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第十八章 凍てつく冬の夜会と、暴かれた執着
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カイルの監視が一段と厳しさを増す中、
リリーは、信頼できる侍女を通じて、
あの手紙の主――エリアナの行方を突き止めていた。
彼女はかつて、王都の歌劇場で名を馳せた歌手。
だが、カイルとの不実な恋の末に社交界から姿を消し、
今は下町の教会で、ひっそりと暮らしているという。
(彼女さえ……協力してくれれば)
(カイル様の不正と不貞を暴き、
私は自由になれる。
クリストファー様を、巻き込むことなく……)
その確信を胸に、
リリーは王宮で催される**「冬至の舞踏会」**へと向かった。
それが――
「完璧な侯爵夫人」を演じる、最後の夜になるはずだった。
舞踏会の喧騒の中、
リリーはカイルの視線を巧みに避け、
冷気を凌ぐために設えられた温室へと身を滑り込ませた。
そこに、
偶然を装って現れた影がある。
――クリス公爵だった。
アメリア令嬢を広間に残し、
密偵からの報告を確認する名目で、
彼はリリーを追ってきたのだ。
「……リリー夫人。いや――リリアーヌ」
低く、切実な声が、
静まり返った温室に落ちる。
リリーは、背筋を震わせながらも、
即座に“氷の仮面”を被った。
「クリストファー様。
婚約者の方をお置きになって、
このような場所で何を?」
「芝居はやめろ」
一歩、クリスが踏み込む。
「君が、あの男に何をされているか、私は知っている。
カイルの執着は異常だ。
……君は、彼を愛してなどいないだろう?」
その言葉に、
リリーの心臓が、強く跳ねた。
だが――
ここで縋ることは、許されない。
「……愛?」
彼女は、わざと唇を歪めて笑った。
「ええ、愛していますわ。
彼は、私を必要としてくださる。
私を『所有物』として愛でる、そのやり方が……
私には、心地よいのです」
視線を伏せ、自嘲するように続ける。
「貴方のように、清らかな愛を語る方には、
きっと理解できないでしょうね」
それは、
自分を貶めることで、
彼を突き放すための、残酷な嘘。
彼女の瞳からは、
一筋の光さえ、意図的に消されていた。
その瞬間、
温室の扉が乱暴に開いた。
「――リリアーヌ!」
嫉妬に顔を歪めた、カイル侯爵。
彼は大股で近づき、
リリーの腕を強く掴んで、自分の方へ引き寄せる。
「こんな場所で、
私の『敵』と密会か?」
痛みに、リリーはわずかに顔をしかめた。
だが、カイルは意に介さず、
クリスを射抜くような視線を向ける。
「公爵。
君には、すでにアメリア嬢という婚約者がいるはずだ。
私の妻に付きまとうのは、紳士のすることではないな」
嘲るように、唇を吊り上げる。
「それとも……
まだ自分の“負け”を、認められないのか?」
カイルは、
リリーの腰を強引に抱き寄せ、
クリスの目の前で――
首筋に、深く、見せつけるような口づけを落とした。
「リリアーヌは、私を選んだ。
私の過去の過ちさえも受け入れ、
共に歩むと、誓ってくれたのだ」
そして、決定打を放つ。
「君のような未熟な男に、
彼女の深淵は埋められない」
クリスの拳が、
白くなるほどに握りしめられる。
それは、
リリーの“演技”を逆手に取った、
最も残酷な勝利宣言だった。
クリスは見た。
カイルの腕の中で、
人形のように動かないリリーの姿を。
彼女は抵抗せず、
ただ、虚空を見つめている。
(……彼女は、本当に絶望しているのか)
(それとも――
私を遠ざけるために、
あえて、あの男の毒を飲み込んでいるのか……)
だが、
その沈黙は、
クリスの中で、別の意味へと変質していく。
――これは、忠誠ではない。
――これは、私への拒絶だ。
これほど辱められても、
なお自分を拒むのなら。
それは、
彼女なりの**「復讐」**であり、
あるいは――
完全な決別。
「……失礼した、侯爵」
一拍置いて、
彼はリリーに視線を向けた。
「……そして、リリー夫人。
末永く――お幸せに」
絞り出すような声を残し、
クリスは背を向けて立ち去った。
リリーは、
遠ざかる背中を、ただ見つめていた。
(行かないで……)
(助けて、と言えたなら……
どれほど、楽でしょう)
(でも……
これが、あなたを守る唯一の方法なのです)
背後で、
カイルの熱狂的な笑い声が、
温室に反響する。
こうして、
リリーの孤独な戦いは、
最も過酷な局面へと踏み込んだ。
リリーは、信頼できる侍女を通じて、
あの手紙の主――エリアナの行方を突き止めていた。
彼女はかつて、王都の歌劇場で名を馳せた歌手。
だが、カイルとの不実な恋の末に社交界から姿を消し、
今は下町の教会で、ひっそりと暮らしているという。
(彼女さえ……協力してくれれば)
(カイル様の不正と不貞を暴き、
私は自由になれる。
クリストファー様を、巻き込むことなく……)
その確信を胸に、
リリーは王宮で催される**「冬至の舞踏会」**へと向かった。
それが――
「完璧な侯爵夫人」を演じる、最後の夜になるはずだった。
舞踏会の喧騒の中、
リリーはカイルの視線を巧みに避け、
冷気を凌ぐために設えられた温室へと身を滑り込ませた。
そこに、
偶然を装って現れた影がある。
――クリス公爵だった。
アメリア令嬢を広間に残し、
密偵からの報告を確認する名目で、
彼はリリーを追ってきたのだ。
「……リリー夫人。いや――リリアーヌ」
低く、切実な声が、
静まり返った温室に落ちる。
リリーは、背筋を震わせながらも、
即座に“氷の仮面”を被った。
「クリストファー様。
婚約者の方をお置きになって、
このような場所で何を?」
「芝居はやめろ」
一歩、クリスが踏み込む。
「君が、あの男に何をされているか、私は知っている。
カイルの執着は異常だ。
……君は、彼を愛してなどいないだろう?」
その言葉に、
リリーの心臓が、強く跳ねた。
だが――
ここで縋ることは、許されない。
「……愛?」
彼女は、わざと唇を歪めて笑った。
「ええ、愛していますわ。
彼は、私を必要としてくださる。
私を『所有物』として愛でる、そのやり方が……
私には、心地よいのです」
視線を伏せ、自嘲するように続ける。
「貴方のように、清らかな愛を語る方には、
きっと理解できないでしょうね」
それは、
自分を貶めることで、
彼を突き放すための、残酷な嘘。
彼女の瞳からは、
一筋の光さえ、意図的に消されていた。
その瞬間、
温室の扉が乱暴に開いた。
「――リリアーヌ!」
嫉妬に顔を歪めた、カイル侯爵。
彼は大股で近づき、
リリーの腕を強く掴んで、自分の方へ引き寄せる。
「こんな場所で、
私の『敵』と密会か?」
痛みに、リリーはわずかに顔をしかめた。
だが、カイルは意に介さず、
クリスを射抜くような視線を向ける。
「公爵。
君には、すでにアメリア嬢という婚約者がいるはずだ。
私の妻に付きまとうのは、紳士のすることではないな」
嘲るように、唇を吊り上げる。
「それとも……
まだ自分の“負け”を、認められないのか?」
カイルは、
リリーの腰を強引に抱き寄せ、
クリスの目の前で――
首筋に、深く、見せつけるような口づけを落とした。
「リリアーヌは、私を選んだ。
私の過去の過ちさえも受け入れ、
共に歩むと、誓ってくれたのだ」
そして、決定打を放つ。
「君のような未熟な男に、
彼女の深淵は埋められない」
クリスの拳が、
白くなるほどに握りしめられる。
それは、
リリーの“演技”を逆手に取った、
最も残酷な勝利宣言だった。
クリスは見た。
カイルの腕の中で、
人形のように動かないリリーの姿を。
彼女は抵抗せず、
ただ、虚空を見つめている。
(……彼女は、本当に絶望しているのか)
(それとも――
私を遠ざけるために、
あえて、あの男の毒を飲み込んでいるのか……)
だが、
その沈黙は、
クリスの中で、別の意味へと変質していく。
――これは、忠誠ではない。
――これは、私への拒絶だ。
これほど辱められても、
なお自分を拒むのなら。
それは、
彼女なりの**「復讐」**であり、
あるいは――
完全な決別。
「……失礼した、侯爵」
一拍置いて、
彼はリリーに視線を向けた。
「……そして、リリー夫人。
末永く――お幸せに」
絞り出すような声を残し、
クリスは背を向けて立ち去った。
リリーは、
遠ざかる背中を、ただ見つめていた。
(行かないで……)
(助けて、と言えたなら……
どれほど、楽でしょう)
(でも……
これが、あなたを守る唯一の方法なのです)
背後で、
カイルの熱狂的な笑い声が、
温室に反響する。
こうして、
リリーの孤独な戦いは、
最も過酷な局面へと踏み込んだ。
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