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第5章「噂の午後会」
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午後の陽光が差し込むサロンは、
色とりどりのドレスを纏った令嬢たちのざわめきで満ちていた。
シャルロットは緊張していた。
後妻として公爵家に入って初めての“午後会”。
胸元の白いコサージュをそっと押さえ、
深く息を吸う。
(大丈夫……
私は“名目上の妻”でも、この家を守る立場なのだから)
そう言い聞かせても、
心はどこか頼りなく揺れていた。
サロンの奥から、数人の令嬢の声が聞こえてくる。
「見た? 新しい公爵夫人よ」
「ええ、でも……あの方は“影の夫人”ですもの」
「公爵さまの心にいるのは、エリザベラ様よ」
「亡くなって一年……いまだに忘れられないなんて、素敵よね」
胸の奥がきゅっと音を立てるように痛んだ。
(……影の夫人)
気づかれないふりをしても、心が少しずつ削られていく。
その時だった。
「シャルロット」
名を呼ぶ声に振り向くと、
カルロスがサロンの入り口に立っていた。
黒いコートに身を包み、
静かな気品を漂わせながら彼は歩み寄る。
シャルロットの胸が一瞬温かくなる。
(……来てくださったの?)
カルロスはシャルロットの隣に立ち、
軽く視線を合わせてくる。
その目は穏やかで――
けれど“どこか言えない秘密”を抱えているようだった。
令嬢たちのざわめきが、さらに強まる。
「やっぱり……あの眼差しも、エリザベラ様の時ほどではないわ」
「ええ、“嘘の優しさ”よ」
「夫婦というより……保護者みたい」
シャルロットは、思わず息を呑んだ。
カルロスは周囲の声に気づいたのか、
シャルロットに近づき、小さくつぶやいた。
「……無理をしていないか?」
「だ、大丈夫……ですわ」
震える声で答えると、
カルロスは眉を寄せかけて、しかしその感情を封じ込めた。
「……少し休むか?
無理なら、外へ出ても――」
「平気です。
夫人として……務められるよう、頑張りますわ」
その瞬間、カルロスの瞳に一瞬だけ
“痛むような影”が浮かんだ。
(どうして……そんな顔を?)
問いかける勇気が出ないまま、
午後会は続く。
しばらくして、
先ほど噂をしていた令嬢たちが
シャルロットの近くに歩み寄ってきた。
「まあ公爵夫人、今日もお美しいわ」
「この庭園、エリザベラ様がお好きだったのよ」
「あなたは……まだご存じなかったかしら?」
微笑みながらも、その言葉は鋭く刺さってくる。
シャルロットの指先が震えた。
だが笑みを保とうと必死に耐える。
「ええ……とても美しいお庭ですわ」
「でも……前妻様の面影には、到底及ばないけれど」
その瞬間、
シャルロットの心臓が静かに沈んだ。
(やっぱり……私は“影”のまま)
声は出なかった。
その沈黙を破ったのは、
低く響くカルロスの声だった。
「……もういいだろう、君たち」
静かだが、明らかに怒りを含む声。
令嬢たちは驚いたように目を見開いた。
カルロスはシャルロットを庇うように前へ出る。
「この庭園が誰のためにあるか……
君たちはまだ知らないようだな」
その一言に令嬢たちの顔色が変わる。
(え……私の……ため?)
シャルロットは目を見開いた。
カルロスはシャルロットの方を見ずに言う。
「エリザベラの思い出の場ではない。
――シャルロットが心を休められるように、と私は願っている」
シャルロットの胸に、
まるで硝子に光が差したような熱が広がった。
令嬢たちは小さく頭を下げ、
気まずそうにその場を去っていく。
サロンのざわめきが少し落ち着いた頃、
シャルロットは勇気を出して声を出した。
「……本当に、わたくしのために……?」
カルロスは静かに息を吸い、
目を伏せながらつぶやく。
「……それ以上言うと、
今は言えないことまで言ってしまいそうだ」
その声は、痛いほど不器用で優しかった。
シャルロットの胸は強く揺れた。
(触れられない距離のはずなのに……
どうしてそんなふうに優しくするの……?)
噴水の水音が静かに響く午後会の中で、
シャルロットの心はゆっくりと揺れ続けた。
そして彼女はまだ知らない。
カルロスのその怒りも言葉も──
すべて**“シャルロットを守るため”**だったということを。
色とりどりのドレスを纏った令嬢たちのざわめきで満ちていた。
シャルロットは緊張していた。
後妻として公爵家に入って初めての“午後会”。
胸元の白いコサージュをそっと押さえ、
深く息を吸う。
(大丈夫……
私は“名目上の妻”でも、この家を守る立場なのだから)
そう言い聞かせても、
心はどこか頼りなく揺れていた。
サロンの奥から、数人の令嬢の声が聞こえてくる。
「見た? 新しい公爵夫人よ」
「ええ、でも……あの方は“影の夫人”ですもの」
「公爵さまの心にいるのは、エリザベラ様よ」
「亡くなって一年……いまだに忘れられないなんて、素敵よね」
胸の奥がきゅっと音を立てるように痛んだ。
(……影の夫人)
気づかれないふりをしても、心が少しずつ削られていく。
その時だった。
「シャルロット」
名を呼ぶ声に振り向くと、
カルロスがサロンの入り口に立っていた。
黒いコートに身を包み、
静かな気品を漂わせながら彼は歩み寄る。
シャルロットの胸が一瞬温かくなる。
(……来てくださったの?)
カルロスはシャルロットの隣に立ち、
軽く視線を合わせてくる。
その目は穏やかで――
けれど“どこか言えない秘密”を抱えているようだった。
令嬢たちのざわめきが、さらに強まる。
「やっぱり……あの眼差しも、エリザベラ様の時ほどではないわ」
「ええ、“嘘の優しさ”よ」
「夫婦というより……保護者みたい」
シャルロットは、思わず息を呑んだ。
カルロスは周囲の声に気づいたのか、
シャルロットに近づき、小さくつぶやいた。
「……無理をしていないか?」
「だ、大丈夫……ですわ」
震える声で答えると、
カルロスは眉を寄せかけて、しかしその感情を封じ込めた。
「……少し休むか?
無理なら、外へ出ても――」
「平気です。
夫人として……務められるよう、頑張りますわ」
その瞬間、カルロスの瞳に一瞬だけ
“痛むような影”が浮かんだ。
(どうして……そんな顔を?)
問いかける勇気が出ないまま、
午後会は続く。
しばらくして、
先ほど噂をしていた令嬢たちが
シャルロットの近くに歩み寄ってきた。
「まあ公爵夫人、今日もお美しいわ」
「この庭園、エリザベラ様がお好きだったのよ」
「あなたは……まだご存じなかったかしら?」
微笑みながらも、その言葉は鋭く刺さってくる。
シャルロットの指先が震えた。
だが笑みを保とうと必死に耐える。
「ええ……とても美しいお庭ですわ」
「でも……前妻様の面影には、到底及ばないけれど」
その瞬間、
シャルロットの心臓が静かに沈んだ。
(やっぱり……私は“影”のまま)
声は出なかった。
その沈黙を破ったのは、
低く響くカルロスの声だった。
「……もういいだろう、君たち」
静かだが、明らかに怒りを含む声。
令嬢たちは驚いたように目を見開いた。
カルロスはシャルロットを庇うように前へ出る。
「この庭園が誰のためにあるか……
君たちはまだ知らないようだな」
その一言に令嬢たちの顔色が変わる。
(え……私の……ため?)
シャルロットは目を見開いた。
カルロスはシャルロットの方を見ずに言う。
「エリザベラの思い出の場ではない。
――シャルロットが心を休められるように、と私は願っている」
シャルロットの胸に、
まるで硝子に光が差したような熱が広がった。
令嬢たちは小さく頭を下げ、
気まずそうにその場を去っていく。
サロンのざわめきが少し落ち着いた頃、
シャルロットは勇気を出して声を出した。
「……本当に、わたくしのために……?」
カルロスは静かに息を吸い、
目を伏せながらつぶやく。
「……それ以上言うと、
今は言えないことまで言ってしまいそうだ」
その声は、痛いほど不器用で優しかった。
シャルロットの胸は強く揺れた。
(触れられない距離のはずなのに……
どうしてそんなふうに優しくするの……?)
噴水の水音が静かに響く午後会の中で、
シャルロットの心はゆっくりと揺れ続けた。
そして彼女はまだ知らない。
カルロスのその怒りも言葉も──
すべて**“シャルロットを守るため”**だったということを。
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