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第十九章:謀略の果実、騎士の咆哮
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皇帝ケルビンが寝室を去った後、室内にはむせ返るような香油の匂いと、虚無だけが残された。
ミリアはベッドの端に腰掛け、乱れた髪を直す気力さえなく、ただ闇を見つめていた。
結局、ケルビンは彼女を抱かなかった。ただ肌を撫で回し、耳元で残酷な勝利宣言を囁いただけだ。
「――お前の元夫の国、アステリア。その食糧庫には、すでに我が帝国の間者が毒を混ぜた。今頃、民は飢えと病に伏しているだろう」
ミリアの指先が、シーツを強く掴む。
「お前が皇后となる日、その“贈り物”としてアステリア王の首を届けてやる。……楽しみにしていろ、リナリア」
ミリアの復讐は、本来アルティス個人に向けられたものだった。
だがケルビンの企みは、彼女の故郷そのものを踏みにじるものだった。
そして、その言葉を――扉の向こうでアルティスも聞いていた。
バタン、と扉が開く。
怒りと絶望に歪んだ仮面の騎士が、部屋へ踏み込んでくる。
「……本当なのか。間者を放ったというのは」
「……ええ。陛下は、私の復讐を肩代わりしてくださるそうよ。ありがたい話でしょう?」
ミリアは笑ったが、その声はかすかに震えていた。
アルティスは彼女の肩を掴み、強く揺さぶる。
「目を覚ませ、ミリア! 私を殺すのは構わない。だが、罪のない民まで巻き込むことが君の望みなのか?
あの国には、君が幼い頃に愛したリナリアの花畑がある。君を慕っていた人々がいる!」
「うるさい……うるさいわ!
それを壊したのは私じゃない! 私を追い出したあなたたちよ!」
「ああ、そうだ……すべては私の罪だ!」
アルティスは剣を引き抜き、逆さに持って柄をミリアへ突き出した。
「だから、私を殺せ。今ここで。
そしてこの首を持ってケルビンに乞え。……国だけは、民だけは助けてくれと!」
ミリアは剣の冷たさに、全身の血が凍るのを感じた。
彼は本気だった。贖罪と国のために、自ら命を差し出そうとしている。
「……できないわ」
ミリアは剣を落とした。硬い音が、静まり返った部屋に響く。
「あなたを殺して一人で生きるなんて……そんなの、復讐にもならない。
……あなたには、もっと苦しんでもらわなきゃ困るのよ」
ミリアはアルティスの胸に顔を埋め、堰を切ったように泣き崩れた。
憎い。殺したいほど憎い。
それでも、彼が死ぬことを想像するだけで、足元が崩れるような恐怖が込み上げる。
「……共闘しましょう、アルティス。
あなたの国を守るためじゃない。私が、あなたを地獄に突き落とす……その“舞台”を守るために」
歪んだ、けれど彼女なりの救いだった。
アルティスは、泣きじゃくる彼女を強く抱きしめる。
「ああ、わかっている。……私は君の駒だ。
君の地獄を完成させるために、私はケルビンを討つ」
その夜――
二人の関係は、「加害者と被害者」から、帝国という巨大な悪意に抗う「共犯者」へと、静かに書き換えられた。
ミリアはベッドの端に腰掛け、乱れた髪を直す気力さえなく、ただ闇を見つめていた。
結局、ケルビンは彼女を抱かなかった。ただ肌を撫で回し、耳元で残酷な勝利宣言を囁いただけだ。
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ミリアの指先が、シーツを強く掴む。
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ミリアの復讐は、本来アルティス個人に向けられたものだった。
だがケルビンの企みは、彼女の故郷そのものを踏みにじるものだった。
そして、その言葉を――扉の向こうでアルティスも聞いていた。
バタン、と扉が開く。
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「……本当なのか。間者を放ったというのは」
「……ええ。陛下は、私の復讐を肩代わりしてくださるそうよ。ありがたい話でしょう?」
ミリアは笑ったが、その声はかすかに震えていた。
アルティスは彼女の肩を掴み、強く揺さぶる。
「目を覚ませ、ミリア! 私を殺すのは構わない。だが、罪のない民まで巻き込むことが君の望みなのか?
あの国には、君が幼い頃に愛したリナリアの花畑がある。君を慕っていた人々がいる!」
「うるさい……うるさいわ!
それを壊したのは私じゃない! 私を追い出したあなたたちよ!」
「ああ、そうだ……すべては私の罪だ!」
アルティスは剣を引き抜き、逆さに持って柄をミリアへ突き出した。
「だから、私を殺せ。今ここで。
そしてこの首を持ってケルビンに乞え。……国だけは、民だけは助けてくれと!」
ミリアは剣の冷たさに、全身の血が凍るのを感じた。
彼は本気だった。贖罪と国のために、自ら命を差し出そうとしている。
「……できないわ」
ミリアは剣を落とした。硬い音が、静まり返った部屋に響く。
「あなたを殺して一人で生きるなんて……そんなの、復讐にもならない。
……あなたには、もっと苦しんでもらわなきゃ困るのよ」
ミリアはアルティスの胸に顔を埋め、堰を切ったように泣き崩れた。
憎い。殺したいほど憎い。
それでも、彼が死ぬことを想像するだけで、足元が崩れるような恐怖が込み上げる。
「……共闘しましょう、アルティス。
あなたの国を守るためじゃない。私が、あなたを地獄に突き落とす……その“舞台”を守るために」
歪んだ、けれど彼女なりの救いだった。
アルティスは、泣きじゃくる彼女を強く抱きしめる。
「ああ、わかっている。……私は君の駒だ。
君の地獄を完成させるために、私はケルビンを討つ」
その夜――
二人の関係は、「加害者と被害者」から、帝国という巨大な悪意に抗う「共犯者」へと、静かに書き換えられた。
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