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第三話 からだとこころ

3-3.首元に鎖

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 神社の境内も月明りで明るかった。街灯の光が呑まれるほどに。
 遊具の方へ行くと波間がきらきら光る海が一望できる。水平線に向かって光の道が差している。

「宮前たち大丈夫かな」
「地元の子らが一緒なんだ。平気だよ」
「……そうだね」
 美登利が座るとブランコがきしんだ音を立てた。
「明日、帰る前に磯遊びしに……」

 シャラっと耳元で音がして美登利は言葉を止める。振り返る間もなく目の前にそれが現れる。
「プレゼント」
 スワロフスキーの小さなトップの付いたネックレス。
「……」
 プレゼントってなんの? 問い詰めそうになって堪える。声が低くならないよう気をつけながら小さく言った。
「ありがとう」

 首元に鎖の感触。そうだよね、自分は信用されてないから。悲しくはない、自分にだってわからないのだから。
 髪が邪魔なことに気づいて手で束ねて上にあげた。留め金を止めて、誠が訊いてくる。
「また伸ばすのか?」
「どうしようかな」

 今は中途半端な長さの髪をそのまま横に流しながら考えていたら、うなじに彼の唇を感じて体が固まる。
 ちょっと待て。これまで散々、時と場所には気を配ってきたのに何を急に壊れているのか。
 思ったけれど彼女にも放っておいた後ろめたさがあるから弱気になってしまう。まあ、これくらいなら。

 シャツの裾から潜り込んだ手が肌をまさぐる。まあ、我慢我慢。
 だが、その手が下に伸びたところで我慢の限界が来た。
「ちょっと、やめようよ。……ねえ」
 返事はない。聞く耳持たずか、いい度胸だ。
 やむを得ず、本当にやむを得ず、愛する恋人のみぞおちに思い切り肘鉄を食らわせた。




 帰りの車中。終始無言のままどす黒いオーラをぶつけあっている二人に、宮前の堪忍袋の緒が切れた。
「おまえら、いい加減にしろ。仲直りするまで帰ってくんな!」
 ぺいっと最寄り駅で放り出された。

「……」
「……」
 はあっとため息をついて切符を買い、ホームで電車を待つ。
「仁に気を使わせてるようじゃ駄目だな」
「仲直りしようか」

 そこからは手をつないで乗換駅まで戻った。
「プチ観光してく?」
 昼前だったからいつもの店のハンバーグが食べたいのだろう。美登利が提案したのに誠は頷いた。
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