ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ

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第七章 最初の欠席

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六月になった。

王宮の社交シーズンが本格化し、ヴィクトルの帰りが遅くなる日が続いた。エレナは夕暮れの庭に行き続けた。一人でも、行った。来ない夫を待つためではなく、自分のために行くのだと言い聞かせながら。

その日も、エレナはいつもの時刻にベンチに腰を下ろした。

三十分が過ぎた。一時間が過ぎた。陽が沈んだ。

使いが来たのは、空がすっかり暗くなってからだった。

「閣下からの伝言です。本日、ランドール侯爵家との会合が長引いており、夕食にも間に合わない見込みとのことです」

エレナは使いの少年の顔を見た。十四か十五か、まだ幼い顔だった。伝言を伝えながら、少し申し訳なさそうにしていた。

「わかりました」とエレナは言った。「お夕食の準備を整えてお待ちするとお伝えして」

少年は頭を下げて去っていった。



エレナはしばらくベンチに残った。

ランドール侯爵家との会合。つまりイザベルもそこにいる。

ただの仕事だ。ヴィクトルは誠実な人間だ。自分はそれを信じている。信じなくてどうするのか。

そう思いながら、エレナは立ち上がった。

邸に戻り、一人で夕食を取った。ヴィクトルが帰ってきたのは夜の十時を過ぎた頃だった。疲れた顔をしていたが、どこか、充実したような色もあった。

「遅くなった」彼は言った。「悪かった」

「大丈夫よ」エレナは答えた。「お食事、温め直させましょうか」

「ああ、頼む」

それだけだった。会合の内容を聞かなかった。誰がいたかも聞かなかった。聞いてしまえば、何かを確認することになる。確認したいのか、したくないのか、自分でもわからなかった。



夜、ドレッサーの前に座ったエレナは、鏡の中の自分に問いかけた。

どうして聞かなかったのか、と。

答えは出なかった。ただ、引き出しの奥の押し花のことを、なぜかふと思った。名前のない、青い小さな花。

エレナはため息をひとつ吐いて、蝋燭を消した。

――「大丈夫よ」。その言葉が喉に貼り付いて、なかなか剥がれなかった夜だった。

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