7 / 29
第7章|王太后の試験
しおりを挟む
舞踏会の翌朝、王宮の廊下は冷えきっていた。
夜の熱と香が嘘みたいに消え、石壁は無機質な静けさを返す。窓の外には薄い霧が降り、庭園の薔薇は露をまとって白く光っていた。
――昨夜のことが、夢だったならいいのに。
けれど夢ではない。
王宮は、夢を許さない。
現実だけを噂にして、噂だけを真実にする。
リーシャは鏡の前で髪を整えながら、胸の奥に残るざらつきを押し込めた。
銀糸のような髪を編み込み、耳元の飾りを留める。肌に触れる宝石は冷たい。王妃という冠も、同じくらい冷たい。
「王妃陛下」
侍女長アグネスが控えめに声を落とした。
いつもよりさらに硬い声だ。王宮が“何か”を用意している時の声。
「王太后陛下より、お呼びでございます。……すぐに」
リーシャは頷いた。
その頷きの中には、恐れも疑問も混ぜない。混ぜた瞬間、それが“弱さ”として扱われるからだ。
(試される)
王太后は、妃を歓迎しない。
歓迎しないのは当たり前だ。王太后にとって王妃は「息子の隣を奪う存在」。息子を産み、守り、支配してきた者にとって、妃は“外から来た侵入者”でしかない。
そして今のリーシャは、最悪の材料を抱えている。
――国王の手を取らなかった。
――王弟と踊った。
――国王は幼馴染のセレスと踊った。
王太后が笑わないはずがない。
リーシャは背筋を伸ばし、廊下へ出た。
足音は小さく、しかし確かに響く。
“王妃として歩く音”を、彼女は幼い頃から練習してきた。
奥宮へ続く回廊は、光が少ない。
壁の装飾は豪奢なのに、空気は冷え、重い。香の匂いが常に薄く漂い、ここが“王宮の心臓”なのだと教える。
扉の前に侍女たちが並んでいた。
目を伏せ、動かない。
その無音が、これから始まる時間の残酷さを告げている。
「王妃陛下、御入室を」
扉が開いた。
部屋は広かった。
高い天井、深い赤の絨毯、重いカーテン。窓から差す光は細く、室内の金箔を鈍く照らしている。
王太后はその中心、椅子ではなく――まるで玉座のような椅子に座っていた。
白髪は結い上げられ、指には宝石が光る。
美しいというより、強い。
この人は、王宮を「体面」で支配している。
そして――王太后の傍らに、セレスが立っていた。
(……やっぱり)
セレスの存在は、いつも“正当”な顔をしている。
幼馴染。妹分。王家の内側。
王太后にとっては、妃よりはるかに“扱いやすい味方”。
セレスは柔らかく微笑み、軽く礼をした。
「王妃陛下。おはようございます」
その声は丁寧で、優しい。
でもリーシャの背中に冷気が走った。
優しさは、刃になる。
この王宮では特に。
リーシャは王太后の前で深く礼をする。
頭を下げ、姿勢を保ち、息を乱さない。
「王太后陛下、お呼びにより参りました」
「顔を上げなさい」
王太后の声は低く、よく通った。
優しさはない。けれど怒鳴りもしない。
怒鳴らない方が怖い。怒鳴らない者ほど、相手を壊すのが上手い。
リーシャはゆっくり顔を上げた。
王太后の視線が、宝石みたいに冷たくリーシャをなぞる。
髪。瞳。首筋。肩。ドレス。手袋。
まるで“品定め”ではなく、“欠点探し”。
「……噂は、本当に早いのね」
王太后は扇を開き、ふっと息を吐いた。
「昨夜、あなたは陛下の手を取らなかったそうね」
いきなり核心。
逃げ道を与えない。
リーシャの胸が僅かに痛んだ。
けれど顔には出さない。微笑もしない。淡々と、王妃として答える。
「恐れながら。陛下のお立場に余計な波紋を立てたくありませんでした」
王太后は薄く笑う。
笑いは優雅だ。だからこそ残酷。
「波紋? 陛下が妃と踊るのが波紋だと、あなたは言うの?」
言葉を切り取る。
ほんの少し角度を変えるだけで、罪になる。
リーシャは息を吸い、慎重に言葉を選ぶ。
「王宮は一つの噂が、国の信用へ繋がります。……私は未熟です。慎みたく存じました」
「未熟」
王太后はその単語を舌の上で転がすように繰り返した。
「未熟なら、学びなさい。あなたは妃なのよ」
そして、扇の先がふいにセレスへ向く。
「ねえ、セレス」
セレスは一歩前へ出て、恭しく頭を下げる。
「はい、王太后陛下」
王太后は楽しげに言った。
「昨夜、陛下はあなたと踊った。――皆がそれを見た。
あなたはどう思ったの? 妃としての席が、空いたままだったことを」
セレスの瞳が一瞬だけ揺れた。
揺れは“困惑”に見せられる程度。
そしてすぐに、慈悲の微笑が戻る。
「……私はただ、陛下のお役目をお支えしただけです」
完璧な答え。
誰も責められない答え。
だからこそ、リーシャだけが責められる。
王太后は満足そうに頷き、リーシャへ視線を戻した。
「聞いた? あの子は“王家のため”に動ける。
あなたは?」
あなたは。
その言い方が、リーシャを“外側”に追いやる。
リーシャは微笑みそうになるのを堪えた。
微笑みは“余裕”に見える。今は危険だ。
「私は王妃として、王宮の秩序を守ります」
王太后は扇を閉じ、机を軽く叩いた。
「秩序?」
その瞬間、空気がさらに冷える。
「秩序とは、妃が陛下の隣に立つことよ」
真っ直ぐな言葉。
しかしそれは同時に、罠だ。
――隣に立て、と命じる。
――でも隣にはセレスがいる。
――だからリーシャが動けば、“嫉妬の妃”になる。
王太后は続ける。
「あなたは昨夜、王弟と踊ったそうね」
その言葉が落ちた瞬間、部屋の温度がもう一段下がった。
リーシャの胸が痛んだ。
アドリアンの手は“救い”だった。
でもその救いは、王宮では罪に変わる。
「王弟殿下は、王家として王妃をお立てくださいました」
リーシャは淡々と答える。
淡々と答えるしかない。
王太后は、ゆっくりと身を乗り出した。
「あなたは、“誰の手”を取るべきか分かっていないのね」
その言葉は、教育ではなく裁きだった。
リーシャは心の中で、昨夜の国王の手を思い出す。
差し出された手。宙で固まった手。
そして、セレスの手を取った手。
(私は、誰の手を取るべきだった?)
答えは一つのはずなのに、王宮では一つにならない。
王太后は、最後の一撃を落とす。
「あなたは美しい。けれど美しさは、妃の価値ではない。
陛下が必要とするのは――理解よ。
そして理解者は、昔から陛下の傍にいる」
“昔から”
その言葉が、リーシャの喉を締めた。
昔から。
私は今。
外から来た。
遅かった。
リーシャは呼吸を乱さないように、指先を揃えた。
手袋の内側で爪が皮膚に食い込み、痛みが現実に引き戻す。
(泣かない)
泣いたら、王太后は勝つ。
泣いたら、セレスは“気遣い”の顔をする。
泣いたら、私は“弱い妃”として固定される。
リーシャは、静かに頭を下げる。
「ご教示、痛み入ります。今後、王妃として不足なきよう努めます」
王太后は満足げに頷いた。
その頷きは、許しではない。
“従わせた”という確認。
「よろしい」
そして、優雅に言葉を続ける。
「今夜、公開の場であなたを試します。
王妃が“王の隣にふさわしい”と示しなさい。
――できなければ、あなたはただの飾りよ」
飾り。
その単語が胸に刺さる。
リーシャは礼をし、退室の許可を待った。
王太后は扇を振り、追い払うように言う。
「下がりなさい」
リーシャは背筋を伸ばし、部屋を出た。
廊下へ出た瞬間、冷気が肺に刺さる。
扉が閉まる直前、セレスの声が背後から聞こえた。
「王妃陛下……お辛いでしょう。でも、陛下は――」
続きは、聞かなくていい。
聞けば、期待が生まれる。
期待が生まれたら、また傷つく。
リーシャは歩きながら、心の中で小さく宣言する。
(私は、王の隣に立たない)
王太后が命じた“隣”ではなく。
噂が決めた“隣”でもなく。
――私が自分で選べる形でしか、立たない。
その誓いは、昨日よりさらに硬い。
硬い誓いほど、悲しい。
回廊の窓の外で、薔薇が風に揺れた。
白い花弁が一枚、落ちる。
その落ち方が、まるで――
王妃の席から静かに剥がされていく自分の居場所みたいに見えた。
夜の熱と香が嘘みたいに消え、石壁は無機質な静けさを返す。窓の外には薄い霧が降り、庭園の薔薇は露をまとって白く光っていた。
――昨夜のことが、夢だったならいいのに。
けれど夢ではない。
王宮は、夢を許さない。
現実だけを噂にして、噂だけを真実にする。
リーシャは鏡の前で髪を整えながら、胸の奥に残るざらつきを押し込めた。
銀糸のような髪を編み込み、耳元の飾りを留める。肌に触れる宝石は冷たい。王妃という冠も、同じくらい冷たい。
「王妃陛下」
侍女長アグネスが控えめに声を落とした。
いつもよりさらに硬い声だ。王宮が“何か”を用意している時の声。
「王太后陛下より、お呼びでございます。……すぐに」
リーシャは頷いた。
その頷きの中には、恐れも疑問も混ぜない。混ぜた瞬間、それが“弱さ”として扱われるからだ。
(試される)
王太后は、妃を歓迎しない。
歓迎しないのは当たり前だ。王太后にとって王妃は「息子の隣を奪う存在」。息子を産み、守り、支配してきた者にとって、妃は“外から来た侵入者”でしかない。
そして今のリーシャは、最悪の材料を抱えている。
――国王の手を取らなかった。
――王弟と踊った。
――国王は幼馴染のセレスと踊った。
王太后が笑わないはずがない。
リーシャは背筋を伸ばし、廊下へ出た。
足音は小さく、しかし確かに響く。
“王妃として歩く音”を、彼女は幼い頃から練習してきた。
奥宮へ続く回廊は、光が少ない。
壁の装飾は豪奢なのに、空気は冷え、重い。香の匂いが常に薄く漂い、ここが“王宮の心臓”なのだと教える。
扉の前に侍女たちが並んでいた。
目を伏せ、動かない。
その無音が、これから始まる時間の残酷さを告げている。
「王妃陛下、御入室を」
扉が開いた。
部屋は広かった。
高い天井、深い赤の絨毯、重いカーテン。窓から差す光は細く、室内の金箔を鈍く照らしている。
王太后はその中心、椅子ではなく――まるで玉座のような椅子に座っていた。
白髪は結い上げられ、指には宝石が光る。
美しいというより、強い。
この人は、王宮を「体面」で支配している。
そして――王太后の傍らに、セレスが立っていた。
(……やっぱり)
セレスの存在は、いつも“正当”な顔をしている。
幼馴染。妹分。王家の内側。
王太后にとっては、妃よりはるかに“扱いやすい味方”。
セレスは柔らかく微笑み、軽く礼をした。
「王妃陛下。おはようございます」
その声は丁寧で、優しい。
でもリーシャの背中に冷気が走った。
優しさは、刃になる。
この王宮では特に。
リーシャは王太后の前で深く礼をする。
頭を下げ、姿勢を保ち、息を乱さない。
「王太后陛下、お呼びにより参りました」
「顔を上げなさい」
王太后の声は低く、よく通った。
優しさはない。けれど怒鳴りもしない。
怒鳴らない方が怖い。怒鳴らない者ほど、相手を壊すのが上手い。
リーシャはゆっくり顔を上げた。
王太后の視線が、宝石みたいに冷たくリーシャをなぞる。
髪。瞳。首筋。肩。ドレス。手袋。
まるで“品定め”ではなく、“欠点探し”。
「……噂は、本当に早いのね」
王太后は扇を開き、ふっと息を吐いた。
「昨夜、あなたは陛下の手を取らなかったそうね」
いきなり核心。
逃げ道を与えない。
リーシャの胸が僅かに痛んだ。
けれど顔には出さない。微笑もしない。淡々と、王妃として答える。
「恐れながら。陛下のお立場に余計な波紋を立てたくありませんでした」
王太后は薄く笑う。
笑いは優雅だ。だからこそ残酷。
「波紋? 陛下が妃と踊るのが波紋だと、あなたは言うの?」
言葉を切り取る。
ほんの少し角度を変えるだけで、罪になる。
リーシャは息を吸い、慎重に言葉を選ぶ。
「王宮は一つの噂が、国の信用へ繋がります。……私は未熟です。慎みたく存じました」
「未熟」
王太后はその単語を舌の上で転がすように繰り返した。
「未熟なら、学びなさい。あなたは妃なのよ」
そして、扇の先がふいにセレスへ向く。
「ねえ、セレス」
セレスは一歩前へ出て、恭しく頭を下げる。
「はい、王太后陛下」
王太后は楽しげに言った。
「昨夜、陛下はあなたと踊った。――皆がそれを見た。
あなたはどう思ったの? 妃としての席が、空いたままだったことを」
セレスの瞳が一瞬だけ揺れた。
揺れは“困惑”に見せられる程度。
そしてすぐに、慈悲の微笑が戻る。
「……私はただ、陛下のお役目をお支えしただけです」
完璧な答え。
誰も責められない答え。
だからこそ、リーシャだけが責められる。
王太后は満足そうに頷き、リーシャへ視線を戻した。
「聞いた? あの子は“王家のため”に動ける。
あなたは?」
あなたは。
その言い方が、リーシャを“外側”に追いやる。
リーシャは微笑みそうになるのを堪えた。
微笑みは“余裕”に見える。今は危険だ。
「私は王妃として、王宮の秩序を守ります」
王太后は扇を閉じ、机を軽く叩いた。
「秩序?」
その瞬間、空気がさらに冷える。
「秩序とは、妃が陛下の隣に立つことよ」
真っ直ぐな言葉。
しかしそれは同時に、罠だ。
――隣に立て、と命じる。
――でも隣にはセレスがいる。
――だからリーシャが動けば、“嫉妬の妃”になる。
王太后は続ける。
「あなたは昨夜、王弟と踊ったそうね」
その言葉が落ちた瞬間、部屋の温度がもう一段下がった。
リーシャの胸が痛んだ。
アドリアンの手は“救い”だった。
でもその救いは、王宮では罪に変わる。
「王弟殿下は、王家として王妃をお立てくださいました」
リーシャは淡々と答える。
淡々と答えるしかない。
王太后は、ゆっくりと身を乗り出した。
「あなたは、“誰の手”を取るべきか分かっていないのね」
その言葉は、教育ではなく裁きだった。
リーシャは心の中で、昨夜の国王の手を思い出す。
差し出された手。宙で固まった手。
そして、セレスの手を取った手。
(私は、誰の手を取るべきだった?)
答えは一つのはずなのに、王宮では一つにならない。
王太后は、最後の一撃を落とす。
「あなたは美しい。けれど美しさは、妃の価値ではない。
陛下が必要とするのは――理解よ。
そして理解者は、昔から陛下の傍にいる」
“昔から”
その言葉が、リーシャの喉を締めた。
昔から。
私は今。
外から来た。
遅かった。
リーシャは呼吸を乱さないように、指先を揃えた。
手袋の内側で爪が皮膚に食い込み、痛みが現実に引き戻す。
(泣かない)
泣いたら、王太后は勝つ。
泣いたら、セレスは“気遣い”の顔をする。
泣いたら、私は“弱い妃”として固定される。
リーシャは、静かに頭を下げる。
「ご教示、痛み入ります。今後、王妃として不足なきよう努めます」
王太后は満足げに頷いた。
その頷きは、許しではない。
“従わせた”という確認。
「よろしい」
そして、優雅に言葉を続ける。
「今夜、公開の場であなたを試します。
王妃が“王の隣にふさわしい”と示しなさい。
――できなければ、あなたはただの飾りよ」
飾り。
その単語が胸に刺さる。
リーシャは礼をし、退室の許可を待った。
王太后は扇を振り、追い払うように言う。
「下がりなさい」
リーシャは背筋を伸ばし、部屋を出た。
廊下へ出た瞬間、冷気が肺に刺さる。
扉が閉まる直前、セレスの声が背後から聞こえた。
「王妃陛下……お辛いでしょう。でも、陛下は――」
続きは、聞かなくていい。
聞けば、期待が生まれる。
期待が生まれたら、また傷つく。
リーシャは歩きながら、心の中で小さく宣言する。
(私は、王の隣に立たない)
王太后が命じた“隣”ではなく。
噂が決めた“隣”でもなく。
――私が自分で選べる形でしか、立たない。
その誓いは、昨日よりさらに硬い。
硬い誓いほど、悲しい。
回廊の窓の外で、薔薇が風に揺れた。
白い花弁が一枚、落ちる。
その落ち方が、まるで――
王妃の席から静かに剥がされていく自分の居場所みたいに見えた。
297
あなたにおすすめの小説
冷たい王妃の生活
柴田はつみ
恋愛
大国セイラン王国と公爵領ファルネーゼ家の同盟のため、21歳の令嬢リディアは冷徹と噂される若き国王アレクシスと政略結婚する。
三年間、王妃として宮廷に仕えるも、愛されている実感は一度もなかった。
王の傍らには、いつも美貌の女魔導師ミレーネの姿があり、宮廷中では「王の愛妾」と囁かれていた。
孤独と誤解に耐え切れなくなったリディアは、ついに離縁を願い出る。
「わかった」――王は一言だけ告げ、三年の婚姻生活はあっけなく幕を閉じた。
自由の身となったリディアは、旅先で騎士や魔導師と交流し、少しずつ自分の世界を広げていくが、心の奥底で忘れられないのは初恋の相手であるアレクシス。
やがて王都で再会した二人は、宮廷の陰謀と誤解に再び翻弄される。
嫉妬、すれ違い、噂――三年越しの愛は果たして誓いとなるのか。
貴方が私を嫌う理由
柴田はつみ
恋愛
リリー――本名リリアーヌは、夫であるカイル侯爵から公然と冷遇されていた。
その関係はすでに修復不能なほどに歪み、夫婦としての実態は完全に失われている。
カイルは、彼女の類まれな美貌と、完璧すぎる立ち居振る舞いを「傲慢さの表れ」と決めつけ、意図的に距離を取った。リリーが何を語ろうとも、その声が届くことはない。
――けれど、リリーの心が向いているのは、夫ではなかった。
幼馴染であり、次期公爵であるクリス。
二人は人目を忍び、密やかな逢瀬を重ねてきた。その愛情に、疑いの余地はなかった。少なくとも、リリーはそう信じていた。
長年にわたり、リリーはカイル侯爵家が抱える深刻な財政難を、誰にも気づかれぬよう支え続けていた。
実家の財力を水面下で用い、侯爵家の体裁と存続を守る――それはすべて、未来のクリスを守るためだった。
もし自分が、破綻した結婚を理由に離縁や醜聞を残せば。
クリスが公爵位を継ぐその時、彼の足を引く「過去」になってしまう。
だからリリーは、耐えた。
未亡人という立場に甘んじる未来すら覚悟しながら、沈黙を選んだ。
しかし、その献身は――最も愛する相手に、歪んだ形で届いてしまう。
クリスは、彼女の行動を別の意味で受け取っていた。
リリーが社交の場でカイルと並び、毅然とした態度を崩さぬ姿を見て、彼は思ってしまったのだ。
――それは、形式的な夫婦関係を「完璧に保つ」ための努力。
――愛する夫を守るための、健気な妻の姿なのだと。
真実を知らぬまま、クリスの胸に芽生えたのは、理解ではなく――諦めだった。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
「私も新婚旅行に一緒に行きたい」彼を溺愛する幼馴染がお願いしてきた。彼は喜ぶが二人は喧嘩になり別れを選択する。
佐藤 美奈
恋愛
イリス公爵令嬢とハリー王子は、お互いに惹かれ合い相思相愛になる。
「私と結婚していただけますか?」とハリーはプロポーズし、イリスはそれを受け入れた。
関係者を招待した結婚披露パーティーが開かれて、会場でエレナというハリーの幼馴染の子爵令嬢と出会う。
「新婚旅行に私も一緒に行きたい」エレナは結婚した二人の間に図々しく踏み込んでくる。エレナの厚かましいお願いに、イリスは怒るより驚き呆れていた。
「僕は構わないよ。エレナも一緒に行こう」ハリーは信じられないことを言い出す。エレナが同行することに乗り気になり、花嫁のイリスの面目をつぶし感情を傷つける。
とんでもない男と結婚したことが分かったイリスは、言葉を失うほかなく立ち尽くしていた。
病弱な幼馴染を守る彼との婚約を解消、十年の恋を捨てて結婚します
佐藤 美奈
恋愛
セフィーナ・グラディウスという貴族の娘が、婚約者であるアルディン・オルステリア伯爵令息との関係に苦悩し、彼の優しさが他の女性に向けられることに心を痛める。
セフィーナは、アルディンが幼馴染のリーシャ・ランスロット男爵令嬢に特別な優しさを注ぐ姿を見て、自らの立場に苦しみながらも、理想的な婚約者を演じ続ける日々を送っていた。
婚約して十年間、心の中で自分を演じ続けてきたが、それももう耐えられなくなっていた。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
私のことを愛していなかった貴方へ
矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。
でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。
でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。
だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。
夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。
*設定はゆるいです。
あなたが捨てた花冠と后の愛
小鳥遊 れいら
恋愛
幼き頃から皇后になるために育てられた公爵令嬢のリリィは婚約者であるレオナルド皇太子と相思相愛であった。
順調に愛を育み合った2人は結婚したが、なかなか子宝に恵まれなかった。。。
そんなある日、隣国から王女であるルチア様が側妃として嫁いでくることを相談なしに伝えられる。
リリィは強引に話をしてくるレオナルドに嫌悪感を抱くようになる。追い打ちをかけるような出来事が起き、愛ではなく未来の皇后として国を守っていくことに自分の人生をかけることをしていく。
そのためにリリィが取った行動とは何なのか。
リリィの心が離れてしまったレオナルドはどうしていくのか。
2人の未来はいかに···
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる