7 / 10
第六章「真実の欠片」
舞踏会当日、王宮の大広間は百本の燭台と魔法灯に照らされ、天井の金細工が揺らめく光を反射していた。
雪薔薇祭に続く冬の祝宴とあって、貴族や国外の使節でごった返している。
私は淡い水色のドレスに身を包み、葵に背中のリボンを結んでもらった。
「少し緊張してる?」
「……ええ。王宮での舞踏会なんて三年ぶりだもの」
胸の奥で、あの日の記憶――冷たい返事と共に去った夜――が蘇る。
到着して間もなく、私は人波の向こうにアレクシスの姿を見つけた。
黒の礼服に王家の紋章を象った青のマント、銀髪が灯火を弾く。
その隣には……ミレーネではなかった。
見知らぬ壮年の男性と低く言葉を交わしている。
近くの令嬢たちが囁く声が耳に入る。
「陛下、先日の国外出立は隣国との講和交渉だったそうよ」
「しかも、魔導師団長のミレーネが護衛を兼ねて随行したとか」
「表向きは“文化交流”と発表されたけど、本当は――」
心臓が一拍、強く打った。
交渉。護衛。
あの親しげに見えた港での光景が、別の色合いを帯びてくる。
舞踏が始まっても、私は落ち着かず、会場の隅でワインを傾けていた。
その時、背後から低い声がした。
「……楽しんでいるようには見えないな」
振り返れば、アレクシスが立っていた。
目が合った瞬間、あの距離感が一気に詰まる。
「あなたこそ、外交のお相手はいいの?」
「今は、君と話している」
彼はグラスを置き、視線を少し落とした。
「……国外で、少し怪我をした」
「怪我?」
「大したことはない。ただ、君には余計な心配をさせたくなかった」
その言葉に、胸の奥がじわりと熱くなる。
怪我を隠していた理由が、私を気遣ってのものだと――信じたい自分がいた。
その夜の終盤、ミレーネとすれ違った。
彼女は私を見て、小さく笑みを浮かべる。
「……誤解なさらないで。私は陛下の剣であり盾。それ以上でも以下でもありません」
言葉は穏やかだが、その瞳の奥には何かを測るような光があった。
「では、なぜあのように親しげに見える行動を?」
「時には敵を欺く芝居が必要です。……あなたも、そういう方でしょう?」
胸の奥で何かがざわつく。
彼女は踵を返し、人混みに消えていった。
舞踏会の終わり、アレクシスが馬車の前まで送ってきた。
扉を開ける手が一瞬、私の手に触れる。
「……いずれ、すべて話す」
それだけ言い残し、彼は背を向けた。
夜の王都を走る馬車の中、私は窓越しに見える灯りを眺めた。
すべてはまだ分からない。
でも、確かに“何か”が変わり始めている――そう感じられた。
雪薔薇祭に続く冬の祝宴とあって、貴族や国外の使節でごった返している。
私は淡い水色のドレスに身を包み、葵に背中のリボンを結んでもらった。
「少し緊張してる?」
「……ええ。王宮での舞踏会なんて三年ぶりだもの」
胸の奥で、あの日の記憶――冷たい返事と共に去った夜――が蘇る。
到着して間もなく、私は人波の向こうにアレクシスの姿を見つけた。
黒の礼服に王家の紋章を象った青のマント、銀髪が灯火を弾く。
その隣には……ミレーネではなかった。
見知らぬ壮年の男性と低く言葉を交わしている。
近くの令嬢たちが囁く声が耳に入る。
「陛下、先日の国外出立は隣国との講和交渉だったそうよ」
「しかも、魔導師団長のミレーネが護衛を兼ねて随行したとか」
「表向きは“文化交流”と発表されたけど、本当は――」
心臓が一拍、強く打った。
交渉。護衛。
あの親しげに見えた港での光景が、別の色合いを帯びてくる。
舞踏が始まっても、私は落ち着かず、会場の隅でワインを傾けていた。
その時、背後から低い声がした。
「……楽しんでいるようには見えないな」
振り返れば、アレクシスが立っていた。
目が合った瞬間、あの距離感が一気に詰まる。
「あなたこそ、外交のお相手はいいの?」
「今は、君と話している」
彼はグラスを置き、視線を少し落とした。
「……国外で、少し怪我をした」
「怪我?」
「大したことはない。ただ、君には余計な心配をさせたくなかった」
その言葉に、胸の奥がじわりと熱くなる。
怪我を隠していた理由が、私を気遣ってのものだと――信じたい自分がいた。
その夜の終盤、ミレーネとすれ違った。
彼女は私を見て、小さく笑みを浮かべる。
「……誤解なさらないで。私は陛下の剣であり盾。それ以上でも以下でもありません」
言葉は穏やかだが、その瞳の奥には何かを測るような光があった。
「では、なぜあのように親しげに見える行動を?」
「時には敵を欺く芝居が必要です。……あなたも、そういう方でしょう?」
胸の奥で何かがざわつく。
彼女は踵を返し、人混みに消えていった。
舞踏会の終わり、アレクシスが馬車の前まで送ってきた。
扉を開ける手が一瞬、私の手に触れる。
「……いずれ、すべて話す」
それだけ言い残し、彼は背を向けた。
夜の王都を走る馬車の中、私は窓越しに見える灯りを眺めた。
すべてはまだ分からない。
でも、確かに“何か”が変わり始めている――そう感じられた。
あなたにおすすめの小説
【本編完結】笑顔で離縁してください 〜貴方に恋をしてました〜
桜夜
恋愛
「旦那様、私と離縁してください!」
私は今までに見せたことがないような笑顔で旦那様に離縁を申し出た……。
私はアルメニア王国の第三王女でした。私には二人のお姉様がいます。一番目のエリーお姉様は頭脳明晰でお優しく、何をするにも完璧なお姉様でした。二番目のウルルお姉様はとても美しく皆の憧れの的で、ご結婚をされた今では社交界の女性達をまとめております。では三番目の私は……。
王族では国が豊かになると噂される瞳の色を持った平凡な女でした…
そんな私の旦那様は騎士団長をしており女性からも人気のある公爵家の三男の方でした……。
平凡な私が彼の方の隣にいてもいいのでしょうか?
なので離縁させていただけませんか?
旦那様も離縁した方が嬉しいですよね?だって……。
*小説家になろう、カクヨムにも投稿しています
婚約破棄された公爵令嬢は心を閉ざして生きていく
おいどん
恋愛
「アメリアには申し訳ないが…婚約を破棄させてほしい」
私はグランシエール公爵家の令嬢、アメリア・グランシエール。
決して誰かを恨んだり、憎んだりしてはいけない。
苦しみを胸の奥に閉じ込めて生きるアメリアの前に、元婚約者の従兄、レオナールが現れる。
「俺は、アメリアの味方だ」
「では、残された私は何のためにいるのですか!?」
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
幼馴染が最優先な婚約者など、私の人生には不要です。
たると
恋愛
シュタイン伯爵家の長女エルゼは、公爵子息フィリップに恋をしていた。
彼の婚約者として選ばれた時は涙を流して喜んだが、その喜びもいまは遠い。
『君は一人でも大丈夫だろう。この埋め合わせは必ずする。愛している』
「……『愛している』、ですか」
いつも幼馴染を優先するアルベルトに、恋心はすっかり冷めてしまった。
もう演じなくて結構です
梨丸
恋愛
侯爵令嬢セリーヌは最愛の婚約者が自分のことを愛していないことに気づく。
愛しの婚約者様、もう婚約者を演じなくて結構です。
11/5HOTランキング入りしました。ありがとうございます。
感想などいただけると、嬉しいです。
11/14 完結いたしました。
11/16 完結小説ランキング総合8位、恋愛部門4位ありがとうございます。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
死ぬまでに叶えたい十の願い
木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」
三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。
離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する——
二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。