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第18話 「ノゾムを居酒屋へ連れてって!」
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危ない所だった。
いつもナイアを可愛がっている冒険者たちがいて、たまたま携帯食料を分けてもらえなければ、今頃俺とノワールは……
いや、深く考えるのはよそう。
これ以上いけない。
とりあえず、ナイアがもっきゅ、もっきゅと食事している間に、ギルドマスターに依頼を聞く。
「マスター!! 俺たちのランクで受けれる一番良い依頼を頼む!!」
「割と危険だが、そんな装備で大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。問題ない」
「なら、これだな。オオトカゲ一匹の討伐」
「……やっぱり、駄目だったよ。一番安全な依頼を頼む」
「だろうなぁ。……ほれ」
マスターは呆れたように、一枚の依頼書を手渡してきた。
うん。仕方ないね。ゲームと違って死んでから装備を変えることは出来ないんだから。
一応、熟読し、問題がないことを確認して受ける。
依頼を受けるのは、基本的に俺だ。
これは三人で話して決めたことである。
まぁ、俺以外は猫と幼女だし。消去法なのだけれど。
三十分後~
「ねぇねぇ!! どうしてノゾムはいつも変なポーズを取るの?」
「変なポーズじゃない! これは人間賛歌の象徴だ!!」
「ノワール!! ノワール!!」
「近寄らないでください!! あ、こらっ! 力任せに尻尾を握っちゃダメです!!」
「ナイア!! 今日こそは俺たちが勝つぞ!!」
「かかかっ! 何度やろうが無駄なことじゃ。どれ、今日はかくれんぼかの? 鬼ごっこかの?」
子供たちにもみくちゃにされる俺たちの姿があった。
更に数時間後~
「変なポーズー!!」
「くそぅ!! 俺への悪口は良いっ! だが、これへの悪口は許さん!!」
「ほらー!! ノワール!! かわいいっ!! かわいいっ!!」
「いたたたたっ!! 痛いっ! 痛いですっ!! 私の体はそこには曲がりませんから!!」
「くそぉぉぉ!! 来るなっ!! 来るなー!!」
「かかかっ!! 遅いのじゃ!! ほれ、ほれ鬼が来よるぞ!! 逃げろや、逃げろ!!」
そして、夕暮れ。
「ノゾムー? こう?」
「そうだ。……惜しいなぁ。もう少し、手足が長ければ映えるんだが。次にお前はこう言うんだ……」
「ノワール!! ごめんなさい。……もうしないから降りてきてー」
「貴方たちはもっと相手のことを考えるべきです。……自分より大きな相手が力任せに迫ってくるのは本当に怖いんですよ?」
「くそーっ!! なんで勝てないんだっ!!」
「かかかっ!! 年季が違うのじゃ!! 年季がっ!!」
最後に、親御さんたちが迎えに来て、俺たちは子守を達成した。
「ノゾムー!! またねー!!」
「ああ。またなー!! ……見送るときはこうだぞー?」
「ノワール。……また遊んでくれる?」
「今度はしっかりと私の言うことも聞いてくださいね?」
「ナイアーっ!! 次は負けないからなー!!」
「かかかっ!! 妾はいつでも挑戦を受けるのじゃー!!」
戦いは激戦だった。
見送った後で、俺もノワールもぐったりと力が抜ける。
……だが、これでも平和になったのだ。
なにしろ、一番厄介な男の子集団はナイアが一人で請け負っているのだから。
魔王様。自分、尊敬するっス。まじリスペクトっす。
「終わったぞ……ギルドマスター……」
「子供は本当に疲れますね……」
「かかかっ。妾の無敗記録はまだまだ続きそうじゃの」
「……まぁ、お前らが子守してくれるおかげで俺らギルド員も他に仕事出来るから、助かるんだけどよ。お前らはもう少し静かに子守出来ないのか?」
俺はそんなギルドマスターの言葉に、苦笑いで返した。
この一ヶ月。俺らが結構、子守していたからか子供の方が慣れてしまっているのだ。……言葉を選ばずに言えば、舐められている。
俺たちが担当した時にギルドが騒がしくなるのは、もはや恒例行事のようなものだった。
ちなみに子守は地域貢献の一種らしい。
俺たちのような力の無い冒険者への仕事を作るというのもあるが、荒くれ者が集まりやすい冒険者ギルドも町の為に動いてますよ、というアピールでもあるようだった。
まぁ、何だって良いのだ。これは疲れる分、複数の親御さんから依頼料が出る為、そこそこ稼ぎは良いのだから。
俺らは報酬として、ギルドマスターから銀貨を五枚受け取った。
その時、ギルドマスターから声を掛けられた。
「ああ、そうだ。ノゾム、今日、どうだ?」
くいっ、と何かを呑むようなジェスチャーをするギルドマスター。
それはこの一ヶ月で定着した、居酒屋へのお誘いだった。
「良いんですか? 俺たちはその……」
そう。俺たちは万年金欠なのだ。
毎回、奢ってもらっているので若干気が引ける。
「言うな。いつものことじゃねぇか。そもそも嫌なら誘わん」
うーむ。まぁ、向こうが良いって言ってるんだし、奢りなら断る理由もない。
「なら喜んでお付き合いします」
「おおっ! 今日はタダ飯か!! 妾は唐揚げを望むのじゃ!!」
「ナイア……せめてお礼を先に言いましょう」
そうやって、受付で話していると――
「おおっ!! ノゾムたちじゃねぇか。なんだなんだ。おっさん。今日呑むのか? 俺のパーティも明日は休みだから俺も行くぞ!!」
――大剣を背負った男が話しに割り込んできた。
「ちょっとっ!! キリクっ!! まずは依頼終了の受付からでしょ!!」
「全く落ち着きがないな……」
「あははー。まぁまぁ、翌日依頼がある時は遠慮するようになったんだし、良いんじゃないかな。」
更にその後ろでは三名の男女が呆れたように、その男を止めていた。
……っていうか知ってるパーティだった。
「あ、キリクさん。お疲れ様です」
「おぅ! ノゾム!! ……どれノワールも元気か?」
「はい。おかげ様で」
「ほれっ!今日の銀貨だぞー」
キリクさんはそう言って、ノワールに銀貨を渡した。
その瞬間、ノワールの尻尾が高速で動き始めた。
どうやら、キリクさんはノワールのこの反応が好きらしく、あの日以来、偶にこうしてノワールに銀貨を渡してくれるのだった。
前の世界のアイドルに貢ぐファンのようである。
「有難う御座います。本当に。」
そんな銀貨だが、まぁ、尻尾の反応を見てわかる通りノワールも喜んでいるようだった。
ちなみに、この時のノワールの尻尾は掴んだと思ったら、残像だったりする。
まるで質量を持っているように感じるほどだ。
「まったく。キリクはしょうがないわねぇ。」
「まぁ、ここからは自由行動ということでいいだろう。今日の依頼は終わったわけだしな」
「そうだねー。……でみんなはどうするの?私はノゾム君たちと飲むつもりだけど」
「勿論、私も行くわよ。キリクの馬鹿が変なことしないか見張る必要があるだろうし」
「俺も行くぞ。ノゾムたちと呑むのは楽しいからな」
「……お前らは自分で出せよ?」
なんだかんだ、キリクさんのところも全員来るようだった。
ギルドマスターだけは少し、青ざめているようだったが……いや、さすがにこの人数分の奢りは厳しいよな。
「おい! 今日、キリクのとこのパーティが呑みに行くらしいぞ!!」
「なんだって!! じゃあ、あのキレイどころ二人も来るのか?」
「ああ! 他のメンバーはギルマス、お荷物、ノワール、お嬢らしいな」
「ああ、いつもの流れか。……お前はどうする?」
「そりゃあ、行くだろ。面白そうだしな」
「だよな!! よっしゃ!! 今日は飲むぞー!!」
俺たちが受付で話をしていると、次第に周りからそういう声が聞こえてきた。
ぐぬぬ……。今、お荷物って言ったやつ、顔は覚えたからな。
ちなみに、お嬢っていうのはナイアのことである。
そして、今日はいつもの倍の人数が居酒屋に押しかけた。
「うぉぉぉぉ!! 酒だ!! 酒が足りんぞ!!」
「ほら、ギルドマスター新しいお酒ですよ。……あ、キリクさんのはそっちです」
「うおっ。……相変わらず、酒を出すタイミングがやべぇな。サンキュなノゾム」
「いえいえ。お気になさらず。飲み終わったグラス失礼しますねー。……あ、ノノさん。二ムさん。魚にレモンかけといたんで、良かったらどうぞ」
「あ、ちょうどこっち食べ終わったところだったのよ。有難う」
「あははー。やっぱりノゾム君と来ると便利だねぇ」
「ははは。素直に喜んどきます。……オドさん。少し水割り強めときましたんで、ゆっくりどうぞ」
「おう。助かる。……俺も何か手伝うか?」
「いえいえいえいえ。こういうのは下っ端の仕事ですから、俺も呑んでますんで気にしないでください」
「わははっ!! お荷物ー!! こっちにも酒をくれー!!」
「お荷物とか呼ぶ人は知りません!! 店員さんに言ってください!!」
――と言いながらも、俺は酒と後つまみを少し、別のテーブルに持っていく。
……考えても見てほしい。
強面のガタイ良い兄ちゃんの頼みを断れるか?
腕っぷしに自信がない俺には無理だね。
店員さんに食べ終わった食器を渡しながら、注文を頼む。
……いや、ほんと。一度に大量に食器と注文を渡してすみません。
申し訳ないとお辞儀が出るのは、日本人と言う民族性だよな。
店員の女の子がそんな俺を困ったように見ながら、大量の皿をさばいていく。
こうして、賑やかな夜はゆっくりと過ぎていった。
「だからな。キリク。……女ってのは結局金なんだよ」
「おっさん。アンタも辛かったんだな。ほら、呑めよ」
「ちょっと、ギルドマスター! キリクに変なこと言わないでくださいよ」
「ふふふ。ノワールちゃんは本当に可愛いよね」
「……ちょっと、二ムさん。手つきが卑猥です。それ以上近づかないで下さい」
「あっ! てめぇ、二ム! 俺のノワールに手を出すんじゃねぇぞ!!」
「ちょっとキリク!! ノワールはノゾムのものでしょ!!」
「……」
「ギャーッ! オド!! 吐かないでよっ!! 絶対に吐かないでよっ!!」
おおぅ。あっちの机はなかなかのカオスだな。
「かかかーっ!! この唐揚げは上手いのじゃっー!!」
「おう! 嬢ちゃん!! こっちの刺身も食え! 食え!」
「貢物かのぅ!! 頂くのじゃ!! おおぅ。これもなかなかに美味よのう!!」
「相変わらず、良い食いっぷりだな! ほれっ! これもくいねぇ、くいねぇ」
今日もナイアは盛り上がってるなぁ。
「お荷物っ!! こっちで相方が吐いたーっ!!」
「ああっ!! 言わんこっちゃないっ!! だから、そろそろ水を飲んでって言ったのに……」
「お荷物っ!! こっちでは相棒がトイレから出てこないーっ!!」
「くそっ!! 眠りそうなら、鍵を掛けるなよ!!」
「お荷物っ!! 何かやれー!!」
くそっ!! なんで俺だけ、こういう立ち回りなんだっ!!
「……帰りな。こっちは遊びじゃないんだ」
俺の細かすぎて伝わらないギルドマスターの物まねは、ギルドメンバーには通じたらしい。
そこそこウケていた。……ってか今のこの人たちなら、多分何やっても受ける。
俺は騒ぐ冒険者を代表して、お店の人に謝りながら、冒険者の尻拭いに奔走した。
……本当。なんで俺だけ、こういうポジションになったのか。
騒がしく、賑やかに、姦しく、朗らかに、時間は回った。
やがて店は閉まる時間になり、冒険者たちも帰り支度を始める。
「いやぁ、また世話になったな。お荷物」
「ああ。本当に居酒屋では頼りになるやつだぜ。お荷物」
「相方が迷惑を掛けたな。お荷物」
「わざとですねっ!! 絶対にわざとですねっ!!」
この人たちはまったくっ!!
「しかし、俺たちは助かるけど……お前は大変そうだないつも」
「そう思うなら、もう少し、ご自分の相方に気を配ってほしいんですけどねぇ」
「あ! 今、ノゾムが良いこと言った!! ちょっと! 聞こえたっ? キリク!!」
「ふふ。ノワール。ほら、銀貨だよー」
「キリクさん! 有難うございますーっ!!」
うん。
もう本当に見事に酔っ払いしかいねぇな。
ちなみにナイアは、はしゃぎつかれて、俺の背中で寝てる。
ヴァンパイア。それで良いのか。本当に。
……俺に俳句のセンスは無いようだ。
「しかし、昼も子守、夜は酔っ払いの相手とは、俺はお荷物に同情するぜ」
「大きなお世話ですよ。俺もそれなりに、楽しんでやってますからね。まぁ、同情するなら金を下さい」
「はははっ。お荷物も正直になってきたじゃないか。……っと、ホラよ!」
軽口で返すと、その冒険者は懐から何かを出し、投げてきた。
見ると、銀貨1枚だった。いや、冗談だっての。
俺が慌てて返そうとすると――
「今日は相棒が世話になったからな。迷惑料だ」
「……有難うございます」
――彼はそう言って、手をひらひらとさせた。返却を受け付けるつもりはないらしい。
……まぁ、そう言うことなら受け取ろう。本当にくれるとは、言ってみるもんだな。
「あ、じゃあ俺も」
「俺も、俺も」
「俺なんか相方の分も払っちゃうもんね」
「はい。私たちはまとめて払うね? ……キリクの分はノワールちゃんに渡してるってことで」
それを見てた冒険者が、俺も俺もと真似し始めた。
「いやいやいやいや、流石に、こんなに貰えませんよ。そんな大したことしてませんし……ほらしまって。しまってください」
「おいおいおいおい。男が一回出したものを引っ込められるかよ」
「おいおいおいおい。お前、下ネタかよ」
「んだとっ! てめぇ!」
「お? やんのか!」
あ、喧嘩しだした。
うん。この人たちは放っておこう。
「ノゾム。貰っておけ。みんなの気持ちだ」
ギルドマスターがそう言うと、みんな頷いた。
……正直、気が引けるけど有難く貰うことにした。
最初の冒険者とか、もう少しで投げてきそうな勢いだったし。
何故か、居酒屋からも渡されたが……本当に良いのだろうか。
こうして、俺たちは予想もしていなかった臨時収入を得た。
ちなみに宿で数えると、全部で十万もあった。
俺とノワールは、思わず叫び……宿屋のおばちゃんに説教された。
ちなみに、ナイアは一度も起きなかった。
綺麗な笑顔してるだろ。ウソみたいだろ。寝てるんだぜ。それで。
いつもナイアを可愛がっている冒険者たちがいて、たまたま携帯食料を分けてもらえなければ、今頃俺とノワールは……
いや、深く考えるのはよそう。
これ以上いけない。
とりあえず、ナイアがもっきゅ、もっきゅと食事している間に、ギルドマスターに依頼を聞く。
「マスター!! 俺たちのランクで受けれる一番良い依頼を頼む!!」
「割と危険だが、そんな装備で大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。問題ない」
「なら、これだな。オオトカゲ一匹の討伐」
「……やっぱり、駄目だったよ。一番安全な依頼を頼む」
「だろうなぁ。……ほれ」
マスターは呆れたように、一枚の依頼書を手渡してきた。
うん。仕方ないね。ゲームと違って死んでから装備を変えることは出来ないんだから。
一応、熟読し、問題がないことを確認して受ける。
依頼を受けるのは、基本的に俺だ。
これは三人で話して決めたことである。
まぁ、俺以外は猫と幼女だし。消去法なのだけれど。
三十分後~
「ねぇねぇ!! どうしてノゾムはいつも変なポーズを取るの?」
「変なポーズじゃない! これは人間賛歌の象徴だ!!」
「ノワール!! ノワール!!」
「近寄らないでください!! あ、こらっ! 力任せに尻尾を握っちゃダメです!!」
「ナイア!! 今日こそは俺たちが勝つぞ!!」
「かかかっ! 何度やろうが無駄なことじゃ。どれ、今日はかくれんぼかの? 鬼ごっこかの?」
子供たちにもみくちゃにされる俺たちの姿があった。
更に数時間後~
「変なポーズー!!」
「くそぅ!! 俺への悪口は良いっ! だが、これへの悪口は許さん!!」
「ほらー!! ノワール!! かわいいっ!! かわいいっ!!」
「いたたたたっ!! 痛いっ! 痛いですっ!! 私の体はそこには曲がりませんから!!」
「くそぉぉぉ!! 来るなっ!! 来るなー!!」
「かかかっ!! 遅いのじゃ!! ほれ、ほれ鬼が来よるぞ!! 逃げろや、逃げろ!!」
そして、夕暮れ。
「ノゾムー? こう?」
「そうだ。……惜しいなぁ。もう少し、手足が長ければ映えるんだが。次にお前はこう言うんだ……」
「ノワール!! ごめんなさい。……もうしないから降りてきてー」
「貴方たちはもっと相手のことを考えるべきです。……自分より大きな相手が力任せに迫ってくるのは本当に怖いんですよ?」
「くそーっ!! なんで勝てないんだっ!!」
「かかかっ!! 年季が違うのじゃ!! 年季がっ!!」
最後に、親御さんたちが迎えに来て、俺たちは子守を達成した。
「ノゾムー!! またねー!!」
「ああ。またなー!! ……見送るときはこうだぞー?」
「ノワール。……また遊んでくれる?」
「今度はしっかりと私の言うことも聞いてくださいね?」
「ナイアーっ!! 次は負けないからなー!!」
「かかかっ!! 妾はいつでも挑戦を受けるのじゃー!!」
戦いは激戦だった。
見送った後で、俺もノワールもぐったりと力が抜ける。
……だが、これでも平和になったのだ。
なにしろ、一番厄介な男の子集団はナイアが一人で請け負っているのだから。
魔王様。自分、尊敬するっス。まじリスペクトっす。
「終わったぞ……ギルドマスター……」
「子供は本当に疲れますね……」
「かかかっ。妾の無敗記録はまだまだ続きそうじゃの」
「……まぁ、お前らが子守してくれるおかげで俺らギルド員も他に仕事出来るから、助かるんだけどよ。お前らはもう少し静かに子守出来ないのか?」
俺はそんなギルドマスターの言葉に、苦笑いで返した。
この一ヶ月。俺らが結構、子守していたからか子供の方が慣れてしまっているのだ。……言葉を選ばずに言えば、舐められている。
俺たちが担当した時にギルドが騒がしくなるのは、もはや恒例行事のようなものだった。
ちなみに子守は地域貢献の一種らしい。
俺たちのような力の無い冒険者への仕事を作るというのもあるが、荒くれ者が集まりやすい冒険者ギルドも町の為に動いてますよ、というアピールでもあるようだった。
まぁ、何だって良いのだ。これは疲れる分、複数の親御さんから依頼料が出る為、そこそこ稼ぎは良いのだから。
俺らは報酬として、ギルドマスターから銀貨を五枚受け取った。
その時、ギルドマスターから声を掛けられた。
「ああ、そうだ。ノゾム、今日、どうだ?」
くいっ、と何かを呑むようなジェスチャーをするギルドマスター。
それはこの一ヶ月で定着した、居酒屋へのお誘いだった。
「良いんですか? 俺たちはその……」
そう。俺たちは万年金欠なのだ。
毎回、奢ってもらっているので若干気が引ける。
「言うな。いつものことじゃねぇか。そもそも嫌なら誘わん」
うーむ。まぁ、向こうが良いって言ってるんだし、奢りなら断る理由もない。
「なら喜んでお付き合いします」
「おおっ! 今日はタダ飯か!! 妾は唐揚げを望むのじゃ!!」
「ナイア……せめてお礼を先に言いましょう」
そうやって、受付で話していると――
「おおっ!! ノゾムたちじゃねぇか。なんだなんだ。おっさん。今日呑むのか? 俺のパーティも明日は休みだから俺も行くぞ!!」
――大剣を背負った男が話しに割り込んできた。
「ちょっとっ!! キリクっ!! まずは依頼終了の受付からでしょ!!」
「全く落ち着きがないな……」
「あははー。まぁまぁ、翌日依頼がある時は遠慮するようになったんだし、良いんじゃないかな。」
更にその後ろでは三名の男女が呆れたように、その男を止めていた。
……っていうか知ってるパーティだった。
「あ、キリクさん。お疲れ様です」
「おぅ! ノゾム!! ……どれノワールも元気か?」
「はい。おかげ様で」
「ほれっ!今日の銀貨だぞー」
キリクさんはそう言って、ノワールに銀貨を渡した。
その瞬間、ノワールの尻尾が高速で動き始めた。
どうやら、キリクさんはノワールのこの反応が好きらしく、あの日以来、偶にこうしてノワールに銀貨を渡してくれるのだった。
前の世界のアイドルに貢ぐファンのようである。
「有難う御座います。本当に。」
そんな銀貨だが、まぁ、尻尾の反応を見てわかる通りノワールも喜んでいるようだった。
ちなみに、この時のノワールの尻尾は掴んだと思ったら、残像だったりする。
まるで質量を持っているように感じるほどだ。
「まったく。キリクはしょうがないわねぇ。」
「まぁ、ここからは自由行動ということでいいだろう。今日の依頼は終わったわけだしな」
「そうだねー。……でみんなはどうするの?私はノゾム君たちと飲むつもりだけど」
「勿論、私も行くわよ。キリクの馬鹿が変なことしないか見張る必要があるだろうし」
「俺も行くぞ。ノゾムたちと呑むのは楽しいからな」
「……お前らは自分で出せよ?」
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「おい! 今日、キリクのとこのパーティが呑みに行くらしいぞ!!」
「なんだって!! じゃあ、あのキレイどころ二人も来るのか?」
「ああ! 他のメンバーはギルマス、お荷物、ノワール、お嬢らしいな」
「ああ、いつもの流れか。……お前はどうする?」
「そりゃあ、行くだろ。面白そうだしな」
「だよな!! よっしゃ!! 今日は飲むぞー!!」
俺たちが受付で話をしていると、次第に周りからそういう声が聞こえてきた。
ぐぬぬ……。今、お荷物って言ったやつ、顔は覚えたからな。
ちなみに、お嬢っていうのはナイアのことである。
そして、今日はいつもの倍の人数が居酒屋に押しかけた。
「うぉぉぉぉ!! 酒だ!! 酒が足りんぞ!!」
「ほら、ギルドマスター新しいお酒ですよ。……あ、キリクさんのはそっちです」
「うおっ。……相変わらず、酒を出すタイミングがやべぇな。サンキュなノゾム」
「いえいえ。お気になさらず。飲み終わったグラス失礼しますねー。……あ、ノノさん。二ムさん。魚にレモンかけといたんで、良かったらどうぞ」
「あ、ちょうどこっち食べ終わったところだったのよ。有難う」
「あははー。やっぱりノゾム君と来ると便利だねぇ」
「ははは。素直に喜んどきます。……オドさん。少し水割り強めときましたんで、ゆっくりどうぞ」
「おう。助かる。……俺も何か手伝うか?」
「いえいえいえいえ。こういうのは下っ端の仕事ですから、俺も呑んでますんで気にしないでください」
「わははっ!! お荷物ー!! こっちにも酒をくれー!!」
「お荷物とか呼ぶ人は知りません!! 店員さんに言ってください!!」
――と言いながらも、俺は酒と後つまみを少し、別のテーブルに持っていく。
……考えても見てほしい。
強面のガタイ良い兄ちゃんの頼みを断れるか?
腕っぷしに自信がない俺には無理だね。
店員さんに食べ終わった食器を渡しながら、注文を頼む。
……いや、ほんと。一度に大量に食器と注文を渡してすみません。
申し訳ないとお辞儀が出るのは、日本人と言う民族性だよな。
店員の女の子がそんな俺を困ったように見ながら、大量の皿をさばいていく。
こうして、賑やかな夜はゆっくりと過ぎていった。
「だからな。キリク。……女ってのは結局金なんだよ」
「おっさん。アンタも辛かったんだな。ほら、呑めよ」
「ちょっと、ギルドマスター! キリクに変なこと言わないでくださいよ」
「ふふふ。ノワールちゃんは本当に可愛いよね」
「……ちょっと、二ムさん。手つきが卑猥です。それ以上近づかないで下さい」
「あっ! てめぇ、二ム! 俺のノワールに手を出すんじゃねぇぞ!!」
「ちょっとキリク!! ノワールはノゾムのものでしょ!!」
「……」
「ギャーッ! オド!! 吐かないでよっ!! 絶対に吐かないでよっ!!」
おおぅ。あっちの机はなかなかのカオスだな。
「かかかーっ!! この唐揚げは上手いのじゃっー!!」
「おう! 嬢ちゃん!! こっちの刺身も食え! 食え!」
「貢物かのぅ!! 頂くのじゃ!! おおぅ。これもなかなかに美味よのう!!」
「相変わらず、良い食いっぷりだな! ほれっ! これもくいねぇ、くいねぇ」
今日もナイアは盛り上がってるなぁ。
「お荷物っ!! こっちで相方が吐いたーっ!!」
「ああっ!! 言わんこっちゃないっ!! だから、そろそろ水を飲んでって言ったのに……」
「お荷物っ!! こっちでは相棒がトイレから出てこないーっ!!」
「くそっ!! 眠りそうなら、鍵を掛けるなよ!!」
「お荷物っ!! 何かやれー!!」
くそっ!! なんで俺だけ、こういう立ち回りなんだっ!!
「……帰りな。こっちは遊びじゃないんだ」
俺の細かすぎて伝わらないギルドマスターの物まねは、ギルドメンバーには通じたらしい。
そこそこウケていた。……ってか今のこの人たちなら、多分何やっても受ける。
俺は騒ぐ冒険者を代表して、お店の人に謝りながら、冒険者の尻拭いに奔走した。
……本当。なんで俺だけ、こういうポジションになったのか。
騒がしく、賑やかに、姦しく、朗らかに、時間は回った。
やがて店は閉まる時間になり、冒険者たちも帰り支度を始める。
「いやぁ、また世話になったな。お荷物」
「ああ。本当に居酒屋では頼りになるやつだぜ。お荷物」
「相方が迷惑を掛けたな。お荷物」
「わざとですねっ!! 絶対にわざとですねっ!!」
この人たちはまったくっ!!
「しかし、俺たちは助かるけど……お前は大変そうだないつも」
「そう思うなら、もう少し、ご自分の相方に気を配ってほしいんですけどねぇ」
「あ! 今、ノゾムが良いこと言った!! ちょっと! 聞こえたっ? キリク!!」
「ふふ。ノワール。ほら、銀貨だよー」
「キリクさん! 有難うございますーっ!!」
うん。
もう本当に見事に酔っ払いしかいねぇな。
ちなみにナイアは、はしゃぎつかれて、俺の背中で寝てる。
ヴァンパイア。それで良いのか。本当に。
……俺に俳句のセンスは無いようだ。
「しかし、昼も子守、夜は酔っ払いの相手とは、俺はお荷物に同情するぜ」
「大きなお世話ですよ。俺もそれなりに、楽しんでやってますからね。まぁ、同情するなら金を下さい」
「はははっ。お荷物も正直になってきたじゃないか。……っと、ホラよ!」
軽口で返すと、その冒険者は懐から何かを出し、投げてきた。
見ると、銀貨1枚だった。いや、冗談だっての。
俺が慌てて返そうとすると――
「今日は相棒が世話になったからな。迷惑料だ」
「……有難うございます」
――彼はそう言って、手をひらひらとさせた。返却を受け付けるつもりはないらしい。
……まぁ、そう言うことなら受け取ろう。本当にくれるとは、言ってみるもんだな。
「あ、じゃあ俺も」
「俺も、俺も」
「俺なんか相方の分も払っちゃうもんね」
「はい。私たちはまとめて払うね? ……キリクの分はノワールちゃんに渡してるってことで」
それを見てた冒険者が、俺も俺もと真似し始めた。
「いやいやいやいや、流石に、こんなに貰えませんよ。そんな大したことしてませんし……ほらしまって。しまってください」
「おいおいおいおい。男が一回出したものを引っ込められるかよ」
「おいおいおいおい。お前、下ネタかよ」
「んだとっ! てめぇ!」
「お? やんのか!」
あ、喧嘩しだした。
うん。この人たちは放っておこう。
「ノゾム。貰っておけ。みんなの気持ちだ」
ギルドマスターがそう言うと、みんな頷いた。
……正直、気が引けるけど有難く貰うことにした。
最初の冒険者とか、もう少しで投げてきそうな勢いだったし。
何故か、居酒屋からも渡されたが……本当に良いのだろうか。
こうして、俺たちは予想もしていなかった臨時収入を得た。
ちなみに宿で数えると、全部で十万もあった。
俺とノワールは、思わず叫び……宿屋のおばちゃんに説教された。
ちなみに、ナイアは一度も起きなかった。
綺麗な笑顔してるだろ。ウソみたいだろ。寝てるんだぜ。それで。
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気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
貧弱の英雄
カタナヅキ
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この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
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【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界帰りの最強勇者、久しぶりに会ったいじめっ子を泣かせる
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学校でイジメを受けて死んだ〝高橋誠〟は異世界〝カイゼルフィール〟にて転生を果たした。
艱難辛苦、七転八倒、鬼哭啾啾の日々を経てカイゼルフィールの危機を救った誠であったが、事件の元凶であった〝サターン〟が誠の元いた世界へと逃げ果せる。
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御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜
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R・P・G ~女神に不死の身体にされたけど、使命が最低最悪なので全力で拒否して俺が天下統一します~
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一見頼りない、ただのおっさんだった男が織りなす最強一味の異世界治世ドラマ、ここに開幕!
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