五年越しの再会と、揺れる恋心

第ニ章 突然の再会

その日は、会社の役員会議が行われる日だった。千尋は副社長の指示を受け、会議室の準備に追われていた。

「本日の役員会議より、新社長が就任されます」

副社長の声が響き渡り、会議室の扉が開いた。そこに現れた人物に、千尋は息を呑んだ。

広瀬洋介。

あの時の面影そのままに、いや、むしろ以前よりも洗練され、自信に満ちた表情で、洋介がそこに立っていた。まさか、自分が「振られた」と思い込み、必死で忘れようとした相手が、会社の新社長として目の前に現れるなんて。千尋の頭の中は真っ白になった。

洋介の視線が、会議室に立つ千尋に向けられた。その瞳に、一瞬、驚きの色が宿ったように見えたが、すぐにビジネスライクな冷静な表情に戻った。

「本日より、代表取締役社長に就任いたします、広瀬洋介です。皆様、どうぞよろしくお願いいたします」

淀みない口調で挨拶をする洋介の声は、千尋の耳に、まるで遠い昔の夢のように響いた。彼の隣に立つ副社長が、千尋に目配せをする。千尋は、プロの秘書として、平静を装うことに必死だった。

その日以来、千尋の日常は一変した。今まで副社長の秘書だった千尋は、新社長である洋介の秘書として働くことになったのだ。毎日、顔をあわせ、業務連絡を交わし、会議に同席する。洋介は仕事においては完璧で的確に指示をだし、一切の私情を挟まない。しかし、そのプロフェッショナルな態度が千尋にはかえって冷たく感じられた。

（五年前に私を捨てた人だもの。当然よね‥）

千尋は、そう自分に言い聞かせていた。しかし、彼の横顔を見るたび、胸の奥で燻っていた感情が、じわりと熱を帯びるのを感じた。

ある日、洋介のスケジュールを確認していた千尋は、彼のデスクに置かれてた一枚の写真に目が留まった。それは、五年ほど前の、大学時代のサークルの集合写真だった。そこに写る若かりし日の洋介の隣には、笑顔の千尋がいた。

洋介は、まだあの頃の写真を、持っていたのか。その事実に、千尋の心は揺らいだ。