戦国武将異世界転生冒険記

詩雪

文字の大きさ
196 / 200
Epi-logue

~クルドヘイム城にてⅢ~

しおりを挟む
「狐の茶々が入ったが…ときにウィンザルフ殿。冒険者ギルドは新たにSランクを認定した」

「ほう…国家戦力級の者が生まれたか」

 ヨルの一言で大いにざわつく広間。さまざまな国の重鎮が多くいるこの場で明かせば、わざわざ諸国に書簡を送る手間が省けるとヨルは考えたのだろう。少々異例の事ではあるが、冒険者ギルドのトップの判断に、その場にいるギルドマスターや職員に止める者はいない。

 新たなSランク冒険者の誕生は世界各国に知らせるのがルールとなっている。どの国家にも属さない冒険者ギルドゆえに、その国家を脅かす事の出来る者の存在をあらかじめ周知しておくことはギルドへの信頼にもつながる。

 国があってのギルドであり、ギルドあっての国という思想が世を支配しているこの世界。

 わかりやすい例を挙げれば、冒険者ギルドの無い国にこの世界のは基本的に住みたがらない。ただ単純に危ないからである。治安が良くなければ、政治面や経済面といった国を成すあらゆる方面からほころびが生まれ、国は瓦解してゆく。歴史がそれを証明している。

「ワシは直接会っとらんがのう。に納めておくのは勿体の無い男じゃと聞いておる。クリスや、あとは頼めるかの」

「はぁい、おばあちゃん♪」

 グランドマスターであるヨルは本来、各国にSランク冒険者の認定を知らせる書簡につづる内容を口頭で知らせる為、その者の認定を推薦したギルドマスターであるドッキア冒険者ギルドマスターのクリスティーナにその場を任せた。

 クリスティーナはギルド関係者の輪から前に出て、辺りを見回す。この場にいる有力者たちが急いで側付きを呼び、内容の記録を取るための準備が大方整った事を確認し、声高に宣言した。

「ドッキア冒険者ギルドを預かっております、クリスティーナ・ヘイルゼンと申します。僭越ながらこの場をお借りし、新たにSランクに認定されました者のご紹介をさせて頂きます」

 フッと息を吐き、緊張をほぐすクリスティーナ。各国の重鎮が居並ぶこの場では、さしものクリスティーナも緊張を伴う。

「まずは支持ギルドを申し上げます。アルバニア、マイルズ、ガーランド、フリュクレフ、スウィンズウェル、ペトラ。以上六都市の冒険者ギルドの支持により、五ギルド以上の支持を得ました」

 冒険者をSランクと認定するには五ギルド以上の支持を得なければならない。これはギルド規定で示されている事であり、過去、例外は存在しない。

 支持を表明したギルドは全て帝国領内に存在するが、ギルドの中立性を知る各国の者達からは一切の異論が出る事は無い。

「なお、ここにおられるルーナ様、ヴェリーン様はその者と直接お会いになっており、その人となりに問題は無いとのお言葉を賜っています」

 突然自分達に水を向けられたルーナとヴェリーンだが、二人とも何もいう事は無いと、沈黙を保つ。

 そして、クリスティーナは名を告げる。

「その者の名は―――ジン・リカルド」

 一呼吸置き、クリスティーナは過去この場の皆が知る、Sランク認定者を知らせる書簡の末尾の一文を重々しく発する。

「その者、くれぐれも、お取り扱いにはご注意ください」

 この最後の一言で貴族の側に控えていた者達が一斉に会場を後にする。ギルドからこれ以上の情報がもたらされることはなく、あとは自分達で調べる必要があるからである。

 Sランク冒険者の情報はその土地土地を治める者にとって非常に重要であり、知らぬでは到底話にならない。実際、ジンの名を聞いた貴族達は心当たりと、今持ち得ている情報の交換に忙しい。

「女王を救出したのがこの者だとか」
「帝都の王竜殺しドラゴンキラーとの話も聞いたことがある」
「そのジンなる者はアジェンテに名を連ねていた気がするが、同名の可能性もある。すぐに同一人物か確認した方がよさそうだ」

 方々で語られるジンの情報。ジンの預かり知らぬところで、その名は多くの者に語られることとなるが、

「せや、ウチからも。ジンはんとウチ、友好条約結んどるからな。まぁ、礼みたいなもんや。みんな覚えといてやぁ」

 会場に響き渡ったルーナの一言は、亜人の長たちを除くその場の全員を凍り付かせた。

(やはり女王を救ったのはそのジン・リカルドだったか)
(中立であるはずの冒険者と手を結んだだと!?)
(個人と条約など聞いたことが無い!)
(いや、Sランク冒険者に行動を制限するような規則の大半は適用されないと聞いたことがある…しかし…)

「カーライル」
「はっ。すでに情報は一通り。問題はございません」
「根拠は」
「その者約三年前、帝都を竜より守護しており、陛下の感状を受けております」
「あの者か…なればよい」

 一連の話を聞き遂げたウィンザルフは、傍に控える軍務大臣であるカーライルにするや、数センチ注がれたワイングラスを給仕から受け取った。

「くくっ…ウチが認めた初めての男や。半端な虫が寄り付かんよう、ジンはんの格を世界に知らしめんとなぁ。なぁヴェリーンはん」
「またエーデルタクトにお立ち寄り頂きたいものです。娘が大変お世話になったようですし、改めてお礼を申し上げなければなりません」
「またフラッと顔出しよるんちゃうか。今はアレやけど、なによりアイレはんがほっとかんわ」
「ふふっ。だといいのですが。放浪癖のあるあの子が里の復興に一生懸命なのは嬉しいのですが…まだまだ時がかかりますし、早く追いかけるよう叩き出しましょうか」

 場の全員がこの条約のもたらす意味と効果に逡巡しながらざわめくなか、ルーナとヴェリーンは互いに笑い合う。

 ◇

「おい、ヨル」
「なんじゃ、ルナー」
「どこ伸ばしとんねん」

 宴もたけなわ。場の解散間際にルーナはグランドマスターであるヨルに話を振る。名を呼んだ時点で、絡み酒では無い事をヨルは瞬時に察した。

「クリスをイシスのギルドに来させぇ」
「…お主の半身、話は真じゃったか」
「見たらわかるやろ」

 ルーナは水色の髪をなびかせ、真っ白な尾を一振りした。

「聖獣と同居するなんてのは聞いたことが無いわい。大抵力だけの受け渡しか、傍らで力を貸すもんじゃろ。現に竜の狂宴ドラゴンソディアのクロード坊は聖獣と共におる」

 ヨルはSランク冒険者としてすでに世界に名を轟かせているクロード・ドレイクの名を挙げ、ルーナの特異性を指摘した。

「誰やそれ。そんなんどうでもええわ。さっさとせんかい」
「お主、それが人にモノを頼む態度か…」

 ヨルは呆れつつも、本気で拳を交えた事のある今を生きる数少ない友人のルーナの頼みを無下にはできない。その場にクリスティーナとガーランド冒険者ギルドマスターであるカストルを呼んだ。

「クリスや。イシスの冒険者ギルドを立て直してはもらえんかの」
「ええっ!? それは…マーナの側にいられるのは嬉しいけどぉ…」

 ジンがホワイトリムに滞在していた時にマーナを送り出した夜、クリスティーナは涙した。マーナからもう会えないだろうと言われたからだ。

 マーナは感じていた。近く、自分の使命を果たす日が来るだろうと。

 互いに今生の別れを惜しみつつ、マーナは強い意思でジンの元へ旅立って行った。その言葉は現実となり、二人の魔力のつながりは、マーナとルイが重なった瞬間に消えたのをクリスティーナは明確に感じとった。

 だがクリスティーナは一年前、姿を変えながらもマーナを宿すルーナと再会した。相手は獣人国の女王である。当初こそ大いに困惑したが、少し共にいただけでマーナ本来の主人だったクリスにはすぐにマーナを感じる事ができたのだ。

「全部あるんや。クリスに対するマーナはんの想い。ウチは獣人ルイであり聖獣マーナガルムでもある。なんちゅうたらええんかわからんけど…とにかくそばにおりたいんや。それは譲らん」

「マーナぁ…」

 クリスティーナはルーナにまっすぐそう告げられ、別れの日が改めて脳裏に浮ぶ。

 そして戦いの後、すぐさまドッキアに戻ったジンがクリスティーナの目の前で執務室の床に頭で穴を空けた時は、これも運命だと言ってジンを逆に慰め、自身にも言い聞かせていた。

 だがルーナの言葉で、未だ悲しみを拭いきれていなかったのだと胸を締め付けられる。

 クリスティーナはギルドマスターである。時に非情な決断も下さなければならないし、強くあらねば冒険者達を導く事はできないと十分に分かっている。ドッキアギルドマスターとしての責任を放棄する訳にはいかないし、するつもりもないが、この時ばかりは涙が浮ぶことを我慢できなかった。

「まったく…マスターたる者がベソなんぞかきおって。クリスや。お主は罰としてイシスに左遷じゃ。明日から行ってまいれ」

「はぁい、おばあちゃん!」

「左遷てウチとこに失礼ちゃうか!?」

 さしものクリスティーナもヨルの前ではその威厳も薄れ、この決定を間近で聞いていた職員達は母娘を見るような、微笑ましい気持ちを抱かずにはいられなかった。

 ただ一人を除いて。

「して、カストル」
「はい」
「お主はガーランドとドッキアの兼任じゃ」
「でしょうね」

 カストルには話の最序盤から結末が見えていた。どうやってその結末を被害の少ない方向にもって行くかを全力で思案していたのだが、結局最後まで牽制一つ打てなかった事を悔いている。

「よろしくねぇ、カストルちゃん♪」
「ぐっ…」

 カストルはクリスティーナのウインクに悪意が混ざっている事はわかりつつも、今のやり取りの手前、さらに女王ルーナを前にとても文句は言えない。せめてもと、確認と文句のギリギリのラインを攻めた。

「給金は倍にしても?」
「好きにせぃ」
「早々にドッキアの見込みのある者を育てて権限移譲しても?」
「好きにせぃ」
「ギルド間の移動に質の良い草原蜥蜴グラスリザードを購入しても?」
「好きにせぃ」
「過労で死にそうになったら遠慮なく休んでも?」
「ダメじゃ」
「……過労で」
「ダメじゃ」

 首をもたげて口をつぐんだカストルを尻目に、ヨルはクリスティーナを見る。

「クリス。慌てることはない。ゆっくりとな。獣人らは人間とは違う。ギルドマスターとしての使命を忘れず、無理はするでないぞ」

「はぁ~い♪」

(腑に落ちねぇ!!)

 隠れて頭を抱えるカストルに苦笑いを浮かべる職員達。

 ルーナは犬歯をのぞかせながらかっかと笑い、

「よっしゃ決まりや! ほな帰るでクリス、みんな!」

 ウィンザルフと握手を交わし、亜人の長たちはそれぞれの帰路へつく。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

タイム連打ってなんだよ(困惑)

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
「リオ、お前をパーティから追放する。お前のようなハズレスキルのザコは足手まといなんだよ」  王都の冒険者ギルドにて、若手冒険者のリオは、リーダーの身勝手な都合によってパーティから追い出されてしまい、同時に後宮では、聖女の降臨や第一王子の婚約破棄などが話題になっていた。  パーティを追放されたリオは、ある日商隊の護衛依頼を受けた際、野盗に襲われる可憐な少女を助けることになるのだが、彼女は第一王子から婚約破棄された上に濡れ衣を着せられて迫害された元公爵令嬢こと、アイリスだった。  アイリスとの出会いから始まる冒険の旅、行く先々で様々な思惑によって爪弾きにされてしまった者達を受け入れていく内に、彼はある決意をする。 「作ろう。誰もが幸せに過ごせる、そんな居場所を」  目指すべき理想、突き動かされる世界、そしてハズレスキル【タイム連打】に隠されたリオの本当の力とは?    ※安心安全安定安泰の四安揃った、ハピエン確定のハズレスキル無双です。 『エ○ーマンが倒せない』は関係ありません。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

処理中です...