少年マンガの主人公になってしまったが未来が暗すぎた

柳秋彦

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第1章 五歳児

第13話 始めての生徒の話 下

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「なぜ貴女を選んだか不思議に思いましたか?」質問の答えはなかった、代わりに更に質問で返されミネルヴァは面食らった。
「えっと……はい」反射的に頷いてしまいミネルヴァは自分をガタガタ揺さぶりたくなる。もう少しうまい言い回しがあっただろうに!
青年はそんなミネルヴァを見て薄く微笑む。それは教師が幼い子どもがくだらないミスをした時に見せる暖かい苦笑のようなものだった。そして彼はソファの上で姿勢を少し崩し長い脚を組んだ。
「我々は子どもの頃から洗練された仕草と言葉使いで人と交流することを求められます。それはただ覚えてきた挨拶を口に出すことではありません、誠実に思った事を口に出すことでもありません、私達は個人的な付き合いをしているのではなくいわば常に家の名を背負い面接をしたりされたりしているのです。それは常に仮面を被って行動するようですが同時に仮面があからさまなのも辟易されます、それは教えてできたものではなくあくまで生まれついての才能のように振る舞わなければなりません。しかしそんな事はありえません、実際は幼い頃からほんの幼児の頃から刷り込むように覚え練習を重ねるものなのです、なので私の身近には貴族そのものではなくとも少なくともその文化や空気に馴染んだ者だけが配置されます。幼子は周りの言動を見て学びます。座学の教師も王宮の仕事に携わった事のある老練な魔道士が好まれます」
アイスブルーの瞳は冬の湖面のよう淡く静かで感情がなかった。ミネルヴァは口挟む暇もなく呆然と若き辺境伯を見つめていた。いったい何が言いたいのだろう、さっきから述べる例はどう聞いてもミネルヴァが辺境伯の子弟の教育に携わるのに向いていないと言っている。だったらどうして今日わざわざ屋敷まで呼び寄せたのだろう。
「失礼ながら貴女の事をいろいろ調べさせてもらいました。ご両親やご友人のことも。あなたは平民家庭に生まれていますが貴族との接触が多い環境にいる。父親の取引相手や学校の友人の中には高い身分の者もいる。なのに貴女が社交の場に顔を出した記録はほとんど無い」
「すみません……人付き合いが苦手で誘いをほとんど断っていました……」
やっと唇が動くようになったのでミネルヴァは慌てて辺境伯の話に受け応えをしようとする。しかし彼はミネルヴァの発声に驚いたように口を閉じると、先程見せた苦笑をまた浮かべた。
しまったこれは話を黙って聞く流れだったか……ミネルヴァは恥ずかしさに目を伏せて「すみません。どうぞ続けてください」と言った。自分の空気の読めなさが歯痒い、今までも何度もこれで損をしてきたが理解してくれている家族や友人がフォローをしてくれた、しかしこの面接は完全に失敗したと言っていいだろう……しかし辺境伯の話によると彼はミネルヴァの世間慣れしていないところや洗練されていないところは調査済みだ、いったいなぜ彼女を呼び寄せたのだろう、まさかわざわざ裏付けを取りに来たわけではあるまい。だったらなんだろうか、こちらはおまけの個人情報など簡単に調べられるしおまえの代わりなどどこにでもある、だから低賃金の悪条件でもありがたく働けという脅しだろうか?いや、辺境伯家でもあろう者がそんな小賢しい真似をするだろうか?それにミネルヴァの実家はそこそこ裕福だ、この仕事を失くしても暮らしていけない程切羽詰まっていないので脅しても無駄だろ。頰を赤らめながらも頭の隅でミネルヴァは忙しく考えを巡らせた。
「謙虚だが気が強い。円滑な付き合いができないが誠実だ」アイスブルーの瞳が閉じられる。「社交界では欠点だ、だが私はそのような性質をつ者を真っ向から否定したくはない、上の者の凝り固まった価値観で判断したくはない」
「ミネルヴァさん。これは冒険的と言われるかもしれないが私の弟たちには彼らの天性を押さえつけない教育をしたいのです。」開いたまぶたの下には今まで見た事のない優しさがあった、ここのはいない誰かに向けた愛情があった。

ミネルヴァ・セブンはこうしてモンタギュー家の末弟たちの座学の教師になった。
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