森の中の憩いの場〜薬屋食堂へようこそ〜

斗成

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森の楽園

第34話 季節の変わり目の夜

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 季節の変わり目。森の空気はどこか気まぐれで、昼間は夏の残り香を漂わせながらも、夜になると秋の涼しさを顔を出す。そんな特別な夜、アルトの薬屋食堂には、森の住人たちが続々と集まっていた。

 エルフの長老たちは、静かにハーブティーをすすりながら、穏やかな表情で語り合っている。妖精たちは、キラキラと輝く羽を震わせ、楽しげに飛び回り、テーブルに置かれた花に止まっては、蜜を吸っている。
 精霊たちは、普段は姿を見せないが、今夜は特別。暖炉の火の中に宿り、パチパチと音を立てながら、柔らかな光を放っている。ドワーフたちは、自慢のヒゲを撫でながら、持ち込んだ自家製のワインを飲み比べ、その芳醇な香りに酔いしれている。
 ゴブリンやオークたちは、普段は少しばかり粗暴だが、今夜は大人しく、アルトの料理が運ばれてくるのを今か今かと待ち構えている。オーガに至っては、普段の威圧感はどこへやら、子供のように目を輝かせ、大きな体を持て余し気味に座っていた。

「今夜は、どんな料理を作りましょうか」

 アルトは、いつものように静かな口調で、皆に問いかけた。その言葉に呼応するように、様々なリクエストが飛び交う。

「アルト、今夜は特別な夜だ。ぜひ、お前の自慢の肉料理を振る舞ってくれ!」

 オークの一人が、大きな声で叫んだ。

「そうね、アルト。私は、あなたの作るキノコのスープが大好きよ。ぜひ、お願いできないかしら?」

 エルフの女性が、優雅な微笑みを浮かべて言った。

「アルト様、わたくしは、あなたのハーブを使ったサラダがいただきたいです。その爽やかな香りが、心身を癒してくれるのです」

 精霊の声が、暖炉の中から響いた。

 アルトは、皆のリクエストに耳を傾けながら、静かに頷いた。

「わかりました。それでは、今夜は皆さんのために、特別な料理をご用意しましょう」

 アルトは、そう言うと、厨房へと向かった。

 今日のメニューは、森で採れた新鮮な食材をふんだんに使った、秋の味覚満載の特別コースだ。メインディッシュは、オークのリクエストに応え、じっくりと焼き上げた魔獣の肉。ハーブとスパイスをふんだんに使い、肉の旨味を最大限に引き出した一品だ。エルフのために、数種類のキノコを丁寧に煮込んだ、滋味深いスープも用意した。精霊のために、色とりどりのハーブを散りばめた、見た目も華やかなサラダも忘れてはいない。

 料理が運ばれてくる度に、歓声が上がる。皆、アルトの料理に舌鼓を打ち、至福の表情を浮かべていた。

「アルト、お前の料理は、本当に最高だな! この肉の旨味、たまらないぜ!」

 オークは、大きな口で肉を頬張りながら、満足そうに言った。

「ええ、アルト。あなたのスープは、心まで温まりますわ。本当に、素晴らしい才能をお持ちですわね」

 エルフの女性は、スープを一口飲むごとに、うっとりと目を閉じた。

「アルト様、あなたのサラダは、わたくしの魂を浄化してくれるようです。感謝いたします」

 精霊の声が、暖炉の中から聞こえた。

 皆、美味しい料理に舌鼓を打ちながら、思い思いの時間を過ごしていた。エルフたちは、古代の魔法について語り合い、ドワーフたちは、鍛冶の技術について熱く議論を交わし、ゴブリンやオークたちは、他愛もない冗談を言い合って笑い転げている。

 アルトは、そんな光景を眺めながら、静かに微笑んだ。

「この場所を作って、本当に良かった」

 ふと、ラピスがアルトに話しかけた。

「アルト、お前は本当にすごいな。これだけの種族を、分け隔てなくもてなすことができるとは」

「別に、特別なことは何もしていませんよ。ただ、皆さんが喜んでくれる料理を作っているだけです」

 アルトは、そう答えた。

「それでもだ。お前の料理には、何か特別な力があるのだろう。そうでなければ、これだけの連中が、お前に心を開くはずがない」

 ラピスは、そう言うと、ニヤリと笑った。

 夜は更け、宴もたけなわとなった頃、アルトは、皆に特別なプレゼントを用意していた。

「皆さんに、感謝の気持ちを込めて、私が作った特別なハーブティーをプレゼントします」

 アルトは、そう言うと、一人ひとりに、丁寧にハーブティーを配っていった。

「これは、私がこの森で採れたハーブをブレンドして作った、特別なハーブティーです。心身を癒し、安眠を促す効果があります。今夜は、ゆっくりと休んで、明日からの活力にしてください」

 皆、アルトからのプレゼントに、大喜びした。

「アルト、ありがとう! お前のハーブティーは、本当に最高だ!」

 オークは、大きな声で感謝を述べた。

「ええ、アルト。あなたの優しさに、心から感謝いたしますわ」

 エルフの女性は、優雅な微笑みを浮かべて言った。

「アルト様、あなたの贈り物は、わたくしの宝物です。大切にいたします」

 精霊の声が、暖炉の中から聞こえた。

 季節の変わり目の夜は、こうして、幕を閉じた。

 森の住人たちは、アルトの温かいもてなしに心を満たされ、それぞれの家へと帰っていく。

 アルトは、静かになった薬屋食堂で、一人、ハーブティーをすすりながら、今日の出来事を振り返っていた。

「また、明日から、どんな日々が始まるのだろうか」

 アルトは、そう呟くと、窓の外に広がる森を見つめた。

 月の光が、森を優しく照らし出す。
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