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松ヶ崎稲草

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アルバイトの帰り道、夜空を見上げる

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和彦が自然食品店でアルバイトを始めて三週間ほどが過ぎた。

 帰り道、夜空を見上げた。民家と民家のすき間から、覗き見る感じだ。
 回りの明る過ぎる街灯にじゃまされ、よくは見えない。
 空を見上げること自体、ずいぶん久しぶりなことに気付く。多分、日本へ帰って来てからは初めてだ。

 旅行中、和彦はいつも空を見上げていた。
 空がもっと広かったし、近かった。
 街灯が少なく、街全体が暗いので、夜空もよく見えた。空と簡単に一体化できる気がした。
 日本では空が遠く、空の存在が感じられない。
 久しぶりに空を見上げる気になったのは、今日、さつまいもの袋詰めをしていたら、主婦のパートさんから、突然、
「さつまいもばっかり詰めてんと、もっと他のことしましょ!」
と言われたことが尾を引いていたからだ。
 確かに、さつまいもはそんなに売れる物ではないだろうし、ある程度詰めたらやめるつもりだった。ただ闇雲に詰めている、と思われていたようだ。

 どうも、他の人との接点が取りにくい。声も、小さくなる。
 旅行中は、声が小さい、とは言われなかったし、英語を話す時は、外国語であるがゆえに、伝わることを心掛けて喋るので、自然と声も出ていたように思う。

 職場で、和彦がしてきた旅について興味を持って尋ねてくるのは年配の溝口さんだけで、他のパートさんなどは、何も聞いてこないし、和彦も、パートさん達に旅の話などしても伝わらないだろう、と何も言わない。
 和彦の方も、パートさん達が盛り上がっている家庭の話や子供の話はよく分からないし入って行けず、黙々と野菜を詰めている。
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