つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ

文字の大きさ
26 / 51

第25章|王城舞踏会、転倒の罠

王城の舞踏会は、祝祭ではなく裁判だ。
音楽と光の中で、誰が選ばれ、誰が捨てられ、誰が“隣”にふさわしいと認定されるかが決まる。

シャンデリアの光が降り注ぎ、床は鏡のように磨かれていた。
金の装飾、香の匂い、笑い声。
すべてが華やかで、すべてが冷たい。

リーシャは扉の前で一度だけ息を整えた。
プラチナブロンドの髪をゆるく編み込み、青い宝石が灯りを受けて冷たく瞬く。
白い手袋。
青のドレス。
王妃の冠。

完璧な姿。
完璧であるほど、隙がない。
隙がないほど、誰かは隙を“作りたがる”。

(泣けば負ける)

アグネスの忠告が骨の内側で鳴る。
泣かない。
揺れない。
――今日も、王妃として立つ。

ロランが半歩前に立っていた。
護衛の距離。噂にならない距離。
それでも彼の存在が、リーシャの呼吸を守る。

「王妃陛下、まもなく入場です」

ロランの声は低い。
低いほど、余計な温度がない。

リーシャは微笑んだ。

「ええ。行きましょう」

扉が開く。
広間の熱が流れ込む。
視線が刺さる。
刺さる視線の中に、期待と嘲りと値踏みが混じっている。

――王妃は今日も一人。
――王の隣は幼馴染。
――王妃は弟と噂。

囁きが、絹の擦れる音みたいに広がっていく。

その中心に、国王レオニスがいた。
黒の礼装。金の刺繍。動かない背筋。
そして――その隣に、セレスがいる。

金髪、黄金のドレス。
白い花飾り。
“慈悲の聖女”の仮面をつけたまま、王の隣を自然に占める。

リーシャは礼をした。
深く、完璧に。
視線は上げない。
目を合わせない。目を合わせれば、また意味を探してしまうから。

「陛下」

国王は短く頷いた。
言葉はない。
言葉がないまま、セレスにはわずかに声の温度が残る。

「セレス、予定は?」

たったそれだけ。
たったそれだけなのに、リーシャの胸が痛む。

セレスが柔らかく答える。

「はい、陛下。皆さまのご挨拶が終わりましたら……」

近い距離。近い声。
幼馴染の距離。

(どうぞ、お幸せに)

言い切った言葉が、胸の奥で静かに響く。
言い切ったから、戻れない。
戻れないから、痛みが薄くなる。
薄くなるのが怖い。

音楽が変わる。
舞踏会の第一曲が始まる合図。

本来なら、王が妃へ手を差し出す。
それが秩序。
それが建前。
それが“夫婦”。

けれどリーシャは、もう手を取らないと決めている。
手を取れば、また期待してしまう。
期待した分だけ、次の沈黙で殺される。

リーシャは一歩下がり、王妃としての位置――“少し後ろ”へ移った。
それだけで広間の空気が揺れる。

「今日も……」
「王妃は……」

囁きが、すぐに噂へ変わる。

その瞬間だった。

足元に、ほんの僅かな引っかかりが生まれた。
ドレスの裾。
いつもなら引っかからない位置で、布が“誰かの意志”を持ったみたいに絡む。

(……っ)

リーシャの身体が前へ傾く。
バランスが崩れる。
視線が一斉に集まる。

――転ぶ。
――王妃が。
――公開の場で。

この恥は、王妃を殺す。
この恥は、笑いになる。
この恥は、“つまらない妃”を完成させる。

リーシャの頭が白くなる。
でも泣かない。泣けば負ける。

次の瞬間、腕が掴まれた。

強い手。
揺れない手。
そして、噂にならないように“ギリギリで止める”支え方。

ロランだった。

彼は抱きしめない。
抱きしめたら噂が“形”になる。
だから彼は、王妃の手首と肘を支え、身体が倒れない角度で止めた。

それでも。

広間は見た。
“護衛が王妃を抱き留めた”という絵を。

「まあ……」
「やっぱり……」
「護衛と……」

囁きが一瞬で増殖する。
噂屋ヴィオラの目が、扇の陰で笑うのが見えた。

ロランが低い声で言う。

「王妃陛下、大丈夫ですか」

リーシャは微笑を作った。
痛みを飲み込んで、王妃として立ち直る。

「……ありがとう。問題ないわ」

問題ない。
問題ないと言えることが、問題だ。
王宮は“問題ない顔”の人間から先に壊れていく。

ロランがすっと離れる。
離れる速さが、彼の誠実さを示している。
誠実さが、逆に噂の燃料になる。

そして――国王の視線が刺さった。

冷たい目。
怒りが混じった目。
でもその怒りの奥に、別の色がある。

――焦り。奪われる恐怖。
嫉妬。

国王が一歩踏み出しかける。
妃に近づこうとしたように見えた。

けれど、その腕を誰かが止めた。

セレスだった。

セレスは国王の袖を軽く掴み、柔らかい声で囁く。

「陛下……ここは」

“ここは”。
公の場。
世論の場。
王の弱点が嗅ぎ取られる場。

国王の足が止まる。
止まった瞬間、リーシャの胸の奥で何かが落ちた。

(来ない)

来られないのか。
来ないのか。
どちらでも同じだ。

セレスは国王の腕を取り、今度は外向きの微笑を作る。

「皆さま、失礼いたしました。王妃様はお強い方です。ご心配なく」

お強い方。
その言葉が、また鎖になる。
強い妃は守られない。強い妃は泣けない。

国王は何も言わない。
言えない。
言葉にした瞬間、王が人間になってしまうから。

リーシャは背筋を伸ばし、微笑を固定した。
そして、国王に向けて、もう一度だけ心の中で言う。

(どうぞ、お幸せに)

今夜も、王妃は倒れない。
倒れないまま、ひとつずつ何かを失っていく。

音楽が再開される。
笑い声が戻る。
噂が走る。

そして、広間の片隅で――
“護衛と王妃”という新しい物語が、静かに完成し始めていた。


転倒の騒ぎが収まっても、空気は戻らなかった。
音楽は流れているのに、広間の視線だけが張り詰めている。
王妃は転びかけた。護衛が支えた。国王は来なかった。
その三つの事実が、もう“真実”になってしまった。

リーシャは背筋を伸ばし、微笑を固定した。
泣けば負ける。
泣かなければ“冷たい妃”。
その二択の中で、生きる方を選ぶ。

(……ここで一曲も踊らなければ)

今度は別の物語が生まれる。
“王妃は拒絶された”
“王妃は国辱”
そして王太后が、それを喜ぶ。

――逃げ道はない。

そのとき、背後に気配が立った。
近づかない距離。触れない距離。
けれど、確かに“味方”の温度がある。

「王妃陛下」

アドリアンだった。
プラチナブロンドの髪が灯りを拾い、濃紺の軍服の金の飾りが小さく瞬く。
彼は一歩も踏み込みすぎない。踏み込みすぎれば噂になるから。

「……一曲、いただけますか」

声は低い。
しかしその低さには、覚悟が混じっていた。

――あなたがここで晒されるのを、これ以上見ていられない。

リーシャの胸が揺れた。
断りたい。断れば噂が増える。
受ければ噂が燃える。

どちらでも燃えるなら、燃える場所を選ぶしかない。

リーシャは微笑を崩さず、ゆっくりと手を差し出した。
白い手袋越しに、指先が触れる。

その瞬間、広間のざわめきが波のように走った。

「王弟殿下が……」
「王妃を……」
「やはり……」

噂屋ヴィオラの扇の陰で、目が笑う。
“次の見出し”が生まれた顔だ。

アドリアンは一礼し、リーシャを床の中央へ導いた。
距離は礼儀の範囲。
けれど“近さ”は絵になる。

音楽が二人を包む。
リーシャは王妃として、完璧に踊った。
足運びは静かで、回転は優雅で、裾が花びらのように広がる。

美しい。
その美しさが、また罪になる。

アドリアンが小さな声で言った。

「……怖がらないでください」

リーシャは微笑のまま返す。

「怖がってなどいません。私は王妃です」

言いながら、胸の奥が痛い。
怖い。
怖いのに、怖いと言えない。

踊りながら、リーシャはふと視線を上げてしまった。
探してはいけない。探せば期待が息をする。
でも目が勝手に探す。

国王レオニスの姿を。

そして――見つけてしまう。

国王は踊りの輪の外に立っていた。
黒い礼装。氷の瞳。
その瞳が、真っ直ぐこちらを見ている。

冷たい。
けれど冷たいだけではない。

焼ける色。
嫉妬。
奪われる恐怖。

(……嫉妬する資格が、あなたにあるの?)

胸の奥で呟く。
だってあなたは私を隣に置かない。
あなたは私の手を取らない。
あなたの隣は――いつもセレス。

リーシャは視線を逸らした。
逸らさないと、また期待してしまう。
“来てくれるかもしれない”と。

来ない。
来ないのに、嫉妬だけは燃える。
それが一番嫌だった。

曲が終わる。
拍手が起こる。
拍手の音が、妙に軽い。

アドリアンはリーシャの手を離し、深く礼をした。

「……今夜だけです。誤解されるのは承知です。ですが――」

“あなたを一人にしたくなかった”
その続きを彼は言わない。言えば罪になる。

リーシャは微笑で答えた。

「ありがとうございます、王弟殿下」

その言葉が、さらに噂を育てるのを知りながら。

アドリアンが一歩下がった瞬間、国王がこちらへ動きかけた。
動きかけた――はずだった。

しかし宰相が半歩前に出る。

「陛下。次のご挨拶を」

礼儀の皮を被った鎖。

国王の足が止まる。
止まったまま、視線だけがリーシャを刺す。

そしてリーシャは理解する。

(あなたは、動けない)

動けないのか。動かないのか。
どちらでも同じ。

リーシャは微笑を崩さず、心の中で言った。

(どうぞ、お二人末長くお幸せに)

それは祝福の形をした、完全な決別だった。


国王が、こちらへ一歩踏み出した。
踏み出した――はずだった。

黒い礼装が揺れ、床に落ちた影が一瞬だけ伸びる。
その影が、リーシャの足元へ届きそうになる。

(来るの?)

胸の奥が、反射で跳ねる。
期待するな。期待は毒。
でも身体は、毒を欲しがってしまう。

次の瞬間、その“影”が止まった。

セレスの指が、国王の腕を取っていた。

ほんの軽い接触。
けれど、その軽さがいちばん残酷だった。
躊躇いなく触れられる距離――幼馴染の特権。

「陛下、ここは……」

囁き声は柔らかい。
優しさの形をしている。
だから誰も咎めない。咎められない。

国王の肩が僅かに硬くなる。
止められているのに、止められることを拒めない硬さ。

(……止まるのね)

リーシャの胸の奥で、何かが冷たく鳴った。
“来るかもしれない”が、消える音。

国王の視線だけが、リーシャを刺す。
刺すのに、近づかない。
近づけない。近づかない。

宰相が、ここぞとばかりに半歩前へ出た。

「陛下。次のご挨拶を」

礼儀の皮を被った鎖。
国王はその鎖に、従うしかない。

セレスは国王の腕から指を離さないまま、外向きの微笑を作った。
王宮の女が一番上手い種類の微笑。
“陛下を守っています”という微笑。

そして、リーシャにだけ聞こえる声で、静かに言った。

「……王妃様、お強いですものね」

強い。
またその言葉。
強いと言われた者は、守られない。

リーシャは微笑を崩さなかった。
崩せば負ける。
負ければ、噂が完成する。

(わたしには、お気遣いなく)

心の中で、あの台詞を繰り返す。
自分の胸に釘を打つみたいに。

国王が最後に、もう一度だけこちらを見た。
氷の瞳の奥に、焼けた色。
嫉妬。焦り。奪われる恐怖。

でも、それでも――足は動かない。

国王は宰相の方へ向き、セレスはその隣に付く。
二人が並ぶ姿が、あまりに自然で、広間の空気が「答え」を出してしまう。

――王の隣は、セレス。
――王妃の隣は、王弟。

噂が、拍手の裏で育っていく音がした。

リーシャは、白い手袋の指先を揃え、背筋を伸ばした。
泣けば負ける。
だから微笑む。

そして胸の奥で、静かに決める。

(もう、戻らない)

嫉妬は、愛ではない。
言葉にならない想いは、救いにならない。

救いにならないものに縋るほど、私は弱くない。
――弱くならないために、私は自分の足で離れる。

あなたにおすすめの小説

冷たい王妃の生活

柴田はつみ
恋愛
大国セイラン王国と公爵領ファルネーゼ家の同盟のため、21歳の令嬢リディアは冷徹と噂される若き国王アレクシスと政略結婚する。 三年間、王妃として宮廷に仕えるも、愛されている実感は一度もなかった。 王の傍らには、いつも美貌の女魔導師ミレーネの姿があり、宮廷中では「王の愛妾」と囁かれていた。 孤独と誤解に耐え切れなくなったリディアは、ついに離縁を願い出る。 「わかった」――王は一言だけ告げ、三年の婚姻生活はあっけなく幕を閉じた。 自由の身となったリディアは、旅先で騎士や魔導師と交流し、少しずつ自分の世界を広げていくが、心の奥底で忘れられないのは初恋の相手であるアレクシス。 やがて王都で再会した二人は、宮廷の陰謀と誤解に再び翻弄される。 嫉妬、すれ違い、噂――三年越しの愛は果たして誓いとなるのか。

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

「君は地味な裏方だ」と愛人を優遇するサイコパス気質の夫。〜私が去った後、商会の技術が全て私の手によるものだと気づいても、もう手遅れです〜

水上
恋愛
「君は地味だから裏方に徹しろ」 効率主義のサイコパス気質な夫は、妻であるクララの磨いた硝子を愛人の手柄にし、クララを工房に幽閉した。 彼女は感情を捨て、機械のように振る舞う。 だが、クララの成果を奪い取り、夫が愛人を壇上に上げた夜、クララの心は完全に凍りついた。 彼に残した書き置きは一通のみ。 クララが去った後、商会の製品はただの石ころに戻り、夫の計算は音を立てて狂い始める。 これは、深い絶望と、遅すぎた後悔の物語。

月夜に散る白百合は、君を想う

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。 彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。 しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。 一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。 家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。 しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。 偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」 笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。 夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。 幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。 王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。