1001通目の真実 〜捨てられた王妃と、私を捨てた騎士王〜

柴田はつみ

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第三章:偽りの肖像と、凍てつく決意

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離宮の暗い廊下で、ミリアは自分の指先を見つめていた。
燃えるインクの甘い匂いが、毒のように喉を刺す。

「……私の言葉は、一度も彼に届いていなかったのね」

震える手で、石床に落ちた**「一周年目の手紙」**を拾い上げる。
これまで彼を責めなかったのは、彼もまた孤独の中で戦っていると信じていたからだ。
けれど、この離宮そのものが悪意で塗り固められた巨大な嘘だとしたら――。



同じ頃、本宮の執務室。
若き王アルティスは、机の上の一通の手紙を苦渋の面持ちで見つめていた。

側近が「王妃様より」と差し出した、偽りの書簡である。

「……また、これか」

乱暴な筆致で、そこにはこう書かれていた。

『無能な王など見るのも汚らわしい。私を離宮に閉じ込めるのなら、あなたの国が滅びるよう毎日神に祈りましょう』

アルティスは深く椅子にもたれ、目頭を押さえた。

「ミリア……肖像画では、あんなにも穏やかな瞳をしていた君が……なぜ……」

即位直後の内乱、相次ぐ不作。
彼は愛する妻を戦火と政争から遠ざけるため、最も安全な場所として離宮へ送り、政務が落ち着くまで会うのを控えていた。

それが、側近たちの手で**「無視」と「幽閉」**にすり替えられているとは、夢にも思っていなかった。

側近の長・バルカスが、低く囁く。

「陛下、王妃様は精神を病んでおられます。無理にお会いになれば、陛下の命すら危うい。今は離宮へ近づかれぬ方が賢明でしょう」

「……わかっている。だが、いつまで彼女をあそこに閉じ込めておくつもりだ」

アルティスの胸には、届かぬ妻への謝罪と、(拒絶されていると信じ込まされた)彼女への絶望が、静かに積み重なっていた。



離宮では、ミリアが最後の賭けに出ていた。

「サラ、本宮へ繋がる唯一の連絡係に、これを。……いいえ、『贈り物』だと言って渡して」

彼女が差し出したのは封筒ではない。
実家の家紋が刻まれた、小さな銀の鈴を包んだ箱だった。

中に添えられていたのは、たった一行の紙切れ。

『陛下。一度だけでいい。私の目を見てください』

だが、その贈り物すら、離宮の門を出る前にバルカスの手に渡る。

彼は鈴を乱暴に握りしめ、庭の池へと投げ捨てた。

「色仕掛けのつもりか。……陛下には『王妃がまた金目のものをねだんできた』と伝えろ」



その夜、ミリアは月明かりに照らされた池の水面を見つめていた。
銀の鈴が沈んだ場所に、波紋だけが静かに広がっていく。

自分の声も、存在も、雫のように消えていく感覚。

(信じているわ、アルティス様……あなたは、本当に私を拒んでいるの?)

二人の間には、厚い壁よりも残酷な、「嘘という名の氷」が張り詰めていた。
ミリアの心から、少しずつ希望という名の温もりが奪われていく。
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