森の中の憩いの場〜薬屋食堂へようこそ〜

森の楽園

第35話 畑の収穫祭

　秋晴れの空が広がる日、アルトの薬屋の隣にある畑では、収穫祭が催されていた。

　今年の夏は雨が少なく、作物の生育が心配されたが、アルトが丹精込めて育てた野菜たちは、見事に実り、豊かな収穫を迎えることができた。

　畑には、色とりどりの野菜が所狭しと並べられ、その周りには、森の住人たちが集まり、賑やかな雰囲気に包まれていた。

　エルフたちは、収穫されたばかりの野菜を手に取り、その色や形、香りを確かめながら、品評会を開いている。ドワーフたちは、自慢の鍛冶技術を活かし、収穫祭のために作った特別な調理器具を披露し合っている。
　ゴブリンやオークたちは、収穫された野菜を使った料理を、我先にと味見し、その美味しさに舌鼓を打っている。オーガは、大きな体で畑を駆け回り、子供たちと一緒になって、収穫ゲームを楽しんでいた。

　アルトは、そんな光景を眺めながら、満足そうに微笑んでいた。「今年は、本当に良い収穫でした。皆さんに、喜んでもらえて、私も嬉しいです」

　そこへ、ラピスがひょっこりと顔を出した。「アルト、収穫祭、盛り上がってるな。お前の育てた野菜、本当に美味そうだ」

「ええ、おかげさまで。ラピスさんも、ぜひ、食べていってください」アルトは、そう言うと、ラピスに、採れたての野菜をいくつか手渡した。

「遠慮なく、いただくとするか」ラピスは、そう言うと、野菜を手に取り、美味しそうに頬張った。「なるほどな。確かに、これは美味い。お前は、本当に何でもできるんだな」

　アルトは、少し照れ臭そうに笑った。「そんなことはありませんよ。ただ、植物が好きで、育てているだけです」

「まあ、いいさ。それより、今日は、お前の料理を楽しみに来たんだ。腕によりをかけて、美味しい料理を振る舞ってくれよ」ラピスは、そう言うと、ニヤリと笑った。

「承知いたしました。それでは、皆さんのために、腕によりをかけて、美味しい料理をご用意しましょう」アルトは、そう言うと、厨房へと向かった。

　今日のメニューは、収穫されたばかりの新鮮な野菜をふんだんに使った、特別料理だ。

　まずは、色とりどりの野菜を、ハーブとスパイスで和えた、彩り豊かなサラダ。新鮮な野菜のシャキシャキとした食感と、ハーブの爽やかな香りが、食欲をそそる一品だ。

　次に、じっくりと煮込んだ野菜のポタージュ。野菜の甘みと旨味が凝縮された、優しい味わいのスープだ。

　そして、メインディッシュは、アルト特製の野菜のミートローフ。ひき肉の中に、細かく刻んだ野菜を混ぜ込み、オーブンでじっくりと焼き上げた、ボリューム満点の一品だ。

　料理が運ばれてくる度に、歓声が上がる。皆、アルトの料理に舌鼓を打ち、至福の表情を浮かべていた。

「アルト、お前の料理は、本当に最高だな！　このミートローフ、野菜の旨味が凝縮されてて、たまらないぜ！」
オークは、大きな口でミートローフを頬張りながら、満足そうに言った。

「ええ、アルト。あなたのスープは、心まで温まりますわ。本当に、素晴らしい才能をお持ちですわね」
エルフの女性は、スープを一口飲むごとに、うっとりと目を閉じた。

「アルト様、あなたのサラダは、わたくしの魂を浄化してくれるようです。感謝いたします」精霊の声が、暖炉の中から聞こえた。

　そして、収穫祭には、もう一つの特別なイベントがあった。それは、アルトが飼っている牛から搾ったミルクを使った、ミルクティーの振る舞いだ。

　アルトは、丁寧にミルクを温め、そこに、自家製のハーブティーを注ぎ込んだ。ミルクの甘さと、ハーブの香りが、絶妙に調和した、特別なミルクティーだ。

「皆さんに、感謝の気持ちを込めて、私が作った特別なミルクティーをプレゼントします」アルトは、そう言うと、一人ひとりに、丁寧にミルクティーを配っていった。

「これは、私が育てた牛から搾ったミルクと、自家製のハーブティーをブレンドして作った、特別なミルクティーです。心身を癒し、安らかな気持ちになれると思います。ぜひ、味わってみてください」

　皆、アルトからのプレゼントに、大喜びした。「アルト、ありがとう！　お前のミルクティーは、本当に最高だ！」オークは、大きな声で感謝を述べた。

「ええ、アルト。あなたの優しさに、心から感謝いたしますわ」エルフの女性は、優雅な微笑みを浮かべて言った。

「アルト様、あなたの贈り物は、わたくしの宝物です。大切にいたします」精霊の声が、暖炉の中から聞こえた。

　収穫祭は、こうして、大盛況のうちに幕を閉じた。森の住人たちは、アルトの温かいもてなしに心を満たされ、それぞれの家へと帰っていく。

　アルトは、静かになった畑で、一人、ミルクティーをすすりながら、今日の出来事を振り返りながら、窓の外に広がる森を見つめた。

　秋の夜空には、満月が輝き、森を優しく照らし出していた。