121 / 200
第五章 ホワイトリム編
第117話 雪人
しおりを挟む
ギンジさんの好意に甘え、家の中へお邪魔することになった。
広々とした土間には竈、台所、厩が併設されており、奥には客間が2つと納戸がある。
囲炉裏のある客間へ通され、俺とアイレ、ギンジさんが囲炉裏を囲んで座る。囲炉裏も俺が前世で知る物とほぼ変わらず、小さく焚かれた薪からは、時折パチリと火の粉が舞う。音を立てて徐々に黒く、炭へと姿を変えるその様は、人の生にも似た無常なものだ。
若い生木は炎立ちよく燃えるが、灰汁(煙)が強い。勢い良く燃えた後、年を重ねた生木は、炎では無く熱を発する炭へと変わり、やがて力尽きて灰となる。
天井から吊るされた、煤で下半分が真っ黒になった茶器からはくつくつと湯気が立ち、その温かみは、冷たい土間との境界線で一層際立っている。
俺に歌(和歌)の造詣があれば、確実にここで一首出来ただろう。
その内余裕が出来れば、この光景を思い出して練習でもしてみようか。歌才はないけどな。
「改めて、私はこの村の村長をしておりますギンジと申します。先程は失礼しました」
「いいえこちらこそ。私の事はジンと気楽に呼んでください。それにギンジさん、どうか敬語はお止め下さい。私はまだまだ若輩者です」
「そうなのですか? あっと…そうなのか。なら、そうさせてもらおう。この子は息子のアカツキだ。5歳になる。アカツキ、ジン兄さんに挨拶しようか」
アカツキと呼ばれた少年は、アイレの膝の上で囲炉裏に向かって足をパタパタさせていた。
「こんにちは、アカツキ。俺はジンだ。よろしくな」
「ジンに…ジンにい。アカツキです! よろ★%&おねがいしあす!」
膝の上でペコリとお辞儀をする。
いやぁ…なんというか、いい子だ。大人しいし、ちゃんと言えてないところも、頑張ってる感じがいい。
「若輩と言いつつ雰囲気がらしくないんだが…何歳なんだい?」
「16を半分過ぎたばかりです」
「ははぁ…思った以上に若いね。しかし、気付いてるかい? 風格がとんでもないことになってるよ」
「はて、私にはなんとも。仮にそうお見えでしたら、母上のお陰です」
ここで言う母上には、コーデリアさんも含まれていたりする。礼儀や所作は、殆どあの人に仕込まれたようなものだ。
「うんうん。そういう謙虚な所もいいね。人間は皆そうなのかな?」
「どうでしょう…仲間には『おっさん臭い』だのと、からかわれていましたが」
レオ達4人に言われていた事だ。礼儀や所作は確かにコーデリアさんに仕込まれたが、見えない部分というか、行動原理みたいなものは、それもこれも父上とエドガーさん、オプトさんの教育の賜物だろう。変な嗜みと言うか、何というか。
良く言えば清濁併せ吞む、というやつか。悪く言えば…八方美人。
「はっはっは! そうだろうね―――アイレ? どうした?」
ふとギンジさんがアイレの様子を見て声を掛けた。先程からアイレが黙りこくって虚空を見つめている。
「はっ! いえっ! 何でもありません! アカツキが可愛くて可愛くて!」
絶対に何かあるなこれは。
訝しんでいると、裏手の戸がゴトリと開く音がして人が入って来る気配がする。しずしずと裏手から居間に歩いて来るや、その姿を目の当たりにすると、俺はその人の姿に釘付けになってしまった。
真っ白な長い髪に、これまた真っ白な毛に覆われた長い耳を持つ雪人らしき人。耳はギンジさんやアカツキと違って下を向いている。しかし、それはそれで目を見張る美しさだったが、俺が釘付けになったのは彼女が着ていた服。
この村の家々を見てからと言うもの、あり得るのではと思ってはいたが、ギンジさんやアカツキの着ている服を見て、その思いは霧散していた。俺が知る服と大して違いは無かったからだ。
だがここで巡り合った。着物に。
白を基調とした布地に、所々に赤や橙の梅?のような花が大小散りばめられており、半幅帯は淡い草色。着物というより身拭(浴衣)に近いが、そんなは事どうでもいい。とにかく着物があった。建物だけでなく、衣装でも前世に触れられるとは、感動ものだった。
「紹介しよう、妻のツクヨだ。ツクヨ、アイレが無事な姿を見せてくれた上に、面白い人を連れて来てくれた」
「初めまして奥方様。ジンと申します」
「やほー、ツクヨさん! 相変わらず無茶苦茶綺麗でびっくりするよ!」
言葉なくフワリと笑ったツクヨさんは、居間の隅に上がり、静かに座って頭を下げた。
「妻のツクヨと申します。ジン様。ようこそお越しくださいました。ごゆるりとお過ごしいただけますよう」
「こ、これはご丁寧に。突然の訪問痛み入ります。どうかお気遣いなく」
ツクヨさんは、消え入りそうな声で深々と頭を下げたまま言う。
平安貴族かな?
ここまで前世を想起させる女性は初めてだ。なるべく感情を表に出さず、無用な声も出さない、今のが最大声量では無いかと思わせる程の雰囲気がツクヨさんにはある。
「アイレ様、ご壮健で何よりでございます。またお会いできてうれしゅうございます」
「ツクヨさんの手当で完璧に治ったよ! 本当にありがとう!」
アカツキを俺にパスし、頭を下げているツクヨさんを無理やり起こして抱き着くアイレ。
こらこらこらこら、よく見ろ。ツクヨさん無茶苦茶困った顔してるじゃないか。
今の俺の距離感では注意する事もできず、あきれ顔を向けてやる事しか出来ない。
◇
アイレから解放されたツクヨさんは夕餉の準備に取り掛かかると言い、台所に姿を消した。俺とアイレの分も用意してくれるらしく、正直、楽しみでしかない。
ギンジさんの話では、この村の食料事情はとても安定しているらしく、家の前は全て畑だという。1年の内の2ヶ月ほど、この山間は雪が解けるそうで、その間に畑仕事を終えてしまうらしい。来る途中、雪中に埋まっていた杭は畑の範囲と、何を植えているかの識別に使っているものだそうで、収穫する際は雪を掘り起こすとの事だった。
この地方の野菜や果物は、厳しい寒さに耐えるために自衛手段として多くの栄養を蓄えて育つ。冷たい雪の中で育つから、虫食いや病、それに収穫後の腐敗とはほぼ無縁と言うこともあり、食料事情安定の大きな理由でもあるらしい。
そんな話が始まった頃のアカツキはと言うと、今も引き続き俺の肩に乗っている、肩車されている。俺の膝が硬くて嫌になったのか、飽きたのか、服を掴んで身体をヨジヨジと登り始めたと思ったら、そこに落ち着いたらしい。髪を握りしめ、まるで暴れ馬に乗っているかのように『おわー』と遊んでいる。
ギンジさんとツクヨさんがアカツキを下ろそうとしたが、丁重にお断りし、そのままにしておいてもらった。所詮は五歳児だ。軽いし、暴れようが何をしようが、強化魔法を上半身にかけている俺には何の影響もないのだ。それくらいの魔力はいくらでもくれてやるさ。
「そういえば、村の四方の氷柱は昔からある物なのですか? とても立派で驚きました」
ふと気になった事を聞いてみた。あれは自然物ではないはず。誰かが作ったものだ。
「初めて見る人は驚くだろう。あの氷柱は300年程前、我々雪人の偉大な魔法師様がお作りになられたものでね。そのお方の名前がフクジュ様。この村はフクジュ様のお名前を頂いているんだ」
「あ、あれを? 魔法で? そんな馬鹿な…どうやって300年もの間、形を保っていられるのです」
「伝承ではフクジュ様が作り出した氷では無く、元々ここにあった雪を固めて作られたものだかららしいね。形作ってしまえば、後はこの地方の気候が守ってくれるって寸法だろう」
「あ…なるほど」
氷魔法で作られたものなら魔素に還り跡形も無くなるが、氷魔法を使って形成しただけなら、その力が無くなっても確かに形は残るな。
「作られて暫くは、魔物や魔獣はこの村に近づけなかったらしいよ。魔除けの魔法が込められていたらしい。当時は分からないけど、今はこの国には強い魔物や魔獣はいないから、どうという事は無いんだけど」
「確かに、ここに来るまでに何度か見かけましたが、力のない魔物ばかりでした」
「だろうね。それでも5年前、エンペラープラントが根を下ろしちゃってね。それはもう大変だったんだよ。山向こうの村は暴れまわる根っこのせいで地盤が割れて村ごと飲まれるし、雪崩もしょっちゅう」
「それは大変な…」
「次はどこに移動するのか、それは恐れたもんだよ。だけど、その危機を救ってくれたのが”山神様”って訳だ」
ピクッと反応してアイレに目線をやると、浅く頷いた。
そう、俺とアイレがこのホワイトリムまで来た理由は、まさしくその”山神様”だった。
「山神様とエンペラープラントの戦いは山向こうなのに、ここまで轟音が聞こえて来たほどだ。戦いの後何人かで現地を見に行ったんだけど、バラバラになったエンペラープラントの残骸が今も脳裏に焼き付いているよ」
当時の記憶をつらつらと話してくれるギンジさん。時折つらそうな顔をしつつも話してくれているのは、次の言葉を紡がなければならないという、村長としての使命感だったのかもしれない。
「だけどね…感謝と畏怖の念を込めて皆は”山神様”とは呼んではいるものの、今度はその山神様が、雪人の恐れの存在となってしまった。命の恩人だけれど、皆にとっては感謝の気持ちより、恐れの気持ちが遥かに大きくなっていったんだ。皮肉なことにね」
「………」
「我々雪人は、臆病で弱い。今となっては、この村で山神様にお供えをするのは私1人だけだよ」
「人間も」
「?」
「我々人間も同じですよ。自分より遥かに強大な存在は、排除か忌避のいずれかを選択する者がほとんどだと思います。決して、雪人達がという事ではありません。あるべき生存本能だと、私は思います。それに、ギンジさんは1人でもお供えをされているのでしょう? 人間よりよっぽど立派なお方だ」
「…そう言ってもらえると、少しは救われるよ。…ありがとう」
俯き肩を震わせるギンジさん。俺の肩から降り、心配そうに父を覗き込んだアカツキは、何も言わずにそっと父の膝の上に座った。
包丁がまな板を小気味よく叩いていた音がいつの間にか消え、コトコトと鍋が揺れる音だけが、土間から聞こえてくる。
広々とした土間には竈、台所、厩が併設されており、奥には客間が2つと納戸がある。
囲炉裏のある客間へ通され、俺とアイレ、ギンジさんが囲炉裏を囲んで座る。囲炉裏も俺が前世で知る物とほぼ変わらず、小さく焚かれた薪からは、時折パチリと火の粉が舞う。音を立てて徐々に黒く、炭へと姿を変えるその様は、人の生にも似た無常なものだ。
若い生木は炎立ちよく燃えるが、灰汁(煙)が強い。勢い良く燃えた後、年を重ねた生木は、炎では無く熱を発する炭へと変わり、やがて力尽きて灰となる。
天井から吊るされた、煤で下半分が真っ黒になった茶器からはくつくつと湯気が立ち、その温かみは、冷たい土間との境界線で一層際立っている。
俺に歌(和歌)の造詣があれば、確実にここで一首出来ただろう。
その内余裕が出来れば、この光景を思い出して練習でもしてみようか。歌才はないけどな。
「改めて、私はこの村の村長をしておりますギンジと申します。先程は失礼しました」
「いいえこちらこそ。私の事はジンと気楽に呼んでください。それにギンジさん、どうか敬語はお止め下さい。私はまだまだ若輩者です」
「そうなのですか? あっと…そうなのか。なら、そうさせてもらおう。この子は息子のアカツキだ。5歳になる。アカツキ、ジン兄さんに挨拶しようか」
アカツキと呼ばれた少年は、アイレの膝の上で囲炉裏に向かって足をパタパタさせていた。
「こんにちは、アカツキ。俺はジンだ。よろしくな」
「ジンに…ジンにい。アカツキです! よろ★%&おねがいしあす!」
膝の上でペコリとお辞儀をする。
いやぁ…なんというか、いい子だ。大人しいし、ちゃんと言えてないところも、頑張ってる感じがいい。
「若輩と言いつつ雰囲気がらしくないんだが…何歳なんだい?」
「16を半分過ぎたばかりです」
「ははぁ…思った以上に若いね。しかし、気付いてるかい? 風格がとんでもないことになってるよ」
「はて、私にはなんとも。仮にそうお見えでしたら、母上のお陰です」
ここで言う母上には、コーデリアさんも含まれていたりする。礼儀や所作は、殆どあの人に仕込まれたようなものだ。
「うんうん。そういう謙虚な所もいいね。人間は皆そうなのかな?」
「どうでしょう…仲間には『おっさん臭い』だのと、からかわれていましたが」
レオ達4人に言われていた事だ。礼儀や所作は確かにコーデリアさんに仕込まれたが、見えない部分というか、行動原理みたいなものは、それもこれも父上とエドガーさん、オプトさんの教育の賜物だろう。変な嗜みと言うか、何というか。
良く言えば清濁併せ吞む、というやつか。悪く言えば…八方美人。
「はっはっは! そうだろうね―――アイレ? どうした?」
ふとギンジさんがアイレの様子を見て声を掛けた。先程からアイレが黙りこくって虚空を見つめている。
「はっ! いえっ! 何でもありません! アカツキが可愛くて可愛くて!」
絶対に何かあるなこれは。
訝しんでいると、裏手の戸がゴトリと開く音がして人が入って来る気配がする。しずしずと裏手から居間に歩いて来るや、その姿を目の当たりにすると、俺はその人の姿に釘付けになってしまった。
真っ白な長い髪に、これまた真っ白な毛に覆われた長い耳を持つ雪人らしき人。耳はギンジさんやアカツキと違って下を向いている。しかし、それはそれで目を見張る美しさだったが、俺が釘付けになったのは彼女が着ていた服。
この村の家々を見てからと言うもの、あり得るのではと思ってはいたが、ギンジさんやアカツキの着ている服を見て、その思いは霧散していた。俺が知る服と大して違いは無かったからだ。
だがここで巡り合った。着物に。
白を基調とした布地に、所々に赤や橙の梅?のような花が大小散りばめられており、半幅帯は淡い草色。着物というより身拭(浴衣)に近いが、そんなは事どうでもいい。とにかく着物があった。建物だけでなく、衣装でも前世に触れられるとは、感動ものだった。
「紹介しよう、妻のツクヨだ。ツクヨ、アイレが無事な姿を見せてくれた上に、面白い人を連れて来てくれた」
「初めまして奥方様。ジンと申します」
「やほー、ツクヨさん! 相変わらず無茶苦茶綺麗でびっくりするよ!」
言葉なくフワリと笑ったツクヨさんは、居間の隅に上がり、静かに座って頭を下げた。
「妻のツクヨと申します。ジン様。ようこそお越しくださいました。ごゆるりとお過ごしいただけますよう」
「こ、これはご丁寧に。突然の訪問痛み入ります。どうかお気遣いなく」
ツクヨさんは、消え入りそうな声で深々と頭を下げたまま言う。
平安貴族かな?
ここまで前世を想起させる女性は初めてだ。なるべく感情を表に出さず、無用な声も出さない、今のが最大声量では無いかと思わせる程の雰囲気がツクヨさんにはある。
「アイレ様、ご壮健で何よりでございます。またお会いできてうれしゅうございます」
「ツクヨさんの手当で完璧に治ったよ! 本当にありがとう!」
アカツキを俺にパスし、頭を下げているツクヨさんを無理やり起こして抱き着くアイレ。
こらこらこらこら、よく見ろ。ツクヨさん無茶苦茶困った顔してるじゃないか。
今の俺の距離感では注意する事もできず、あきれ顔を向けてやる事しか出来ない。
◇
アイレから解放されたツクヨさんは夕餉の準備に取り掛かかると言い、台所に姿を消した。俺とアイレの分も用意してくれるらしく、正直、楽しみでしかない。
ギンジさんの話では、この村の食料事情はとても安定しているらしく、家の前は全て畑だという。1年の内の2ヶ月ほど、この山間は雪が解けるそうで、その間に畑仕事を終えてしまうらしい。来る途中、雪中に埋まっていた杭は畑の範囲と、何を植えているかの識別に使っているものだそうで、収穫する際は雪を掘り起こすとの事だった。
この地方の野菜や果物は、厳しい寒さに耐えるために自衛手段として多くの栄養を蓄えて育つ。冷たい雪の中で育つから、虫食いや病、それに収穫後の腐敗とはほぼ無縁と言うこともあり、食料事情安定の大きな理由でもあるらしい。
そんな話が始まった頃のアカツキはと言うと、今も引き続き俺の肩に乗っている、肩車されている。俺の膝が硬くて嫌になったのか、飽きたのか、服を掴んで身体をヨジヨジと登り始めたと思ったら、そこに落ち着いたらしい。髪を握りしめ、まるで暴れ馬に乗っているかのように『おわー』と遊んでいる。
ギンジさんとツクヨさんがアカツキを下ろそうとしたが、丁重にお断りし、そのままにしておいてもらった。所詮は五歳児だ。軽いし、暴れようが何をしようが、強化魔法を上半身にかけている俺には何の影響もないのだ。それくらいの魔力はいくらでもくれてやるさ。
「そういえば、村の四方の氷柱は昔からある物なのですか? とても立派で驚きました」
ふと気になった事を聞いてみた。あれは自然物ではないはず。誰かが作ったものだ。
「初めて見る人は驚くだろう。あの氷柱は300年程前、我々雪人の偉大な魔法師様がお作りになられたものでね。そのお方の名前がフクジュ様。この村はフクジュ様のお名前を頂いているんだ」
「あ、あれを? 魔法で? そんな馬鹿な…どうやって300年もの間、形を保っていられるのです」
「伝承ではフクジュ様が作り出した氷では無く、元々ここにあった雪を固めて作られたものだかららしいね。形作ってしまえば、後はこの地方の気候が守ってくれるって寸法だろう」
「あ…なるほど」
氷魔法で作られたものなら魔素に還り跡形も無くなるが、氷魔法を使って形成しただけなら、その力が無くなっても確かに形は残るな。
「作られて暫くは、魔物や魔獣はこの村に近づけなかったらしいよ。魔除けの魔法が込められていたらしい。当時は分からないけど、今はこの国には強い魔物や魔獣はいないから、どうという事は無いんだけど」
「確かに、ここに来るまでに何度か見かけましたが、力のない魔物ばかりでした」
「だろうね。それでも5年前、エンペラープラントが根を下ろしちゃってね。それはもう大変だったんだよ。山向こうの村は暴れまわる根っこのせいで地盤が割れて村ごと飲まれるし、雪崩もしょっちゅう」
「それは大変な…」
「次はどこに移動するのか、それは恐れたもんだよ。だけど、その危機を救ってくれたのが”山神様”って訳だ」
ピクッと反応してアイレに目線をやると、浅く頷いた。
そう、俺とアイレがこのホワイトリムまで来た理由は、まさしくその”山神様”だった。
「山神様とエンペラープラントの戦いは山向こうなのに、ここまで轟音が聞こえて来たほどだ。戦いの後何人かで現地を見に行ったんだけど、バラバラになったエンペラープラントの残骸が今も脳裏に焼き付いているよ」
当時の記憶をつらつらと話してくれるギンジさん。時折つらそうな顔をしつつも話してくれているのは、次の言葉を紡がなければならないという、村長としての使命感だったのかもしれない。
「だけどね…感謝と畏怖の念を込めて皆は”山神様”とは呼んではいるものの、今度はその山神様が、雪人の恐れの存在となってしまった。命の恩人だけれど、皆にとっては感謝の気持ちより、恐れの気持ちが遥かに大きくなっていったんだ。皮肉なことにね」
「………」
「我々雪人は、臆病で弱い。今となっては、この村で山神様にお供えをするのは私1人だけだよ」
「人間も」
「?」
「我々人間も同じですよ。自分より遥かに強大な存在は、排除か忌避のいずれかを選択する者がほとんどだと思います。決して、雪人達がという事ではありません。あるべき生存本能だと、私は思います。それに、ギンジさんは1人でもお供えをされているのでしょう? 人間よりよっぽど立派なお方だ」
「…そう言ってもらえると、少しは救われるよ。…ありがとう」
俯き肩を震わせるギンジさん。俺の肩から降り、心配そうに父を覗き込んだアカツキは、何も言わずにそっと父の膝の上に座った。
包丁がまな板を小気味よく叩いていた音がいつの間にか消え、コトコトと鍋が揺れる音だけが、土間から聞こえてくる。
0
あなたにおすすめの小説
タイム連打ってなんだよ(困惑)
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
「リオ、お前をパーティから追放する。お前のようなハズレスキルのザコは足手まといなんだよ」
王都の冒険者ギルドにて、若手冒険者のリオは、リーダーの身勝手な都合によってパーティから追い出されてしまい、同時に後宮では、聖女の降臨や第一王子の婚約破棄などが話題になっていた。
パーティを追放されたリオは、ある日商隊の護衛依頼を受けた際、野盗に襲われる可憐な少女を助けることになるのだが、彼女は第一王子から婚約破棄された上に濡れ衣を着せられて迫害された元公爵令嬢こと、アイリスだった。
アイリスとの出会いから始まる冒険の旅、行く先々で様々な思惑によって爪弾きにされてしまった者達を受け入れていく内に、彼はある決意をする。
「作ろう。誰もが幸せに過ごせる、そんな居場所を」
目指すべき理想、突き動かされる世界、そしてハズレスキル【タイム連打】に隠されたリオの本当の力とは?
※安心安全安定安泰の四安揃った、ハピエン確定のハズレスキル無双です。
『エ○ーマンが倒せない』は関係ありません。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
転生したら王族だった
みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。
レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~
楠富 つかさ
ファンタジー
ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。
そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。
「やばい……これ、動けない……」
怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。
「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」
異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる