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第四話 幼き約束

4-2.存在を示すように

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 それにしても、と美登利はじろりと正人を見る。
「どっちかは、なんて言うようになったね。まさか私を抑えて優勝できると思ってる?」
 むっと正人も口を曲げる。
「勝手に人のこと引っ張り出したくせに、おれが勝っても文句言うなよ」
「いいよ。じゃあ勝負する?」
「勝ったらなんかくれるの?」
「あなたが勝ったらキスしてあげる」
 マジですか。




 一週間後、待ち合わせ場所のイベント広場で美登利から参加証を渡された。
「先にエントリーしてきちゃった。あの子たちが来るまで時間あるね」
 大会のスタートとゴール地点になるこの場所では移動販売の飲食店が出ていて、さっそく軽食をとっている人が何人もいた。

「おお! 夏限定ラベンダーソフト」
「朝からそんなもん食うのか」
 ソフトクリームを手に、広場の脇の遊歩道からレンガを敷いて整備された河川敷に出る。
 段差に座って水面を眺める。日差しはすっかり夏のものだが風が涼しいから戸外ですごすにはちょうどいい。

「先輩、髪伸びたね」
「そうだね」
「また伸ばす?」
「どうしようかな」
 コーンの最後のかけらを口に放り込んで彼女は髪をかき上げた。
「今日は暑いね」
 手首につけていたゴムを使って、後ろで髪を束ねて結ぶ。
 うなじが見えるようになって目線が行ったが、正人は何も考えないよう意識する。少しでも不埒なことを考えたらすぐに彼女に悟られる。

 だけど、Tシャツの首周りから覗くそれにどうしても目が行ってしまって。
 キラキラ光るネックレスのチェーン。それまでアクセサリーの類を一切身につけなかった彼女がそれをつけ始めたとき、正人はすぐに気がついた。
 彼女がいつも大切に身につけているものはみんな一ノ瀬誠が贈ったもので、ネックレスだってきっとそう。こんな目立つ場所に、存在を示すように。
 戦いは始まっている。宣戦布告したのは自分だ。

 ――幼馴染というアドバンテージもあってやっぱり彼は最強です。あなたがあの人を求めるなら、そんな彼とも戦わなければなりません。

 あきらめない、そうこの場所で誓った。敵がどんなに強くても、たとえ彼女自身が敵だとしても。自分の居場所は自分で決める。
 だけど時々は、心が弱くなってしまう。怯んでしまう。
(おれのこと好き?)
 確かめたくなってしまう。
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