うちの課長はお若いのがお好き

杉 孝子

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【第3章】闇対光編

闇の王

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 光をまとい、三人の力を借りた希美は、もう何も怖れなかった。大平の恐怖を煽るように、一歩ずつ確実に前へ進んでいく。  

 部屋の片隅にひしめいていた異形の者たちは、希美の光を前にして次々と後退していった。彼らはもはや役に立たないと判断したのか、大平は舌打ちをしながら彼らを一瞥する。  

「使えない連中め!」  

 大平の怒りの目が希美に向けられる。そして次の瞬間、彼は手に持っていた銀色のナイフに鋭い殺意を込めて、希美に向けて振りかざした。  

「所詮は人間だ! 貴様が何を纏おうが、刃には敵わん!」  

 叫びとともに、大平のナイフが希美の喉元を狙って鋭く閃く。しかし、希美は微動だにせず、静かに彼の動きを見つめていた。  

 ナイフが迫る瞬間、希美の体を包む光が弾けるように広がる。まるで見えない壁に弾かれたかのように、大平の腕が空中で止まる。  

「なっ!?」  

 信じられないというような表情で、大平はナイフを握る手を強く押し込もうとするが、まるで見えない力によって跳ね返されてしまう。ナイフを持つ手が震え、次の瞬間、閃光とともに大平の体が大きく吹き飛んだ。  

「ぐっ!」  

 壁に叩きつけられた大平は苦しげに呻きながらも、なおも執念深く立ち上がろうとする。しかし、その顔にはもはや余裕も驕りもなく、明確な恐怖が浮かんでいた。  

「あなたは終わりよ、大平」  

 希美の声は静かだったが、そこにはかつての弱気な彼女とはまるで違う、確固たる意思が宿っていた。  

 光がさらに強く輝き始める。希美は迷うことなく、まっすぐに大平へと歩みを進めた。  

 希美が大平に一歩踏み出そうとしたその瞬間、大平と彼女の間に立ちはだかる影があった。  

「誠二?」  

 希望を抱きかけた希美の胸に、得体の知れない不安が広がっていく。希美によって拘束を解かれた誠二が、彼女の前に立ちはだかり、両手を広げて決して進ませまいとしている。  

 希美は、自分の事を心配してこれ以上進眩暈としていると思ったが、しかし、彼の表情が何かおかしいことに気付く。  

 誠二の体から、どす黒いオーラが立ち上り、まるでこの部屋そのものを侵食するように広がっていく。その瞳には、今までの誠実な輝きはなく、虚無の闇が沈んでいた。  

「誠二?どうしたの」  

 希美の声は震えていた。だが、誠二は何も答えない。ただ、静かに希美を見つめていた。  

 その時、部屋の温度が急激に下がったような錯覚を覚えた。大平すらも誠二を見て動揺しているのが分かる。異形の者たちは、黒いオーラ―から逃れる様に一歩ずつ後ずさりしながら震えていた。  

「これは、一体?」  

 大平が、かすれた声で呟いた。  

 すると、誠二の口がゆっくりと開いた。しかし、そこから発せられたのは、彼のものではない、もっと深く、もっと底知れぬ何かだった。  

「・・・ようやく目覚めの時か」  

 その声は、響き渡るように重く、耳に直接流れ込んでくるような感覚を希美に与えた。希美の知る誠二の声ではなかった。  

「お前は、誰なの。誠二じゃない!」  

 希美が一歩後ずさる。  

 誠二の体を覆っていた暗黒の靄が、彼の体の周りに纏わりつくように、徐々に濃密な渦を巻き始める。そして、その体がびくりと痙攣すると、誠二は天井を見上げる様に背を逸らす。まるで皮膚の下に何かがいて、蠢くように、誠二の筋肉質の胸や腹部が不自然に波打ち始めた。  

 次の瞬間、誠二の胸から腹にかけて見えないない刃物で一刀両断されると、内側から押し開かれるように裂けた。  

「イィィヤャァァッーー!!」  

 希美の悲鳴が空間を揺るがす。しかし、現実は残酷だった。  

 裂けた胸部の内部から、飛び散った血飛沫と共に、黒く巨大な腕が突き破るように飛び出した。血と肉が四方に飛び散り、裂けた皮膚から骨がきしみながらねじれ、内側から全く別の何かが誕生しようとしていた。それは、着ぐるみを脱ぐかの如く誠二の体の中から現れた。  

「誠二ィィーー!!」  

 希美の叫びも虚しく、誠二の抜け殻のような体はゆっくりと後ろへと崩れ落ちていく。そして、そこから現れたのは、かつて人間だったものとは思えない、圧倒的な闇の存在だった。  

 それは、まるで長い間閉ざされていた檻から解き放たれた獣のように、重々しく息を吐き、漆黒の瞳で希美を見下ろした。  

「ついに、待ち望んだ時が来た」  

 その声は、地の底から響くような、深淵の存在そのものだった。  

 希美は、膝が震えるのを抑えられなかった。これは、ただの悪霊や魔物ではない。言葉を持ち、知性を持つ、もっと純粋な“悪”の化身。小さい頃に怖いもの見たさで見た悪魔のイラストそのものであった。

「悪魔・・・」  

 その言葉が口をついて出た瞬間、悪魔は満足そうに笑った。  
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