幸せの賞味期限――妹が奪った夫は、甘く腐る

柴田はつみ

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第十八章:冷徹な投資

 アルマード公爵の寝室へと続く控えの間は、まるで最高級の宝飾店か、あるいは王族の衣装蔵のような華やぎに満ちていた。

 リリアの前に置かれているのは、ベルベット張りの箱。その中に鎮座するのは、血を滴らせるかのように深紅に輝く、大粒のピジョンブラッド・ルビー。

 かつてカイルが、
「君の地味な顔立ちには似合わない」
と切り捨てた、あまりにも鮮烈で傲慢な色彩。

「……これを、私に?」

 恐る恐る指を伸ばした瞬間、背後に立つアルマードがその手を静かに制した。

「勘違いするな。これは贈り物ではない。――投資だ」

 低く、温度のない声。

 彼はリリアの肩を抱き、鏡の前へと導いた。

 映し出された女は、数週間の教育を経て、かつての家庭的で柔らかな面影を完全に削ぎ落としている。そこに立っていたのは、鋭利な刃のように研ぎ澄まされた女だった。

「宝石はな、それ自体に価値があるわけではない。それを纏う女が、どれほど冷徹に他者を支配できるかを示す――武器だ」

 細長い指が、ルビーをリリアの喉元へとあてがう。
 石の冷たさが、肌を刺す。

「カイルが君を地味に縛ったのは、君が自分の価値に気づくのを恐れたからだ。見限られるのが怖かった。だから君を飼い殺しにし、自分の矮小さを隠す壁紙にした」

 鏡越しに交わる視線。

「私は違う。君に最高の武装を与え、社交界という戦場へ解き放つ。君が輝けば輝くほど、私の審美眼は証明される。そして――君を安く見積もった男の無能が、白日の下に晒される」

 囁きは、甘さを欠いた毒。

「このドレスも宝石も、すべて私が支払った。だが代価は結果で払え。晩餐会の夜、カイルとエレナの前で、彼らの世界がいかに貧相で滑稽なままごとだったかを教えてやれ」

 リリアは鏡の中の自分を見つめ続けた。

 かつてなら、
「身の丈に合いません」
と微笑んで辞退しただろう。

 だが今は違う。

 ルビーの赤に負けぬ光が、瞳の奥で燃えている。

「……承知いたしました、公爵様。この石にふさわしい冷酷さを、ドレスの裏地に縫い込んでおきますわ」

 アルマードは満足げに、彼女の白い肩へ唇を寄せた。

 それは愛の証ではない。
 共犯者同士が交わす、血の盟約。

 投資は完了した。

 あとは、市場が暴落する瞬間を待つだけだ。

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