119 / 200
第五章 ホワイトリム編
第115話 作戦会議Ⅱ
しおりを挟む
ワジルの呼び出しを受けて馬鹿デカい声で入室して来たのは、いかにも職人と言った感じの地人だった。
「あいや、えれー人ばっかじゃねか! ご苦労さんでさぁ皆さん! で、長ぁ! 何の用です!?」
声の主は、忙しいから早く要件を言えとばかりにワジルを急かす。
「声がでけぇ! ここは厳かな場なんじゃ! すまんのぉ皆の衆…こいつはダイクと言っての。大工の棟梁じゃ」
「いやぁ、すまねぇすまねぇ。で、なんでオラぁ呼ばれたんでさぁ?」
全然ついていけない騎士団の面々は呆気にとられ、フロールは笑いを隠そうと必死に口を押えていた。
「お主、この川に橋を架けたの?」
地図を指差し、ワジルがダイクに尋ねる。
「ん? おぉ…架けた、な。しかし大分前ですぜ? どんな橋だったか」
「ふむ。まぁいい。またここに架けるとして、長さ200m深さ8m。お主の組総出でやればどれくらいでできる」
「はぁ…そんなもん、規模によるでしょーよ」
チラリとカーライルに目線をやるワジル。
カーライルはハッとしながら答えた。
「騎馬が2頭、安全に平行して駆けられれば結構。柵や装飾は一切不要です」
「何年持たせるんですかい?」
「まさか、余裕をもって1週間あれば十分です」
「それなら30分ですな」
全員沈黙。
「…今、なんと?」
「あいやすまねぇ! 間違えた!」
「で、でしょうな…」
カーライル含め、全員が白昼夢でも見たかのように溜息をつくが、次は息を止められる羽目になる。
「馬鹿たれ! 総出と言うとろうが!」
「だからすまねぇって言ったんでしょうに! 総出だと手が余っちまうよ!」
――――ん?
「えれー方、すまねぇ。しかし200mって言やぁ、橋にしちゃまぁまぁ長げぇ。やっぱ30分以下は無理でさぁ…総出でも30分、しかも同時に5、6本は出来ちまう。そんなにいらねぇでしょう…」
ここで、耐え切れずにフロールが大笑いする。
「あーはっはっは! もう無理、痛いよ、おなか痛いよっ! 大工のダイクさん、さいっこう!」
「フ、フロール…失礼、ですよ…」
ここまで静かにしていたコーデリアも、必死に笑いを堪え、顔を伏せている。
「だって、コーデリアさんっ! あり得な過ぎるでしょう!? あーはっはっは!」
「ええ…まぁ…ダイク様にご助力をお願いしましょう、カーライル団長。ああ、今はカーライル卿でしたか」
コーデリアとカーライルは、所属した騎士団こそ違うが、マイルズと帝都が距離的にも近い事もあり、合同訓練や遠征先も同じ事が多かったため、お互いをよく知る間柄である。
なぜ女性陣だけが笑い、男性陣が溜息をついているか分からないダイクだが、取り合えず仕事が降ってきそうな雰囲気は掴んだらしい。『何だか分からんがまかせろ!』と言って腕をまくっている。
笑いが止まらないコーデリアは、さっさと次に進めたかった。
「くっ…コーデリア。相変わらずだな、お前さんは」
「さて、何のことでしょうか?」
「本営が懸命に考えた策が、一瞬にして次点に落ちたんだ。はっきり言えばいいものを」
「まぁ。そんな事思っておりませんよ?」
「もういい…ラングリッツを思い出させよって…」
ラングリッツとは、コーデリアが軍神と呼ばれるきっかけとなった、リーゼリア王国との戦いの場、ラングリッツ平原の事である。
当時マイルズ騎士団1番隊長の任に就いていたコーデリアの働きで、リーゼリア王国から無期限の休戦協定を申し出させた。それまで毎年のように戦争をしていた事からも伺えるが、その成果は奇跡に近いものだった。『軍神』や『戦乙女』、『戦争を終わらせた者』などと当時はいろいろ言われたが、今となっては『軍神』の異名が定着している。
その後、地人による架橋作戦を中心に、戦いの全体像が組みなおされ、作戦が決定した。
「では、挟撃隊は5日後、本隊は6日後に出陣とする。質問は?」
一同沈黙
「では健闘を祈る! 帝国に勝利を!」
――――帝国に勝利を!
カーライルと騎士団員の唱和で報告作戦会議は終了。
皆が席を立ったその時、バタンと会議室の扉が開いた。
入って来たのはガーランド冒険者ギルドの職員だった。
「し、失礼します。取り急ぎ、ドッキア冒険者ギルドからの報告をお伝えしたく…」
肩で息をするギルド職員は、同じく会議室にいた同僚の職員に促されて水を飲み、報告に入った。
「エーデルタクトのリュディアが、ドッキアからの冒険者により解放されました! 風人族長の奥方含め、300人の捕虜が帝国領内へ亡命中です!」
地人による架橋作戦の光明もつかの間、新たな勝報に皆が湧いた。この機を軍総司令であるカーライルが逃すはずは無い。彼の行動は非常に速かった。
「ほぅ! 素晴らしい! リュディアと言えば敵の本営があった場所ではないか! 通信士、すぐさま帝都本営へ連絡し、エーデルタクト防衛軍を編成、進駐させろ。リュディアをミトレス東部本営とし、ドラゴニアおよびミルガルズを解放する!」
「はっ!」
カーライルの指示が飛んだあと、職員は更なる朗報をもたらす。
「次いでご報告します。エーデルタクトにてその冒険者は風人の姫を救出、リュディアを解放する際、3体の魔人を討伐したとの事です」
「なっ!? アイレ姫は生きておられると!?」
まず取り乱したのは獣人ジャック。彼は、涙の日を経て、自分を含めた10人以外の生存者を知らなかった。このミトレス連邦の重要人物の存命の報に大いに喜んだ。
ジャックの確認に、笑顔でコクリと頷いたギルド職員。その『確かです』の言葉にジャックは思わず涙した。
「よかったっ! 本当によかったっ! これでルイ様がお戻りになれば、ミトレスは復活できる!」
ジャックが喜ぶその姿は、その場にいた全員の胸を打った。
最も被害を受け、今も受け続けている獣王国の住人にもたらされた希望は、皆にも力を与えた。
ここで、アッガスがジャックに問うた。
「姫は女王と同等の力をお持ちなのか?」
「…いや、俺よりはお強いとは思うが、戦いと言う面で見ればルイ様はもちろん、先の大戦で散った竜人のガリュウ殿にも及ばないだろう。しかし、アイレ姫の強さはそこにあらず。亜人族の懸け橋となられる、不思議な魅力をお持ちの方なんだ。雪人や樹人といった、他種族と関わろうとしない者達も、姫とだけは交流を持っていると聞く」
「なるほどな。確かにミトレス全体にとって必要な方の様だ。しかし、そうなると―――」
「魔人を3体も葬ったパーティー。どこのどいつだ」
アッガスが知りたかったことを、ウォーレスが言葉をつなぎ、2人してギルド職員を睨みつけた。
睨まれた2人の職員は恐縮しながら、なにやらコソコソと相談を始める。
フロールは血の気の多いアッガスとウォーレスを呆れながら諫めた。
「職員さん困ってんじゃん! 誰がやったとかどうでもいいでしょ! 風人の里が助かって、お姫さんが無事だったんだから」
「フロール。確かにお前にとってはどうでもいいかもしれないが、魔人を3体だぞ? ジャックには悪いが…」
「構わない。私もその強者が気になる。アイレ姫の助力があったとしても、間違いなく強い」
「…俺達がウギョウ1人を倒すのにどれだけ苦労したか忘れたか。同じ冒険者として、興味を持つなと言う方が無理だ」
「職員。パーティーネームは?」
「はぁ…脳筋共」
この3人と職員のやり取りに、軍総司令と騎士団員が興味が無いはずが無い。所詮は彼らも切った張ったの世界に生きる身である。部屋を出ずに雑談をしながらも、聞き耳を立てていた。
国の人間として、あくまで中立の立場である冒険者ギルドに踏み込むのはご法度。ましてや彼らは上の立場の人間である。興味本位でいろいろ聞くことは到底できない。
「申し訳ありません。その冒険者はアジェンテであり、規則により名はおろか、あらゆる情報をお伝えできません」
――――!?
騎士団にも大いに関係がある単語に、その場の全員が驚き、さらに単独である事が衝撃に変わった。
「単独だ…と…?」
「アジェンテ…」
「詰んだわねぇ。いい気味よ♪」
アッガスとウォーレスは単独で三体も魔人を倒した者がいるという事に驚き、アジェンテでは知るはずも、さらに今後も知ることが出来ない事に落胆する。フロールは脳筋二人が落胆している事に満足した。
だがここで、繋がった者がいる。ドッキア騎士団長のローベルトである。
(アジェンテ…単独…ドッキアから出た冒険者)
「帝都の王竜殺しかっ!!」
パリンッ!
ローベルトの一声で、カップが一つ割れる。
「コ、コーデリアさん…? あの、大丈夫ですか?」
「手が滑り、ました…ふふっ、ふふふ…ああ、私はこれで失礼しますね…ふふふっ…」
フロールの心配の声に何とか応じたコーデリアだが、落としたカップを拾うことなく、ゆらりと立ち上がり、首をもたげながら部屋から出ていこうとする。
何かに憑りつかれたかの様子に皆が戸惑った。
部屋のドア近くにいたスウィンズウェル騎士団長のアスケリノ。さすがに様子のおかしい領主夫人を、このまま放っておくことは出来ない。
「お、奥様。お気を確かに―――げっ!?」
コーデリアの伏せった横顔を見たアスケリノは、思わず悲鳴を上げた。
(このお顔はスルト村に行く前日のお屋敷での奥様!? お立場的に感情を出せない時に、異常な喜びと平常心が同居した、狂気の表情! いけません、これを皆に知られては、奥様が義理の息子狂いの変態だと思われてしまう!)
「あー! ゴホンっ! どうやらお嬢様のご様子をお気にされているようで、たまーに! こうして癇癪の様にご心配なされるのです! 私も付き添います! これで失礼します!」
アスケリノに促され、そそくさと部屋から出ていく二人に、残された者たちはポカンとしている。
フロールはハッと我に返り、むさ苦しい男だらけの空間にいるより、既に憧れの域に達しているコーデリアの後を追った。
ジンの両親であるロンとジェシカは、ジンがアジェンテになっている事はジンの手紙から知っていたが、コーデリアを始め誰にも教えていなかった。元上級冒険者である二人はアジェンテがどういうものなのかを知っていたからだ。
だが、コーデリアはスルト村でアルバニア冒険者ギルドマスターからの感状をジェシカから見せてもらい、ジンが帝都の王竜殺しである事は知っている。
ローベルトの一言で、自身が引き分けた魔人を三体も倒したのがジンである事、そして同じ戦争をしている事を知った彼女は、内心喜びを爆発させた。だが、その場で大喜びすることは出来ない。喜べば、必ず自分の口からジン・リカルドの名が飛び出す。
興奮を必死で堪えた結果が、コーデリアをゾンビに変えた。
「あいや、えれー人ばっかじゃねか! ご苦労さんでさぁ皆さん! で、長ぁ! 何の用です!?」
声の主は、忙しいから早く要件を言えとばかりにワジルを急かす。
「声がでけぇ! ここは厳かな場なんじゃ! すまんのぉ皆の衆…こいつはダイクと言っての。大工の棟梁じゃ」
「いやぁ、すまねぇすまねぇ。で、なんでオラぁ呼ばれたんでさぁ?」
全然ついていけない騎士団の面々は呆気にとられ、フロールは笑いを隠そうと必死に口を押えていた。
「お主、この川に橋を架けたの?」
地図を指差し、ワジルがダイクに尋ねる。
「ん? おぉ…架けた、な。しかし大分前ですぜ? どんな橋だったか」
「ふむ。まぁいい。またここに架けるとして、長さ200m深さ8m。お主の組総出でやればどれくらいでできる」
「はぁ…そんなもん、規模によるでしょーよ」
チラリとカーライルに目線をやるワジル。
カーライルはハッとしながら答えた。
「騎馬が2頭、安全に平行して駆けられれば結構。柵や装飾は一切不要です」
「何年持たせるんですかい?」
「まさか、余裕をもって1週間あれば十分です」
「それなら30分ですな」
全員沈黙。
「…今、なんと?」
「あいやすまねぇ! 間違えた!」
「で、でしょうな…」
カーライル含め、全員が白昼夢でも見たかのように溜息をつくが、次は息を止められる羽目になる。
「馬鹿たれ! 総出と言うとろうが!」
「だからすまねぇって言ったんでしょうに! 総出だと手が余っちまうよ!」
――――ん?
「えれー方、すまねぇ。しかし200mって言やぁ、橋にしちゃまぁまぁ長げぇ。やっぱ30分以下は無理でさぁ…総出でも30分、しかも同時に5、6本は出来ちまう。そんなにいらねぇでしょう…」
ここで、耐え切れずにフロールが大笑いする。
「あーはっはっは! もう無理、痛いよ、おなか痛いよっ! 大工のダイクさん、さいっこう!」
「フ、フロール…失礼、ですよ…」
ここまで静かにしていたコーデリアも、必死に笑いを堪え、顔を伏せている。
「だって、コーデリアさんっ! あり得な過ぎるでしょう!? あーはっはっは!」
「ええ…まぁ…ダイク様にご助力をお願いしましょう、カーライル団長。ああ、今はカーライル卿でしたか」
コーデリアとカーライルは、所属した騎士団こそ違うが、マイルズと帝都が距離的にも近い事もあり、合同訓練や遠征先も同じ事が多かったため、お互いをよく知る間柄である。
なぜ女性陣だけが笑い、男性陣が溜息をついているか分からないダイクだが、取り合えず仕事が降ってきそうな雰囲気は掴んだらしい。『何だか分からんがまかせろ!』と言って腕をまくっている。
笑いが止まらないコーデリアは、さっさと次に進めたかった。
「くっ…コーデリア。相変わらずだな、お前さんは」
「さて、何のことでしょうか?」
「本営が懸命に考えた策が、一瞬にして次点に落ちたんだ。はっきり言えばいいものを」
「まぁ。そんな事思っておりませんよ?」
「もういい…ラングリッツを思い出させよって…」
ラングリッツとは、コーデリアが軍神と呼ばれるきっかけとなった、リーゼリア王国との戦いの場、ラングリッツ平原の事である。
当時マイルズ騎士団1番隊長の任に就いていたコーデリアの働きで、リーゼリア王国から無期限の休戦協定を申し出させた。それまで毎年のように戦争をしていた事からも伺えるが、その成果は奇跡に近いものだった。『軍神』や『戦乙女』、『戦争を終わらせた者』などと当時はいろいろ言われたが、今となっては『軍神』の異名が定着している。
その後、地人による架橋作戦を中心に、戦いの全体像が組みなおされ、作戦が決定した。
「では、挟撃隊は5日後、本隊は6日後に出陣とする。質問は?」
一同沈黙
「では健闘を祈る! 帝国に勝利を!」
――――帝国に勝利を!
カーライルと騎士団員の唱和で報告作戦会議は終了。
皆が席を立ったその時、バタンと会議室の扉が開いた。
入って来たのはガーランド冒険者ギルドの職員だった。
「し、失礼します。取り急ぎ、ドッキア冒険者ギルドからの報告をお伝えしたく…」
肩で息をするギルド職員は、同じく会議室にいた同僚の職員に促されて水を飲み、報告に入った。
「エーデルタクトのリュディアが、ドッキアからの冒険者により解放されました! 風人族長の奥方含め、300人の捕虜が帝国領内へ亡命中です!」
地人による架橋作戦の光明もつかの間、新たな勝報に皆が湧いた。この機を軍総司令であるカーライルが逃すはずは無い。彼の行動は非常に速かった。
「ほぅ! 素晴らしい! リュディアと言えば敵の本営があった場所ではないか! 通信士、すぐさま帝都本営へ連絡し、エーデルタクト防衛軍を編成、進駐させろ。リュディアをミトレス東部本営とし、ドラゴニアおよびミルガルズを解放する!」
「はっ!」
カーライルの指示が飛んだあと、職員は更なる朗報をもたらす。
「次いでご報告します。エーデルタクトにてその冒険者は風人の姫を救出、リュディアを解放する際、3体の魔人を討伐したとの事です」
「なっ!? アイレ姫は生きておられると!?」
まず取り乱したのは獣人ジャック。彼は、涙の日を経て、自分を含めた10人以外の生存者を知らなかった。このミトレス連邦の重要人物の存命の報に大いに喜んだ。
ジャックの確認に、笑顔でコクリと頷いたギルド職員。その『確かです』の言葉にジャックは思わず涙した。
「よかったっ! 本当によかったっ! これでルイ様がお戻りになれば、ミトレスは復活できる!」
ジャックが喜ぶその姿は、その場にいた全員の胸を打った。
最も被害を受け、今も受け続けている獣王国の住人にもたらされた希望は、皆にも力を与えた。
ここで、アッガスがジャックに問うた。
「姫は女王と同等の力をお持ちなのか?」
「…いや、俺よりはお強いとは思うが、戦いと言う面で見ればルイ様はもちろん、先の大戦で散った竜人のガリュウ殿にも及ばないだろう。しかし、アイレ姫の強さはそこにあらず。亜人族の懸け橋となられる、不思議な魅力をお持ちの方なんだ。雪人や樹人といった、他種族と関わろうとしない者達も、姫とだけは交流を持っていると聞く」
「なるほどな。確かにミトレス全体にとって必要な方の様だ。しかし、そうなると―――」
「魔人を3体も葬ったパーティー。どこのどいつだ」
アッガスが知りたかったことを、ウォーレスが言葉をつなぎ、2人してギルド職員を睨みつけた。
睨まれた2人の職員は恐縮しながら、なにやらコソコソと相談を始める。
フロールは血の気の多いアッガスとウォーレスを呆れながら諫めた。
「職員さん困ってんじゃん! 誰がやったとかどうでもいいでしょ! 風人の里が助かって、お姫さんが無事だったんだから」
「フロール。確かにお前にとってはどうでもいいかもしれないが、魔人を3体だぞ? ジャックには悪いが…」
「構わない。私もその強者が気になる。アイレ姫の助力があったとしても、間違いなく強い」
「…俺達がウギョウ1人を倒すのにどれだけ苦労したか忘れたか。同じ冒険者として、興味を持つなと言う方が無理だ」
「職員。パーティーネームは?」
「はぁ…脳筋共」
この3人と職員のやり取りに、軍総司令と騎士団員が興味が無いはずが無い。所詮は彼らも切った張ったの世界に生きる身である。部屋を出ずに雑談をしながらも、聞き耳を立てていた。
国の人間として、あくまで中立の立場である冒険者ギルドに踏み込むのはご法度。ましてや彼らは上の立場の人間である。興味本位でいろいろ聞くことは到底できない。
「申し訳ありません。その冒険者はアジェンテであり、規則により名はおろか、あらゆる情報をお伝えできません」
――――!?
騎士団にも大いに関係がある単語に、その場の全員が驚き、さらに単独である事が衝撃に変わった。
「単独だ…と…?」
「アジェンテ…」
「詰んだわねぇ。いい気味よ♪」
アッガスとウォーレスは単独で三体も魔人を倒した者がいるという事に驚き、アジェンテでは知るはずも、さらに今後も知ることが出来ない事に落胆する。フロールは脳筋二人が落胆している事に満足した。
だがここで、繋がった者がいる。ドッキア騎士団長のローベルトである。
(アジェンテ…単独…ドッキアから出た冒険者)
「帝都の王竜殺しかっ!!」
パリンッ!
ローベルトの一声で、カップが一つ割れる。
「コ、コーデリアさん…? あの、大丈夫ですか?」
「手が滑り、ました…ふふっ、ふふふ…ああ、私はこれで失礼しますね…ふふふっ…」
フロールの心配の声に何とか応じたコーデリアだが、落としたカップを拾うことなく、ゆらりと立ち上がり、首をもたげながら部屋から出ていこうとする。
何かに憑りつかれたかの様子に皆が戸惑った。
部屋のドア近くにいたスウィンズウェル騎士団長のアスケリノ。さすがに様子のおかしい領主夫人を、このまま放っておくことは出来ない。
「お、奥様。お気を確かに―――げっ!?」
コーデリアの伏せった横顔を見たアスケリノは、思わず悲鳴を上げた。
(このお顔はスルト村に行く前日のお屋敷での奥様!? お立場的に感情を出せない時に、異常な喜びと平常心が同居した、狂気の表情! いけません、これを皆に知られては、奥様が義理の息子狂いの変態だと思われてしまう!)
「あー! ゴホンっ! どうやらお嬢様のご様子をお気にされているようで、たまーに! こうして癇癪の様にご心配なされるのです! 私も付き添います! これで失礼します!」
アスケリノに促され、そそくさと部屋から出ていく二人に、残された者たちはポカンとしている。
フロールはハッと我に返り、むさ苦しい男だらけの空間にいるより、既に憧れの域に達しているコーデリアの後を追った。
ジンの両親であるロンとジェシカは、ジンがアジェンテになっている事はジンの手紙から知っていたが、コーデリアを始め誰にも教えていなかった。元上級冒険者である二人はアジェンテがどういうものなのかを知っていたからだ。
だが、コーデリアはスルト村でアルバニア冒険者ギルドマスターからの感状をジェシカから見せてもらい、ジンが帝都の王竜殺しである事は知っている。
ローベルトの一言で、自身が引き分けた魔人を三体も倒したのがジンである事、そして同じ戦争をしている事を知った彼女は、内心喜びを爆発させた。だが、その場で大喜びすることは出来ない。喜べば、必ず自分の口からジン・リカルドの名が飛び出す。
興奮を必死で堪えた結果が、コーデリアをゾンビに変えた。
0
あなたにおすすめの小説
タイム連打ってなんだよ(困惑)
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
「リオ、お前をパーティから追放する。お前のようなハズレスキルのザコは足手まといなんだよ」
王都の冒険者ギルドにて、若手冒険者のリオは、リーダーの身勝手な都合によってパーティから追い出されてしまい、同時に後宮では、聖女の降臨や第一王子の婚約破棄などが話題になっていた。
パーティを追放されたリオは、ある日商隊の護衛依頼を受けた際、野盗に襲われる可憐な少女を助けることになるのだが、彼女は第一王子から婚約破棄された上に濡れ衣を着せられて迫害された元公爵令嬢こと、アイリスだった。
アイリスとの出会いから始まる冒険の旅、行く先々で様々な思惑によって爪弾きにされてしまった者達を受け入れていく内に、彼はある決意をする。
「作ろう。誰もが幸せに過ごせる、そんな居場所を」
目指すべき理想、突き動かされる世界、そしてハズレスキル【タイム連打】に隠されたリオの本当の力とは?
※安心安全安定安泰の四安揃った、ハピエン確定のハズレスキル無双です。
『エ○ーマンが倒せない』は関係ありません。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
転生したら王族だった
みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。
レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる