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第七章「嫉妬の逆転」
舞踏会から三日。
冬の王都は雪が降ったりやんだりを繰り返し、人々は雪薔薇祭の余韻から日常へ戻りつつあった。
だが、私の胸の中は、まだ落ち着きを取り戻せないでいた。
――いずれ、すべて話す。
あの夜、アレクシスが馬車の前で残した言葉。
信じたい気持ちと、裏切られるかもしれない恐れが、氷と炎のようにせめぎ合っている。
昼下がり、葵と市場へ出た帰り道、中央広場に人だかりができているのを見つけた。
何事かと近づくと、その中心にいたのはアレクシス――そして、彼の腕に手を添える若い金髪の女性だった。
華やかなドレスと首飾り、見知らぬ顔立ち。
通りの噂がすぐに耳に入る。
「隣国の姫君だって」
「新たな同盟のために滞在しているらしい」
アレクシスは姫君の話に笑みを浮かべ、まるで長年の知己のように親しげに接していた。
その姿が視界に焼きつき、息が詰まる。
「……行きましょう、リディア」
葵に腕を引かれ、人混みから離れた。
夜、宿で暖炉の火を見つめていると、扉を叩く音がした。
開ければ、そこにはカインが立っていた。
「護衛の件で話がある」
「どうぞ」
彼は椅子に腰掛け、少しだけ笑みを見せる。
「……王都では、お前の行動がやたらと注目されているらしいな」
「知ってるわ」
「なら、少しは自衛の意味でも、俺を傍に置け」
「それじゃあ、ますます噂になるじゃない」
「構わない。あんたを一人にする方が危険だ」
その真剣な声に、私は曖昧に頷いた。
翌日、王都の書庫で資料を調べていると、不意に背後から影が差した。
「……仲睦まじいな、ローランドと」
振り向くと、アレクシスが立っていた。
声は低く、しかしどこか冷ややかだ。
「護衛よ。それ以上でも以下でもないわ」
「ふん。なら、俺が隣国の姫君と過ごしていても、何も思わないのか?」
意地悪く試すような口調。
「思うわよ。……いい気分じゃない」
「なら、少しは俺の気持ちも理解しろ」
蒼い瞳が、わずかに柔らかくなる。
けれど次の瞬間には、また距離を取るように背を向けた。
「――近いうちに、城へ来い」
その夜、瓦版に載ったのは、またも人目を引く絵だった。
王宮の庭園で、アレクシスが隣国の姫君と並び立ち、花を手渡す場面。
同時に、私とカインが孤児院へ毛布を届けている場面も描かれている。
まるで“互いに新たな相手がいる”と示すかのような対比。
瓦版を握る手が震えた。
これは偶然ではない――きっと、彼が意図的に仕組んでいる。
三日後、王宮の小広間。
呼び出された私は、冬薔薇を生けた机の前で待っているアレクシスと向き合った。
「……あの絵は、あなたが」
「俺は一言も否定していない」
「どうしてそんなことを」
「君が俺を見てくれるか、確かめたかった」
また、それだ。
苛立ちと共に、胸の奥に熱いものが広がる。
「そんなことをしなくても……」
「必要だった。君は、俺が隣にいても俺を見ない」
沈黙。
そして、彼はゆっくりと歩み寄り、手の甲に触れた。
「だが、君は俺を見た。……それで十分だ」
触れられた場所が熱を帯び、視線が絡む。
お互いの感情が、限界まで張り詰めていた。
冬の王都は雪が降ったりやんだりを繰り返し、人々は雪薔薇祭の余韻から日常へ戻りつつあった。
だが、私の胸の中は、まだ落ち着きを取り戻せないでいた。
――いずれ、すべて話す。
あの夜、アレクシスが馬車の前で残した言葉。
信じたい気持ちと、裏切られるかもしれない恐れが、氷と炎のようにせめぎ合っている。
昼下がり、葵と市場へ出た帰り道、中央広場に人だかりができているのを見つけた。
何事かと近づくと、その中心にいたのはアレクシス――そして、彼の腕に手を添える若い金髪の女性だった。
華やかなドレスと首飾り、見知らぬ顔立ち。
通りの噂がすぐに耳に入る。
「隣国の姫君だって」
「新たな同盟のために滞在しているらしい」
アレクシスは姫君の話に笑みを浮かべ、まるで長年の知己のように親しげに接していた。
その姿が視界に焼きつき、息が詰まる。
「……行きましょう、リディア」
葵に腕を引かれ、人混みから離れた。
夜、宿で暖炉の火を見つめていると、扉を叩く音がした。
開ければ、そこにはカインが立っていた。
「護衛の件で話がある」
「どうぞ」
彼は椅子に腰掛け、少しだけ笑みを見せる。
「……王都では、お前の行動がやたらと注目されているらしいな」
「知ってるわ」
「なら、少しは自衛の意味でも、俺を傍に置け」
「それじゃあ、ますます噂になるじゃない」
「構わない。あんたを一人にする方が危険だ」
その真剣な声に、私は曖昧に頷いた。
翌日、王都の書庫で資料を調べていると、不意に背後から影が差した。
「……仲睦まじいな、ローランドと」
振り向くと、アレクシスが立っていた。
声は低く、しかしどこか冷ややかだ。
「護衛よ。それ以上でも以下でもないわ」
「ふん。なら、俺が隣国の姫君と過ごしていても、何も思わないのか?」
意地悪く試すような口調。
「思うわよ。……いい気分じゃない」
「なら、少しは俺の気持ちも理解しろ」
蒼い瞳が、わずかに柔らかくなる。
けれど次の瞬間には、また距離を取るように背を向けた。
「――近いうちに、城へ来い」
その夜、瓦版に載ったのは、またも人目を引く絵だった。
王宮の庭園で、アレクシスが隣国の姫君と並び立ち、花を手渡す場面。
同時に、私とカインが孤児院へ毛布を届けている場面も描かれている。
まるで“互いに新たな相手がいる”と示すかのような対比。
瓦版を握る手が震えた。
これは偶然ではない――きっと、彼が意図的に仕組んでいる。
三日後、王宮の小広間。
呼び出された私は、冬薔薇を生けた机の前で待っているアレクシスと向き合った。
「……あの絵は、あなたが」
「俺は一言も否定していない」
「どうしてそんなことを」
「君が俺を見てくれるか、確かめたかった」
また、それだ。
苛立ちと共に、胸の奥に熱いものが広がる。
「そんなことをしなくても……」
「必要だった。君は、俺が隣にいても俺を見ない」
沈黙。
そして、彼はゆっくりと歩み寄り、手の甲に触れた。
「だが、君は俺を見た。……それで十分だ」
触れられた場所が熱を帯び、視線が絡む。
お互いの感情が、限界まで張り詰めていた。
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