夢の中にいる間だけ感じる全ての物事に否定的な見方をする自分とそれに対して大して気にも留めない彼女に抱く感情の答えは是非なら是

八代 徹

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罪を憎んで人も許さず

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 それから十分くらい経ったところで、東口から降りてくる真希ちゃんの姿が見えました。こちらが名前を呼びながら手を振ると、真希ちゃんも手を振り返してくれました。それから、とりあえずお茶でもしようという話になり、私たちは近くの喫茶店に入りました。それぞれ飲み物を頼み終えると、真希ちゃんは最近になって自分の身に起こっている不思議な現象について話し始めました。なんでも、誰かに付けられている感覚があったり、誰もいない部屋で人の声が聞こえたりするそうです。仕事の疲れが原因かも、と言うと、そうかもね、と力なく笑いました。ちなみに彼女はデザイナーの仕事をしていて、かなり儲かっているみたいです。一時間ほどそうして話していたあと、私たちはお洋服のお店に行きました。あなたならなんでも似合うよ、なんて言われるがまま、色々とお洋服を試着することになりました。あ、真希ちゃんは私が中学生の頃の同級生です。違う地域から引っ越してきた私は、訛りが酷くてイジメられていたのですが、真希ちゃんが「イジメは終わり」と言ってからは、それがピタリと止みました。それから私はずっと真希ちゃんと一緒にいます。さて、お洋服を見終えた私たちは、デパートの別フロアのお土産屋さんに向かい、そこでパンダのキーホルダーをお揃いで買いました。別れ際に、じゃあね、と言われて、またね、と返すとそれは違う気がしたので、ありがとう、と返事をしました。パンダのキーホルダーは捨てました。
 私が話を終えるまで、千紘さんは邪魔をすることなく静かに聞いてくださりました。どうでしたか、と問いかけると、彼は怪訝な表情を浮かべて、

「言うほど訛ってるかな? 俺には全然そんなふうに聞こえないけど」

 と答えました。

「こちらでの暮らしもかなり長いですから」
「なるほど。それと、その真希さんの周りの不思議な現象とか、キーホルダーを捨てた理由とかも気になるね」
「その現象については、おそらく真希ちゃんの幼少期の出来事が原因のように考えます。また、キーホルダーを捨てた理由としては、思い出を残しておきたくなかったからです」
「ふぅん……」千紘さんは前髪をさっと撫でると、小さく息を吐きました。「殺したんだ、彼女を」

 彼の瞳はいつもと変わらずに私を捉えていました。私はその目を見つめ返しながら、続きを促しました。

「続きはないよ。ただ、どうして本人ではなく彼女をそうしたのかは気になるけど」
「分かりませんか?」
「あくまで俺の推測だけど──真希さんと一緒にいれば、彼女のように、過去に自分をイジメていた人と会えると思ったからかな?」
「ほぼ正解です」

 私が拍手をすると、千紘さんは「いや、別に嬉しくない」と真顔で言いました。そのお顔に少しドキリとして、私は自分の心のうちにあった不安を告げました。

「私のこと、嫌いになりましたか?」
「まさか」彼は鼻で笑いました。「最初に言った通り、俺が君を好きな理由は君の顔が好みだから。それに君は歳を取らないだろ? それじゃあ嫌いになる要素が一個もない。そもそも君は復讐しただけであって、もとを辿ればイジメをするやつが悪いに決まってる。事実それで君は死んでるんだから、殺す権利はあると思うね。同害復讐法って言うんだよ、そういうの」

 千紘さんは言うだけ言って、シャワー浴びてくる、とソファを立ちました。テレビにはスーツ姿の男性が一人、コートを羽織った女性が一人、そして首輪をつけた柴犬が映っていました。私は小さく伸びをしてから、瞳に溜まった雫を手で拭い、バスルームに向かいました。
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