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第九話 天龍トキ
しおりを挟むナジャ湖はガルムの南に縦長く伸びる湖だ。
湖はプーアル山脈の麓まであり、湖を挟んで西側と北側を隔てている。
魔法城スタームは、プーアル山脈麓の湖上に位置しているため西か北か、どちら側かを湖に沿って南へと向かわなければならない。
しかし、西側と北側では出現する魔物のランクが変わってくるため、今回は速度重視で西側の比較的魔物ランクが低い方から攻める。
「クオオオオオン!!!」
「はあっ!!」
「(推して参る!なの!)」
湖の湖畔を全速力で走り抜けるグリードとセバス。
ガルムを出発してから5時間。途中休憩を挟みながらも、進路上にいる頭に花が咲いたワニ型の魔物やムキムキの手足がある魚を尽く蹴散らしながら彼らは爆進していた。
ちなみにライムはグリードの背中に張り付いている。防御担当で結果的に腕から背中に落ち着いた。
背中に美少女が貼り付いている(スライムフォルムだが)……羨ましいっ!!
「??セバス。ちょっと止まってくれ。」
「どうしましたか?」
ちょうどでかいアメンボのようや昆虫型の魔物を倒したところで、グリードが鼻をひくつかせながら止まった。
「森の中から人間の血の匂いがする。それと……結構な量の魔物の匂いだ。」
グリードの目が爛々と怪しい輝きを放ち始める。
しかし、人の血ということは、誰かが森の中で襲われているということになる。
「加勢に行きましょう。この世界に来た以上見捨てることはできません。」
「(二人が行くなら付いてくの。)」
「ハハハ!んなこと言うまでもない!先行くぞ!!」
グリードが掻き消えるほどのスピードで走り出す。
「!早いですな!!」
「(引っ付いとくのも大変なの!)」
「ハハハハハハッ!!」
完全に戦闘モードに入ったグリード。
今までの5時間は戦闘も多々あったが、どうやらもの足りなかったようだ。
「人狼だ!!!」
「なに!?新手か!?」
「クソ!!おい!体制を立て直せ!!」
五分ほど走ると、グリードを見て騒ぎだす騎士っぽい人達と、昔話に出てくるような日本風の籠を見つけた。
それを数多の魔物が取り囲んでいる。
ロックボア、トレント、フォレストスパイダーetc。
中にはシルバークラスの魔物も数体いるようだ。
と、そこまで視認したところで、グリードが魔物の群れに飛び込んだ。
ライムは飛び込む寸前で離れてヒューマンフォルムに戻っている。
「【餓狼憑依】!クオオオオン!!グリード・スティール加勢する!!」
「あの人狼喋った!?」
「魔物が魔物を倒してるのか!?」
「セバス・チャン爺ちゃん助太刀致します!あの人狼は私の仲間でございます!」
「ジ・アース・ライムなの。安心するの。敵じゃないの。」
「グリードさん!シルバークラスを頼みます!私はそれ以外の有象無象を片付けます故!!【エネミーディレクション】」
「了解だ!!」
「ライムは補助に回るの。怪我してる騎士さんいたらこっちに寄越してなの。【バリアフォースボディ】」
グリードは身体能力強化系の戦技を使い参戦する。
ライムが使ったのは自身の体を分けて、球体状に広げ、一定の攻撃を吸収する戦技だ。無色透明の風船のようなものだが、シルバークラスの攻撃であるなら無効化できるほど頑丈だ。
「あ、ああ!なんだか良くわからんが助かる!」
「おい!今のうちに体制立て直せ!怪我人も集めろ!」
グリードはシルバークラスのグレーターオーガやパラサイトモンキー等を相手にしている。
こちらはその他を片付けよう。
「行きますぞ!!」
そこからは騎士たちがいる場所を中心に、森の中に円を書くように走り、魔物を(物理)で倒していく。
トンファーには、先日銀行から取り出したゴルゴンチタニウム製の刃が取り付けられ、時には殴打し、時には相手を切り刻んでいく。
その名の通り岩に似たロックボアの頸動脈を裂くつもりが、加減を間違えて頭が飛び、トレントの弱点である人面瘡を叩き殴ると粉砕して粉々になった。フォレストスパイダーなんかは頭に刃を突き立てると爆散した。
明らかにオーバーキルであるが、まだエンチャント時の力加減が図りきれていない弊害だろう。
「す、凄いな。」
「ああ。物量が多すぎて持ち堪えるので精一杯だったのに……」
「い、生き残れる!」
「当たり前なの。この場には闘技大会の3位と6位、13位がいるの。負けるはずないの。」
「うおおお!!良かった!姫様!!無事に帰れそうですよ!!」
「……なの?なんだか嫌な単語が聞こえた気がするの。」
騎士達がセバスとグリードを見ながら畏敬の目を向け始めた頃、この当たりにいる最後の魔物を倒し終わった。
グリードがシルバークラスを早々と片付け、暴れ回っていたのもあって随分と早く片付いた。
「ふう。数はなかなかのものでしたな。」
「まだまだやれる。」
「やれるとやりたいは違うのですよ?【クリーン】」
「まだ物足りないのは事実だ。」
「お疲れ様なの2人とも。取り敢えずこっち来てなの。」
バリアドームが解除された空間へと近づく。
グリードは一応ヒューマンフォルムになっている。騎士達からは安堵のため息が聞こえたため、フォルムチェンジして正解だろう。
「ふむ。怪我人もポーションで何とかなったようですな。ライムさん、ポーション類を渡しておきましょうか?」
「在庫はまだ全然大丈夫なの。それより2人とも聞いてなの。」
「なんだ、さっきから。何を焦ってる。」
「あのね。凄い人助けたの。」
「凄い人、ですかな?」
「それはわらわから説明させていただこう。」
騎士達が取り囲んでいた籠から、上品な声が響く。
明らかに品のいい籠に、多数の護衛という所である程度の立場にある人間が乗っているだろうと思っていたが…わらわて。
「ひ、姫様!いけません!天龍家の方が話すなどと!!」
「はしたない等と言うでないぞ龍騎士マハドよ。わらわ達を助けてくれた命の恩人に直接礼を払わずして何が天龍家か。下がりなさい。」
騎士たちは声の発せられた籠に向かい一斉に跪いている。
こちらもそうしなければならないのか一瞬悩んだが、答えが出る前に籠のスダレが巻き上げられた。
中から出てきたのは、着物を花魁のように気崩した妖艶な女性であった。色っぽい美人なチャンネーでキリッした顔立ち。~でありんすとか言いそう。
ムホホ!しかし注目すべきはそのすたいるですな!出るところは出てなんとも見目麗しい!うなじも色っぽいですなー!!フェロモンモン!!ですぞ!!ウホホポポポポ!!
「わらわはジパング天龍家当主。天龍風が第1子、天龍時でございます。この度は苦しいところをお助けいただき、誠にありがとうございます。」
そう言うと、しゃなりと頭を下げる天龍・トキ。
頭を下げることによって、花魁のような際どい胸元がより際どくなる。なんだか人を魅了するような香水でも使っている気がする。
いいえ、気のせいではありますマイ。何故ならば!私が!その!谷間から目が離せないのですから!!
今すぐルパンダイブしたいですな!!ふっじっこっちゃあ~ん!!
「(……おい、セバス。これは臨時クエストの匂いだ。)」
「(とんでもない谷間!あ、ホホホ!これは失礼。とんでもない相手ですぞ!恐らくジパング唯一の姫君です!)」
「(セバスちゃまやっぱりえっちい事考えてたの。マントラでこの臨時クエスト受けたなら有名人になれるの。だけど今は正直構ってる暇ないの。)」
「(ですな。しかし無下にするとこの世界ではどうなるか分かりませんぞ!)」
「皆様。宜しければ此度の事、ご縁と思って少し話を聞いてはいただけないでしょうか?」
困った。
今はいち早くスタームに向かいたい。
しかし、ここで姫君を無視すれば不敬だとして死罪も有り得るかもしれない。
取り敢えず話を聞いておこうか。
「分かりました。天龍・時姫様。お話を聞かせていただいても宜しいでしょうか?」
「!ああ、ありがとうございます!」
そう言うと騎士達の静止も振り払いセバスの手をとる姫様。
ん?なんだか危険なフラグが建てられてる音がするぞ?
そのまま手を握りながら姫様は話し始める。
「わらわ達はジパングで罠にはめられました。一時間程前でございます。登龍祭と言う祭りのためにわらわ達は龍の都から朱雀の都に向かっておりました。するとその道中、強制的にここへ転移させられたのです。あれほど大きな転移魔法陣は見たことがありません。おそらく天龍家の転覆を目論む輩の仕業。もしそうであればわらわはどうやっても都へ帰らねばなりません。どうか、助けてはいただけないでしょうか!」
「ふむ。」
これはあれだな。護衛系のクエストと似ている。
おそらく姫様を守りつつその都まで送り届けるとクエストは完了となる。
が、しかし今はそんな時間が無い。
どうする。
悩んでいると、グリードが前へ出た。
「姫様。礼儀も無い無作法で失礼するが、俺たちは今魔法城スタームに向かっている。そこに仲間がいるかもしれないんでな。だから姫様たちをジパングまで送り届けるのは良いが先にスタームを攻略させてほしい。野営地なんかは準備できる。」
「ですな。姫様を野営させるなどとは本来あってはならない事なのでしょう。ですが、私にとってスタームにいるかもしれない仲間は私の命と同等のような存在なのです。」
グリードの話に乗っかる形になったが、これは一種の賭けであった。
姫様が野営など出来ないというのであればグリードとライムにスタームの手前で待ってもらい、セバスの飛行魔法を使って最速でガルムへ送り届ける。しかしこれは悪手だ。片道2時間はかかるため、行き帰りで4時間は二人と別行動になる。それにMPがそこを尽きるギリギリになってしまう。
攻略どころじゃなくなってくるのだ。
「それなら!野営などわらわは慣れています!むしろ好きです!ジパングにはきゃんぷという文化がありまして、外で野営することを趣味とするものも多いのですよ!わらわも好きでよくきゃんぷしますが、一日や二日など軽いものです!」
セバスが1人で悩んでいると、予想外の返答が来た。
なんと姫様キャンプするんですか。そして腕をブンブンふらないでいただきたい。
腕を降る度に悩ましい谷間の果実がプルンプルンと、私を!誘ってくるのです!!ぬおおお!やめるのです私!!ここで手を出しては変態紳士の名折れ!!あくまでも鑑賞するのです!!REC開始!!
周りにいる騎士達もきゃんぷだきゃんぷ!と嬉しそうに話しながらアイテムボックスの中身を確認している。
なんだこれ。さっきまでのシリアスな空気どこいった。
「思ってたより全然アグレッシブな姫様だったの。」
「アグレッシブってよりアウトドア姫だな。」
妖艶な姿に似合わない可愛い笑顔の姫君は、結局スタームまでついてくる事になった。
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