戦国武将異世界転生冒険記

詩雪

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第四・一章 ドルムンド防衛戦

第101話 ドルムンド防衛戦Ⅷ 邂逅

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 ―――ズドォォォォン!

 大火炎陣魔法フラム・ゲートに続いて、広域爆炎魔法ジオ・フラムの衝撃が戦闘中の中央軍にまで響き渡る。

 だが、中央軍長のフィオレには右翼の激戦に目を向ける暇などない。左翼より押し上げられてきた敵右翼が、敵中央軍に合流し始め、戦場はすし詰め状態となりつつあった。もはや敵軍に陣形も何もあったものではない。

 敵中央軍と敵右翼軍が重なると同時に、左翼騎馬隊がすかさず全隊突撃。敵騎馬隊は迎撃することも敵わず、蹂躙されるという状況になっていた。

 ここに、中央軍と左翼軍の挟撃が完成した。

 すかさず中央軍長のフィオレは敵の戦意を折るため、大声で檄を放つ。

「全軍聞け! 我が軍は挟撃に成功した! もはや勝ち戦である! これより敵を殲滅し、完全勝利を掴むのだ!」

 ――――お゛お゛お゛ぉぉぉっ!

 瞬間、士気の爆発が起こる。

 戦において兵の士気の差は、勝敗を決するといって過言ではない。右翼に歩兵隊1000を援軍にやった中央軍の兵数は7000。対する敵中央軍は6000であり、兵数差も帝国軍が上である。左翼も敵右翼との兵数差を縮め、今となっては左翼の方が兵数差でまさっている状況において、最早敵にこの状況を覆す事は不可能に近い状況となっていた。

 現にフィオレの宣言どおり、逃げ腰になりつつある敵は、背を打たれる状況が増え始めている。

 優れた将官ならこうなる前に危険を察知し、対策を取るか撤退してもおかしくはない。だが、ジオルディーネ軍は依然その場に留まっている。

(指揮官は何をしているんだ…どう見ても逆転の芽は無い。無駄に兵を失ってどうする。余程の無能か、それともまだ何か隠しているのか…だが、警戒の余り手を緩める訳にはいかない。早急に勝ちを確定させる事が、右翼の被害を減らす最大の手立てだ)

「全隊進め! 押して押して押しまくれ!」

 掛け声と共に、フィオレが自らの隊を進めた瞬間。


 ―――魔人の威圧いらっしゃーい

 
 いつの間にかフィオレの目の前にいた女が、口角を上げわらう。
 
 敵味方問わずまき散らされた殺気に、徒歩の者は膝を付き、騎馬の者は馬に振り落とされその場にうずくまった。


◇ ◇ ◇ ◇


 広域爆炎魔法ジオ・フラムと冒険者達の加勢により、息を吹き返した右翼軍は時折押されつつも善戦し、士気を保ったまま死闘を繰り広げていた。次の瞬間、

 ビクッ――――

 修羅の如く魔人兵をなぎ倒していた冒険者達の動きが止まる。

「待て…なんだこの圧力は…」
「ちょっと、冗談じゃないわ」
「…強い」

 『鉄の大牙』『喚水の冠帯』『破砕の拳』のメンバー全員が、突如中央から感じた強大な気配に動きを止めた、いや、止めざるを得なかった。

 そしてすぐさま察知する。
 魔人が出現したのだと。
 
 それとほぼ同時に、冒険者達と共に右翼のかなめの働きをしていた、サイの獣人ジャック以下10名の獣人ベスティア達が雄叫びを上げた。

「とうとう出たか、憎き魔人がぁぁっ!」
「ぶっ殺す! ジャックさん! 中央へ行きましょう!」
「ルイ様と仲間の仇! 絶対に許さん!」

 興奮の余り右翼の戦いを放棄して駆け出そうとする獣人ベスティア達を、その他の者が止められるはずもない。余りの様子の変化に、周囲に居た帝国兵達は恐れて離れていく者もいた。

 だが次の瞬間、獣人達を含めて、次は右翼軍に絶望が襲い掛かった。


 ―――ガォン!


「ひぃぃぃ!」
「わぁっ!」
「何だ!? 体が震え――」

 右翼後方から戦場に向けられた殺気で、冒険者と獣人ベスティア達を除き、帝国兵は皆その場で膝を折った。

「ジャック。生きていたか」

 凄まじい殺気を放ち、前線に近づいてくる者が一人。その体躯は優に3mはある。長い髭を蓄え、突き出す鼻と口。頭から毛の生えた耳らしき2つの突起物がある。まさに獣人だった。

「…は? ウギョウ…さん?」
「い、生きておられた! ウギョウさんだ!」
「よくぞご無事で!」
「しゃぁっ! ウギョウさんがいれば100人、いや1000人力だぁ!」

 ワーッと駆け寄る獣人達を見て、殺気に当てられ視線を外せずにいたアッガスが大声で止めに入った。

「馬鹿野郎! そいつは魔人だ! 近づくな!」

 ドゴン!

「ぶっ!」

 駆け寄った獣人ベスティアの一人に拳が振り下ろされ、頭を体にめり込ませながら地面に叩きつけられる。

 ただの一撃で勇猛果敢な獣人を肉塊に代えたウギョウを見て、帝国兵は戦慄した。誰もが言葉を失う中、獣人ジャックが辛うじて声を上げた。

「ウ、ウギョウさん…どうして…」

「見てわからんか? 俺はお前らの敵だ」

「っつ! なぜ同胞を手に掛けたのです!」

「同じ質問をするな。俺は生まれ変わり、さらなる力を手に入れたという事だ」

「ぐっ…まさか誇り高き獣人ベスティアを捨て、憎き魔人になられたという事ですか!」

「そういう事だ。この力はいいぞ? 最早今の俺はを凌ぐ強さだろうなぁ」

 ルイと言う名を聞き、獣人達の毛が逆立つ。

「偉大なる女王を呼び捨てになさるとは…確かに以前のウギョウさんではないようですね」

 バチッ バチッ バチチチチチ!

 悲しみと悔しさで身体を震わせながら、ジャックの瞳に再び白黄はくおうの戦意が灯り、全身が雷で覆われた。

 その瞬間、

「どっせい!」

 ズガン!

 アッガスの大剣クレイモアがウギョウを襲うが、寸で躱され地面に大穴を開けた。

「アッガス殿!?」

「フハハハハ! 威勢のいいのがおるではないか!」

「やるぞフロール! ウォーレス! 作戦通り、こいつは危険だ! ここで確実に殺す! コンラッド、ハイク! 後は頼んだぞ!」

 避けられた剣を地面から引き抜き、再度ウギョウに斬り掛かるアッガス。

 ウギョウはアッガスの猛襲を躱し、防ぎ、徐々に右翼戦線から誘い出すように距離を取っていった。

 アッガスに場を託されたコンラッドとハイクは正気を取り戻し、互いに言葉を交わす。

「あんな化け物に躊躇なく飛び掛かるウチのリーダーすげぇわ…」
「ハイク、呆けてる場合じゃない、やるぞ。俺らで魔人兵を倒し切らねばならん」

 『鉄の大牙』メンバーで槍闘士ドゥルガーのハイクと弓術士アルクス探査士サーチャーのコンラッドは、これよりリーダーのアッガスと、広域爆炎魔法ジオ・フラムを放って戦線を離脱した魔導師マギアのグレオールを除いて戦うことになる。

 それは『喚水の冠帯』『破砕の拳』のメンバーと、8人の獣人ベスティア達も同様である。

「確かにね。あいつヤバイわ。あんた達、私無しでも死ぬんじゃないわよ」
「フロール、頑張って!」

「弟子達。俺は行かねばならん。お前達だけで魔人兵ゾンビ共をねじ伏せろ」
「がってんだっ!」

「俺は魔人となってしまったウギョウさんを止めねばならない。人間に任せっきりでは、ルイ様はもちろんアギョウさんにも面目が立たん」
「ジャックさん…俺らは…」

 ガタガタと震える同胞の肩に手を置き、ジャックは続ける。

「ウギョウさんの強さは我々が一番よく知っている。そして到底敵わない事もな。お前たちはここで人間と共に魔人兵を葬ってくれ。俺が皆の分まで責任を果たしてくる!」

 ジャックは力強く宣言し、ウギョウの元へ駆けた。

 アッガスが言った作戦とは、3組のパーティーは中央、左翼、右翼に分かれて各軍の後方で待機。どの軍に魔人が出現しても備えられるようにし、いずれかで出現した場合、優先的に自分達が当たるようにしておくというものだった。

 魔人が出現した軍後方に控える冒険者パーティーがまず接敵し、その間に他の軍にいる冒険者パーティーのリーダーが駆け付け、最大火力を持って魔人を倒すというものである。

 リーダーのみで対処するというのは、ゾロゾロと3パーティー全員で掛かっても、1体相手ではまともな連携も取れず邪魔になるだけ。右翼の戦力が大幅に減少し、軍崩壊の危険が上がるという事態を避ける為だ。

 第三の魔人が1000体現れた段階でこの作戦は崩れてしまったが、右翼崩壊を防ぐためには致し方のない事だった。しかし、偶然ではあるがこうして3つのパーティーが結集していた右翼に魔人が現れたのは不幸中の幸いと言えるだろう。

 ただ、最初に中央方面から感じた圧力も魔人の物に違いない。中央に援軍に向かわねばならない思いながらも、3人のリーダーはまず魔人ウギョウを全力で倒す事を迷いなく選択した。1人でも戦力を欠いては、到底勝てないことを肌で感じ取っていたからだ。

 戦線から離れた場所で激しい戦闘を開始した魔人ウギョウと4人の戦士。

 未だ恐怖から立ち直れず魔人兵に蹂躙される右翼軍だったが、その中で最初に息を吹き返したのは、やはり軍長のローベルトだった。

(ま、魔人があれほどとは…膝を折ってしまうとは何て様だ! アッガス殿、フローレ殿、ウォーレス殿、ジャック殿、どうかご武運をっ!)

「これ以上恥を晒しては帝国騎士の名折れだ! 勇敢な戦士が戦っているにも関わらず、うずくまって震えるのが帝国騎士なのか! 全員、剣を取り立ち上がれっ!」

「う、ううっ!」
「畜生!」
「動けっ! 俺の脚っ!」
「こんなところで…死ねるかぁっ!」


 ―――うおぉぉぉぉっ!


 ローベルトの必死の檄により、騎士団員に再び戦意が宿る。

 再起の兆しが見え、剣を握る力が蘇ったローベルトの元に、体を震わせながら伝令員が駆け寄って来た。

「ローベルト軍長っ、秘匿伝令に付き失礼しますっ」

 息を切らし、かすれた声で伝令員が耳元で話した内容は、ローベルトの決心を折るかの如く信じがたい凶報だった。


 フィオレ中央軍長 凶刃に斃れました

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