青空

排他的論理和

文字の大きさ
2 / 8

ステージ2

しおりを挟む
ステージ2:「まぶしいほど青い空の真下で」
朝食の席で、アデルは昨夜の夢を思い出して、母の顔をまともに見ることができなかった。ヘレナは相変わらずアデルを避けているようであった。アデルは朝食を素早くすませて、身支度を整えると、いつもよりも早く学校に向かった。なるべく母と一緒にいる時間を短くしたい思いと、バジーと顔を合わせるのを避けるためだった。学校には早朝練習の運動部以外は誰もいなかった。アデルは階段を上がり、屋上のドアを開けた。頭の上には屈託のない青い空が広がっていた。早朝の空気の匂いと樹木の匂いがアデルの気持ちを癒してくれた。給水塔の梯子にぶら下がりながら、アデルはあの夜以来の出来事を頭の中で整理することにした。
あの明け方の朝から始めることにしよう。
店のドアを開けた母は、アデルの姿に気付くと驚きと困惑の表情をした。それは、恐怖に近い表情であった。最も会いたくないものに会ったように、あるいは、最も今の自分を見られたくない人間に会ったようであった。あの瞬間のヘレナの状態は、前の日からのヘレナの身に起こった出来事を物語っていた。憔悴しきった表情は、おそらく一晩中眠っていなかったのだろう。顔色と対照的な赤い唇、とりあえず整えたような髪の毛と小花模様のワンピース。急いで紅を引き、鏡の前で確認する余裕もなく衣服を着用し、手だけで髪を整えたようであった。今まで見たことのない退廃的ともいえる美しさ、そして何よりも母の体から立ち上ったあのにおい。間違いなく、母はヨナス達から性的な扱いを受けていたのだろう。息子から見ても美しい母を、ヨナス達が放って置く筈がなかった。母から望むはずはなく、おそらくバジーの身の安全と引き換えに、強制的に犯されたのだろう。しかし、あの表情と母自身から発したであろう匂いは、心ならずも母が女としての喜びを感じてしまったという事ではないのか。
ここまで考えて、アデルは胸が掻きむしられるような感情に襲われた。深く深呼吸をして真上の青い空を見つめた。何とか感情を抑えて再び整理を始めた。
あの朝以降の母のアデルに対する態度は、その後ろめたさからと考えられる。息子の同級生に抱かれて、気持ちとは裏腹に女として応えてしまった自分を責める気持ちと、息子を裏切ってしまったという感情から、アデルを避ける態度として現れたのだろう。
アデルはもう一度深呼吸をした。決して平穏な気持ちではないし、ヨナス達に対する怒りはより増したが、何とか整理はできた。母に抱いていた戸惑いも取り除くことができた。何があっても、自分は母を信じて母の味方でなければならない。たとえ、母がどう変わっても。アデルはあえて最後の言葉を付け足して、整理を終了した。すでに太陽は目の高さまで登っていて、真上にはまぶしいほどの青い空があった。今日も一日暑い日になるのだろう。チャイムの音を聞きながら、アデルは教室に向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...