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第48章「影と本妻の対話(涙の境界)」
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砕けた結界の破片が
白百合の間を淡い光で照らしていた。
影封じの儀が破綻し、
魔術師たちが混乱の中で後退する。
カルロスが扉をこじ開けようとしている音が響く。
白百合の間に残されたのは——
シャルロットと、
崩れかけた影ミレイユ。
影は床に膝をつき、
胸元を押さえて震えていた。
――「いや……
いやよ……
どうして……
あなたの心臓が……光るの……?」
シャルロットは
胸の奥の光を抑えながら、
そっと影へ歩み寄った。
(ミレイユ……
あなたは……こんなにも……苦しんで……)
影が、かすれた声で呟く。
――「わたしじゃ……
届かなかった……
どれだけ……手を伸ばしても……
あなたのように光れなかった……」
シャルロットの胸が痛んだ。
「ミレイユ……
あなたは……“光れなかった”のではありません。
光を奪われたのです。」
影が顔を上げた。
その瞳は泣きたいのに泣けない、
涙を知らない子供のようだった。
――「奪われた……?
わたしが……?」
シャルロットは頷く。
「あなたは……
誰かの“罪”のために影にされたのでしょう?」
影の瞳が大きく揺れた。
(その言葉を……
誰に言ってほしかったんだろう……
この娘はずっと……)
――「どうして……
わたしの痛みが……
あなたに……分かるの……?」
シャルロットは胸に手を当てた。
「あなたの指がわたくしの心臓に触れたとき、
わたくしは……あなたの孤独を感じました。」
影は息を呑む。
――「孤独……
わたしの……?」
「はい。
あなたは……誰にも抱きしめられなかった娘。
愛されなかったのではなく……
愛してもらえる場所を奪われた娘。」
影は震えた。
――「そんな……
そんなこと……
誰も言ってくれなかった……
一度も……」
シャルロットはゆっくりと膝をつき、
影と同じ高さに目線を合わせた。
手を伸ばすでもなく、
距離を詰めるでもなく。
ただ、
“対等に向き合った”。
「ミレイユ。
あなたは……消えたいのですか?
それとも……生きたいのですか?」
影の肩が震える。
――「生きたい……
わたしだって……
生きたかった……!
でも……
そのためには……
あなたの心臓が……必要で……」
シャルロットは静かに首を振る。
「違います。」
影が凍りついた。
――「違う……?」
「あなたが欲しかったのは……
“心臓という器”ではなく……」
シャルロットは静かに言った。
「愛されていいという証です。」
影の瞳に初めて、
“涙の影”が宿った。
――「わたし……
愛されて……
よかったの……?」
シャルロットは微笑んだ。
悲しみを抱きしめるように。
「ええ。
あなたは誰より……
愛されるべき娘でした。」
影は顔を覆い、
声にならない叫びをあげた。
――「どうして……
どうしてそんな優しいこと……
言うの……
あなたは……
わたしの……敵なのに……!」
「敵ではありません。」
シャルロットはそっと言った。
「あなたは、わたくしの“影”ではなく——
もうひとりの“わたし”なのです。」
影の動きが止まる。
――「わたしが……
あなた……?」
「ええ。
もし生まれた場所が違えば、
影にされたのはわたくしのほうだったかもしれない。
だから……
わたくしはあなたを憎めません。」
影の喉がひくりと震え、
声が漏れた。
――「そんなこと……
言わないで……
消えたく……なくなる……」
シャルロットの胸が強く打った。
(消えたくない……
この娘の本心……)
影は泣きそうな顔で言った。
――「ねえ……
どうしたら……
わたしは……
生きられたの……?」
シャルロットの瞳に、
淡い光が宿った。
「あなたが“影にされた理由”を
わたくしが見つけます。」
影が息を呑む。
――「そんなの……無理よ……
王家でさえ……知らないのに……」
「いいえ。
“影を封じる鍵”が覚醒した今なら……
わたくしには……見えるはずです。」
影の瞳に、
一筋だけ涙が落ちた。
その涙は、
光でもなく、
影でもない。
“境界の涙”。
二人の間に引かれていた線が、
少しだけ消えた瞬間だった。
――「シャルロット……
お願い……
わたしを……見つけて……」
シャルロットは頷いた。
「ええ。
あなたが奪われたものを取り返しましょう。」
影が震えた声で呟く。
――「もし……
わたしが“影にされた娘”だっただけなら……
あなたは……
許してくれるの……?」
シャルロットは静かに言った。
「許しません。
ただ——救います。」
その瞬間。
扉が完全に破られ、
白い光が差し込んだ。
カルロスの声が響く。
「シャルロット!!」
影はその光に怯え、
ふっと姿を揺らす。
(カルロス様……
ミレイユ……
この瞬間が……
“涙の境界”の終わり……)
シャルロットは立ち上がった。
影との対話は終わった。
次は——
影が“なぜ生まれたか”の真実へ。
白百合の間を淡い光で照らしていた。
影封じの儀が破綻し、
魔術師たちが混乱の中で後退する。
カルロスが扉をこじ開けようとしている音が響く。
白百合の間に残されたのは——
シャルロットと、
崩れかけた影ミレイユ。
影は床に膝をつき、
胸元を押さえて震えていた。
――「いや……
いやよ……
どうして……
あなたの心臓が……光るの……?」
シャルロットは
胸の奥の光を抑えながら、
そっと影へ歩み寄った。
(ミレイユ……
あなたは……こんなにも……苦しんで……)
影が、かすれた声で呟く。
――「わたしじゃ……
届かなかった……
どれだけ……手を伸ばしても……
あなたのように光れなかった……」
シャルロットの胸が痛んだ。
「ミレイユ……
あなたは……“光れなかった”のではありません。
光を奪われたのです。」
影が顔を上げた。
その瞳は泣きたいのに泣けない、
涙を知らない子供のようだった。
――「奪われた……?
わたしが……?」
シャルロットは頷く。
「あなたは……
誰かの“罪”のために影にされたのでしょう?」
影の瞳が大きく揺れた。
(その言葉を……
誰に言ってほしかったんだろう……
この娘はずっと……)
――「どうして……
わたしの痛みが……
あなたに……分かるの……?」
シャルロットは胸に手を当てた。
「あなたの指がわたくしの心臓に触れたとき、
わたくしは……あなたの孤独を感じました。」
影は息を呑む。
――「孤独……
わたしの……?」
「はい。
あなたは……誰にも抱きしめられなかった娘。
愛されなかったのではなく……
愛してもらえる場所を奪われた娘。」
影は震えた。
――「そんな……
そんなこと……
誰も言ってくれなかった……
一度も……」
シャルロットはゆっくりと膝をつき、
影と同じ高さに目線を合わせた。
手を伸ばすでもなく、
距離を詰めるでもなく。
ただ、
“対等に向き合った”。
「ミレイユ。
あなたは……消えたいのですか?
それとも……生きたいのですか?」
影の肩が震える。
――「生きたい……
わたしだって……
生きたかった……!
でも……
そのためには……
あなたの心臓が……必要で……」
シャルロットは静かに首を振る。
「違います。」
影が凍りついた。
――「違う……?」
「あなたが欲しかったのは……
“心臓という器”ではなく……」
シャルロットは静かに言った。
「愛されていいという証です。」
影の瞳に初めて、
“涙の影”が宿った。
――「わたし……
愛されて……
よかったの……?」
シャルロットは微笑んだ。
悲しみを抱きしめるように。
「ええ。
あなたは誰より……
愛されるべき娘でした。」
影は顔を覆い、
声にならない叫びをあげた。
――「どうして……
どうしてそんな優しいこと……
言うの……
あなたは……
わたしの……敵なのに……!」
「敵ではありません。」
シャルロットはそっと言った。
「あなたは、わたくしの“影”ではなく——
もうひとりの“わたし”なのです。」
影の動きが止まる。
――「わたしが……
あなた……?」
「ええ。
もし生まれた場所が違えば、
影にされたのはわたくしのほうだったかもしれない。
だから……
わたくしはあなたを憎めません。」
影の喉がひくりと震え、
声が漏れた。
――「そんなこと……
言わないで……
消えたく……なくなる……」
シャルロットの胸が強く打った。
(消えたくない……
この娘の本心……)
影は泣きそうな顔で言った。
――「ねえ……
どうしたら……
わたしは……
生きられたの……?」
シャルロットの瞳に、
淡い光が宿った。
「あなたが“影にされた理由”を
わたくしが見つけます。」
影が息を呑む。
――「そんなの……無理よ……
王家でさえ……知らないのに……」
「いいえ。
“影を封じる鍵”が覚醒した今なら……
わたくしには……見えるはずです。」
影の瞳に、
一筋だけ涙が落ちた。
その涙は、
光でもなく、
影でもない。
“境界の涙”。
二人の間に引かれていた線が、
少しだけ消えた瞬間だった。
――「シャルロット……
お願い……
わたしを……見つけて……」
シャルロットは頷いた。
「ええ。
あなたが奪われたものを取り返しましょう。」
影が震えた声で呟く。
――「もし……
わたしが“影にされた娘”だっただけなら……
あなたは……
許してくれるの……?」
シャルロットは静かに言った。
「許しません。
ただ——救います。」
その瞬間。
扉が完全に破られ、
白い光が差し込んだ。
カルロスの声が響く。
「シャルロット!!」
影はその光に怯え、
ふっと姿を揺らす。
(カルロス様……
ミレイユ……
この瞬間が……
“涙の境界”の終わり……)
シャルロットは立ち上がった。
影との対話は終わった。
次は——
影が“なぜ生まれたか”の真実へ。
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