少年マンガの主人公になってしまったが未来が暗すぎた

柳秋彦

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第1章 五歳児

第4話 将来を真剣に考える話 上

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「……」
ルシールとカレンがいくら頑張ってもあほ毛が飛び出す癖の強い黒髪、子供らしい柔らかい頰、切れ長の瞳に映るのはやはり俺だ。
「何鏡の中の自分と見つめあってるの~、お化粧チェック?」
目の前の子供の上にアプルコットティーのような巻き毛を指でとかしながら覗き込む少女の顔が映る。
「ヴィオラ姉さん」
「んふふー、隙あり!」振り返った瞬間俺の顔は彼女に両手で挟まれ潰される。
「んむっ、やめれ……くらさいっ」
「あはは!ほっぺやわらかーい、
かわい~」
「やめっ……」
ヴィオラは明るく頼り甲斐のある姉さんだが同時にこうやってしょっちゅう俺たちをからかったりおもちゃにしたりもする。特に幼児の柔らかいほっぺたはよく犠牲になった。

いつもの攻防が俺とヴィオラ姉さんの間に始まった時に「あの、静かにしてください……安息日ですよ」鈴を転がすような愛らしくも冷たい声が聞こえた。
「あら、ルビー、書斎に行ってたんじゃないの?」
「また帰ってきたのです、悪いですか?」
入り口にいたのはヴィオラとそっくりの巻き毛の少女、俺たちのもう一人の姉さんルビーだ。彼女の後ろで本を数冊持って控えているのは姉妹達の侍女のマギーだ。

「第一私たちは安息日の午後はお茶室で静かに過ごすのが決まりです、私は今から読む本を選びに行っていただけです。」
「コール様の御所望の本もありますよ」マギーが微笑みながら一番上の本を俺にさしだす。
「ありがとうございます!ルビー姉さん、マギー」

「どれどれ、<魔道簡史>……また小難しそうな本を読むのね」
「もうすぐあなたも授業で習う内容です。ヴィオラももっと歴史の本を読むべきです、娯楽小説だけでは無く。ヴィオラは歴史が苦手でしょう?」
「仕方がないじゃない、私は歴史が苦手だから歴史の本を読めなくて、読めないから歴史が苦手なのよ」
「またまぜっ返す」
「誰か歴史を譜面に下ろしてくれ無いかしら?ピアノの譜面ならすぐにするする頭に入るのに」
「譜面で覚えてどうするつもりですか?テストの時に教室にピアノを運んで<第一次魔族征伐のワルツ><アギラ家の反逆のセレナーデ>とかでも奏でるのですか?」
毒を吐きながらもルビーは妹の手を親しみを込めて握り一つのソファに並んで腰掛けた。この双子のような姉妹は性格は似ていなくてもとても仲良しなのだ。

俺は直射日光の当たらない場所の腰掛けを探し本を持って座る。すぐ近くにはカレンの敷いたマットレス上で黙々と積み木で遊ぶアルバスがいる。

しかしページを開いたを開いたものの内容がなかなか頭に入らない。今日の朝見た夢の内容が頭にちらつく。それは久しぶりに見る前世の記憶だった。すべて内容を覚えているわけではないが小学校の頃家族で行った花見の風景のようだった。普段仕事で忙しい母が時間をかけて作った華やかな花見弁当、俺は肉ばかり食べて野菜も食べなさいと叱られる。妹はちらちら舞い落ちる花びらを空中でつかもうと上を見すぎてつんのめる。おっと、あぶないと側にいた父がすかさず支える。ふと俺は思う、「桜、久しぶりに見たかもな」

そこで目を覚ました。

本当に久しぶりに前世の家族の夢を見た。前世の記憶を取り戻したばかりの頃はよく前世の夢を見て込み上げてくる寂しさに子供の体が堪えきれず夜泣きをしていた。ちょうどモンタギュー家の父親が亡くなった頃だったので、ルシールは俺を抱きしめて「お気の毒に、お父様を思い出したのですね」と言った。
特に立派な将来の夢は無かったが、二十歳で死ぬのは早すぎるだろう、まだ童貞だったんだぞ!と悔しかったし蜘蛛に噛まれて死ぬって理不尽かよとかノーパソのデータ消せてないんだけどとかベッドの下のエロ同人母さんに見つかっちゃうんかなとか色々悶々とする毎日だったが、自分の置かれているシチュエーションを理解していく内にその場合じゃないことがわかってきた。まさかの打ち切りされそうな漫画に転生するなんてマジかよだったがなんとかしないと俺は今の家族にもさよならしないといけなくなる。

タイムリミットは後11年、俺は真剣に将来を考えないといけない
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