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第三話 からだとこころ
3-4.怒っているんだ
しおりを挟むシャワーから出ると美登利ははだかにバスタオルをかけただけの格好でさっきの店で貰った観光マップを眺めていた。
「風邪ひくぞ」
それを無視してベッドの上から手招きされた。腕を伸ばして誠の髪を拭いてくれる。
「夏休みさ、どこか行ったことのないとこに旅行に行こうよ」
「たとえば?」
「各駅停車の旅とか。せっかく長い休みなんだから」
「予定盛りだくさんだな」
「考えるだけで楽しいでしょう」
考えるだけなのか? そこで誠はまた嫌な予感がしてくる。
今夏休みの話をするということは約束だけして放置されるということか。無理だ、考えられない。
「それまで長いな。月に一度は帰ってこようかな」
「おばさん喜ぶんじゃない、寂しそうだもの。一人っ子はお母さんを大事にしなくちゃ。お兄ちゃんなんか……」
ためらうように美登利の声が小さくなる。
「……巽さんはちょくちょく帰ってきてた」
「そうだね」
話を変えたくて美登利はうしろから彼の頬にキスをした。
「おまえはいつも駅まで迎えに行って」
やめてもらいたくて抱きしめるのに、
「巽さんも寂しかったりしたんだろうか」
「お兄ちゃんが……?」
「俺は寂しいよ」
「私だって」
嘘じゃない。頬をなぞってくちびるを寄せる。
逆に顎を掴んで舐められた。初めての感触に鳥肌が立つ。身をよじったところを押し倒された。
またくちびるを舌先でなぞられる。変な声が出てしまって自分でも驚く。
まだ触られてないのに感じていることを知られたくなくてそっと膝を立てる。いつもと違うことがこんなに恥ずかしくて気持ちいい。
怒っているんだ。手がわざとのように体をかすめて内ももを何度も撫でる。意地悪な手つきだ。
もう彼が何を怒っているのか彼女にはわからない。身に覚えがありすぎて。
琢磨や宮前だったらどこまでなら許されるかがはっきりわかる。だけど彼はどこで、何に怒るのかが曖昧で怖い。ずっと一緒にいるのにわからない。
彼女にとっていちばんわからないのが自分のことなら、次にわからないのが彼だ。わかっているのは、どうせ自分が悪いのだろうということ。
考え事をしていたのがバレたのか噛みつくようにくちびるを吸われた。
怒らないで、怒らないでよ。
宥めるようにキスに応える。襟足を優しく撫でる。
やがてお詫びのように背中を両手で撫でられて彼女はほっとする。
彼の頭に頬を寄せて抱きしめる。大好きだからね。もうずっとこのままでいい。
そう思ったのもつかの間、再び愛撫が始まり今度こそ意識を切らさず集中する。
ずっと体は疼いていたからすぐに濡れた音が聞こえてくる。恥ずかしいけど気分は高まる。
肩にしがみついたまま吐息をもらす。首筋に唇を感じて震えが走る。
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