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38:戦準備と新たなAランク

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アーサーがエルフの国アルフレイムへと旅立って二日が経過した。その間特に変わったことなどはなく、いつもと変わらぬ日常を送っていた都市アルス。無論セリムも変わらぬ日々を送っている。


「はぁ~ ねむい…」


 欠伸をしながらベットから起き上がり顔を洗う事で覚醒を促す。、そんな簡単に眠気が取れるはずもなくまたもや欠伸をして目をこすりながら階段を降りていく。パンと野菜にスープで朝食を済ませ今日もギルドへと向かう。


「ふはぁ~、何でこうも欠伸は出るのかね…」



 一人欠伸の疑問について思考しながら歩を進めているとギルドへと到着する。依頼ボードの前へと行き何か適当な依頼がないか確認する。

 アーサーが面倒を見る気がなさそうな為に、高ランクモンスターが出現した際付いて行く事が出来なくなりそうだったので少しはランクを上げて自身で行けるようにしたいのである。

 依頼を受けず、尚且つランク無視して行こうとは思っているのだが、それでも高ランクともなればギルドや国などと言ったお偉いさんから情報を貰えたりする。優先度の高いものなどは、高ランク冒険者など優先的に情報が回される為、参加が出来ない可能性があるのだ。それを考えれば多少は上げとかなければと言う考えにも至るだろう。


(キーラのレベルも考慮しなくちゃだよな…)



 しっかりとキーラの事も考えつつ依頼を選択していく。とは言えD、Cランクの依頼は所詮雑魚ばっかなのでどれを受けても一緒なのだが受けるなら実りのあるものの方がいいのでCランクの依頼を選択する。


「決まったの?」

「ん? あぁ。 今日はこれだな」


 後ろから話しかけてきたのはキーラだ。いつもの事なため驚きもせず今回受ける依頼用紙を見せる。がそれはかなわなかった。


「た、たいへんだー!」


 突如大声を上げ入ってきたのは冒険者と思われる男だった。男の声を聞き、「何事だ?」とギルド内にいた職員含め冒険者全員の視線が一人の男に集まる。全員の視線が集まり、見られていると自覚した男は一瞬「うっ」とたじろぐも、周りから「取り合えず落ち着いて話せ」と心配するような声を掛けられ一度深呼吸をした後に話し出した。


「依頼で森に行ってたんだが、そこでモンスターの大群を見たんだよ。まっすぐ進めば間違いなくここにくる」


 この男がもたらした情報は都市アルスに向けてモンスターの大群が向かってきていると言うものだった。


「何だよ、偶にある事じゃねーか」
「んだよ、ビビらせやがって」
「そうだ、そうだ。おい野郎ども、モンスター狩りだ。準備しろー」


 本来であれば驚いたり恐怖したりとマイナス面な感情が出てくるものだとは思うのだが、そこはやはり冒険者なのか、偶にあると言う発言があることから慣れに近いものがあるのかもしれない。

 だが、その余裕は男が発した次の言葉で消え失せてしまう。


「ち、ちげーよ、前と同じなら俺だって騒ぎやしねーよ。今回のは違うんだよ」


 男のこの発言により周囲にいた者はどうゆう意味だ?と訝し気な目を向ける。セリムはこの騒動自体が初めてでありまだ状況が把握できていなかったため取り合えず静観を選んでいた。その隣でキーラも同じく「何事よ?」と情報を得る為か小声で話しかけてくる。


「遠目からだったから全体は分からなかったけど、数種類のモンスターからなる集団だったんだよ。それにBランクのモンスターも数匹見えたんだ」


 男のこの発言によりギルド内部に満ちた余裕にも似たものが一気に霧散し驚き、焦燥と言った緊張感が満ち始める。


「おい、その情報は本当か?」
「ちゃんと確認したのか?」


 ギルド内部に居た他の冒険者が情報を持ってきた男に詰め寄り情報の信憑性を訪ね始める。他の冒険者も同じなようで皆一様にどうなんだよと騒ぎ始める。


(やれやれ、これじゃ真偽を確かめられないだろうが)


 静観していたセリムはこの事態があまり良くないことを自覚していた。情報は何よりも大事なものだ。共有することで戦などにおいては勝敗を分ける場面も多々ある為、情報の開示、および共有は重要というか必須と言える。

 日本で平和に育ったセリムこと宗太のこの考えは、ほぼマンガやラノベの受け売りだったりするのだが間違ってはいないだろう。


「100%とは言えないが今俺のパーティメンバーが現場近くにに残って確認してる。もうすぐ来ると思うから…」


 そこまで行ったところで「落ち着きなさい」という声がかかる。その一言だけでギルド内の喧噪が一瞬にしてかき消えた。凛とした声を発した人物は都市アルスギルドのギルドマスターを勤めるレイニー・グレイシアその人である。


「騒がしいわよ、まずは情報の真偽、及び共有が先決でしょ」


 この発言により場が静まりると一人が代表して男に尋ねることになった。その人物はもちろんギルドマスターであるレイニーだ。ちょうどその時、ギルドに新たな人物が二人入ってくる。慌てているようで息が荒くここまで慌ててやってきたというのが分かった。状況から察するに情報を持ってきた男のパーティーメンバーなのだろう。


「ソ はぁ マル… はぁはぁ かくにん はぁ してきたぞ」


 かなり慌てているらしく息を整えるのも忘れて伝えようとする。ソマルと呼ばれた男は今話している男に向かい「シップ、落ち着いて話せ」と先程自身に言われていたことと同じ事を言う。
 それから数度深呼吸し気分を落ち着かせた男は話し出した。


「悪い、確認してきたぞ。オーガやゴブリンに加えてその上位種のBランクも数種類いた」

「ダイヤウルフやオーガジェネラルだ」


 シップと呼ばれた男の説明したBランクモンスターの具体名を上げ連ねる一緒に走ってきた男。その名目を聞いた瞬間ギルド内に動揺走る。再びレイニーが一喝することで場を収めるにかかる。


「学習なさい。今問題なのはどう対処するかってことよ。まずは、冒険者を集めて迎え撃つ準備、加えて警備の人たちにもこの事を伝えて街の防衛強化」


「急いで準備してちょうだい」と付け加えてきぱきと支持を出していく。その様子を見ていたセリムはさすがギルドマスターだなと納得しつつ、Dランク冒険者はどうすんのかと聞きに行く。そのあとにキーラも付いて行く。


「レイニー、Dランク冒険者でもある俺はどうすればいいんだ?」


 Dランクは戦いに出られるのか?と言外に込め尋ねる。


「無論よ、というか案外謙虚なのね。あなたみたいな戦力は最前線もしくはその近くに投入するわよ」

「過大評価だな、んで、あんたも参加すんのか?」


 レイニーのランクなどは知らないセリムだが、ギルドマスターになるほどの人物のため戦闘力は決して低くはないだろうという考えのもとに発した言葉だった。


「私は参加できないわね、街の防衛に回るわ。代わりに現場指揮官としてAランク冒険者を配置するわ」


 前線にでない代わりにAランク冒険者を付けると言うレイニー。ギルドマスターとしては街の防衛も重要な役割なのだろう。


「アーサー以外にもAランクっていたんだな、誰だ?」

「そうね、私も知らないわね」


 少し考えるそぶりを見せてから「ついてらっしゃい」と一言だけいうと歩きだすレイニー。



「フィーネの毛はふさふさにゃん」

「ちょ、やめてくださいよ、クロックさん」

「クロって呼んでっていつもいってるにゃんよ~」


 レイニーの後についていくとそこにはフィーネの尻尾をモフモフする黒い毛をした二十代くらいの女性がいた。頭からは髪の毛と同じ色の猫耳が生え、臀部付近からは細くしなやかな尻尾がゆらゆら揺れている。

 何かすごくじゃれあっているクロックと呼ばれた猫の獣人の女性だが、レイニーに名前を呼ばれると名残惜しそうにフィーネを離しこちらに向かって歩いてくる。


「この子がこの冒険者ギルドのAランクの一人、クロック・シルバーよ。見たまんま猫の獣人ね」

「君がセリム君ねぇ。マスターから聞いてるにゃん。よろしくにゃー」


 本当ににゃ~とか言う奴初めて見たと緊急事態の現状で考える事ではないのだが、やはり気になってしまいそこばっかりに思考が囚われる。

 加えてさっきから何故かスリスリと顔を擦り付けてくるクロック。嬉しいやら鬱陶しいやら複雑な気持ちだ。猫だからだろうか…


「やめてもらえます? おっぱい揉みますよ?」


 引きはがす為にこんな発言をするとレイニー、キーラ両名から白い目で見られると言う事になり何故か肩身の狭い思いを味わった。


(冗談くらい分かれよ…)





 今現在迫っている状況を手短に説明しクロックに準備するように促す。


「え~、うん、わかったにゃ~」


 若干渋りつつもフィーネをモフモフする権利を上げるわと言われ了承するクロック。にゃー、にゃーちょっと鬱陶しいなと思いつつもこれからの戦いに備え各々準備に取り掛かる。

 ついでにバロックがモンスターの大群の事を聞き試作品ではあるがセリムの案で作った服などを提供してくれた。そうして出発に備え門の前に皆集結するのだった。

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