冷たい王妃の生活

柴田はつみ

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第六章「真実の欠片」

 舞踏会当日、王宮の大広間は百本の燭台と魔法灯に照らされ、天井の金細工が揺らめく光を反射していた。
 雪薔薇祭に続く冬の祝宴とあって、貴族や国外の使節でごった返している。

 私は淡い水色のドレスに身を包み、葵に背中のリボンを結んでもらった。
「少し緊張してる?」
「……ええ。王宮での舞踏会なんて三年ぶりだもの」
 胸の奥で、あの日の記憶――冷たい返事と共に去った夜――が蘇る。

 

 到着して間もなく、私は人波の向こうにアレクシスの姿を見つけた。
 黒の礼服に王家の紋章を象った青のマント、銀髪が灯火を弾く。
 その隣には……ミレーネではなかった。
 見知らぬ壮年の男性と低く言葉を交わしている。

 近くの令嬢たちが囁く声が耳に入る。
「陛下、先日の国外出立は隣国との講和交渉だったそうよ」
「しかも、魔導師団長のミレーネが護衛を兼ねて随行したとか」
「表向きは“文化交流”と発表されたけど、本当は――」

 心臓が一拍、強く打った。
 交渉。護衛。
 あの親しげに見えた港での光景が、別の色合いを帯びてくる。

 

 舞踏が始まっても、私は落ち着かず、会場の隅でワインを傾けていた。
 その時、背後から低い声がした。
「……楽しんでいるようには見えないな」

 振り返れば、アレクシスが立っていた。
 目が合った瞬間、あの距離感が一気に詰まる。

「あなたこそ、外交のお相手はいいの?」
「今は、君と話している」

 彼はグラスを置き、視線を少し落とした。
「……国外で、少し怪我をした」
「怪我?」
「大したことはない。ただ、君には余計な心配をさせたくなかった」

 その言葉に、胸の奥がじわりと熱くなる。
 怪我を隠していた理由が、私を気遣ってのものだと――信じたい自分がいた。

 

 その夜の終盤、ミレーネとすれ違った。
 彼女は私を見て、小さく笑みを浮かべる。
「……誤解なさらないで。私は陛下の剣であり盾。それ以上でも以下でもありません」
 言葉は穏やかだが、その瞳の奥には何かを測るような光があった。
「では、なぜあのように親しげに見える行動を?」
「時には敵を欺く芝居が必要です。……あなたも、そういう方でしょう?」

 胸の奥で何かがざわつく。
 彼女は踵を返し、人混みに消えていった。

 

 舞踏会の終わり、アレクシスが馬車の前まで送ってきた。
 扉を開ける手が一瞬、私の手に触れる。
「……いずれ、すべて話す」
 それだけ言い残し、彼は背を向けた。

 夜の王都を走る馬車の中、私は窓越しに見える灯りを眺めた。
 すべてはまだ分からない。
 でも、確かに“何か”が変わり始めている――そう感じられた。

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