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第27章「影の告白(あなたの顔を持つ娘)」
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廊下を満たしていた白百合の香りが、
ふいに濃くなった。
シャルロットは、
自分でも気付かぬうちに足を止めていた。
(……また……来ている)
影がいるとき、
空気はかすかに歪む。
温度が下がり、
背筋に冷たいものが触れる。
その中で——
声がした。
――「ねえ、シャルロット。
ようやく、気づいた?」
シャルロットは息を飲んだ。
カルロスが剣を構え、
彼女の前に立とうとする。
「シャルロット、下がれ!」
だがシャルロットの瞳は、
廊下の奥の“影”に吸い寄せられていた。
細い体。
長い髪。
白いナイトドレスのようなものを着た少女。
その顔は闇に隠れて見えない。
しかし、
声はあまりにも鮮明で、
美しく、どこか悲しい。
――「わたしの名前、
知ってるでしょう?」
シャルロットは震えた声で答えた。
「……ミレイユ……
あなたが……わたくしに……似せられた娘……?」
影は笑った。
――「似せられた?
違うわ。“奪われた”のよ」
シャルロットの心臓が跳ねた。
「奪われ……?」
――「わたしの顔は、
最初から“あなたの顔”だった」
シャルロットは一歩後ずさる。
(わたくしの……顔?
どういう意味……?)
影はゆっくり手を伸ばし、
自分の頬に触れた。
カーテン越しの月光が、
わずかに影の輪郭を照らす。
その頬の形。
顎のライン。
唇の曲線。
(……似ている……
あまりにも……
わたくしに……)
シャルロットは喉を固くした。
ミレイユは、
まるで囁くように言った。
――「あなたは“本物”。
わたしは……“模倣”。
エリザベラ様が欲しかったのは、
あなたの顔をした“影の娘”」
シャルロットは震えた。
(では……
ミレイユは……
わたくしの模造品……?
わたくしの“代わり”……?)
カルロスが声を荒げた。
「ミレイユ……!
シャルロットに近づくな!!」
影は静かに首を傾げた。
――「どうして邪魔するの?
あなたの本当の“妻”は……
わたしじゃない?」
カルロスの顔が硬直する。
シャルロットの胸が冷たくなった。
ミレイユは続けた。
――「エリザベラ様はね、
あなたを“救おうとしていた”の。
カルロス公爵から」
シャルロットは目を見開いた。
「救う……?
わたくしを……?」
――「そう。
あなたは選ばれた“代わり”。
わたしが死ぬはずだった夜——
本当はあなたが死ぬ運命だった」
シャルロットの身体が大きく震えた。
カルロスが怒鳴る。
「嘘を言うな!!
シャルロットを狙っていたのはお前とエリザベラだ!!」
ミレイユは哀しげに微笑んだ。
――「違うわ、公爵様。
あなたこそが……彼女を“触れられなくした理由”」
シャルロットの息が止まる。
――「あなたが触れたものは壊れる。
あなたと一緒になった女は“必ず”破滅する。
だからエリザベラ様は……
あなたを愛しながらも……
あなたのそばから逃げた」
カルロスは顔を歪める。
(それが……触れられない理由……?
でも……それだけじゃない……)
影はさらに続けた。
――「わたしは、あなたの代わり。
あなたの顔。
あなたの靴。
あなたの衣装。
あなたの人生を……
ずっと“借りて”いた」
シャルロットの胸が裂けそうになる。
(わたくしの……人生……?
何を……借りていたの……?)
カルロスはシャルロットを庇おうとしたが、
影はその前に言った。
――「わたしが死んだとき、
世界は“エリザベラが死んだ”と信じた。
でも本当は違う。
死んだのは“影の娘”。
つまり——
“あなたの身代わり”」
シャルロットは膝から力が抜け、
壁に手をついた。
カルロスの顔は苦痛と罪悪で歪んでいる。
影の声は美しく、残酷。
――「なのに……
どうしてあなたが生きているの?」
シャルロットは震えながら言った。
「生きて……は……
いけなかったのですか……?」
影の声が静かになる。
――「ええ。
本来、死ぬはずだったのは“あなた”。
あなたは、
私の“役目”を奪ったのよ」
シャルロットの呼吸が止まった。
(わたくしが……奪った……?
何を……?
わたくしの……役目……?)
影の真実は、
まだすべて語られていない。
ミレイユはゆっくり歩み寄る。
その顔が——
月光に照らされる。
シャルロットの顔と、
ほとんど同じだった。
カルロスが剣を向ける。
「来るな!!」
ミレイユは笑う。
――「来て欲しいんでしょう?
“触れられない妻”の代わりに」
カルロスの心が大きく揺れた。
シャルロットの胸が痛いほど締まる。
影は最後に、
シャルロットにだけ聞こえる声で囁いた。
――「あなたの席は、
“最初からわたしのもの”だったのよ」
影が消えると同時に、
廊下のランプがふっと揺れ、
白百合の香りだけが残った。
シャルロットは力なく座り込み、
涙をこぼした。
「わたくしは……
誰の……代わり……だったの……?」
カルロスは
触れられない手を震わせながら、
ただ彼女の前に膝をつき、
声を搾り出した。
「……シャルロット。
お前は“誰の代わりでもない”。
だが……
真実を知らなければならない」
影は微笑んでいた。
――真実は、まだ一つも語られていない。
ふいに濃くなった。
シャルロットは、
自分でも気付かぬうちに足を止めていた。
(……また……来ている)
影がいるとき、
空気はかすかに歪む。
温度が下がり、
背筋に冷たいものが触れる。
その中で——
声がした。
――「ねえ、シャルロット。
ようやく、気づいた?」
シャルロットは息を飲んだ。
カルロスが剣を構え、
彼女の前に立とうとする。
「シャルロット、下がれ!」
だがシャルロットの瞳は、
廊下の奥の“影”に吸い寄せられていた。
細い体。
長い髪。
白いナイトドレスのようなものを着た少女。
その顔は闇に隠れて見えない。
しかし、
声はあまりにも鮮明で、
美しく、どこか悲しい。
――「わたしの名前、
知ってるでしょう?」
シャルロットは震えた声で答えた。
「……ミレイユ……
あなたが……わたくしに……似せられた娘……?」
影は笑った。
――「似せられた?
違うわ。“奪われた”のよ」
シャルロットの心臓が跳ねた。
「奪われ……?」
――「わたしの顔は、
最初から“あなたの顔”だった」
シャルロットは一歩後ずさる。
(わたくしの……顔?
どういう意味……?)
影はゆっくり手を伸ばし、
自分の頬に触れた。
カーテン越しの月光が、
わずかに影の輪郭を照らす。
その頬の形。
顎のライン。
唇の曲線。
(……似ている……
あまりにも……
わたくしに……)
シャルロットは喉を固くした。
ミレイユは、
まるで囁くように言った。
――「あなたは“本物”。
わたしは……“模倣”。
エリザベラ様が欲しかったのは、
あなたの顔をした“影の娘”」
シャルロットは震えた。
(では……
ミレイユは……
わたくしの模造品……?
わたくしの“代わり”……?)
カルロスが声を荒げた。
「ミレイユ……!
シャルロットに近づくな!!」
影は静かに首を傾げた。
――「どうして邪魔するの?
あなたの本当の“妻”は……
わたしじゃない?」
カルロスの顔が硬直する。
シャルロットの胸が冷たくなった。
ミレイユは続けた。
――「エリザベラ様はね、
あなたを“救おうとしていた”の。
カルロス公爵から」
シャルロットは目を見開いた。
「救う……?
わたくしを……?」
――「そう。
あなたは選ばれた“代わり”。
わたしが死ぬはずだった夜——
本当はあなたが死ぬ運命だった」
シャルロットの身体が大きく震えた。
カルロスが怒鳴る。
「嘘を言うな!!
シャルロットを狙っていたのはお前とエリザベラだ!!」
ミレイユは哀しげに微笑んだ。
――「違うわ、公爵様。
あなたこそが……彼女を“触れられなくした理由”」
シャルロットの息が止まる。
――「あなたが触れたものは壊れる。
あなたと一緒になった女は“必ず”破滅する。
だからエリザベラ様は……
あなたを愛しながらも……
あなたのそばから逃げた」
カルロスは顔を歪める。
(それが……触れられない理由……?
でも……それだけじゃない……)
影はさらに続けた。
――「わたしは、あなたの代わり。
あなたの顔。
あなたの靴。
あなたの衣装。
あなたの人生を……
ずっと“借りて”いた」
シャルロットの胸が裂けそうになる。
(わたくしの……人生……?
何を……借りていたの……?)
カルロスはシャルロットを庇おうとしたが、
影はその前に言った。
――「わたしが死んだとき、
世界は“エリザベラが死んだ”と信じた。
でも本当は違う。
死んだのは“影の娘”。
つまり——
“あなたの身代わり”」
シャルロットは膝から力が抜け、
壁に手をついた。
カルロスの顔は苦痛と罪悪で歪んでいる。
影の声は美しく、残酷。
――「なのに……
どうしてあなたが生きているの?」
シャルロットは震えながら言った。
「生きて……は……
いけなかったのですか……?」
影の声が静かになる。
――「ええ。
本来、死ぬはずだったのは“あなた”。
あなたは、
私の“役目”を奪ったのよ」
シャルロットの呼吸が止まった。
(わたくしが……奪った……?
何を……?
わたくしの……役目……?)
影の真実は、
まだすべて語られていない。
ミレイユはゆっくり歩み寄る。
その顔が——
月光に照らされる。
シャルロットの顔と、
ほとんど同じだった。
カルロスが剣を向ける。
「来るな!!」
ミレイユは笑う。
――「来て欲しいんでしょう?
“触れられない妻”の代わりに」
カルロスの心が大きく揺れた。
シャルロットの胸が痛いほど締まる。
影は最後に、
シャルロットにだけ聞こえる声で囁いた。
――「あなたの席は、
“最初からわたしのもの”だったのよ」
影が消えると同時に、
廊下のランプがふっと揺れ、
白百合の香りだけが残った。
シャルロットは力なく座り込み、
涙をこぼした。
「わたくしは……
誰の……代わり……だったの……?」
カルロスは
触れられない手を震わせながら、
ただ彼女の前に膝をつき、
声を搾り出した。
「……シャルロット。
お前は“誰の代わりでもない”。
だが……
真実を知らなければならない」
影は微笑んでいた。
――真実は、まだ一つも語られていない。
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