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第四・一章 ドルムンド防衛戦
第99話 ドルムンド防衛戦Ⅵ こちら後方支援部隊
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ドルムンドの街には眼前の戦場から次々と怪我人が運ばれてくる。
街に控える回復部隊は各騎士団に所属する治癒術師で構成されており、ガーランド騎士団から30名、ドッキア騎士団から30名、フリュクレフ騎士団から20名、スウィンズウェル騎士団から10名、計90名の混成部隊である。
中には解毒魔法や解痺魔法といった、状態異常を治癒できる神聖術師の域に達している者もおり、支援体制は万全といってよかった。
回復部隊長に就いているガーランド騎士団2番隊長のブレイアムは、日が頂点を越えた頃から運ばれてくる負傷者に不安を覚え始めていた。軽症者が減り始め、中重傷者が増えてきたのだ。つまり戦いが激しさを増してきているという事であり、最悪戦況不利に陥っている可能性もある。
軽症者は治癒後すぐに戦線復帰できるが、重傷者はそうはいかない。血を多く流しているので、怪我が治っても満足に立ち上がる事はできず、ましてや戦うなど以ての外。
このペースで重傷者が増えると、司令官や各軍長へ最前線の規模の縮小を具申するのも、回復部隊長の役割だった。
「ブレイアム隊長」
「どうしたの?」
「どうやら重傷者のほとんどは1、2番隊の者が殆どです。右翼が苦戦し始めているものかと。武具の損耗もかなり激しいように見受けられます」
「右翼は魔人兵と当たってるわね。予想されてた通りだけど、このペースが続くなら考えものね。…よし、中央と左翼から来る軽症者は傷薬で叩き出して、右翼の負傷者を優先的に治療して頂戴」
「承知しました」
隊員への指示を終え、辺りを見回すブレイアム。すると、椅子に腰掛けてうな垂れている地人の長、ワジルを見つけたので声をかけた。
「ワジル殿、事前に申し上げておりました武具の件なのですが」
「おお、大先生。そろそろ出番じゃと思うておったわい」
地人に限らず、亜人に聖属性である治癒魔法を扱えるものはいない。ごく少数移住してくる変わった人間の中に、治癒魔法を扱えるものがおり、そのような人物はたとえ未熟であろうが亜人達には『先生』と呼ばれ、各里で非常に重宝されていた。
ブレイアムは聖属性魔法のエキスパートであり、さらには回復部隊長。避難せず、ドルムンドの街で帝国軍の援護の任に就いている地人達からは、当然のように『大先生』と呼ばれ皆に頼られていた。
(大先生って、いつまで経っても慣れそうにないわ…)
苦笑いするブレイアムをよそに、ワジルはパンパンと手を叩き、若衆に指示を飛ばした。
「おおぃ! 皆でアレを全部持って来てくれ!」
「了解でさぁ!」
ワジルの指示で、ゴロゴロと巨大な荷車が10台ほどこちらへ到着する。運んできた地人達が一斉に荷車に掛けられた幌を取ると、積み重ねられた大量の武器防具が姿を現した。
「地人謹製の武具3000! 必要なだけ好きに持ってってくれ。使い方なんぞはそこらの奴に聞きな。全部そこいらのナマクラとは訳が違うでな! ミスリル(製の武具)見つけたヤツは当たりじゃて。わっはっは!」
腰をさすりながら豪快に笑い飛ばすワジル。怪我や体力だけでなく、武具まで新調出来る戦場なんて有難いことこの上ない。前線に出る事のない神聖術師のブレイアムでも、これには感謝しかなかった。
「有難い…全ての兵士に代わり感謝申し上げます。これで我々も死力を尽くせるというものです」
「何を言う。こうしてワシらの為に戦こうてくれておるのじゃ。酒と仕事以外ならなんでもくれてやるわい!」
「長の言う通りだ!」
(そこに命と街が入っていないのが凄いというか、怖いですよ地人の皆さん)
そんなやり取りを従者と共に見ていた少女が、ワジルに近づき声を掛けた。
「長老様」
「ん? 嬢ちゃん。長老とはワシか? なんぞ照れるの」
「後ろを向いてください」
「な、なんじゃ藪から棒に…」
訳の分からぬまま”嬢ちゃん”に後ろを向かされるワジル。するとワジルの腰辺りに一瞬白い光が瞬いた。
「お?…お…おおっ!? 腰の痛みが無くなったわい! 嬢ちゃん、治してくれたのか!?」
「どうやら痛めてらしたようにお見受けしました。ご迷惑では無かったでしょうか?」
「そんな訳あるかぃ! 助かったぜ、小せぇのに先生とは大したもんだ!」
「先生だなんてお止め下さい…」
大げさに褒められ、うつむき加減に言葉を返す嬢ちゃんだったが、ワジルは気にせず言葉を続けた。
「これで持ち場に戻れるぞぃ! 皆の集! ワシ大型弩砲撃って来るからここは任せたぞぃ!」
「いってらっしゃい長ぁ!」
「あ、あの! あまりご無理はっ…ああ、行ってしまわれた……ブ、ブレイアム隊長様。よかったのでしょうか…?」
自分のやったことの正否をおずおずとブレイアムに問う少女。
ブレイアムはクスクスと笑いながらフォローした。
「いいえ、お嬢様。私も同じ事をしようと思っておりましたし、ワジル殿は言ってもお聞きにならないと思いますよ? ワジル殿はワジル殿の、お嬢様にはお嬢様の為すべき事を為されれば、それでよいと私は思います」
この言葉に少女から困惑の色が消え、笑みがこぼれた。
「はいっ、ありがとうございます!」
(か、可愛すぎる! 同い年だったら劣等感で死ねるわ!)
眩しい笑顔を向けられ一瞬グラつくブレイアムだが、ここは戦場。すぐに切り替え、この場にいる事の覚悟を柔らかく少女に問うた。
「先程の治癒魔法、お見事でした。間もなくこの場は凄惨な場になる事が予想されます。お嬢様には少々刺激が強いかもしれません。それでもなお、この場にお留まりになりますか?」
「覚悟はスウィンズウェルを出てから出来ております。隊の一員として、ご遠慮なくお使いください」
愚問だった。
少女は先程の柔らかな雰囲気とは打って変わって、力強い眼差しでブレイアムを見上げていた。
「分かりました。では、これより上官として指示させて頂きます」
「よろしくお願いします!」
(この若さで、というかまだ子供なのにあの治癒魔法の回復速度。相当魔力操作を鍛錬して、それに見合う魔力出力を得ているわね。それを成しえる前提としての魔力も相応量あるはず。回復隊員にこの子に敵う者がいるかどうか。間違いなく天才。それに才に溺れない努力家)
(これが軍神の娘…是非ともウチの2番隊に…あ、無理だ。この子スウィンズウェルの姫だったわ…アスケリノ殿が羨ましい)
こっそり熱い視線を少女に送っているブレイアムを、『ゴゴゴ』という効果音付きで睨みつけている従者マルコ。
(うちのお嬢様はあげませんよ?)
(わ、わかってるわよ!)
視線だけでやり取りしている2人を、少女は不思議そうな目で見上げていた。
街に控える回復部隊は各騎士団に所属する治癒術師で構成されており、ガーランド騎士団から30名、ドッキア騎士団から30名、フリュクレフ騎士団から20名、スウィンズウェル騎士団から10名、計90名の混成部隊である。
中には解毒魔法や解痺魔法といった、状態異常を治癒できる神聖術師の域に達している者もおり、支援体制は万全といってよかった。
回復部隊長に就いているガーランド騎士団2番隊長のブレイアムは、日が頂点を越えた頃から運ばれてくる負傷者に不安を覚え始めていた。軽症者が減り始め、中重傷者が増えてきたのだ。つまり戦いが激しさを増してきているという事であり、最悪戦況不利に陥っている可能性もある。
軽症者は治癒後すぐに戦線復帰できるが、重傷者はそうはいかない。血を多く流しているので、怪我が治っても満足に立ち上がる事はできず、ましてや戦うなど以ての外。
このペースで重傷者が増えると、司令官や各軍長へ最前線の規模の縮小を具申するのも、回復部隊長の役割だった。
「ブレイアム隊長」
「どうしたの?」
「どうやら重傷者のほとんどは1、2番隊の者が殆どです。右翼が苦戦し始めているものかと。武具の損耗もかなり激しいように見受けられます」
「右翼は魔人兵と当たってるわね。予想されてた通りだけど、このペースが続くなら考えものね。…よし、中央と左翼から来る軽症者は傷薬で叩き出して、右翼の負傷者を優先的に治療して頂戴」
「承知しました」
隊員への指示を終え、辺りを見回すブレイアム。すると、椅子に腰掛けてうな垂れている地人の長、ワジルを見つけたので声をかけた。
「ワジル殿、事前に申し上げておりました武具の件なのですが」
「おお、大先生。そろそろ出番じゃと思うておったわい」
地人に限らず、亜人に聖属性である治癒魔法を扱えるものはいない。ごく少数移住してくる変わった人間の中に、治癒魔法を扱えるものがおり、そのような人物はたとえ未熟であろうが亜人達には『先生』と呼ばれ、各里で非常に重宝されていた。
ブレイアムは聖属性魔法のエキスパートであり、さらには回復部隊長。避難せず、ドルムンドの街で帝国軍の援護の任に就いている地人達からは、当然のように『大先生』と呼ばれ皆に頼られていた。
(大先生って、いつまで経っても慣れそうにないわ…)
苦笑いするブレイアムをよそに、ワジルはパンパンと手を叩き、若衆に指示を飛ばした。
「おおぃ! 皆でアレを全部持って来てくれ!」
「了解でさぁ!」
ワジルの指示で、ゴロゴロと巨大な荷車が10台ほどこちらへ到着する。運んできた地人達が一斉に荷車に掛けられた幌を取ると、積み重ねられた大量の武器防具が姿を現した。
「地人謹製の武具3000! 必要なだけ好きに持ってってくれ。使い方なんぞはそこらの奴に聞きな。全部そこいらのナマクラとは訳が違うでな! ミスリル(製の武具)見つけたヤツは当たりじゃて。わっはっは!」
腰をさすりながら豪快に笑い飛ばすワジル。怪我や体力だけでなく、武具まで新調出来る戦場なんて有難いことこの上ない。前線に出る事のない神聖術師のブレイアムでも、これには感謝しかなかった。
「有難い…全ての兵士に代わり感謝申し上げます。これで我々も死力を尽くせるというものです」
「何を言う。こうしてワシらの為に戦こうてくれておるのじゃ。酒と仕事以外ならなんでもくれてやるわい!」
「長の言う通りだ!」
(そこに命と街が入っていないのが凄いというか、怖いですよ地人の皆さん)
そんなやり取りを従者と共に見ていた少女が、ワジルに近づき声を掛けた。
「長老様」
「ん? 嬢ちゃん。長老とはワシか? なんぞ照れるの」
「後ろを向いてください」
「な、なんじゃ藪から棒に…」
訳の分からぬまま”嬢ちゃん”に後ろを向かされるワジル。するとワジルの腰辺りに一瞬白い光が瞬いた。
「お?…お…おおっ!? 腰の痛みが無くなったわい! 嬢ちゃん、治してくれたのか!?」
「どうやら痛めてらしたようにお見受けしました。ご迷惑では無かったでしょうか?」
「そんな訳あるかぃ! 助かったぜ、小せぇのに先生とは大したもんだ!」
「先生だなんてお止め下さい…」
大げさに褒められ、うつむき加減に言葉を返す嬢ちゃんだったが、ワジルは気にせず言葉を続けた。
「これで持ち場に戻れるぞぃ! 皆の集! ワシ大型弩砲撃って来るからここは任せたぞぃ!」
「いってらっしゃい長ぁ!」
「あ、あの! あまりご無理はっ…ああ、行ってしまわれた……ブ、ブレイアム隊長様。よかったのでしょうか…?」
自分のやったことの正否をおずおずとブレイアムに問う少女。
ブレイアムはクスクスと笑いながらフォローした。
「いいえ、お嬢様。私も同じ事をしようと思っておりましたし、ワジル殿は言ってもお聞きにならないと思いますよ? ワジル殿はワジル殿の、お嬢様にはお嬢様の為すべき事を為されれば、それでよいと私は思います」
この言葉に少女から困惑の色が消え、笑みがこぼれた。
「はいっ、ありがとうございます!」
(か、可愛すぎる! 同い年だったら劣等感で死ねるわ!)
眩しい笑顔を向けられ一瞬グラつくブレイアムだが、ここは戦場。すぐに切り替え、この場にいる事の覚悟を柔らかく少女に問うた。
「先程の治癒魔法、お見事でした。間もなくこの場は凄惨な場になる事が予想されます。お嬢様には少々刺激が強いかもしれません。それでもなお、この場にお留まりになりますか?」
「覚悟はスウィンズウェルを出てから出来ております。隊の一員として、ご遠慮なくお使いください」
愚問だった。
少女は先程の柔らかな雰囲気とは打って変わって、力強い眼差しでブレイアムを見上げていた。
「分かりました。では、これより上官として指示させて頂きます」
「よろしくお願いします!」
(この若さで、というかまだ子供なのにあの治癒魔法の回復速度。相当魔力操作を鍛錬して、それに見合う魔力出力を得ているわね。それを成しえる前提としての魔力も相応量あるはず。回復隊員にこの子に敵う者がいるかどうか。間違いなく天才。それに才に溺れない努力家)
(これが軍神の娘…是非ともウチの2番隊に…あ、無理だ。この子スウィンズウェルの姫だったわ…アスケリノ殿が羨ましい)
こっそり熱い視線を少女に送っているブレイアムを、『ゴゴゴ』という効果音付きで睨みつけている従者マルコ。
(うちのお嬢様はあげませんよ?)
(わ、わかってるわよ!)
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