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最終章 ジオルディーネ王国編
第158話 リージュの街
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「おおっ、兄ちゃん若けぇのにすげぇな。白カードなんざ久しぶりに見たぜ。この街にも冒険者が戻って来た感じがするな」
気の良さそうな中年の門番が俺のAランクのギルドカードを見て感心している。
なんでもこの街の主であるユリエフ卿が冒険者の排斥運動を取りやめてからというもの、この街や周辺の村出身の冒険者達の出入りがやっと戻りつつあるらしい。大勢の冒険者達が王国軍に連れ去られたというのもあるが、難を逃れた冒険者達はこの国でなくとも活動できてしまうので、面倒な事になっている祖国にはあまり戻ってこないそうだ。
なので、上級冒険者がこの街に来た事は喜ぶべき事らしい。
ギルドカードを見せれば、一切の手続きなく街に入れる。その者の身元は冒険者ギルドが代わりに証明してくれるので、街に入る際は冒険者はスルーされるという世界共通のルールである。
だがこの街に、というかこの国に冒険者ギルドは未だ再建されていないのだが、領主の嘆願により周辺諸国最寄りの冒険者ギルドがその役を担う事になったので、何とかカードの提示で済むとの事だ。
しかし、冒険者ではないアイレとコハクは入門時に名と出身国、更に出身の街村まで残さなければならない。俺がさっさと嘘の代筆してもよいのだが、バレた時がそれなりに面倒なのでこれを回避する手段が実はある。
「親父さん、2人でいくらですか。私が保証します」
フードを目深に被って大人しくしているアイレとコハクに視線をやり、門番に尋ねた。身元を明かせば通行税は免除されて通行証が発行される。だが身元が無い、もしくは明かしたくない場合は身元保証人が同行するか、保証人の証書があれば金を払えば通行証を発行してもらえるのだ。
国や街によるが、全く保証がなくとも金さえ積めば何とかなる街も多いと聞く。
因みに身元の偽装や証書の偽装が発覚すれば、良くて投獄のち強制労働。国や街によっては最悪死刑である。身元の偽装なんぞやらかすのは、大抵野盗や犯罪者の確率が往々にして高いというのがその理由である。
また保証された者が街で罪を犯せば、その累は保証人に及ぶ。簡単に保証人になるのもご法度という事だ。
「このご時世だ。事情は聞かねぇ。聞くがお前さん、アルバ通貨はもってるか」
「え? まぁ一応。どうしてです? ハーン通貨ではダメなのですか」
せっかくドッキアで支度金の半分をジオルディーネ王国通貨であるハーン通貨に両替したのだ。使える時は使っておきたい。
「その白カードに免じて教えとこう。アルバ通貨なら1人銀貨1枚、ハーン通貨なら1人大銀貨3枚だ」
「…は?」
おかしい。たしかアルバ銀貨1枚ならハーン小銀貨1枚が相場だったはずだ。
だが、少し考えれば分かる事。戦争の影響でハーン通貨の価値が暴落しているという事だ。単純計算で十分の一になってしまっている。
つまりドッキアで受け取ったアルバ大金貨10枚の支度金の内、半分のアルバ大金貨5枚分のハーン通貨が十分の一の価値になってしまったという事である。
「親父さん…」
チャリッと銀貨2枚を置き、通行証を発行してもらう。街の警備隊に提示を求められればいつでも出せる様にと紐で吊るし、アイレとコハクに手渡した。
「コハクは人間の街は初めてか?」
リージュの大通りを歩きながら、恐らく初めてであろうコハクに聞いてみる。ルイと共にラクリに居た時期がある事は知っているので、街自体は初めてではないはず。
コハクはぬいぐるみを抱きつつ、俺の外套の裾を掴んだままコクリと頷いた。キョロキョロと興味ありげに辺りを見回しているが、人も多いので傍から離れようとはしない。アイレも久々に人間の街だとあーだこーだ言いながら歩いている。
とりあえず適当に…といつもならなるのだが、今はそうはいかない。アイレが宿の外観からダメ出しをしまくって来るのでなかなか宿が決まらないでいるのだ。門番の親父さん曰く、このご時世で宿どころか店も忙しくないから簡単に見つかるだろうと教えてもらったのだが、まさかの躓きである。
ベッドがあればどこでもいいだろうと言うと、コハクを味方につけて風呂を所望し出したのだ。
「風呂のある宿なんぞ聞いたことが無い。諦めろ。井戸で十分だ」
実はマイルズにも帝都にもさらにはドッキアにも風呂付の宿は存在するのだが、これがまたバカ高いのだ。俺が知ってる最安でも1泊金貨2枚、帝都の高級宿などは1泊大金貨3枚という暴力である。もちろんこれは1人当たりの金額なので、3人ともなれば単純に3倍。
もちろん宿泊代だけで収まるわけもなく、食事と酒は別料金だし、帝都の高級宿などは世話になった案内係への心づけも作法の一つと聞いた。そんなもの宿代に入ってるだろと呆れたもんだが、上流階級御用達の宿ともなるとそうもいかないらしい。
「まぁ…わたし人間のお金とか持ってないし、お金の感覚もイマイチつかめてないからジン頼みになるんだけど…あの人達に聞いて無かったらもう諦める」
支度金の半分が消え失せたと言っても過言ではない状況で、宿ごときで贅沢したくは無いというのが本音なのだが、久しぶりの宿なのに安宿もどうかと思うとアイレに攻勢を掛けられないでいる。
ドッキアと比べるとリージュの街はさほど人通りはないが、それでもそこそこの人は歩いている。アイレは店構えの立派な食事処の外に置かれているテーブルを囲む3人組に向かって歩き出した。
その3人組はそこそこの身なりでぷかぷかと煙草を燻らせ、つまみと酒をあおっていた。
これまた知っていそうな人を選んだものだ…煙草は完全な嗜好品なのだ。少なくとも余裕のない者が手を出せるものでは無いので、彼らなら風呂付宿の存在を知っていてもおかしくはない。
案の定、タタッと走って戻って来たアイレの足取りは軽かった。
◇
「ようこそカリダの宿へ」
アイレに根負けし、教えられた宿の扉に近づくとフワリと扉が開き、ドッキアにあるジェンキンス総合商店で見たような身なりを揃えた案内係が挨拶をしてくる。
扉が開く前から高級宿である事は建物の様子で察しがついていたが、この従業員の在り様で確定だろう。溜息をつくのも失礼なので、もうここは堂々と行くしかない。2人と1匹は受付の側に置いてあるフカフカの椅子に座り、後は任せたと言わんばかりに調度品や天井から吊るされた立派なランプ群に興味深々のご様子だ。
ニコニコと微笑んでいる受付嬢の元へ向かう。
「1泊3人。空いてますか」
「はい。ご用意させて頂きます。お部屋割りはどういたしましょう」
「私で1部屋。あっちの2人で1部屋をお願いしたい」
「かしこま―――」
「1部屋で!」
いつの間にか俺の隣に居るアイレがここで話に割って入る。
「ベッド2つとお風呂のある部屋。この子と一緒だから小さなベッドは困るわ。あと外で食べるから食事はいらない。それに私とこの子の着替えも簡単な奴でいいから持って来てね。着替えたら後で持って行くから洗濯もよろしく!」
ひとしきり注文して満足げなアイレ。その勢いとわがままさに唖然としてしまったが、受付嬢は平然としていた。固まる俺に視線をやり確認を取ってくる。
「あの…ツレがすみません…いけますか?」
「はい、承ります」
「そうですか。では今のでお願いします」
「畏まりました」
俺は受付で聞きたい事があるからとアイレとコハクに先に部屋に行くように言うと、案内係に連れられて2人は階上に消えていった。
「ふぅ」
つい出た溜息を隠そうと先に宿代を支払う旨を伝えると、受付嬢はスッと料金表を差し出した。やはりハーン通貨暴落の影響からなのかその部分だけ修正されている。他にはマラボ地方の通貨やピレウス王国の通貨と言った近隣諸国の通貨が表記されているが、サーバルカンド王国通貨はひっそりと消されていた。
この料金表が世情を表しているなと変な所で思案に耽りそうになるが、これも現実逃避か。選択肢はアルバ通貨しかないのでそこに目をやると、1人金貨4枚、子供は金貨2枚と記されている。静かに大金貨2枚を受付嬢に渡した。
帝都やマイルズ程ではないにしても高い…くそぅ…
受付嬢に色々とこの街を事を聞き、その後部屋に案内される。案内された部屋の扉を開けるなり、香でも焚いているのかと思えるいい匂いが鼻腔を抜ける。そして部屋は広くて天井も高い。刀も余裕で振り回せそうだった。
ベッドやそふぁなる長椅子、テーブルセットに服掛けが数十本備えられている。床に敷かれた布とガラス製の窓を隠す布も立派な刺繍が施され、掛けられた絵画の色彩と程よく合わせられていた。
極めつけは魔法陣の描かれた2つの戸棚だろう。魔力を感じたので片方を開けてみると冷気が流れ、中に冷やされた飲み物と切り分けられた果物がガラスの器に入れられている。もう片方はその逆で、暖かい飲み物が入っていた。
「す、すごいな…さすが高級宿…」
そんなものはもう調べたと言わんばかりに、2人と1匹は広いベッドの上で寝転がり、備え付けの茶菓子をボリボリ食べながら待っていた。
「コハク。絶対にここを宿の基準にしちゃだめだぞ」
「きじゅん だめ」
「すごくない? これ無くなったらいくらでも補充してくれるんだって!」
「そりゃ―――」
1人金貨4枚だからなと言いかけて止めた。さすがに野暮だろう。俺もあとで遠慮なく食ってやる。
コハクがベッドの上にボロボロと食べこぼしている事には目を瞑り、さっさと飯を食いに行くぞと言って宿を出た。
因みにマーナにはついてくるならまだ人通りが多いので引き続きぬいぐるみだと言うと、ライツと蜂蜜酒を要求してきた。結局いつもと同じじゃないかとツッコみそうになったが、加えて黒王竜の肉を要求してきた。収納魔法には焼いた黒王竜の肉がまだ残っているを知っていたのだ。しかし約束は約束。若干頬をピクつかせながら要求の品をポンポンポンと出してやった。
『ぉん(いってらっしゃーい♪)』
夜のとばりが下りた街を3人で歩いている。リージュの街の街灯は帝国の街の街灯の光量よりも少なく、明るい所と暗い所の差が激しい。少し脇道に入れば民家の明かりを当てにしなければならない程だ。食事時にも拘わらず人通りは先程より減っており、若干の寂しさは拭えない。
宿で予め聞いておいた庶民の店の扉を開ける。高級店では宿で食べても同じ事なので、ここは金袋に優し気な店を選んだ。だが、店の入り口にはハーン通貨お断りの文字が。庶民の店までもがこれでは、経済面でもこの街は帝国に支配されていると言って過言ではない。通貨を握る国がその地の経済を握る。当然の事だろう。
そんな事を考えながら店のドアを開ける。アイレも今度は何の文句も無いようで、フードを目深に被ったままコハクの手を引いて店の中へ入った。
気の良さそうな中年の門番が俺のAランクのギルドカードを見て感心している。
なんでもこの街の主であるユリエフ卿が冒険者の排斥運動を取りやめてからというもの、この街や周辺の村出身の冒険者達の出入りがやっと戻りつつあるらしい。大勢の冒険者達が王国軍に連れ去られたというのもあるが、難を逃れた冒険者達はこの国でなくとも活動できてしまうので、面倒な事になっている祖国にはあまり戻ってこないそうだ。
なので、上級冒険者がこの街に来た事は喜ぶべき事らしい。
ギルドカードを見せれば、一切の手続きなく街に入れる。その者の身元は冒険者ギルドが代わりに証明してくれるので、街に入る際は冒険者はスルーされるという世界共通のルールである。
だがこの街に、というかこの国に冒険者ギルドは未だ再建されていないのだが、領主の嘆願により周辺諸国最寄りの冒険者ギルドがその役を担う事になったので、何とかカードの提示で済むとの事だ。
しかし、冒険者ではないアイレとコハクは入門時に名と出身国、更に出身の街村まで残さなければならない。俺がさっさと嘘の代筆してもよいのだが、バレた時がそれなりに面倒なのでこれを回避する手段が実はある。
「親父さん、2人でいくらですか。私が保証します」
フードを目深に被って大人しくしているアイレとコハクに視線をやり、門番に尋ねた。身元を明かせば通行税は免除されて通行証が発行される。だが身元が無い、もしくは明かしたくない場合は身元保証人が同行するか、保証人の証書があれば金を払えば通行証を発行してもらえるのだ。
国や街によるが、全く保証がなくとも金さえ積めば何とかなる街も多いと聞く。
因みに身元の偽装や証書の偽装が発覚すれば、良くて投獄のち強制労働。国や街によっては最悪死刑である。身元の偽装なんぞやらかすのは、大抵野盗や犯罪者の確率が往々にして高いというのがその理由である。
また保証された者が街で罪を犯せば、その累は保証人に及ぶ。簡単に保証人になるのもご法度という事だ。
「このご時世だ。事情は聞かねぇ。聞くがお前さん、アルバ通貨はもってるか」
「え? まぁ一応。どうしてです? ハーン通貨ではダメなのですか」
せっかくドッキアで支度金の半分をジオルディーネ王国通貨であるハーン通貨に両替したのだ。使える時は使っておきたい。
「その白カードに免じて教えとこう。アルバ通貨なら1人銀貨1枚、ハーン通貨なら1人大銀貨3枚だ」
「…は?」
おかしい。たしかアルバ銀貨1枚ならハーン小銀貨1枚が相場だったはずだ。
だが、少し考えれば分かる事。戦争の影響でハーン通貨の価値が暴落しているという事だ。単純計算で十分の一になってしまっている。
つまりドッキアで受け取ったアルバ大金貨10枚の支度金の内、半分のアルバ大金貨5枚分のハーン通貨が十分の一の価値になってしまったという事である。
「親父さん…」
チャリッと銀貨2枚を置き、通行証を発行してもらう。街の警備隊に提示を求められればいつでも出せる様にと紐で吊るし、アイレとコハクに手渡した。
「コハクは人間の街は初めてか?」
リージュの大通りを歩きながら、恐らく初めてであろうコハクに聞いてみる。ルイと共にラクリに居た時期がある事は知っているので、街自体は初めてではないはず。
コハクはぬいぐるみを抱きつつ、俺の外套の裾を掴んだままコクリと頷いた。キョロキョロと興味ありげに辺りを見回しているが、人も多いので傍から離れようとはしない。アイレも久々に人間の街だとあーだこーだ言いながら歩いている。
とりあえず適当に…といつもならなるのだが、今はそうはいかない。アイレが宿の外観からダメ出しをしまくって来るのでなかなか宿が決まらないでいるのだ。門番の親父さん曰く、このご時世で宿どころか店も忙しくないから簡単に見つかるだろうと教えてもらったのだが、まさかの躓きである。
ベッドがあればどこでもいいだろうと言うと、コハクを味方につけて風呂を所望し出したのだ。
「風呂のある宿なんぞ聞いたことが無い。諦めろ。井戸で十分だ」
実はマイルズにも帝都にもさらにはドッキアにも風呂付の宿は存在するのだが、これがまたバカ高いのだ。俺が知ってる最安でも1泊金貨2枚、帝都の高級宿などは1泊大金貨3枚という暴力である。もちろんこれは1人当たりの金額なので、3人ともなれば単純に3倍。
もちろん宿泊代だけで収まるわけもなく、食事と酒は別料金だし、帝都の高級宿などは世話になった案内係への心づけも作法の一つと聞いた。そんなもの宿代に入ってるだろと呆れたもんだが、上流階級御用達の宿ともなるとそうもいかないらしい。
「まぁ…わたし人間のお金とか持ってないし、お金の感覚もイマイチつかめてないからジン頼みになるんだけど…あの人達に聞いて無かったらもう諦める」
支度金の半分が消え失せたと言っても過言ではない状況で、宿ごときで贅沢したくは無いというのが本音なのだが、久しぶりの宿なのに安宿もどうかと思うとアイレに攻勢を掛けられないでいる。
ドッキアと比べるとリージュの街はさほど人通りはないが、それでもそこそこの人は歩いている。アイレは店構えの立派な食事処の外に置かれているテーブルを囲む3人組に向かって歩き出した。
その3人組はそこそこの身なりでぷかぷかと煙草を燻らせ、つまみと酒をあおっていた。
これまた知っていそうな人を選んだものだ…煙草は完全な嗜好品なのだ。少なくとも余裕のない者が手を出せるものでは無いので、彼らなら風呂付宿の存在を知っていてもおかしくはない。
案の定、タタッと走って戻って来たアイレの足取りは軽かった。
◇
「ようこそカリダの宿へ」
アイレに根負けし、教えられた宿の扉に近づくとフワリと扉が開き、ドッキアにあるジェンキンス総合商店で見たような身なりを揃えた案内係が挨拶をしてくる。
扉が開く前から高級宿である事は建物の様子で察しがついていたが、この従業員の在り様で確定だろう。溜息をつくのも失礼なので、もうここは堂々と行くしかない。2人と1匹は受付の側に置いてあるフカフカの椅子に座り、後は任せたと言わんばかりに調度品や天井から吊るされた立派なランプ群に興味深々のご様子だ。
ニコニコと微笑んでいる受付嬢の元へ向かう。
「1泊3人。空いてますか」
「はい。ご用意させて頂きます。お部屋割りはどういたしましょう」
「私で1部屋。あっちの2人で1部屋をお願いしたい」
「かしこま―――」
「1部屋で!」
いつの間にか俺の隣に居るアイレがここで話に割って入る。
「ベッド2つとお風呂のある部屋。この子と一緒だから小さなベッドは困るわ。あと外で食べるから食事はいらない。それに私とこの子の着替えも簡単な奴でいいから持って来てね。着替えたら後で持って行くから洗濯もよろしく!」
ひとしきり注文して満足げなアイレ。その勢いとわがままさに唖然としてしまったが、受付嬢は平然としていた。固まる俺に視線をやり確認を取ってくる。
「あの…ツレがすみません…いけますか?」
「はい、承ります」
「そうですか。では今のでお願いします」
「畏まりました」
俺は受付で聞きたい事があるからとアイレとコハクに先に部屋に行くように言うと、案内係に連れられて2人は階上に消えていった。
「ふぅ」
つい出た溜息を隠そうと先に宿代を支払う旨を伝えると、受付嬢はスッと料金表を差し出した。やはりハーン通貨暴落の影響からなのかその部分だけ修正されている。他にはマラボ地方の通貨やピレウス王国の通貨と言った近隣諸国の通貨が表記されているが、サーバルカンド王国通貨はひっそりと消されていた。
この料金表が世情を表しているなと変な所で思案に耽りそうになるが、これも現実逃避か。選択肢はアルバ通貨しかないのでそこに目をやると、1人金貨4枚、子供は金貨2枚と記されている。静かに大金貨2枚を受付嬢に渡した。
帝都やマイルズ程ではないにしても高い…くそぅ…
受付嬢に色々とこの街を事を聞き、その後部屋に案内される。案内された部屋の扉を開けるなり、香でも焚いているのかと思えるいい匂いが鼻腔を抜ける。そして部屋は広くて天井も高い。刀も余裕で振り回せそうだった。
ベッドやそふぁなる長椅子、テーブルセットに服掛けが数十本備えられている。床に敷かれた布とガラス製の窓を隠す布も立派な刺繍が施され、掛けられた絵画の色彩と程よく合わせられていた。
極めつけは魔法陣の描かれた2つの戸棚だろう。魔力を感じたので片方を開けてみると冷気が流れ、中に冷やされた飲み物と切り分けられた果物がガラスの器に入れられている。もう片方はその逆で、暖かい飲み物が入っていた。
「す、すごいな…さすが高級宿…」
そんなものはもう調べたと言わんばかりに、2人と1匹は広いベッドの上で寝転がり、備え付けの茶菓子をボリボリ食べながら待っていた。
「コハク。絶対にここを宿の基準にしちゃだめだぞ」
「きじゅん だめ」
「すごくない? これ無くなったらいくらでも補充してくれるんだって!」
「そりゃ―――」
1人金貨4枚だからなと言いかけて止めた。さすがに野暮だろう。俺もあとで遠慮なく食ってやる。
コハクがベッドの上にボロボロと食べこぼしている事には目を瞑り、さっさと飯を食いに行くぞと言って宿を出た。
因みにマーナにはついてくるならまだ人通りが多いので引き続きぬいぐるみだと言うと、ライツと蜂蜜酒を要求してきた。結局いつもと同じじゃないかとツッコみそうになったが、加えて黒王竜の肉を要求してきた。収納魔法には焼いた黒王竜の肉がまだ残っているを知っていたのだ。しかし約束は約束。若干頬をピクつかせながら要求の品をポンポンポンと出してやった。
『ぉん(いってらっしゃーい♪)』
夜のとばりが下りた街を3人で歩いている。リージュの街の街灯は帝国の街の街灯の光量よりも少なく、明るい所と暗い所の差が激しい。少し脇道に入れば民家の明かりを当てにしなければならない程だ。食事時にも拘わらず人通りは先程より減っており、若干の寂しさは拭えない。
宿で予め聞いておいた庶民の店の扉を開ける。高級店では宿で食べても同じ事なので、ここは金袋に優し気な店を選んだ。だが、店の入り口にはハーン通貨お断りの文字が。庶民の店までもがこれでは、経済面でもこの街は帝国に支配されていると言って過言ではない。通貨を握る国がその地の経済を握る。当然の事だろう。
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