戦国武将異世界転生冒険記

詩雪

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第五章 ホワイトリム編

第116話 フクジュ村

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 ザクッ、ザクッ、ザクッ

 シュゴーッ

 今、雪中を歩いている。

 ラクリを抜けホワイトリムへ向かったは、行軍跡を発見してから丸1日、休みなく歩き続けている。
 北へ向かうにつれ足元は雪で覆われ、周囲の木々も雪の冠をかぶるようになり、それも次第に樹氷へと変わっていった。

 山の天気は変わりやすいとはよく言ったもので、先程まで雪に反射した日の光で目が痛いほどだったが、今は横殴りの吹雪が俺を襲っている。とはいえ、山道を歩いている訳ではなく、山の合間の平坦な地を歩いているので、雪山行軍という訳ではない。

 前が数メートル先しか見えない。
 横にいる連れ合いが腹立たしい。

 不満は、それくらいだろうか。

「ジン」
「着いたか」
「まだよ」
「こんな状況で飯とか言わなでくれ」
「寒いわ」
「………」

「寒いわ」
「…そうか」
「そうか、じゃない!」

 アイレが突然怒り出した。吹雪いて来てからと言うもの、彼女は不機嫌である。

「なんでそんな平気な顔してるわけ!? 私でもこんなに寒いのに!」
「待った。俺は雪中を一歩一歩、踏みしめて歩いている。対する君はどうだろう。雪上を浮いている。この差の方が不条理だと思わないか? そもそも昨日聞いただろう、寒く無いの―――」
「あーっ、あーっ! 細かい男ね! そんなんじゃモテないわよ! あんたも風まとい使えばいいだけじゃない!」

 そう。アイレは特技である『風纏い』という魔法で自身の周囲を風で包み込み、寒さを凌ぐだけでなく、身体を絶妙に浮かせることで、雪中を歩くという行為を省略している。つまり、ふわふわと浮いている状態なのだ。

 だから多少寒くても薄着で平気な顔をしていたのだが、さすがに吹雪レベルのものは完全に防げない様だ。我慢出来るが、我慢したくない。そんな感じだろう。

 そして問題が1つ。アイレの風纏いは寒さに比例して強くなる。それは横にいる俺にも影響が出ていて、左から来る吹雪に、右から来る竜巻、みたいな状況になっている。寒さ倍増だし、視界は余計悪くなるわで、俺の方は踏んだり蹴ったりなのだ。

 そんな状況を、文句も言わず耐えていた。彼女は俺の苦労に絶対に気付いていない。
 それも彼女の『寒い』の一言で、我慢の防波堤はたやすく決壊した訳だが。

「真似てやってみたさ。だが体を常時浮かせるような風纏いは魔力消費が途方もない。君の風纏いのようにはいかないんだ」

「私のは洗練されてるからね。アンタみたいに力技じゃないのよ」

 フフンと得意げに鼻を鳴らす。

 そのまま寒さを忘れてくれ。

 言い返すことなく黙っていると、ハッとしたかのように追撃してきた。

「ちょっと、話そらさないでよね! さっき一瞬緑に光ってたの見てたんだから! なんか寒く無くなる魔法使ってるでしょ!」

 露見ばれてたか。

 かくいう俺は、地面が雪に覆われた段階で大地魔法をかけていた。これで防寒対策はばっちりで、身体は戦闘中の状態まで高められている。その上しっかりと着込んでいるので、寒さとは無縁だった。

「よくわかったな。だがこれは俺にしか使えないんだ」

 両腕を抱えてガクブルしているアイレに、適当に嘘をついてニヤリとしてやる。

「嘘だっ、絶対嘘! ズルいわよ!」

 呪詛じゅそを唱え、俺の周りをグルグルと飛び回り始めた。仕返しだと無視して10歩ほど歩くと、涙目でとうとう行く手を阻んでくる。

 はぁ…仕方ない…

「わかった」
「やってくれる?」

 パァッと明るくなるアイレ。

「とりあえず竜巻をやめるんだ」
「へ?」
「へ? じゃない。そんな暴風を纏ったヤツに近づけない。それにそのせいで風の音がうるさいし、俺の視界は最悪なんだぞ」

 ここぞとばかりに文句を言ってやる。

「あ…無意識だった。ゴメン…でもめたら寒さで死んじゃうよ」
「かけてすぐ、また竜巻にでも何でもなればいいだろう。その代わり離れてくれよな。もう竜巻と吹雪の二重苦は御免だ」
「わ、わかった…」

 やはり気付いてなかったようで、俺の突き放すような苦言にしょんぼりしている。反省の心はあるようだな。

 彼女がフッと風纏いを解いたと同時に、大地魔法を掛けてやる。

「全く…―――獅子の心ライオンハート

 同時にアイレの身体が緑に光り、スッと元に戻る。

「…えっ? あったかい!? なにこれ! すごっ! どんどんあったかくなってくる!」

「耐寒、耐熱、耐毒、耐痺。あとは分からん。とりあえず便利魔法だ」

「毒? 痺れ?…なんだかわかんないけど凄いわジン! よくも黙ってたわね!」

 嬉しさの余り、抱き着こうとしてくるアイレを必死に制する。

「は、離れろ、暴風娘っ」

「私の抱擁を嫌がるなんて頭おかしいんじゃないの!? …ま、テレるトコもカワイイわよ♪」

「…竜巻はもういいのか」

「何のこと?」

 手を後ろに組み、先を歩き出すアイレ。

 どうやら竜巻の必要性は無くなったようで、風纏いの勢いはそよ風にまで落ちているようだ。相変わらず浮いているところを見ると、体を浮かせる最低限がそれくらいという事だろう。

「ジン」

「まだ何か」

「おなか減った」


 ◇


 吹雪は収まり、山深い道なき道を進む。いや、道はあるらしく雪で覆われているだけで、アイレ曰く今歩いているここは、雪が解ければちゃんとした道になっているらしい。

「見えてきた。あれがフクジュ村よ」

 アイレの指差す先に氷柱が立っている。この距離から見えるという事は、かなり巨大なものであることが伺える。目標が見えたのならしめたもの、若干足取りは軽くなる。

 サクサク歩くと次第に集落らしき家々が現れ、氷柱はやはり巨大なものであることが分かった。氷柱は集落の四方に配置されており、まるで集落を守るかのようにそびえ立っている。

 しかし、何より俺が驚いたのは村の家だ。雪が積もらぬよう急こう配に作られた屋根、家の前での作業を可能にするため、はりを伸ばして深い軒先が確保されている。軒下には野菜らしきものが干されており、それが風で揺れる様は俺の原風景とも言える光景。

 まさしく前世で知る、雪国の日本家屋だった。

「世界が変わっても、同じものにたどり着く場所があるということか…」

 先を行くアイレには俺のつぶやきは聞こえない。

 氷柱を通り過ぎ、集落に入ると、遠くの軒下で作業をしていた雪人ニクスが、アイレに気付いて頭を下げた。
 笑顔で手を振り返すアイレ。

「おかしいわね…」

 ふと、村が自分の知る雰囲気と違う事に首をひねる。

「何がだ?」
「人が少なすぎる」
「まぁ、確かに」

 村に入ると同時に俺も同じ事を思ったが、如何せんこの寒さだし、日も傾きかけてる。皆家にこもっているのだろうと勝手に納得していたが、どうやらそうでもないらしい。ジオルディーネ軍の仕業なら、争った形跡の一つや二つはあるというものだが、一見すると村は平和そのもの。その可能性も低いように思える。

「まぁ、とにかく行きましょう。聞いた方が早いわ」

 家と家の間隔が妙に広く、あちこちに杭のような木の棒が雪中から伸びている。土地の所有範囲を示しているのだろうか。だとすれば、しっかり管理された村であることが伺える。

 そしてアイレは村の中をどんどん進んでいき、とある家の前で俺に手招きをした。

「ここが村長の家よ」
「これはまた立派な屋敷だな」

 母屋の隣にと、土倉らしき建物まである。他の家が母屋のみ、もしくは母屋と小さな小屋だけだったのを見ると、さすが村長宅と言ったところか。

「ギンジさーん。アイレです。いらっしゃいますかー」

 母屋の戸をドンドンと叩き、アイレが村長らしき名を呼んだ。すると中から声にならぬ声がし、心張しんばり棒を勢いよく外される音と共に、戸が勢いよく開いた。

「アイレっ!! よく無事だった!!」

 中から現れたのは比較的若く見える雪人ニクス。見た目は人間そっくりだが、耳だけが違う。白と黒がまだらに混ざった毛に覆われており、ピンと立っていた。

 ギンジと呼ばれた雪人ニクスは、アイレの訪問が余程嬉しかったのか、彼女の肩を掴んで揺さぶっている。

「ギンジさん、お、落ち着いて! この通り元気ですから!」
「す、すまない。興奮してしまった。ツクヨも君の事をとても心配していたんだ。さぁ、入ってくれ! ――――おや?」

 興奮冷めやらぬと言った様子のギンジさんは、アイレの後ろにいる俺にやっと気が付いた。

「そちらの方は……に、人間!?」

 急に警戒心を露わにし、タジタジと下がっていく。余程人間に免疫が無いのか、恐れも含んだ表情に俺は苦笑いしかできない。

 アイレ…そうならそうと言っといてくれ。怖がられてるではないか。恐怖の対象がいきなり門扉もんぴに現れたら誰だって驚くぞ。

 と、思いつつも俺の配慮が足りなかった部分もある。

「大丈夫です! 確かに人間ですが、この人は私の命の恩人です!」
「い、命の恩人…?」
「そうです。なので心配しないで下さい」

 なお訝しんでいるギンジさんの不安をぬぐうには、俺が声を上げねばならない。

「驚かせて申し訳ない。冒険者のジンといいます。私は外で遊んでおりますので、どうかご心配なく」

 深々と頭を下げきびすを返した。

 さぁて、巨大雪だるまでも作るか!
 これほどの雪は前世以来だったので、実は童心に火がついていたりするのだ。
 これぐらいは許して欲しい!

「え、ちょ、ちょっと…」
「お、お待ちを! ジン殿っ!」

 呼び止められたので、つと立ち止まり振り向いた。

「失礼した! アイレの命の恩人に人間も亜人も無い! 臆病な私を許して欲しい!」
「…いえ、大丈夫ですよ。時勢も考えず、無造作に訪ねた私が悪いのです」
「ご、ごめんなさい…私が悪いです…」

 扉の前で謝り合う3人。その微妙な空気を救ったのは、小さな雪人ニクスの少年だった。

「おとーさん。なにやってる?」
「アカツキ! 元気だった!?」

 アイレにアカツキと呼ばれた少年は、アイレを見るや否や満面の笑みを浮かべ、駆け寄って抱き着いた。互いに嬉しそうにじゃれ合っている2人を見て、俺とギンジさんは顔を見合わせ、アハハと苦笑いする。
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