19 / 21
9-2
山形へ五十万円の家を見に行く
しおりを挟む
涼しくなるとともに、店の野菜の顔ぶれも変わってきた。
露地の葉物野菜は端境期だが、信州の農家からレタスやキャベツ、ブロッコリー、大根、白菜などを取り寄せている。
店長は、和彦に気安く話し掛けてくるようになっていた。
溝口さんは、体調を崩しがちでよく休むようになった。
青山君は日配品担当と兼任になり、午後からの野菜の作業場と売り場では和彦が一人でフル回転する時間が長くなった。
店頭に、リンゴが連日並んだ。
九月につがるが出ると、続いて、紅玉。さらにジョナゴールド、ふじ、とリンゴの季節が始まる。
リンゴは医者いらず、と言われる。
店で扱う無農薬や減農薬のリンゴは味が濃くおいしく、夏にスイカやきゅうりを食べて感じたのと同じ、おいしさと同時に、食べることで身体が良くなり元気になるのが直感的に分かる味だった。
郵政外務員試験の結果は九月下旬に届き、やはり不合格だった。
和彦は宝ヶ池に漫画喫茶があるのを夏頃に見付け、木曜の定休日などに行っては、何時間も入り浸った。
自分のパソコンを持っていないので、勢い、そうなる。
ある日、漫画喫茶でネットサーフィンしていると、字がびっしりと並び、写真が少し入った農家のホームページを見付けた。
山形県庄内地方で、五十万円で家が買える。地域の農業への参入を歓迎している現地の農家の人が居て、ある程度、農業で生活していけるように指導してくれるとのことで、若い移住者も何人か居る、とのことだ。
和彦は、暗闇の中に光を見つけたような感覚になった。
早速、メールで連絡を取ることにした。
自己紹介、自分の経歴をありのままに記し、なぜ農業をやりたいと思うか、も率直に書き、長文メールとなった。
水曜日の深夜〇時に京都駅を出発し、日本海側を行く列車に乗り、早朝、新潟の新津で乗り換える。さらに、ローカル線に乗り換える。
日本へ帰って来てからは、初めての遠出だ。
ずいぶんと、寂しい所へ来た感じがした。
車窓から見える、日本の中央部特有の切り立った山々の感じに、圧倒される。
駅前まで迎えに来てくれたホームページの主である山中さんは、農業を志す人達に農地や家の斡旋をしている。
山中さんの車に乗せてもらい、五十万円の家を見せてもらった。
通っていない水道を引いたり家の補修をするのに、実際にはもう少し費用が掛かるらしい。
集落に家は八軒、家から家までの距離が相当ある。集落の区長に会い、話を聴くと、冬には雪が三メートル積もるそうだ。
別の集落にも貸家があり、家賃五千円で農業指導を受け、アルバイトをしながら生活ができる、地域の仕事も手伝いながら、徐々に農業で生活していけるようにする、農業者として登録するには五反の農地を取得しなくてはいけないが、登録しなくても良い、みんな少しの土地でやっていて、若い人も入って来ている…、との話を山中さんは熱心にする。
少し手伝ってほしい、と山中さんに言われ、メロンのビニールハウスの撤収作業をしながら、突然、山中さんはアメリカ大統領選挙の話題を振ってくる。
「どっちが当選すると思いますか?」
今、開票中で、ブッシュ候補とゴア候補が大接戦を演じている、との新聞の見出しを今朝、新津駅で見たばかりだ。
和彦はゴア候補の著書「不都合な真実」をこの夏読み、大いに共感していた。
ゴア候補が勝てばアメリカも京都議定書の枠組みに参加するのは間違いなく、地球環境問題で世界をリードする可能性が高い。山中さんも、ゴア氏の勝利を願っていた。
「勝ってくれたら良いんですけどね。でも、最終的には、ズルでも何でもして、ブッシュが勝ちそうな気がする」
何か、諦めたように山中さんは言う。
夜は、山中さん宅にお邪魔し、奥さんに豚汁を作ってもらった。味が濃く、寒い庄内によく合う料理だ、と思った。
露地の葉物野菜は端境期だが、信州の農家からレタスやキャベツ、ブロッコリー、大根、白菜などを取り寄せている。
店長は、和彦に気安く話し掛けてくるようになっていた。
溝口さんは、体調を崩しがちでよく休むようになった。
青山君は日配品担当と兼任になり、午後からの野菜の作業場と売り場では和彦が一人でフル回転する時間が長くなった。
店頭に、リンゴが連日並んだ。
九月につがるが出ると、続いて、紅玉。さらにジョナゴールド、ふじ、とリンゴの季節が始まる。
リンゴは医者いらず、と言われる。
店で扱う無農薬や減農薬のリンゴは味が濃くおいしく、夏にスイカやきゅうりを食べて感じたのと同じ、おいしさと同時に、食べることで身体が良くなり元気になるのが直感的に分かる味だった。
郵政外務員試験の結果は九月下旬に届き、やはり不合格だった。
和彦は宝ヶ池に漫画喫茶があるのを夏頃に見付け、木曜の定休日などに行っては、何時間も入り浸った。
自分のパソコンを持っていないので、勢い、そうなる。
ある日、漫画喫茶でネットサーフィンしていると、字がびっしりと並び、写真が少し入った農家のホームページを見付けた。
山形県庄内地方で、五十万円で家が買える。地域の農業への参入を歓迎している現地の農家の人が居て、ある程度、農業で生活していけるように指導してくれるとのことで、若い移住者も何人か居る、とのことだ。
和彦は、暗闇の中に光を見つけたような感覚になった。
早速、メールで連絡を取ることにした。
自己紹介、自分の経歴をありのままに記し、なぜ農業をやりたいと思うか、も率直に書き、長文メールとなった。
水曜日の深夜〇時に京都駅を出発し、日本海側を行く列車に乗り、早朝、新潟の新津で乗り換える。さらに、ローカル線に乗り換える。
日本へ帰って来てからは、初めての遠出だ。
ずいぶんと、寂しい所へ来た感じがした。
車窓から見える、日本の中央部特有の切り立った山々の感じに、圧倒される。
駅前まで迎えに来てくれたホームページの主である山中さんは、農業を志す人達に農地や家の斡旋をしている。
山中さんの車に乗せてもらい、五十万円の家を見せてもらった。
通っていない水道を引いたり家の補修をするのに、実際にはもう少し費用が掛かるらしい。
集落に家は八軒、家から家までの距離が相当ある。集落の区長に会い、話を聴くと、冬には雪が三メートル積もるそうだ。
別の集落にも貸家があり、家賃五千円で農業指導を受け、アルバイトをしながら生活ができる、地域の仕事も手伝いながら、徐々に農業で生活していけるようにする、農業者として登録するには五反の農地を取得しなくてはいけないが、登録しなくても良い、みんな少しの土地でやっていて、若い人も入って来ている…、との話を山中さんは熱心にする。
少し手伝ってほしい、と山中さんに言われ、メロンのビニールハウスの撤収作業をしながら、突然、山中さんはアメリカ大統領選挙の話題を振ってくる。
「どっちが当選すると思いますか?」
今、開票中で、ブッシュ候補とゴア候補が大接戦を演じている、との新聞の見出しを今朝、新津駅で見たばかりだ。
和彦はゴア候補の著書「不都合な真実」をこの夏読み、大いに共感していた。
ゴア候補が勝てばアメリカも京都議定書の枠組みに参加するのは間違いなく、地球環境問題で世界をリードする可能性が高い。山中さんも、ゴア氏の勝利を願っていた。
「勝ってくれたら良いんですけどね。でも、最終的には、ズルでも何でもして、ブッシュが勝ちそうな気がする」
何か、諦めたように山中さんは言う。
夜は、山中さん宅にお邪魔し、奥さんに豚汁を作ってもらった。味が濃く、寒い庄内によく合う料理だ、と思った。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
麗しき未亡人
石田空
現代文学
地方都市の市議の秘書の仕事は慌ただしい。市議の秘書を務めている康隆は、市民の冠婚葬祭をチェックしてはいつも市議代行として出かけている。
そんな中、葬式に参加していて光恵と毎回出会うことに気付く……。
他サイトにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる