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第八章「誤解の終わり」
小広間の扉が静かに閉じられる音が、やけに大きく響いた。
冬薔薇の香りが淡く漂い、外界と隔てられた空間に、私とアレクシスだけが残される。
「……また“試した”と言うの?」
自分でも驚くほど声が震えていた。怒りと、もう一つ別の感情が混じっている。
「そうだ」
彼は躊躇なく答える。
「君が俺を見るためなら、俺は何だってする」
「そんな方法でしか……本心を伝えられないの?」
「伝えようとしても、君は信じなかっただろう」
「信じたかった!」
思わず一歩、詰め寄っていた。
蒼い瞳がわずかに揺れる。
「三年間、一度も“愛している”なんて言ってくれなかった。あなたの隣にいても、いつも遠くに感じた」
「……俺は、政略結婚の相手にそんな言葉を向けてはいけないと、勝手に決めていた」
その言葉に、胸の奥が軋む。
「勝手に……?」
「君は自由を奪われた。俺がその象徴だ。だから、距離を置けば守れると思った」
馬鹿げている。でも、真剣だった。
口を開きかけた私より先に、彼が続ける。
「ミレーネとの噂も……否定しなかったのは、君に余計な不安を与えるだけだと思っていたからだ。あれは全て公務だ。俺を守るために彼女は必要だった」
「じゃあ、港でのあの姿は?」
「あれも芝居だ。隣国の使節に“我々は隙がない”と見せつけるための」
背筋が、緊張と安堵の入り混じった感覚で震えた。
ずっと信じられなかった言葉が、今は少しだけ胸に沁みていく。
「……それでも、あなたが何も言わなかったせいで、私は……」
「分かっている。俺のせいだ」
アレクシスはゆっくりと歩み寄り、私の両手を包み込んだ。
その手は、冷たいはずのこの部屋で不思議なほど温かかった。
「リディア。俺は君を愛している」
低く、確かな声。
「三年前も、今も。……そして、これからも」
その言葉に、視界が滲む。
「……遅すぎるわ」
「遅くても、もう二度と失わない」
彼は私をそっと抱き寄せた。
肩越しに聞こえる心音が、速く、熱い。
胸の奥に溜まっていた氷が、ゆっくりと溶けていくようだった。
やがて、少しだけ離れた彼が微笑む。
「すぐにでも最初からやり直したいが……一つだけ聞かせてくれ」
「……何?」
「ローランドとは、本当に何もないな?」
「……本当に護衛よ」
「ならいい」
子供のようにあからさまな安堵を見せる彼に、思わず笑ってしまう。
「次は、疑ったりしないで」
「ああ。約束する」
その約束が、三年間の沈黙よりも重く響いた。
冬薔薇の香りが淡く漂い、外界と隔てられた空間に、私とアレクシスだけが残される。
「……また“試した”と言うの?」
自分でも驚くほど声が震えていた。怒りと、もう一つ別の感情が混じっている。
「そうだ」
彼は躊躇なく答える。
「君が俺を見るためなら、俺は何だってする」
「そんな方法でしか……本心を伝えられないの?」
「伝えようとしても、君は信じなかっただろう」
「信じたかった!」
思わず一歩、詰め寄っていた。
蒼い瞳がわずかに揺れる。
「三年間、一度も“愛している”なんて言ってくれなかった。あなたの隣にいても、いつも遠くに感じた」
「……俺は、政略結婚の相手にそんな言葉を向けてはいけないと、勝手に決めていた」
その言葉に、胸の奥が軋む。
「勝手に……?」
「君は自由を奪われた。俺がその象徴だ。だから、距離を置けば守れると思った」
馬鹿げている。でも、真剣だった。
口を開きかけた私より先に、彼が続ける。
「ミレーネとの噂も……否定しなかったのは、君に余計な不安を与えるだけだと思っていたからだ。あれは全て公務だ。俺を守るために彼女は必要だった」
「じゃあ、港でのあの姿は?」
「あれも芝居だ。隣国の使節に“我々は隙がない”と見せつけるための」
背筋が、緊張と安堵の入り混じった感覚で震えた。
ずっと信じられなかった言葉が、今は少しだけ胸に沁みていく。
「……それでも、あなたが何も言わなかったせいで、私は……」
「分かっている。俺のせいだ」
アレクシスはゆっくりと歩み寄り、私の両手を包み込んだ。
その手は、冷たいはずのこの部屋で不思議なほど温かかった。
「リディア。俺は君を愛している」
低く、確かな声。
「三年前も、今も。……そして、これからも」
その言葉に、視界が滲む。
「……遅すぎるわ」
「遅くても、もう二度と失わない」
彼は私をそっと抱き寄せた。
肩越しに聞こえる心音が、速く、熱い。
胸の奥に溜まっていた氷が、ゆっくりと溶けていくようだった。
やがて、少しだけ離れた彼が微笑む。
「すぐにでも最初からやり直したいが……一つだけ聞かせてくれ」
「……何?」
「ローランドとは、本当に何もないな?」
「……本当に護衛よ」
「ならいい」
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「次は、疑ったりしないで」
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その約束が、三年間の沈黙よりも重く響いた。
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