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Epi-logue
~クルドヘイム城にてⅢ~
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「狐の茶々が入ったが…ときにウィンザルフ殿。冒険者ギルドは新たにSランクを認定した」
「ほう…国家戦力級の者が生まれたか」
ヨルの一言で大いにざわつく広間。さまざまな国の重鎮が多くいるこの場で明かせば、わざわざ諸国に書簡を送る手間が省けるとヨルは考えたのだろう。少々異例の事ではあるが、冒険者ギルドのトップの判断に、その場にいるギルドマスターや職員に止める者はいない。
新たなSランク冒険者の誕生は世界各国に知らせるのがルールとなっている。どの国家にも属さない冒険者ギルドゆえに、その国家を脅かす事の出来る者の存在をあらかじめ周知しておくことはギルドへの信頼にもつながる。
国があってのギルドであり、ギルドあっての国という思想が世を支配しているこの世界。
わかりやすい例を挙げれば、冒険者ギルドの無い国にこの世界の人間は基本的に住みたがらない。ただ単純に危ないからである。治安が良くなければ、政治面や経済面といった国を成すあらゆる方面からほころびが生まれ、国は瓦解してゆく。歴史がそれを証明している。
「ワシは直接会っとらんがのう。枠に納めておくのは勿体の無い男じゃと聞いておる。クリスや、あとは頼めるかの」
「はぁい、おばあちゃん♪」
グランドマスターであるヨルは本来、各国にSランク冒険者の認定を知らせる書簡につづる内容を口頭で知らせる為、その者の認定を推薦したギルドマスターであるドッキア冒険者ギルドマスターのクリスティーナにその場を任せた。
クリスティーナはギルド関係者の輪から前に出て、辺りを見回す。この場にいる有力者たちが急いで側付きを呼び、内容の記録を取るための準備が大方整った事を確認し、声高に宣言した。
「ドッキア冒険者ギルドを預かっております、クリスティーナ・ヘイルゼンと申します。僭越ながらこの場をお借りし、新たにSランクに認定されました者のご紹介をさせて頂きます」
フッと息を吐き、緊張をほぐすクリスティーナ。各国の重鎮が居並ぶこの場では、さしものクリスティーナも緊張を伴う。
「まずは支持ギルドを申し上げます。アルバニア、マイルズ、ガーランド、フリュクレフ、スウィンズウェル、ペトラ。以上六都市の冒険者ギルドの支持により、五ギルド以上の支持を得ました」
冒険者をSランクと認定するには五ギルド以上の支持を得なければならない。これはギルド規定で示されている事であり、過去、例外は存在しない。
支持を表明したギルドは全て帝国領内に存在するが、ギルドの中立性を知る各国の者達からは一切の異論が出る事は無い。
「なお、ここにおられるルーナ様、ヴェリーン様はその者と直接お会いになっており、その人となりに問題は無いとのお言葉を賜っています」
突然自分達に水を向けられたルーナとヴェリーンだが、二人とも何もいう事は無いと、沈黙を保つ。
そして、クリスティーナは名を告げる。
「その者の名は―――ジン・リカルド」
一呼吸置き、クリスティーナは過去この場の皆が知る、Sランク認定者を知らせる書簡の末尾の一文を重々しく発する。
「その者、くれぐれも、お取り扱いにはご注意ください」
この最後の一言で貴族の側に控えていた者達が一斉に会場を後にする。ギルドからこれ以上の情報がもたらされることはなく、あとは自分達で調べる必要があるからである。
Sランク冒険者の情報はその土地土地を治める者にとって非常に重要であり、知らぬでは到底話にならない。実際、ジンの名を聞いた貴族達は心当たりと、今持ち得ている情報の交換に忙しい。
「女王を救出したのがこの者だとか」
「帝都の王竜殺しとの話も聞いたことがある」
「そのジンなる者はアジェンテに名を連ねていた気がするが、同名の可能性もある。すぐに同一人物か確認した方がよさそうだ」
方々で語られるジンの情報。ジンの預かり知らぬところで、その名は多くの者に語られることとなるが、
「せや、ウチからも。ジンはんとウチ、友好条約結んどるからな。まぁ、礼みたいなもんや。みんな覚えといてやぁ」
会場に響き渡ったルーナの一言は、亜人の長たちを除くその場の全員を凍り付かせた。
(やはり女王を救ったのはそのジン・リカルドだったか)
(中立であるはずの冒険者と手を結んだだと!?)
(個人と条約など聞いたことが無い!)
(いや、Sランク冒険者に行動を制限するような規則の大半は適用されないと聞いたことがある…しかし…)
「カーライル」
「はっ。すでに情報は一通り。問題はございません」
「根拠は」
「その者約三年前、帝都を竜より守護しており、陛下の感状を受けております」
「あの者か…なればよい」
一連の話を聞き遂げたウィンザルフは、傍に控える軍務大臣であるカーライルに確認するや、数センチ注がれたワイングラスを給仕から受け取った。
「くくっ…ウチが認めた初めての男や。半端な虫が寄り付かんよう、ジンはんの格を世界に知らしめんとなぁ。なぁヴェリーンはん」
「またエーデルタクトにお立ち寄り頂きたいものです。娘が大変お世話になったようですし、改めてお礼を申し上げなければなりません」
「またフラッと顔出しよるんちゃうか。今はアレやけど、なによりアイレはんがほっとかんわ」
「ふふっ。だといいのですが。放浪癖のあるあの子が里の復興に一生懸命なのは嬉しいのですが…まだまだ時がかかりますし、早く追いかけるよう叩き出しましょうか」
場の全員がこの条約のもたらす意味と効果に逡巡しながらざわめくなか、ルーナとヴェリーンは互いに笑い合う。
◇
「おい、ヨル」
「なんじゃ、ルナー」
「どこ伸ばしとんねん」
宴もたけなわ。場の解散間際にルーナはグランドマスターであるヨルに話を振る。名を呼んだ時点で、絡み酒では無い事をヨルは瞬時に察した。
「クリスをイシスのギルドに来させぇ」
「…お主の半身、話は真じゃったか」
「見たらわかるやろ」
ルーナは水色の髪をなびかせ、真っ白な尾を一振りした。
「聖獣と同居するなんてのは聞いたことが無いわい。大抵力だけの受け渡しか、傍らで力を貸すもんじゃろ。現に竜の狂宴のクロード坊は聖獣と共におる」
ヨルはSランク冒険者としてすでに世界に名を轟かせているクロード・ドレイクの名を挙げ、ルーナの特異性を指摘した。
「誰やそれ。そんなんどうでもええわ。さっさとせんかい」
「お主、それが人にモノを頼む態度か…」
ヨルは呆れつつも、本気で拳を交えた事のある今を生きる数少ない友人のルーナの頼みを無下にはできない。その場にクリスティーナとガーランド冒険者ギルドマスターであるカストルを呼んだ。
「クリスや。イシスの冒険者ギルドを立て直してはもらえんかの」
「ええっ!? それは…マーナの側にいられるのは嬉しいけどぉ…」
ジンがホワイトリムに滞在していた時にマーナを送り出した夜、クリスティーナは涙した。マーナからもう会えないだろうと言われたからだ。
マーナは感じていた。近く、自分の使命を果たす日が来るだろうと。
互いに今生の別れを惜しみつつ、マーナは強い意思でジンの元へ旅立って行った。その言葉は現実となり、二人の魔力のつながりは、マーナとルイが重なった瞬間に消えたのをクリスティーナは明確に感じとった。
だがクリスティーナは一年前、姿を変えながらもマーナを宿すルーナと再会した。相手は獣人国の女王である。当初こそ大いに困惑したが、少し共にいただけでマーナ本来の主人だったクリスにはすぐにマーナを感じる事ができたのだ。
「全部あるんや。クリスに対するマーナはんの想い。ウチは獣人ルイであり聖獣マーナガルムでもある。なんちゅうたらええんかわからんけど…とにかくそばにおりたいんや。それは譲らん」
「マーナぁ…」
クリスティーナはルーナにまっすぐそう告げられ、別れの日が改めて脳裏に浮ぶ。
そして戦いの後、すぐさまドッキアに戻ったジンがクリスティーナの目の前で執務室の床に頭で穴を空けた時は、これも運命だと言ってジンを逆に慰め、自身にも言い聞かせていた。
だがルーナの言葉で、未だ悲しみを拭いきれていなかったのだと胸を締め付けられる。
クリスティーナはギルドマスターである。時に非情な決断も下さなければならないし、強くあらねば冒険者達を導く事はできないと十分に分かっている。ドッキアギルドマスターとしての責任を放棄する訳にはいかないし、するつもりもないが、この時ばかりは涙が浮ぶことを我慢できなかった。
「まったく…マスターたる者がベソなんぞかきおって。クリスや。お主は罰としてイシスに左遷じゃ。明日から行ってまいれ」
「はぁい、おばあちゃん!」
「左遷てウチとこに失礼ちゃうか!?」
さしものクリスティーナもヨルの前ではその威厳も薄れ、この決定を間近で聞いていた職員達は母娘を見るような、微笑ましい気持ちを抱かずにはいられなかった。
ただ一人を除いて。
「して、カストル」
「はい」
「お主はガーランドとドッキアの兼任じゃ」
「でしょうね」
カストルには話の最序盤から結末が見えていた。どうやってその結末を被害の少ない方向にもって行くかを全力で思案していたのだが、結局最後まで牽制一つ打てなかった事を悔いている。
「よろしくねぇ、カストルちゃん♪」
「ぐっ…」
カストルはクリスティーナのウインクに悪意が混ざっている事はわかりつつも、今のやり取りの手前、さらに女王ルーナを前にとても文句は言えない。せめてもと、確認と文句のギリギリのラインを攻めた。
「給金は倍にしても?」
「好きにせぃ」
「早々にドッキアの見込みのある者を育てて権限移譲しても?」
「好きにせぃ」
「ギルド間の移動に質の良い草原蜥蜴を購入しても?」
「好きにせぃ」
「過労で死にそうになったら遠慮なく休んでも?」
「ダメじゃ」
「……過労で」
「ダメじゃ」
首をもたげて口を噤んだカストルを尻目に、ヨルはクリスティーナを見る。
「クリス。慌てることはない。ゆっくりとな。獣人らは人間とは違う。ギルドマスターとしての使命を忘れず、無理はするでないぞ」
「はぁ~い♪」
(腑に落ちねぇ!!)
隠れて頭を抱えるカストルに苦笑いを浮かべる職員達。
ルーナは犬歯をのぞかせながらかっかと笑い、
「よっしゃ決まりや! ほな帰るでクリス、みんな!」
ウィンザルフと握手を交わし、亜人の長たちはそれぞれの帰路へつく。
「ほう…国家戦力級の者が生まれたか」
ヨルの一言で大いにざわつく広間。さまざまな国の重鎮が多くいるこの場で明かせば、わざわざ諸国に書簡を送る手間が省けるとヨルは考えたのだろう。少々異例の事ではあるが、冒険者ギルドのトップの判断に、その場にいるギルドマスターや職員に止める者はいない。
新たなSランク冒険者の誕生は世界各国に知らせるのがルールとなっている。どの国家にも属さない冒険者ギルドゆえに、その国家を脅かす事の出来る者の存在をあらかじめ周知しておくことはギルドへの信頼にもつながる。
国があってのギルドであり、ギルドあっての国という思想が世を支配しているこの世界。
わかりやすい例を挙げれば、冒険者ギルドの無い国にこの世界の人間は基本的に住みたがらない。ただ単純に危ないからである。治安が良くなければ、政治面や経済面といった国を成すあらゆる方面からほころびが生まれ、国は瓦解してゆく。歴史がそれを証明している。
「ワシは直接会っとらんがのう。枠に納めておくのは勿体の無い男じゃと聞いておる。クリスや、あとは頼めるかの」
「はぁい、おばあちゃん♪」
グランドマスターであるヨルは本来、各国にSランク冒険者の認定を知らせる書簡につづる内容を口頭で知らせる為、その者の認定を推薦したギルドマスターであるドッキア冒険者ギルドマスターのクリスティーナにその場を任せた。
クリスティーナはギルド関係者の輪から前に出て、辺りを見回す。この場にいる有力者たちが急いで側付きを呼び、内容の記録を取るための準備が大方整った事を確認し、声高に宣言した。
「ドッキア冒険者ギルドを預かっております、クリスティーナ・ヘイルゼンと申します。僭越ながらこの場をお借りし、新たにSランクに認定されました者のご紹介をさせて頂きます」
フッと息を吐き、緊張をほぐすクリスティーナ。各国の重鎮が居並ぶこの場では、さしものクリスティーナも緊張を伴う。
「まずは支持ギルドを申し上げます。アルバニア、マイルズ、ガーランド、フリュクレフ、スウィンズウェル、ペトラ。以上六都市の冒険者ギルドの支持により、五ギルド以上の支持を得ました」
冒険者をSランクと認定するには五ギルド以上の支持を得なければならない。これはギルド規定で示されている事であり、過去、例外は存在しない。
支持を表明したギルドは全て帝国領内に存在するが、ギルドの中立性を知る各国の者達からは一切の異論が出る事は無い。
「なお、ここにおられるルーナ様、ヴェリーン様はその者と直接お会いになっており、その人となりに問題は無いとのお言葉を賜っています」
突然自分達に水を向けられたルーナとヴェリーンだが、二人とも何もいう事は無いと、沈黙を保つ。
そして、クリスティーナは名を告げる。
「その者の名は―――ジン・リカルド」
一呼吸置き、クリスティーナは過去この場の皆が知る、Sランク認定者を知らせる書簡の末尾の一文を重々しく発する。
「その者、くれぐれも、お取り扱いにはご注意ください」
この最後の一言で貴族の側に控えていた者達が一斉に会場を後にする。ギルドからこれ以上の情報がもたらされることはなく、あとは自分達で調べる必要があるからである。
Sランク冒険者の情報はその土地土地を治める者にとって非常に重要であり、知らぬでは到底話にならない。実際、ジンの名を聞いた貴族達は心当たりと、今持ち得ている情報の交換に忙しい。
「女王を救出したのがこの者だとか」
「帝都の王竜殺しとの話も聞いたことがある」
「そのジンなる者はアジェンテに名を連ねていた気がするが、同名の可能性もある。すぐに同一人物か確認した方がよさそうだ」
方々で語られるジンの情報。ジンの預かり知らぬところで、その名は多くの者に語られることとなるが、
「せや、ウチからも。ジンはんとウチ、友好条約結んどるからな。まぁ、礼みたいなもんや。みんな覚えといてやぁ」
会場に響き渡ったルーナの一言は、亜人の長たちを除くその場の全員を凍り付かせた。
(やはり女王を救ったのはそのジン・リカルドだったか)
(中立であるはずの冒険者と手を結んだだと!?)
(個人と条約など聞いたことが無い!)
(いや、Sランク冒険者に行動を制限するような規則の大半は適用されないと聞いたことがある…しかし…)
「カーライル」
「はっ。すでに情報は一通り。問題はございません」
「根拠は」
「その者約三年前、帝都を竜より守護しており、陛下の感状を受けております」
「あの者か…なればよい」
一連の話を聞き遂げたウィンザルフは、傍に控える軍務大臣であるカーライルに確認するや、数センチ注がれたワイングラスを給仕から受け取った。
「くくっ…ウチが認めた初めての男や。半端な虫が寄り付かんよう、ジンはんの格を世界に知らしめんとなぁ。なぁヴェリーンはん」
「またエーデルタクトにお立ち寄り頂きたいものです。娘が大変お世話になったようですし、改めてお礼を申し上げなければなりません」
「またフラッと顔出しよるんちゃうか。今はアレやけど、なによりアイレはんがほっとかんわ」
「ふふっ。だといいのですが。放浪癖のあるあの子が里の復興に一生懸命なのは嬉しいのですが…まだまだ時がかかりますし、早く追いかけるよう叩き出しましょうか」
場の全員がこの条約のもたらす意味と効果に逡巡しながらざわめくなか、ルーナとヴェリーンは互いに笑い合う。
◇
「おい、ヨル」
「なんじゃ、ルナー」
「どこ伸ばしとんねん」
宴もたけなわ。場の解散間際にルーナはグランドマスターであるヨルに話を振る。名を呼んだ時点で、絡み酒では無い事をヨルは瞬時に察した。
「クリスをイシスのギルドに来させぇ」
「…お主の半身、話は真じゃったか」
「見たらわかるやろ」
ルーナは水色の髪をなびかせ、真っ白な尾を一振りした。
「聖獣と同居するなんてのは聞いたことが無いわい。大抵力だけの受け渡しか、傍らで力を貸すもんじゃろ。現に竜の狂宴のクロード坊は聖獣と共におる」
ヨルはSランク冒険者としてすでに世界に名を轟かせているクロード・ドレイクの名を挙げ、ルーナの特異性を指摘した。
「誰やそれ。そんなんどうでもええわ。さっさとせんかい」
「お主、それが人にモノを頼む態度か…」
ヨルは呆れつつも、本気で拳を交えた事のある今を生きる数少ない友人のルーナの頼みを無下にはできない。その場にクリスティーナとガーランド冒険者ギルドマスターであるカストルを呼んだ。
「クリスや。イシスの冒険者ギルドを立て直してはもらえんかの」
「ええっ!? それは…マーナの側にいられるのは嬉しいけどぉ…」
ジンがホワイトリムに滞在していた時にマーナを送り出した夜、クリスティーナは涙した。マーナからもう会えないだろうと言われたからだ。
マーナは感じていた。近く、自分の使命を果たす日が来るだろうと。
互いに今生の別れを惜しみつつ、マーナは強い意思でジンの元へ旅立って行った。その言葉は現実となり、二人の魔力のつながりは、マーナとルイが重なった瞬間に消えたのをクリスティーナは明確に感じとった。
だがクリスティーナは一年前、姿を変えながらもマーナを宿すルーナと再会した。相手は獣人国の女王である。当初こそ大いに困惑したが、少し共にいただけでマーナ本来の主人だったクリスにはすぐにマーナを感じる事ができたのだ。
「全部あるんや。クリスに対するマーナはんの想い。ウチは獣人ルイであり聖獣マーナガルムでもある。なんちゅうたらええんかわからんけど…とにかくそばにおりたいんや。それは譲らん」
「マーナぁ…」
クリスティーナはルーナにまっすぐそう告げられ、別れの日が改めて脳裏に浮ぶ。
そして戦いの後、すぐさまドッキアに戻ったジンがクリスティーナの目の前で執務室の床に頭で穴を空けた時は、これも運命だと言ってジンを逆に慰め、自身にも言い聞かせていた。
だがルーナの言葉で、未だ悲しみを拭いきれていなかったのだと胸を締め付けられる。
クリスティーナはギルドマスターである。時に非情な決断も下さなければならないし、強くあらねば冒険者達を導く事はできないと十分に分かっている。ドッキアギルドマスターとしての責任を放棄する訳にはいかないし、するつもりもないが、この時ばかりは涙が浮ぶことを我慢できなかった。
「まったく…マスターたる者がベソなんぞかきおって。クリスや。お主は罰としてイシスに左遷じゃ。明日から行ってまいれ」
「はぁい、おばあちゃん!」
「左遷てウチとこに失礼ちゃうか!?」
さしものクリスティーナもヨルの前ではその威厳も薄れ、この決定を間近で聞いていた職員達は母娘を見るような、微笑ましい気持ちを抱かずにはいられなかった。
ただ一人を除いて。
「して、カストル」
「はい」
「お主はガーランドとドッキアの兼任じゃ」
「でしょうね」
カストルには話の最序盤から結末が見えていた。どうやってその結末を被害の少ない方向にもって行くかを全力で思案していたのだが、結局最後まで牽制一つ打てなかった事を悔いている。
「よろしくねぇ、カストルちゃん♪」
「ぐっ…」
カストルはクリスティーナのウインクに悪意が混ざっている事はわかりつつも、今のやり取りの手前、さらに女王ルーナを前にとても文句は言えない。せめてもと、確認と文句のギリギリのラインを攻めた。
「給金は倍にしても?」
「好きにせぃ」
「早々にドッキアの見込みのある者を育てて権限移譲しても?」
「好きにせぃ」
「ギルド間の移動に質の良い草原蜥蜴を購入しても?」
「好きにせぃ」
「過労で死にそうになったら遠慮なく休んでも?」
「ダメじゃ」
「……過労で」
「ダメじゃ」
首をもたげて口を噤んだカストルを尻目に、ヨルはクリスティーナを見る。
「クリス。慌てることはない。ゆっくりとな。獣人らは人間とは違う。ギルドマスターとしての使命を忘れず、無理はするでないぞ」
「はぁ~い♪」
(腑に落ちねぇ!!)
隠れて頭を抱えるカストルに苦笑いを浮かべる職員達。
ルーナは犬歯をのぞかせながらかっかと笑い、
「よっしゃ決まりや! ほな帰るでクリス、みんな!」
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