青空

排他的論理和

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ステージ0:「人物紹介」
ヘレナ:海外雑貨を中心に扱う店を夫とともに営む。正義感が強く、曲がった事を見ると黙っていられない。スポーツで鍛えたスレンダーな体形は20代から変わっていなく、中級クラス(日本の中学校、高校に相当する)の息子がいるとは思えない。一人で街を歩いていると男たちからよく声をかけられるが、その美しい容姿と澄んだ目で射るように真っ直ぐに見られると、大抵の男は気高さに気圧されて退散をした。
アデル:ヘレナの一人息子。素直でやさしい性格。ヘレナのことを尊敬し、母として愛している。
バジー:ヘレナ達の店の隣にある商店の息子。アデルと同い年で幼馴染。気が弱く、ずるくウソをつく癖がある。
ヨナス:アデルの同級生。端正な顔立ちと長身でがっしりとした体格は、中級クラスの生徒には見えない。頭もずば抜けて良い。幼い時に母親を失くし、裕福な父親のもとで誰からも叱られずに育ったために、何事も自分の思うようにしないと気が済まない。街で一番勢力を持つ不良グループのリーダー。
サク:ヘレナの夫。それだけの役割。

ステージ1:「不正や曲がった事に目をつむっていたら、世の中は悪い奴らの思い通りになってしまう」
バジーがヨナス達の不良グループに連れ去られた。それを聞いたアデルは助けに行こうとも考えたが、相手が悪すぎると躊躇していた。ヨナス達のグループは気の荒い者が多く、何も知らない街のチンピラが半殺しの目にあったという噂が有ったのだ。
アデルの態度がおかしいので、母親のヘレナは息子を問いただした。しぶしぶ白状したアデルに対してヘレナは「バジーはあなたにとっては兄弟みたいなものでしょ。助けに行かないなんて信じられないわ。アデルが行かないのならば私が行って、連れ戻してくるわ。」
「母さんはヨナス達グループの怖さを知らないから、そんなことを言えるんだ。人殺しだって平気でしかねない奴らなんだから。どんな目に遭うか分かったもんじゃない。無事に連れ戻せるなんて考えられないよ。お願いだからやめてよ。」
「なんてだらしない事を言っているの。不正や曲がった事に目をつむっていたら、世の中は悪い奴らの思い通りになってしまうのよ。いいわ、私一人で行ってくるわ。」
そう言うとヘレナは店の使用人にあとを頼んで、バジーが囚われているナイトクラブに向かった。ああ、なんであの時にもっと強く母を止めなかったのだろう、そうすれば取り返しの付かないあんな事にはならなかったのに、とアデルは後々まで悔やむことになった。
心配した通り、母は店を閉める時間になっても戻って来なかった。アデルは使用人に店を閉めさせ帰らせた。そして、店の明かりを点けたままにして一人で母の帰りを待った。父は海外に買い付けに行っていたので、不安な気持ちで今にも泣きそうになったが、母を一人で行かせてしまった責任を感じて、寝てはいけないと自分に言い聞かせた。一晩中、店の椅子に座って母の帰りを待っていたが、明け方近くに睡魔に負けてウトウトとしかけたその時に、店のドアのチャイムの音ではっと目を覚ました。アデルは思わず立ち上がった。朝の薄明かりを背にした女性の姿があった。アデルははじめそれが母とは気づかなかった。見知らぬ女性が立っていると感じた。それほど、その時の母の第一印象は、いつもの母とは違っていた。アデルの姿を認めた母は、一瞬驚きの表情を見せたが、急いでその表情を元に戻した。店内の照明のもとであらためてみると、その女性は間違いなく母であった。母には、外傷のようなものは見られなかった。『ああ、生きて帰ってきてくれた。良かった。』アデルはほっと安心して椅子に腰を落とした。
「アデル・・・、ごめんね、寝ないで待っていてくれたのね・・・」母の声には、いつもの快活さはなく、どこか遠くから響くような後ろめたさが感じられた。照明の下でよく見ると、体全体から憔悴しきった様子が伺えた。顔色は異常と思えるくらい白く、それとは対照的に、いま紅を引いたばかりというような赤い唇が印象的だった。目にはいつもの力強さが感じられず、目の下にはうっすらと隈が認められた。髪の毛や衣服など、外観は出て行った時と変わりはなかったが、いつものきちんとして清潔な印象が感じられなかった。それでも母には、アデルが今まで見たことのない、何とも言えない美しさがあった。体全体から色気と言えるような女性らしさが漂っていた。アデルは今まで母を女性として意識したことはなかった。なぜそんな感じを覚えるのだろうと、アデルが母をよく見ようとしたときに、薄明かりの中で母の後ろに隠れるようにしていた影の動く気配がした。そこにはバジーの顔があった。バジーの顔には殴られた跡のような痣があったが、なぜか口元はにやけた様に端が上がっていた。
「じゃあな、おばさん、また、いろいろと、よろしくたのむな。」そう言うとバジーは母から離れ、自分の家へと帰っていった。離れる時にバジーの手が母の後ろに触れたように見えたが、薄明かりの中ではっきりとは見えなかった。母は一瞬、汚いものを見るような目つきでバジーを睨んだが、すぐに諦めたように視線を元に戻した。
「アデル、ごめんね・・・、母さん、疲れてるの、少し休ませてね・・・本当に、ごめんね・・・」そう言うと母は、アデルの横を通り抜けて家の中に入っていった。なんで、何回も謝らなくちゃいけないんだ。いつもの母は、あんな卑屈な話し方はしなかった。アデルは強い違和感を覚えた。まるでアデルと話をしたくないように感じた。しかし、その思いもアデルの前を通り抜けたときに母から立ち上がったにおいを嗅いだ時に、さらに異なる違和感へと変わった。化粧の匂いは感じたが、それ以外の何かが母の体からにおった。アデルにとっては今までに嗅いだことのない複雑なにおいであった。その中には煙草やアルコールのようなにおいも感じられた。母がアルコールを飲んだ所は一度も見たことがなかったし、父がアルコールを飲むことにも母はあまり良い顔をしなかった。ましてや煙草に関しては、母が強く言って父にやめさせた程であった。しかし、煙草やアルコールのにおいであればアデルも知っていた。それらとは違ったにおいが母からはしたのであった。本能的にアデルは、そこに触れてはいけない危険なものを感じた。その残り香と、今までの母とは違う官能的ともいえる美しさを思い浮かべ、アデルは下半身が熱くなるのを感じた。朝方の眠気のせいだと、アデルは思い込もうとした。
家の中からはシャワーを浴びる音が聞こえた。シャワールームの前を通るときにアデルは小さな声で「おやすみ、母さん」と言ったが、聞こえなかったと見えて返事はなかった。そのまま寝室に向かおうとしたが、シャワーの音に混じって小さな母の声が聞こえた。はじめは何かを話しかけてきたかと思い足を止めて耳を澄ましたが、やがて嗚咽だと分かった。母はシャワーを浴びながら泣いていたのである。アデルはその場にいることが母に対する冒瀆のように感じて、逃げるようにして離れた。ベッドに入ると何も考えずにすぐに眠りに落ちた。目を覚ましたのは、8時過ぎであった。すぐに飛び起きたが、今日は学校は休みであったことを思い出した。3時間程度は眠れたことになる。母の寝室の前で声をかけようかと考えたが、思い直してそのまま階下に降りた。思った通り母はすでに起きていて、食堂のテーブルの上にはアデルの朝食が用意されていた。母は、開店前の品出しをしており、早めに出勤した使用人に指示を出していた。その立ち居振る舞いはいつも通りの母に戻っていた。安心したアデルはテキパキと動いている母の背中に声をかけた。「おはよう、母さん。」ヘレナの体が一瞬ビクッとしたのが分かった。振り向いたヘレナの顔は凍り付いたように表情がなかった。アデルと目を合わせずに「おはよう。」と言うと、すぐに品出しを再開した。その声は感情を押し殺した平坦なトーンだった。明らかに母は、アデルと会話することを拒んでいた。アデルから「昨夜」の事についての質問が出ることを恐れていたのだ。アデルは悲しい気持ちで朝食を口に運びながら、明け方に見た母の姿とあのにおいを頭から追い出すことができなかった。いろいろな想像が打ち消しても打ち消しても浮かんできて、意を決して、昨夜、母が来ていた衣服を確認するために脱衣所に向かった。だが小花模様のワンピースも、そして下着も、すでに洗濯が終わった状態であった。明け方に感じたにおいの痕跡はどこにも残っていなかった。アデルの前からすべての証拠を消そうとする母の強い意志が感じられた。
仕事中の母はいつもと変わることなく、接客中の屈託のない笑顔も変わったところは感じられなかった。ただし、アデルとは意識的に会話を避けていた。廊下ですれ違っても、極力、目を合わせないようにしていた。閉店近くになって、来客が途切れた時に、ヘレナはどこか遠くを見るような目つきで、ボーとしている瞬間があったが、すぐに思い直したようにかぶりを振って、仕事に戻った。その時にトイレに向かうヘレナとすれ違ったアデルは、明け方に嗅いだあのにおいを一瞬感じた。アデルは下半身がまた熱くなるのを感じた。しかし、トイレから出てきたヘレナからはそのにおいは感じられなかった。アデルは努めて気のせいだと思い込もうとした。
夕飯でも二人の間には会話らしいものはなかった。ヘレナからはもちろん、アデルも積極的に話しかけることは避けた。
夕飯を済ませ、風呂を済ませると、ほとんど寝ていなかったこともあり、二人は会話もなく、各々の寝室に入った。アデルはベッドに入ると同時に眠りについた。夜中にアデルは妙にリアルな夢を見た。夢の中では、母が足を半開きにしてソファーに腰かけていた。母の顔は上気して頬がピンク色に染まっており、目は潤んで焦点が合っていなかった。昨日の朝に見た妖しい美しさがあった。その唇は男を誘うような鮮やかな赤色だった。しかし、体は、ぼんやりとしてはっきりと見えなかった。昨日の小花模様のワンピースを着ているようにも見えたし、何も身に着けていないようにも見えた。母の体から目を逸らすと、そこに母の体があることがわかるのだが、はっきりと見ようとするとぼやけてしまうのだった。気が付くと母の横に黒い影があるのが分かった。それははじめから居たのだが、気づかなかっただけのような気がした。黒い影が母に覆いかぶさった。母の顔が嬉しそうにさらに上気した。母が黒い影に何かしゃべりかけた。声は聞こえなかったが、唇の動きで「あなた、きて」と言っているのが分かった。「やめろー」とアデルは叫んだが、それは声にならなかった。その時、黒い影の顔が父親の顔だと分かった。アデルはほっと胸をなでおろした。しかし突然、顔がバジーの顔になった。バジーはぎらついた眼でヘレナの顔に迫っていた。ヘレナは気づかずに相手が夫のサクだと思っているようだった。「やめろバジー」アデルは声を振り絞ったが、相変わらず声にはならなかった。バジーはアデルの方を振り向き、口の端を上げてにやりと笑った。バジーがヘレナの方に向き直ると、その顔はヨナスになっていた。今度はすべてがはっきりと見えた。ヨナスの逞しい体がヘレナの上に覆いかぶさっていた。ヘレナは全裸で足を広げて、ヨナスを向かい入れた。ヘレナの腕がヨナスの背中に回された。ヘレナの顔が喜びで蕩けたような美しさで輝いた。「ああ、いいわ、〇〇〇」相変わらず声は聞こえなかったが、ヘレナの唇の動きでアデルには言っていることが分かった。しかし、最後の言葉がわからなかった。はっきりと見えているのだが、アデルの中で唇の動きを言葉にする回路が拒んでいた。アデルは二人の動きが発する肌を打ち合う音と隠微な湿った音を聞き、母とヨナスの二人から発散するにおいを鼻孔に強く感じた。それは、昨日の朝に母から嗅いだにおいそのものだった。母はヨナスに貫かれながら、口を半開きにして喜びの表情をしていた。声は聞こえなかったが、喜びの声を上げていることは明らかであった。そこでアデルは目を覚ました。アデルの下半身は、大量の射精をしていた。初めから分かっていたのだ。母からしたにおいには、間違いなく同じ精液のにおいが含まれていたのだ。アデルは気づかないふりをしていたのだ。アデルの頭の中には妙にリアルな夢の残像が残っていた。一瞬、母の甘い声が聞こえたような気がした。まだ夢を見ているのかとアデルは頭を振ったが、声は隣の母の寝室から聞こえたように感じた。夜の静けさの中で、アデルは耳を澄ましたが、それ以上は何も聞こえなかった。アデルは汚れた下着とパジャマのズボンをはき替えて、再び眠りについた。
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