善悪の狭間

八代 徹

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限りなく悪に染まった善

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 ポケットから懐中時計を取り出す。時刻は11時55分。
 長かった。あと5分だ。あと5分だけはまともでいられる。まともな間にしておくべきことはあるだろうか。
 私はかぶりを振った。そんなものはない。全て捨ててきた。何もかも、全て。やがてもう一度まともになる時が来るとしたら、それは死者の仲間入りをした時だけだ。

 ……あと1分、か。

● ● ●

 鼓膜が抜けるほどの爆音が街の中に響き渡った。ざわめく群衆の中をするりと抜け、私は王宮の裏門まできた。

「国家魔術師のエルティ・ドードです。至急、王に謁見を申し出たいのですが」

 裏門にいる兵士2人は先程の爆音で動揺していたようだが、突然の訪問者にもしっかりと対応をした。

「申し訳ありません。ただいま街で原因不明の爆発が発生しており、王宮内には誰も入れてはならないと……」

 こういう時でも仕事はこなすのか。それとも偽名を使っているのがバレているのか。まあここで時間を取られるのも面倒だし、さっさと通ろう。

「そうですか。では失礼して」

 私は腰から拳銃を抜くと即座に2人を始末した。人間から物になったそれを踏んづけながら、裏門を開ける。

 王宮内は複雑な迷路だった。とはいえ、この日のために内通者から内部の地図を受け取っていたので、そこまで手間取ることもないだろう。
 私は真っ先にあの部屋へと向かう。王宮内は先程の爆発で混乱していたおり、思った以上に通るのが楽だった。

 特に何もなく、5階まで辿り着いた。しかし問題はここからだ。この部屋に入るためには、部屋の前にいる兵士の相手をしなければならない。
 さてどうしたものか。拳銃を使ってもいいのだが、出来るだけ静かに始末したいというのが本音だ。ここで発砲すれば確実に部屋にいる人物に気づかれるだろう。
 攻めあぐねていると、件の兵士からこちらに近づいてきた。

「何者だ。そのフードを外したまえ」

 こんな不審者みたいな格好をしてたら当然か。しかし好都合だ。
 私は兵士に近づきながら、フードを外す動作を見せた。そして一瞬息を止めると、裾に隠していたナイフを素早く取り出して兵士に飛びかかった。

「なっ……」

 兵士が何か言うよりも早く、ナイフが喉元を抉る。
 まあ、このくらい離れていれば中の人物にも気づかれていないだろう。上出来。

「が……はっ……」

 おや、まだ息があるみたいだ。

● ● ●

 部屋の中には彼女がいた。

「久しぶり、ソフィア」

 彼女は私の姿を認めると、目を大きく見開いた。

「えっ、ポーラ! どうしてここにいるの!?」
「うん、ちょっとね」

 質問に答える気はない。私が彼女に質問をしにきたのだから。

「わたし、すっごく心配してたんだよ? あの時会ってから連絡もくれないし、それに……」
「あのさ、一つ聞いていい?」

 言を遮る。

「なんで私に嘘を吐いたの?」

 一瞬、彼女の動きが止まるのが分かった。それを見て私も確信した。この女は有罪だ、と。

「ど、どういうこと? わたしがポーラに嘘って……」
「ソフィア、私に言ったよね。魔術師をやめるって」

 彼女はようやく合点がいったかのように、顔を明るくさせた。けれどその態度は、今までその約束を忘れていたからに他ならない。

「あっ、そのことね! 聞いてポーラ、わたし魔術師試験の責任者になったの!」
「へぇ」
「あの日、わたしがこの国の偉い人に話をしに行った時にね、その人から教えてもらったの。試験の責任者になれば、実技優先の試験方式も変えられるかもって」

 黙って聞いていた。しかし彼女から継ぐ言葉は出てこなかった。彼女が何を言いたいのか、私にはさっぱり分からない。

「……終わり?」
「だ、だから、わたしポーラのために頑張って……」

 言っている意味が分からない。拳銃を抜こうとする手をなんとか抑えて、私は彼女に問うた。

「それに何か関係があるの? 質問の答えになっていない」
「…………っ」

 答えないということは、つまり答えを持ち合わせていないということだ。それが分かればいい。それが分かれば、遠慮なく引き金を引ける。
 私が腰の拳銃を抜き、彼女の頭に狙いを定めようとすると、いつのまにか彼女が泣いていることに気がついた。

「うっ……うぅ……。ポーラ、どうしてこんなことになっちゃったの……」

 胸の中で何かが蠢いている。怒りだ。

「どうして? じゃあ逆に聞くけど、どうして約束を破ったの?」
「だって……わたし、わたしはポーラと一緒に魔術師になりたかったから……っ。それで、それで……」

 何を言っているのか聞き取れない。もう少しはっきりと喋ることはできないのだろうか。

「分かった。ソフィアは私のことをちゃんと考えてくれてたんだね」
「……! そう、そうだよポーラ! だってわたし達、親友だから……」
「ありがとう。じゃあ、今度も貴方が先に行っててね」

 その瞬間、渇いた銃声が部屋の中に響き渡った。
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