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第十七章 秘められた真実と、公爵の調査
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クリス公爵は、領地での滞在を切り上げ、王都の公爵邸へ戻った。
アメリア令嬢との婚約準備を進めながらも、彼の意識は常に、侯爵邸――そしてリリー夫人のもとへと向いていた。
彼は、侯爵邸で見せたリリーの「献身」の裏に、何か見落としている真実があるのではないかと感じていた。
その確信に近い違和感を確かめるため、長年公爵家に仕え、特に信頼を寄せている者たちを、密かにカイル侯爵の周辺へ送り込んだ。
彼らに託した役目は、ただ一つ。
リリー夫人が、どのような日々を送っているのか。
そして、なぜ彼女が、危険を承知で侯爵家の不正に触れようとしているのか――それを知ることだった。
数日後、密偵から届いた報告は、クリスの胸を強く打った。
「奥様は、侯爵から非常に強い束縛を受けておられます。
交友関係はすべて把握され、私室にも頻繁に立ち入られているとのことです。
侯爵は『君の愛は私のものだ』と公言し、奥様を自分の所有物のように扱っておられます」
さらに、声を落として続けられる。
「また、奥様が帳簿類を調べていた際、
『クリスに弱みを売ろうとしているのか』と激昂され、
手を上げかけた場面を見た者も、複数おります」
クリスは、これまでカイルがリリーを愛しているのだと信じてきた。
だが、この報告が示しているのは、愛ではなく、歪んだ支配だった。
――もし、リリーが自ら彼を選んだのなら。
なぜ、これほどの監視と暴言に耐えなければならないのか。
その疑問が、彼の中で、長年積み上げてきた誤解を静かに崩し始める。
(リリーは……カイルを愛していない)
(彼女は何かに縛られ、私を遠ざけるために、
「完璧な妻」を演じているのではないか……)
胸の奥に、遅すぎた理解と、彼女を一人で戦わせてしまった後悔が込み上げた。
同じ頃、侯爵邸では――
リリーが、カイルの厳しい監視の目を縫うようにして、
かつて見つけた一通の手紙を、再び手に取っていた。
その手紙をどう使うべきか、決断の時が迫っていた。
クリスに渡せば、カイルの地位は失われ、
自分は解放されるだろう。
だが、それは同時に、
アメリア令嬢との婚約を進めるクリスの未来に、
不要な影を落とすことになる。
(……私の自由は、
クリストファー様の未来を犠牲にして得るものではない)
リリーは、手紙を別の形で使う道を探し始めた。
彼女が辿り着いた答えは、
手紙の差出人――カイルの過去の愛人だった女性を探し出すこと。
もし、その女性が今もなお、
カイルに対して強い憎しみを抱いているのなら。
リリー自身が表に立たずとも、
侯爵家からの解放と、カイルの失脚が叶うかもしれない。
それは、あまりにも危うい賭けだった。
けれど、支配の檻の中にいる彼女に残された、
唯一の「外の力」でもあった。
その夜、リリーはカイルと共に、夜会へ出席した。
会場には、公爵家に縁のある者たちも多く集っている。
カイルは終始、リリーの腰に手を添え、
遠くにいるクリスへ向けて、勝ち誇った笑みを浮かべた。
一方、アメリア令嬢の隣に立つクリスは、
人混みの向こうにリリーの姿を見つける。
彼女の微笑みは、相変わらず完璧だった。
だが、その瞳の奥には、以前よりも深く、静かな影が宿っている。
その表情を見た瞬間、
クリスは、密偵の報告が真実であることを確信した。
――リリーは、
カイルのもとで、孤独な戦いを続けている。
彼は、表向きはアメリアに変わらぬ気遣いを見せながら、
水面下で、リリーを救い出すための
**「公爵として取り得る手段」**を、慎重に考え始めていた。
一方のリリーは、
勝利に酔うカイルの顔を見上げながら、
心の中で、そっとクリスに別れを告げる。
(クリストファー様……
どうか私を諦めて、清らかな道を歩んでください)
(この戦いは、私一人のものです)
互いを想うがゆえの献身は、
やがてすれ違いを生み、
**「救おうとする者」と「拒もうとする者」**という
悲しい構図を形作っていく。
そして物語は、
避けられない破局へと、静かに歩みを進め始めていた。
守りたい想いと、救いたい想いがすれ違うとき、恋は最も残酷な形を取るのかもしれません。
アメリア令嬢との婚約準備を進めながらも、彼の意識は常に、侯爵邸――そしてリリー夫人のもとへと向いていた。
彼は、侯爵邸で見せたリリーの「献身」の裏に、何か見落としている真実があるのではないかと感じていた。
その確信に近い違和感を確かめるため、長年公爵家に仕え、特に信頼を寄せている者たちを、密かにカイル侯爵の周辺へ送り込んだ。
彼らに託した役目は、ただ一つ。
リリー夫人が、どのような日々を送っているのか。
そして、なぜ彼女が、危険を承知で侯爵家の不正に触れようとしているのか――それを知ることだった。
数日後、密偵から届いた報告は、クリスの胸を強く打った。
「奥様は、侯爵から非常に強い束縛を受けておられます。
交友関係はすべて把握され、私室にも頻繁に立ち入られているとのことです。
侯爵は『君の愛は私のものだ』と公言し、奥様を自分の所有物のように扱っておられます」
さらに、声を落として続けられる。
「また、奥様が帳簿類を調べていた際、
『クリスに弱みを売ろうとしているのか』と激昂され、
手を上げかけた場面を見た者も、複数おります」
クリスは、これまでカイルがリリーを愛しているのだと信じてきた。
だが、この報告が示しているのは、愛ではなく、歪んだ支配だった。
――もし、リリーが自ら彼を選んだのなら。
なぜ、これほどの監視と暴言に耐えなければならないのか。
その疑問が、彼の中で、長年積み上げてきた誤解を静かに崩し始める。
(リリーは……カイルを愛していない)
(彼女は何かに縛られ、私を遠ざけるために、
「完璧な妻」を演じているのではないか……)
胸の奥に、遅すぎた理解と、彼女を一人で戦わせてしまった後悔が込み上げた。
同じ頃、侯爵邸では――
リリーが、カイルの厳しい監視の目を縫うようにして、
かつて見つけた一通の手紙を、再び手に取っていた。
その手紙をどう使うべきか、決断の時が迫っていた。
クリスに渡せば、カイルの地位は失われ、
自分は解放されるだろう。
だが、それは同時に、
アメリア令嬢との婚約を進めるクリスの未来に、
不要な影を落とすことになる。
(……私の自由は、
クリストファー様の未来を犠牲にして得るものではない)
リリーは、手紙を別の形で使う道を探し始めた。
彼女が辿り着いた答えは、
手紙の差出人――カイルの過去の愛人だった女性を探し出すこと。
もし、その女性が今もなお、
カイルに対して強い憎しみを抱いているのなら。
リリー自身が表に立たずとも、
侯爵家からの解放と、カイルの失脚が叶うかもしれない。
それは、あまりにも危うい賭けだった。
けれど、支配の檻の中にいる彼女に残された、
唯一の「外の力」でもあった。
その夜、リリーはカイルと共に、夜会へ出席した。
会場には、公爵家に縁のある者たちも多く集っている。
カイルは終始、リリーの腰に手を添え、
遠くにいるクリスへ向けて、勝ち誇った笑みを浮かべた。
一方、アメリア令嬢の隣に立つクリスは、
人混みの向こうにリリーの姿を見つける。
彼女の微笑みは、相変わらず完璧だった。
だが、その瞳の奥には、以前よりも深く、静かな影が宿っている。
その表情を見た瞬間、
クリスは、密偵の報告が真実であることを確信した。
――リリーは、
カイルのもとで、孤独な戦いを続けている。
彼は、表向きはアメリアに変わらぬ気遣いを見せながら、
水面下で、リリーを救い出すための
**「公爵として取り得る手段」**を、慎重に考え始めていた。
一方のリリーは、
勝利に酔うカイルの顔を見上げながら、
心の中で、そっとクリスに別れを告げる。
(クリストファー様……
どうか私を諦めて、清らかな道を歩んでください)
(この戦いは、私一人のものです)
互いを想うがゆえの献身は、
やがてすれ違いを生み、
**「救おうとする者」と「拒もうとする者」**という
悲しい構図を形作っていく。
そして物語は、
避けられない破局へと、静かに歩みを進め始めていた。
守りたい想いと、救いたい想いがすれ違うとき、恋は最も残酷な形を取るのかもしれません。
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