青空

排他的論理和

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ステージ2

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ステージ2:「まぶしいほど青い空の真下で」
朝食の席で、アデルは昨夜の夢を思い出して、母の顔をまともに見ることができなかった。ヘレナは相変わらずアデルを避けているようであった。アデルは朝食を素早くすませて、身支度を整えると、いつもよりも早く学校に向かった。なるべく母と一緒にいる時間を短くしたい思いと、バジーと顔を合わせるのを避けるためだった。学校には早朝練習の運動部以外は誰もいなかった。アデルは階段を上がり、屋上のドアを開けた。頭の上には屈託のない青い空が広がっていた。早朝の空気の匂いと樹木の匂いがアデルの気持ちを癒してくれた。給水塔の梯子にぶら下がりながら、アデルはあの夜以来の出来事を頭の中で整理することにした。
あの明け方の朝から始めることにしよう。
店のドアを開けた母は、アデルの姿に気付くと驚きと困惑の表情をした。それは、恐怖に近い表情であった。最も会いたくないものに会ったように、あるいは、最も今の自分を見られたくない人間に会ったようであった。あの瞬間のヘレナの状態は、前の日からのヘレナの身に起こった出来事を物語っていた。憔悴しきった表情は、おそらく一晩中眠っていなかったのだろう。顔色と対照的な赤い唇、とりあえず整えたような髪の毛と小花模様のワンピース。急いで紅を引き、鏡の前で確認する余裕もなく衣服を着用し、手だけで髪を整えたようであった。今まで見たことのない退廃的ともいえる美しさ、そして何よりも母の体から立ち上ったあのにおい。間違いなく、母はヨナス達から性的な扱いを受けていたのだろう。息子から見ても美しい母を、ヨナス達が放って置く筈がなかった。母から望むはずはなく、おそらくバジーの身の安全と引き換えに、強制的に犯されたのだろう。しかし、あの表情と母自身から発したであろう匂いは、心ならずも母が女としての喜びを感じてしまったという事ではないのか。
ここまで考えて、アデルは胸が掻きむしられるような感情に襲われた。深く深呼吸をして真上の青い空を見つめた。何とか感情を抑えて再び整理を始めた。
あの朝以降の母のアデルに対する態度は、その後ろめたさからと考えられる。息子の同級生に抱かれて、気持ちとは裏腹に女として応えてしまった自分を責める気持ちと、息子を裏切ってしまったという感情から、アデルを避ける態度として現れたのだろう。
アデルはもう一度深呼吸をした。決して平穏な気持ちではないし、ヨナス達に対する怒りはより増したが、何とか整理はできた。母に抱いていた戸惑いも取り除くことができた。何があっても、自分は母を信じて母の味方でなければならない。たとえ、母がどう変わっても。アデルはあえて最後の言葉を付け足して、整理を終了した。すでに太陽は目の高さまで登っていて、真上にはまぶしいほどの青い空があった。今日も一日暑い日になるのだろう。チャイムの音を聞きながら、アデルは教室に向かった。
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