悪役令嬢は六度目の人生を平穏に送りたい

第十六章 孤独な夜と許されぬ慰め

王宮の広い寝室で、リーチェは一人、冷たいシーツに身を埋めていた。隣には
誰もいない。かつて、アーチが夜ごと訪れ、優しく髪を撫でてくれた温もりは、、もはや遠い記憶の中にしかなかった。

窓の外には月が煌々と輝いていたが、リーチェの心は、暗闇に閉ざされていた。

（もう、何もかもどうでもいい‥）

生き残ることだけを願った六度目の人生だったはずなのに、リーチェは、生きていく意味を見失いつつあった。

その時、ノックの音がした。扉を開けると、そこに立っていたのは、リーチェの護衛騎士、アルフレッドだった。彼の瞳は、リーチェの悲しみを映し出し、深く心配そうに揺れていた。

「リーチェ様‥何か、お力になれることはございませんか」

アルフレッドの声は、いつもと変わらず静かで、しかし暖かかった。リーチェは、もう我慢できなかった。

「アルフレッド‥っ」

リーチェは、彼の胸に飛び込み、声を上げて泣いた。アルフレッドは何も言わず、ただ優しくリーチェを抱きしめた。

彼の腕の中に包まれると、リーチェは、ようやく息ができるような気がした。

「殿下は‥もう、わたくしを必要とされてないのですね‥」

リーチェの声は、鳴咽で途切れた。アルフレッドは、リーチェの背中を優しく撫でながら、震える声で言った。

「そのようなことは‥決して」

しかし、彼の言葉は、リーチェの耳には届かなかった。リーチェは、自分を愛してくれる唯一の存在が今、目の前にいるアルフレッドだけだと感じていた。

彼のの温もりだけが、リーチェの心を癒してくれる。

そして、その夜。

アルフレッドは、リーチェの髪を優しく撫で、その頬に落ちる涙をそっと拭った。リーチェは、彼の顔を見上げ、潤んだ瞳で彼を見つめた。

アルフレッドの瞳には、リーチェへの深い愛と、彼女を守りたいという強い感情が宿っていた。

許されるはずのないこと。しかし、孤独と絶望の中で、リーチェの願いを受け止めるように、そっと彼女の唇に触れた。

それは、悲しみに満ちた夜の、許されぬ慰めだった。

側室の妊娠の噂は、リーチェの心を絶望の淵に突きつけ落とし、アーチとの関係をさらに遠ざけた。

そして、その孤独の中で、リーチェはアルフレッドとの禁断の絆を深めていく。

アーチがリーチェの元へ来なくなった本当の理由を、リーチェはまだ知らないままだ。