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第十一章 王妃の試練
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北部での浄化から数日後、私たちは王都へと戻った。
城門が見えてきたとき、待ち受けていた群衆から大きな歓声が上がる。
民は「王妃さま」と呼び、花を差し出してくれた。
胸が熱くなり、自然と涙がにじむ。
だが、宮廷の中へ足を踏み入れた瞬間、その空気は一変した。
冷ややかな視線、抑えた囁き声。
それは民衆の祝福とはまるで違う――重く冷たい拒絶の空気だった。
翌日、王妃教育の名目で宮廷の年長貴婦人たちに呼び出された。
彼女たちは礼儀正しく微笑んでいたが、その瞳には棘が潜んでいた。
「浄化の件は確かにお見事でしたわ」
「けれど、あれは聖女さまの力があってこそ。ご自分のお力と誤解されてはいませんでしょうね?」
静かな笑い声が広がり、心臓が締め付けられる。
私が返答に迷うと、別の貴婦人が言葉を重ねる。
「王妃とは、ただ愛されるだけで務まるものではありません。政治、外交、宮廷の秩序――学ぶことは山ほどございますのよ」
まるで「あなたには無理だ」と告げるような声音。
喉が乾き、声が出ない。
その晩、私は自室で鏡を見つめていた。
亜麻色の髪、翡翠色の瞳。
――本当に、この姿で王妃になれるのだろうか。
背後から足音がして、振り返るとアランがいた。
彼は黙って私の肩を抱き、鏡越しに私を見つめる。
「誰が何を言おうと関係ない。俺が選んだのはお前だ」
「……でも、皆は認めてくれません」
「ならば、認めさせればいい。俺の隣に立つお前の姿を、王妃にふさわしいと誰もが思うまで」
金の瞳が揺らめき、低く熱い声が降りる。
「俺が支える。……だから逃げるな、エリシア」
その言葉は、甘い囁きでありながら、背中を押す力となった。
翌朝、私は自ら王妃教育の場へ赴いた。
冷たい視線に怯えはしたが、胸の奥でアランの言葉が響いていた。
――逃げない。
たとえどんな陰口を言われても、民の前で誇り高く立てる王妃になる。
その決意を胸に、私は静かに一礼し、学びの席に座った。
城門が見えてきたとき、待ち受けていた群衆から大きな歓声が上がる。
民は「王妃さま」と呼び、花を差し出してくれた。
胸が熱くなり、自然と涙がにじむ。
だが、宮廷の中へ足を踏み入れた瞬間、その空気は一変した。
冷ややかな視線、抑えた囁き声。
それは民衆の祝福とはまるで違う――重く冷たい拒絶の空気だった。
翌日、王妃教育の名目で宮廷の年長貴婦人たちに呼び出された。
彼女たちは礼儀正しく微笑んでいたが、その瞳には棘が潜んでいた。
「浄化の件は確かにお見事でしたわ」
「けれど、あれは聖女さまの力があってこそ。ご自分のお力と誤解されてはいませんでしょうね?」
静かな笑い声が広がり、心臓が締め付けられる。
私が返答に迷うと、別の貴婦人が言葉を重ねる。
「王妃とは、ただ愛されるだけで務まるものではありません。政治、外交、宮廷の秩序――学ぶことは山ほどございますのよ」
まるで「あなたには無理だ」と告げるような声音。
喉が乾き、声が出ない。
その晩、私は自室で鏡を見つめていた。
亜麻色の髪、翡翠色の瞳。
――本当に、この姿で王妃になれるのだろうか。
背後から足音がして、振り返るとアランがいた。
彼は黙って私の肩を抱き、鏡越しに私を見つめる。
「誰が何を言おうと関係ない。俺が選んだのはお前だ」
「……でも、皆は認めてくれません」
「ならば、認めさせればいい。俺の隣に立つお前の姿を、王妃にふさわしいと誰もが思うまで」
金の瞳が揺らめき、低く熱い声が降りる。
「俺が支える。……だから逃げるな、エリシア」
その言葉は、甘い囁きでありながら、背中を押す力となった。
翌朝、私は自ら王妃教育の場へ赴いた。
冷たい視線に怯えはしたが、胸の奥でアランの言葉が響いていた。
――逃げない。
たとえどんな陰口を言われても、民の前で誇り高く立てる王妃になる。
その決意を胸に、私は静かに一礼し、学びの席に座った。
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