
「…その通りですね。申し訳ありません」
綾乃:
「ですが…、大切に使い切ったあとであれば、その時の千里が一番心惹かれるものを使うのがよいと思います」
千里:
「…はい!」
丁度風が吹き抜けて、どこからか花の匂いを運ぶ。お姉様ならばこの花の名前も定められることができるのだろうか。
私はその匂いと、お姉様への新たな憧れを、そっと胸へとしまい込んだ。
※※※
千里:
「お姉様、あんなところにカフェーがありますよ。少し寄っていきませんか?」
綾乃:
「そうですね、少し喉も渇きましたし、お邪魔しましょうか」
ドアを開けると、付けられた鈴がカラカラとなり、続いてエプロンをつけた、女給が恭しく頭を下げた。
店内には外国の曲が静かに流れ、まるで別の世界に来たのかと思うほどだ。
「わたくしは紅茶に檸檬を添えていただけますか?」
千里:
「では、わたくしはミルクティーを」
「お菓子は何がおすすめでございましょうか?」
女給は持っていた絵を見せながら、紅茶にはショート・ケーキが、カステラはあっさりとした甘さで食べやすく、甘すぎるものが苦手な人にもおすすめだと話した。
綾乃:
「…では、わたくしはカステラを」
千里:
「ではわたくしも同じものを」
綾乃:
「…少し意外でしたわ。千里はショート・ケーキを選ぶと思いましたのに」
千里:
女給がその場を離れてから、お姉様は口を開いた。
「いえ、あの…、甘すぎるものは少し苦手でして…」
綾乃:
「あら、そうでしたの?」
「ふふ、お砂糖はふたつなのにね」
千里:
「お姉様…!」
ほどなくして女給がカップふたつとティーポット、ミルクと檸檬、カステラふたつを持ってきた。
お姉様は女給に感謝を伝え、こちらを向き直った。
「お姉様、先ほど買った櫛を出していただいてもよろしいでしょうか」
綾乃:
「櫛を?」
千里:
お姉様が懐から櫛の箱を取り出してカップの隣に置く。
机の上に並べられた今日の痕跡を、私は写真機で切り取った。
綾乃:
「最後の1枚、こんなものでよかったの?」
千里:
「はい、とても良いものが写せました。わたくしにとっては赤富士の景色よりも
、今日のひとつひとつの方が、美しく輝いて見えるのです」
綾乃:
「ならいいのだけれど」
「ではいただきましょう」
千里:
「はい」
そう言うとお姉様は飴色の紅茶に檸檬を浮かべる。併せて私も角砂糖とミルクを溶かした。
紅茶を口にすると、柔らかなぬくもりが身体に染み入ってくるのを感じた。
綾乃:
「こうして外で飲む紅茶も、たまには良いですね」
千里:
「はい。…ですが、お姉様が入れてくれた紅茶の方が、より美味しく感じます」
綾乃:
「あら…」
「それはきっと、お砂糖がふたつだったからね」
千里:
「もう…。そんなことはありません…」
綾乃:
「ふふ」
※※※
綾乃:
カフェーで一時ほどお互いの事を語らい、商店街をぶらりと歩いてみれば、写真屋は書店のすぐ向かいだった。
千里に、写真のことはわからないので、書店で待っているとを伝え、一人見て回る。
店内を歩いていると、紺色の背表紙が目に留まった――
欧羅巴花暦。
棚から抜き出し頁を捲る。その本には冬から始まり、季節ごとの花の絵と、花言葉が添えられていた。
雪を抱く雪起こし。透き通るような白の花弁が白銀の光を含んで、背景の群青に浮かんでいる。花言葉は慰め、追憶。
頁を捲ると今度はふたつの花が見開きで描かれている。
淡紅の牡丹一華――幸福な愛、素晴らしい友情。白妙映える待雪草――希望。
ただの紙であるはずなのに、その輪郭ははっきりと浮き出し、その花弁は確かに春の気配を纏っていた。
次の頁を捲ったところで、千里の声が聞こえた。
千里:
「お姉様」
綾乃:
「あら、早かったのね。もう写真になったのですか?」
千里:
「いえ、むしろ他のお客様もおり、早くても明後日になるとのことでしたので、事情を伝え、学園に郵送していただくように手配をいたしました」
「それより…、何をご覧に?」
綾乃:
「花の絵よ。ひとつずつ花言葉が記されているの」
千里:
お姉様が見せてくださった見開きには、白詰草と、麝香豌豆が左右にそれぞれ一輪ずつ描かれていた。
それぞれの花言葉は、私を思って、幸運。それと門出、優しい思い出。
「絵がお好きなのですか?」
綾乃:
「…ええ。見て楽しむだけですけれど」
千里:
「どうしてですか?」
綾乃:
「え?」
千里:
「どうしてご自身ではお描きにならないのですか?」
綾乃:
「…どうしてって……、絵は花嫁稽古に必要ありませんもの」
千里:
「……」
「描きたいとは思わないのですか?」
綾乃:
「道具も、…習う時間も宛もございません」
「それに、道具一式を揃えようとすると、結構なお金でしょう?」
千里:
「では、わたくしのをお使いください」
「実家に筆も絵の具も、硝子皿も、一揃いございます」
「荷物になるからとほとんどは置いてきましたが、4年も家を開けては、その間に筆は傷み、絵の具も乾いてしまいます。無駄にしてしまうより、お姉様に使っていただきたいのです」
綾乃:
「だめよ。わたくしのように絵のいろはも知らない者が、他所のお道具を使うなんて」
千里:
「有馬で絵を描くのはわたくしだけでございます」
「今ある道具を使い切らねば、道具に失礼だと先ほど教えていただきました」
「それに、わたくしはお姉様の目に映る世界を知りたいのです」
綾乃:
「千里の気持ちは嬉しいのだけれど…」
「…少し、考えさせて」
千里:
「あっ…!申し訳ありません、また自分の申したいことだけを申してしまいました」
綾乃:
「いえ、そのあなたの真っ直ぐなところ、とても好ましく思っています」
千里:
「ありがとう…ございます」
※※※
千里:
拝復
古賀綾乃さま
先日、主人の所用で出向いた道すがら、足元に白詰草がちらほらと顔を出しており、思わず足を止めました。そう言えば、もう春も深くなったのだと、懐かしい季節の訪れを感じた次第でございます。
ちょうどその折、お姉様から頂いた白詰草の絵が届きました。封を切った途端、あの頃二人で過ごした中庭の匂いまでがふわりと蘇ったようで、胸の奥が温かくなりました。白と緑の取り合わせの中に、そっと差し込まれた柔らかな陽の色が、お姉様らしい優しさを映しているようでございます。机に立てかけて眺めるたび、あの静かな午後と、お姉様の微笑みが共に甦り、心が和らぎます。
このたびのご婚約、心よりお慶び申し上げます。お姉様が新しい暮らしへと歩み出されると知り、胸の奥で静かな喜びが波のように広がりました。ですが、その波間にぽっかりと空いた小さな空白も、また感じずにはおれません。時間が逆戻りし、再び学園でお姉様と共に過ごしていたあの穏やかな日々に戻れたらと、何度も願ってしまうのです。
殊に、お姉様が退寮される前夜、同じ寝具に寄り添い、知らぬ間に眠りに落ちたあのぬくもりは今も色鮮やかに心に残っております。あれほど安らかで満たされた時間は、それ以降、なかなか訪れることがありません。もしも戻れるのなら、もう一度あの夜のぬくもりを感じたいと、胸が締め付けられる想いでございます。
新しいお家のしきたりや暮らし方を覚えるのは、初めはきっと大変なことでしょう。ですが、お姉様の優しさと芯の強さがあれば、必ずやその場を柔らかく包み、和やかな空気を紡いでいかれると信じております。
私事で恐縮ですが、月のものが止まり、どうやら三度目の命を授かっているようでございます。まだはっきりとはわかりませんが、もしそうであれば、次こそは男児であってほしいと主人や家族と話しております。
二人の娘たちは元気に日々を過ごしておりますが、その分だけ心身ともに慌ただしく、写真機や筆を手にする暇もなかなかなくなりました。
どうかお姉様はお変わりなく、ご自分らしい日々をお送りくださいませ。落ち着かれましたら、新しい暮らしのご様子をぜひお聞かせください。どんな些細なことでも、わたくしには嬉しい便りとなることでしょう。
季節の変わり目です。どうぞご自愛なさってくださいませ。遠くより、変わらぬ愛とともに、お姉様の幸せをいつもお祈り申し上げております。
かしこ
九條千里
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