大人しい令嬢は怒りません。ただ二年間、準備していただけです。――婚約解消の申請が受理されましたので、失礼いたします

柴田はつみ

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第十五章「出会いの予感」

アレクシスが帰国した翌朝、王都は静かだった。

三週間の賑わいが嘘のように、街は年末の落ち着いた空気を取り戻していた。

リーゼロッテは朝食を一人で食べながら、窓の外を見ていた。

冬の空は今日も低く、灰色だった。

雪が降るかもしれない、とマリアが言っていた。

「お嬢様、今日のご予定ですが」

マリアが朝食の片付けをしながら言った。

「ヴェルナー様のところへ参ります」

「最終確認でございますか」

「ええ」

リーゼロッテはカップを置いた。

「それから、宣言の日を決めます」

マリアは片付ける手を止めた。

「……決めるのですか。いよいよ」

「ええ」

「いつ頃に、とお考えですか」

リーゼロッテは少し考えた。

「年が明けてから。一月の、大きな夜会の日に」

マリアは黙っていた。

「王都中の貴族が集まる場所で、王都中に聞こえる声で言いたいから」

「……はい」

「それが一番、完璧な形だと思うから」

マリアは深く頷いた。

「かしこまりました」

「怖い?」

「……はい、少し」

「私も少し、怖い」

マリアは顔を上げた。

「お嬢様も?」

「ええ」

リーゼロッテは微笑んだ。

「でも怖くても動ける、と十章で言ったでしょう」

マリアは少し笑った。

「……はい、言っていらっしゃいました」

「だから動く」

「はい、お嬢様」

「一緒に動いてくれる?」

「どこまでも」

マリアははっきりと言った。

前に言ったのと、同じ言葉で。

ヴェルナー老人の事務所は、年末の静けさの中にあった。

分厚い本が並んだ書斎で、老人はリーゼロッテを迎えた。

「いらっしゃいました。書類の最終確認でございますか」

「はい。それから、申請の日程についてもご相談したいことがあります」

「どうぞ、おかけください」

リーゼロッテは椅子に座った。

マリアは後ろで控えた。

ヴェルナーは金庫から書類を取り出した。

記録帳の内容を法的な書式に整えた、婚約解消申請書だった。

「先日から少し手を加えました。より明確な表現にしたところと、法的根拠の条文を追加したところがございます」

「拝見します」

リーゼロッテは書類を受け取り、読み始めた。

一ページ、また一ページ。

記録帳の内容が、法的な言葉に変換されていた。

感情は一行もない。

事実と、法律と、証拠だけが並んでいた。

読み終えた。

「完璧です」

ヴェルナーは少し目を細めた。

「お嬢様から『完璧』と言っていただけるとは」

「ヴェルナー様の仕事が完璧なのです」

「いいえ」

老人は首を振った。

「記録が完璧だったから、書類も完璧になった。土台が良ければ、建物も良くなります」

リーゼロッテは書類をテーブルに置いた。

「申請の日程のことですが」

「はい」

「一月の第二土曜日に、王都最大の夜会がございます」

「存じております。毎年恒例の冬の大夜会ですね」

「その夜に、申請を行いたいと思います」

ヴェルナーは少し考えた。

「夜会の席で、ですか」

「夜会の席で、公爵様に直接、婚約解消をお伝えします。同時に、書類が国王陛下のもとへ提出済みであることも」

「……なるほど」

「その前日に、書類を国王陛下の執務室に提出していただけますか」

「可能です。陛下の側近には、私からご連絡できます」

「お願いします」

ヴェルナーは手帳にメモを書き取りながら、静かに聞いた。

「夜会の席で直接お伝えになる理由は」

リーゼロッテは少し間を置いた。

「二年間、社交界の場で、ずっと完璧な婚約者を演じてきました」

「……はい」

「だから最後も、社交界の場で。完璧に、締めくくりたいのです」

ヴェルナーは手帳を閉じた。

老人の目が、少し細くなった。

「……分かりました」

静かに言った。

「一月の第二土曜日、前日に書類を提出します」

「ありがとうございます」

「ただ、一つだけ」

「はい」

「当日、何かあったとき。つまり、予期せぬことが起きたときは」

ヴェルナーは真剣な顔で言った。

「すぐに私に連絡をください。どんな時間でも参ります」

リーゼロッテは少し驚いた。

七十近い老人が、どんな時間でも、と言っていた。

「……ありがとうございます、ヴェルナー様」

「礼には及びません」

老人は少し照れたように、老眼鏡を拭いた。

「私もこの仕事をして四十年になりますが」

「はい」

「これほど筋の通った依頼を受けたのは、初めてです」

「筋が通っている、とは」

「感情で動いていない。でも、感情がないわけでもない」

ヴェルナーは静かに言った。

「怒りを記録に変えた。悲しみを準備に変えた。それでいて、最後まで品を失わなかった」

リーゼロッテは何も言えなかった。

「それが、筋が通っている、ということです」

帰り道の馬車の中で、マリアがそっと言った。

「ヴェルナー様、お嬢様のことをとても大切に思っていらっしゃいますね」

「そうかしら」

「はい。『どんな時間でも参ります』とおっしゃっていました」

「……そうね」

リーゼロッテは窓の外を見た。

王都の街が、年末の飾りつけで彩られていた。

「いい人に恵まれたわ」

「はい」

「ヴェルナー様も、あなたも」

マリアは少し間を置いた。

「お嬢様が、いい人を引きつけるのだと思います」

「そんなことは」

「いいえ、本当のことです」

マリアははっきりと言った。

「お嬢様が誠実だから、誠実な人が集まってくる」

リーゼロッテは少し考えた。

「……アレクシス殿下も、そうだったかしら」

「はい」

「殿下は誠実な方だったわ」

「はい」

「正直で、まっすぐで」

「はい」

マリアは少し笑った。

「お嬢様、今日で三回、殿下のお名前を出されましたよ」

「……数えていたの」

「はい」

「難儀な侍女ね」

「はい、存じております」

リーゼロッテは少し笑った。

本物の声で、少しだけ。

「でも」

「はい?」

「三回くらいは、いいでしょう」

マリアは目を丸くした。

それから、嬉しそうに笑った。

「はい、もちろんでございます」

年が明けた。

新年の挨拶回りが続いた。

エドワードとの新年の面会もあった。

「今年もよろしく頼む、リーゼ」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします、公爵様」

いつもと変わらない挨拶だった。

しかしリーゼロッテの中では、全く違う言葉が響いていた。

(今年の一月で、全部終わる)

エドワードは知らなかった。

いつもと変わらない婚約者の微笑みを見ながら、何も知らなかった。

「最近、顔色がいいな」

エドワードが言った。

「そうですか」

「何かいいことでもあったか」

リーゼロッテは微笑んだ。

「さあ、どうかしら」

「いや、確かに変わった。何か、吹っ切れたような」

「公爵様の気のせいではないですか」

「……そうかもしれないが」

エドワードは少し首を傾けた。

「でも、変わった」

「変わったとすれば」

リーゼロッテは穏やかに言った。

「新しい年になったからでしょう」

「そうか」

「ええ」

(新しい年には、新しい自分になれるから)

心の中でだけ、付け加えた。

夜会まで、一週間になった。

リーゼロッテは自室の鏡の前に立った。

夜会に着ていくドレスを、確認するためだった。

ハンナが仕立てた、漆黒に近いダークグリーンのドレス。

最初に試着したとき、マリアが声を上げた。

今日も、マリアは声を上げた。

「……本当に、綺麗です、お嬢様」

「ありがとう」

「これを着て行かれるのですか、夜会に」

「ええ」

「公爵様は、また驚かれるでしょうね」

「そうかもしれない」

リーゼロッテは鏡の中の自分を見た。

ダークグリーンのドレス。

結い上げた黒髪。

侯爵家の紋章が入ったペンダント。

これが、宣言の夜に着る衣装だ。

(これでいい)

思った。

(アルテンベルク侯爵令嬢として、最後まで完璧に)

「マリア」

「はい」

「当日の段取りを確認しましょう」

「はい」

マリアは手帳を取り出した。

「まず、夜会の開始は夜の八時です」

「ええ」

「エドワード様との同行は、七時半に侯爵邸にお迎えが来る予定です」

「ええ」

「ヴェルナー様が前日に書類を提出されますので、当日の時点で書類はすでに国王陛下のもとに」

「ええ」

「あとは、お嬢様が宣言されるだけです」

リーゼロッテは鏡の中の自分を見た。

「あとは、私が宣言するだけ」

「はい」

「怖い?」

マリアは少し考えた。

「……正直に言いますか」

「ええ」

「怖いです。とても怖いです」

「そう」

「でも」

マリアははっきりと言った。

「やらなかったことの方が、もっと怖い、とお嬢様が言っていました」

リーゼロッテは少し笑った。

「覚えていてくれたのね」

「全部、覚えています」

「全部?」

「お嬢様がこの二年間でおっしゃった言葉を、全部」

リーゼロッテは鏡から視線を外し、マリアを見た。

「全部?」

「はい」

「それはまた、大変な記憶力ね」

「大切なことは忘れません」

マリアはまっすぐ言った。

「お嬢様の言葉は、全部大切なことだったので」

リーゼロッテは少し黙った。

それから、静かに言った。

「……ありがとう、マリア」

「いいえ」

「二年間、一緒にいてくれて」

「お礼を言うのは、こちらです」

マリアは深く頭を下げた。

「お嬢様のそばにいられて、よかった」

部屋に静寂が落ちた。

ダークグリーンのドレスが、ランプの明かりの中で静かに輝いていた。

夜会まで、三日になった。

リーゼロッテは父の書斎を訪ねた。

「お父様」

「ああ、入りなさい」

いつもの書斎。いつもの炎。亡き母の肖像画。

「一月の第二土曜日の夜会で、宣言します」

父は書類から顔を上げた。

「決めたか」

「はい」

「ヴェルナーには」

「前日に書類を提出していただけるよう、お願いしました」

「そうか」

父は少し黙った。

暖炉の炎を見た。

「一人で行くのか」

「エドワード様と同行する予定です。いつも通り」

「……その、いつも通りが、最後になるのだな」

「はい」

父はまた黙った。

リーゼロッテは肖像画の母を見た。

母は微笑んでいた。

「お父様」

「ああ」

「覚えていらっしゃいますか。以前、全部終わったら幸せかどうか答える、と言いました」

「覚えている」

「もうすぐ答えられます」

父は娘を見た。

深緑色の瞳で、じっと。

「……楽しみにしている」

リーゼロッテは微笑んだ。

「はい」

立ち上がった。

扉を開けようとしたとき、父が言った。

「リーゼロッテ」

「はい」

「お前は強い子だ」

リーゼロッテは少し間を置いた。

「お父様に、そう言っていただけるとは思っていませんでした」

「なぜだ」

「反対されると思っていたから」

「反対はしない、と言っただろう」

「はい」

「お前が決めたことだ」

父は書類に視線を戻した。

「ただ、一つだけ言っていいか」

「はい」

「その強さは、お前が一人で身につけたものじゃない」

リーゼロッテは振り返った。

「……どういう意味ですか」

「マリアがいた。ヴェルナーがいた。そして」

父は少し間を置いた。

「お前の母が、そういう娘に育てた」

リーゼロッテは何も言えなかった。

肖像画の母が、微笑んでいた。

「……はい」

静かに言った。

「そうですね」

扉を閉めた。

廊下に出た。

マリアが待っていた。

「お父様は、なんとおっしゃっていましたか」

「強い子だと」

「……そうですね」

「それから」

リーゼロッテは廊下を歩きながら言った。

「その強さは、一人で身につけたものじゃないと」

マリアは少し黙った。

「……お父様の言う通りです」

「ええ」

「お嬢様は一人じゃなかった」

「ええ」

リーゼロッテは前を向いたまま、静かに言った。

「だから、ここまで来られた」

夜会まで、あと一日になった。

ヴェルナーから使いが来た。

「書類、提出いたしました。国王陛下の側近が受理されました」

それだけだった。

リーゼロッテはその報告を聞いて、少し目を閉じた。

(もう、後戻りできない)

思った。

怖かった。

本当に、少し、怖かった。

でも。

(後戻りするつもりは、ない)

目を開けた。

マリアを見た。

「書類が提出されたわ」

「……はい」

「明日よ、マリア」

「はい、お嬢様」

「一緒に来てくれる?」

「もちろんでございます」

マリアははっきりと言った。

「どこまでも」

リーゼロッテは微笑んだ。

「ありがとう」

「いいえ」

「二年間、本当に」

「お嬢様」

マリアは少し声を詰まらせながら言った。

「全部終わってから、お礼は言ってください」

「なぜ?」

「今言われると、泣いてしまうので」

リーゼロッテは少し笑った。

「では、明日終わってから」

「はい」

「約束よ」

「はい、お嬢様」

その夜、リーゼロッテは机に向かった。

白い紙を一枚取り出した。

今日の日付を書いた。

それから、書いた。

明日、宣言する。
二年間の準備が、明日終わる。
怖い。でも、やる。
泣くのは、全部終わってから。

書き終えた。

折りたたんだ。

引き出しにしまった。

立ち上がり、窓の外を見た。

夜空に、星が出ていた。

二年前の誕生日の夜。

蝋燭が溶け切って、ペンを取ったあの夜から、ずっと見てきた星だ。

(明日で、終わる)

思った。

(いや)

訂正した。

(明日から、始まる)

蝋燭を吹き消した。

暗くなった部屋の中で、リーゼロッテは目を閉じた。

眠れないかもしれないと思っていた。

しかし。

(不思議と、眠れそうだわ)

思った。

(二年間、ずっと続けてきたから)

(明日のために、ずっと準備してきたから)

(怖いけれど、大丈夫)

(怖いけれど、やれる)

リーゼロッテは闇の中で、静かに微笑んだ。

本物の顔で。

(さあ)

(明日、宣言しましょう)

その夜、王都は静かだった。
雪が降り始めていた。
初雪だった。

マリアは自室の窓から、雪を見ながら日記に書いた。
明日、お嬢様が宣言される。

二年間の準備が、明日終わる。

怖い。

でも、お嬢様が怖くても動けると言っていた。
私も、怖くても一緒にいる。
それだけは、約束できる。
ペンを置いた。

窓の外の雪を見た。
初雪は、いつも静かだ。

音もなく、ただ白く、降り積もる。
(お嬢様みたいだ)
マリアは思った。

静かで、白くて、でも確かに積もる)

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